病院の厨房で働いていた頃の同僚と
たまに食事をする。
メンバーは幼稚園から中学まで同級生だった
ケイちゃんと、一回り年上のエミさん。
エミさんと私は退職して何年も経つが
同い年のケイちゃんは、まだ働いている。
同僚だった頃は、取り立てて仲良しこよし
というわけではなかった。
が、同じ釜の飯を食った仲だけでなく
同じ釜の飯を炊いていた我々は
今では大切な友達だ。
この3人での会合が、私には一番の楽しみ。
集まる連絡は、いつも数日前だが
今回は当日と急である。
珍しいと思っていたら
ケイちゃんの健康に問題が発生していた。
「私、甲状腺癌で引っかかったんよ」
顔を見るなり、彼女は言った。
エミさんも去年、甲状腺癌の疑いで手術を受けた。
切ってみなければわからない癌もあるそうで
エミさんはそれだったが
摘出した腫瘍は、やはり悪性だった。
今はすっかり元気になっている。
ケイちゃんはすでにエミさんから情報収集しており
手術はそれほど心配してない。
15年ほど前に離婚して独り身ではあるが
お姉さんが付き添ってくれるという。
「問題は、あの2人の態度よ!
これを聞いて欲しかったのよ!」
ケイちゃんは憤慨する。
「あの2人」とは、厨房の管理栄養士と
その子分の栄養士のことだ。
この40女達の仕事ぶりと
人を人とも思わぬ言動は
私が働いていた頃からひどいものだった。
休みの日に精密検査を受けたケイちゃんは
医師と相談して手術を9月と決めた。
早い方がいいと言われたが
あまり急だと職場が困るからだ。
2人の性格を知り抜いているケイちゃんは
「勝手に決めて申し訳なかったけど
そういうわけで9月に10日ほど休ませてください」
そう頼んだ。
すると2人は言った。
「ほんと、勝手よね」
そして言った。
「本当に必要な手術?」
さらに言った。
「休んでる間、シフトはどうするつもり?
私達がカバーするのは嫌よ」
もっと言った。
「あと3年で定年じゃない。
手術はそれからゆっくりしたら?」
さすが、あの2人である。
「どうせ何か言われるとは思ってた。
でも、あの言い方は無いと思わない?
5年前の検診で異常なかったのが
今はウズラの卵大よ?3年も待ったら‥」
ケイちゃんは涙声で絶句した。
甲状腺癌には色々なケースがあるそうだが
ストレスも影響すると聞く。
5年前、上司の定年退職により
厨房の責任者になったケイちゃんは
あの2人との接触が増えた。
ストレスは大変なものだっただろう。
思い返せばエミさんも、大腸癌が発覚して退職した。
その時の2人の態度も冷たかった。
慰めの言葉は無く、心配するのは求人の手間だった。
我々同僚は腹を立てたものだ。
そういえばもう1人、会って食事に行く仲間がいた。
そうよ、我々は最初4人組だったはず。
その人は、エミさんと私が辞めた後も働いていたが
子宮癌になって退職し、今も闘病中である。
まだ誰にも会いたくないということなので
それきりになっている。
ケイちゃんの話によると
その人が癌を報告した時、2人の反応は
「もう働けないなら、早めに結論出してね」
だったそうだ。
あいつらと一緒に仕事をしたら、癌になるらしい。
恐ろしい2人だ。
こんなやつに限って、バチが当たる気配は無く
人生そこそこ楽しんでいるものだ。
ケイちゃんは、この不公平を悔しがるのだった。
そこで私は、最近考えついたことを
声をひそめ、神妙に話す。
「あいつらは宇宙人なんじゃ‥」。
人の痛みがわからない、道徳心が無い、常識が無い‥
そういう人は、いるものだ。
これは性格の問題ではなく、遺伝子の違いなのだ。
宇宙人だから、人間の心や身体の痛みは感じない。
宇宙人に道徳心や常識を求めても無理。
彼らにバチは当たらない。
バチは地球の文化なので
宇宙人には適用されないのだ。
この宇宙人、昔は100人に1人ぐらいだったのが
だんだん増殖してきて
10人から20人に1人の割合で存在する。
多くの人は、それを知らない。
相手を地球人と思い込んでいるから
「どうしてあの人は‥」と嘆く。
しかし、悩み苦しむだけ損。
地球人の苦しみや悲しみ、憎しみは
彼らの栄養になるからだ。
宇宙人だって栄養は必要である。
彼らは地球人の嫌がることを自然体で行い
効率よく栄養補給ができるよう
遺伝子に組み込まれている。
栄養を吸い取られた地球人は、病気になる。
吸われ損だ。
一番の解決策は、とにかく近寄らないこと。
すでに近づいてしまって
おいそれと離れられない場合は
苦しみ、悲しみ、憎しみの栄養を与えないこと。
理解して仲良くしようなんて
夢にも考えてはいけない。
栄養士に栄養を与えてはならないのだ‥。
「ワハハ!」
「ま〜た、みりこんちゃんたら!」
私の熱弁を真剣に聞いていた
エミさんもケイちゃんも笑った。
半分はマジだったんだけど、ま、よしとしよう。
たまに食事をする。
メンバーは幼稚園から中学まで同級生だった
ケイちゃんと、一回り年上のエミさん。
エミさんと私は退職して何年も経つが
同い年のケイちゃんは、まだ働いている。
同僚だった頃は、取り立てて仲良しこよし
というわけではなかった。
が、同じ釜の飯を食った仲だけでなく
同じ釜の飯を炊いていた我々は
今では大切な友達だ。
この3人での会合が、私には一番の楽しみ。
集まる連絡は、いつも数日前だが
今回は当日と急である。
珍しいと思っていたら
ケイちゃんの健康に問題が発生していた。
「私、甲状腺癌で引っかかったんよ」
顔を見るなり、彼女は言った。
エミさんも去年、甲状腺癌の疑いで手術を受けた。
切ってみなければわからない癌もあるそうで
エミさんはそれだったが
摘出した腫瘍は、やはり悪性だった。
今はすっかり元気になっている。
ケイちゃんはすでにエミさんから情報収集しており
手術はそれほど心配してない。
15年ほど前に離婚して独り身ではあるが
お姉さんが付き添ってくれるという。
「問題は、あの2人の態度よ!
