殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

メロン問題

2017年03月08日 09時13分51秒 | みりこんぐらし
去る2月19日は、亡き舅アツシの三回忌だった。

死亡から丸2年、あっという間だった。


去年、一周忌を迎えるにあたり、義母ヨシコはきっぱりと言った。

「来年の三回忌は、元気に迎えられないと思う。

この一周忌で親戚に最後のお別れをしたい」

ヨシコのフィナーレを飾る会食は、町内のホテルで盛大に行われた。

その前日にアツシの妹が亡くなり、我々一家を含む参加者の半数は

会食が終わったその足で通夜に駆けつける慌ただしさではあったが

親戚とのお別れは和やかに終了。


が、ヨシコ、今年もバリバリに元気だ。

去年はまだ気が弱っていて、もう死ぬだの生きられないだのと

さんざん言った手前

「三回忌は家族だけでひっそり」を強調するので

我々一家と義姉一家だけで営むことに決めた。

家でお経の後は墓参り、その後外食に流れて解散のカジュアルコースだ。


そこへアツシの妹、ヒロミおばさんから電話が‥。

「兄貴の三回忌、いつ?何時から?」

こう言われると断れず、ヒロミおばさんも参加することになった。

苦手な小姑が来ることになって、緊張するヨシコ。

たとえ一人でも他家の人間が加わると、一応の「型」がいる。

口さがないヒロミおばさんであれば、なおさらだ。

カジュアルコース、取りやめ。


「寿司でも取って、家でやったら?」

息子たちが提案し、私も賛成した。

法要の会食は、一度やってみたかったのだ。

総勢たった9人、酒を飲まないので簡単だ。

「家でやるのは変わっていて、いいわね」

ヨシコもやぶさかでない様子なので、シミュレーションに入る私だった。


ところでアツシの死後、ヨシコと夫の姉カンジワ・ルイーゼは

彼の面影を追い求める行脚(あんぎゃ)をライフワークとしている。

アツシが出入りしていた店や、ゴルフ場を訪ねるドライブである。

母娘で出向いては名を名乗り、店主や支配人と思い出話をするのが目的だ。


名前を聞いて「はは〜!」とひれ伏してもらうのが目標らしいが

アツシが動けなくなり、宴会やゴルフに行かなくなって年月が経過している。

忘れ去られていたり、人員が変わっていたりで思い通りにはいかない。

そんな時は、帰ってから機嫌が悪い。


この2年で、店やゴルフ場をほぼ回った母娘は

やがて忘れていた1ヶ所を思い出す。

亀山荘(仮名)。

アツシの墓の近くにある、この辺りでは高級なホテルである。

ここはライオンズクラブが開く大きな行事の時に

夫婦で訪れていた思い出の場所だ。

さっそく母娘で行った。


後でヨシコから聞いた話によると、フロントで支配人を呼んだものの

別人が出て来たので驚いたそうだ。

経営者が変わってスタッフが総入れ替えされており

知っている人は誰もいなかったという。


引っ込みがつかなくなった2人は、三回忌の下見を装った。

が、世慣れぬ母娘がうまくすり抜けて帰れるはずもなく

その場で予約させられてしまう。

1人1万円コース。


責任を取る形で、この支払いはルイーゼがすると言い出した。

「あったりめえじゃ、どこへでもノコノコ顔出すからじゃ‥」

そう思いながらも、一応ケナゲを装って申し出る。

「それでは申し訳ないから、せめて半額払う」

一度言い出したらきかない頑固なルイーゼは、案の定、固辞。

「しめしめ‥」

と、茶の子の代金を受け持つことにした。


茶の子は、ヒロミおばさんが法事に参加することが決まった時点で

ヨシコが注文済みである。

今回はメロン。


三回忌はよく晴れた暖かい日で、食事もおいしかった。

が、問題はメロン。

ルイーゼご一行が持ち帰ったメロンのお尻が、柔らかかったそうだ。

翌日、そのことは母親に伝えられ

「腐りかけていた」「傷みかけていた」

ヨシコからの迫害が始まる。


うちのもお尻が柔らかかった。

ヒロミおばさんのも、おそらく同じコンディションと思われる。

お尻が柔らかいのを「食べ頃」というのではないのか。


実はヨシコ、メロン初心者。

ずっとメロン嫌いで通していたが、去年、急に好きになった。

ヨシコの脳内で、メロンはカチカチに硬いものと認識されている。

箱入りのまま何日も放っているうちに忘れて腐り

やがて気がついて捨てる物‥

それが何十年もの間、ヨシコにとってのメロンであり

食べ頃や熟成のワードは存在しない。


何週間か経った今も、メロンの迫害は続く。

「亀山荘の食事は良かった!

でもメロンは腐りかけで、残念だったわ」

ゼニを出したばっかりに、言われ続けている。

娘の大出費をさらに押し上げるため、嫁の小出費を下げるのもあるが

これで嫁姑の溜飲を下げているフシもある。

4年後の七回忌にも、茶の子はメロンにするつもりだ。
コメント (2)
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