これを聞いて欲しかったのよ!」
ケイちゃんは憤慨する。
「あの2人」とは、厨房の管理栄養士と
その子分の栄養士のことだ。
この40女達の仕事ぶりと
人を人とも思わぬ言動は
私が働いていた頃からひどいものだった。
休みの日に精密検査を受けたケイちゃんは
医師と相談して手術を9月と決めた。
早い方がいいと言われたが
あまり急だと職場が困るからだ。
2人の性格を知り抜いているケイちゃんは
「勝手に決めて申し訳なかったけど
そういうわけで9月に10日ほど休ませてください」
そう頼んだ。
すると2人は言った。
「ほんと、勝手よね」
そして言った。
「本当に必要な手術?」
さらに言った。
「休んでる間、シフトはどうするつもり?
私達がカバーするのは嫌よ」
もっと言った。
「あと3年で定年じゃない。
手術はそれからゆっくりしたら?」
さすが、あの2人である。
「どうせ何か言われるとは思ってた。
でも、あの言い方は無いと思わない?
5年前の検診で異常なかったのが
今はウズラの卵大よ?3年も待ったら‥」
ケイちゃんは涙声で絶句した。
甲状腺癌には色々なケースがあるそうだが
ストレスも影響すると聞く。
5年前、上司の定年退職により
厨房の責任者になったケイちゃんは
あの2人との接触が増えた。
ストレスは大変なものだっただろう。
思い返せばエミさんも、大腸癌が発覚して退職した。
その時の2人の態度も冷たかった。
慰めの言葉は無く、心配するのは求人の手間だった。
我々同僚は腹を立てたものだ。
そういえばもう1人、会って食事に行く仲間がいた。
そうよ、我々は最初4人組だったはず。
その人は、エミさんと私が辞めた後も働いていたが
子宮癌になって退職し、今も闘病中である。
まだ誰にも会いたくないということなので
それきりになっている。
ケイちゃんの話によると
その人が癌を報告した時、2人の反応は
「もう働けないなら、早めに結論出してね」
だったそうだ。
あいつらと一緒に仕事をしたら、癌になるらしい。
恐ろしい2人だ。
こんなやつに限って、バチが当たる気配は無く
人生そこそこ楽しんでいるものだ。
ケイちゃんは、この不公平を悔しがるのだった。
そこで私は、最近考えついたことを
声をひそめ、神妙に話す。
「あいつらは宇宙人なんじゃ‥」。
人の痛みがわからない、道徳心が無い、常識が無い‥
そういう人は、いるものだ。
これは性格の問題ではなく、遺伝子の違いなのだ。
宇宙人だから、人間の心や身体の痛みは感じない。
宇宙人に道徳心や常識を求めても無理。
彼らにバチは当たらない。
バチは地球の文化なので
宇宙人には適用されないのだ。
この宇宙人、昔は100人に1人ぐらいだったのが
だんだん増殖してきて
10人から20人に1人の割合で存在する。
多くの人は、それを知らない。
相手を地球人と思い込んでいるから
「どうしてあの人は‥」と嘆く。
しかし、悩み苦しむだけ損。
地球人の苦しみや悲しみ、憎しみは
彼らの栄養になるからだ。
宇宙人だって栄養は必要である。
彼らは地球人の嫌がることを自然体で行い
効率よく栄養補給ができるよう
遺伝子に組み込まれている。
栄養を吸い取られた地球人は、病気になる。
吸われ損だ。
一番の解決策は、とにかく近寄らないこと。
すでに近づいてしまって
おいそれと離れられない場合は
苦しみ、悲しみ、憎しみの栄養を与えないこと。
理解して仲良くしようなんて
夢にも考えてはいけない。
栄養士に栄養を与えてはならないのだ‥。
「ワハハ!」
「ま〜た、みりこんちゃんたら!」
私の熱弁を真剣に聞いていた
エミさんもケイちゃんも笑った。
半分はマジだったんだけど、ま、よしとしよう。