殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

天知る地知る

2012年12月24日 16時15分17秒 | みりこんぐらし
義父アツシは、月に3回、入院中の病院から外泊で帰ってくる。

身体は劣化の一途をたどり、もう自力では動けない。

介護タクシーで車椅子ごと帰宅し、入浴やトイレはもちろん

寝起きや姿勢の変更にも介助がいる。


これまで、義母ヨシコと私が分担して介助してきた。

が、ヨシコは今夏の入院中、ベッドから降りようとしてヒザのじん帯を痛め

体力系の介助は戦力外通告。

下の世話は、依然としてヨシコ担当だ。


医師が驚くほど、全身病気のデパートのようなヨシコだが

足だけは、これまで奇跡的に無事であった。

初めてのことであり、暑い時期だったので

ヨシコは真面目に養生をしなかった。

秋風が吹く頃、奇跡の足はついに悲鳴をあげる羽目となる。

ヒザに溜まった水を抜いたら、ヨシコは足をひきずるようになってしまった。


思うように動けなくなったヨシコのわがままは、バージョンアップした。

感情の起伏が激しくなり、一人になるのを異様に嫌がるようになった。

判断力も鈍り、着る物、食べる物、行く、行かないが決められない。

そのくせ何かが見あたらないとなると「みりこんが取った、隠した、捨てた」

と、瞬時に判断。

認知症を疑った夫は病院に相談したが、まだ大丈夫ということであった。


平日はこんな調子だが、アツシが帰って来る週末は違う。

午前中から化粧をして、11時の帰還を待つ。

新婚さんのようなエプロンをかけるのは「介護する妻」を表現しているらしい。


ヨシコは、アツシがいると、別人のようによく働く。

芝居というより、アツシの前ではサボれないと

心身にインプットされていると感じる。

それだけ厳しい亭主だったのだろうから、やりたいようにさせている。


いっぽうアツシは、老人特有の思い込みにより

足の悪いヨシコだけが働かされていると認知している。

時折、私に向けた怒りを口にするが、気にしないことにしている。


彼らの会社の倒産を回避し、彼らの家を競売から救い

彼らを食べさせ、充分な治療をさせるために現在の会社を興した。

礼も謝罪も聞いたことは無い。

彼らは、事態がそこまで深刻だったと認めないだろう。

認めることは、そのまま彼ら一家の歴史を否定することになるからだ。


我々夫婦が各方面への交渉に奔走している時も

昼メシはどうなっているのかと心配しながら、彼らは韓流ドラマに興じていた。

不渡りになるとわかっている多額の約束手形を三枚振り出し

期日の直前に経理を投げ出した娘と三人で。

いまさら少々小言を聞いたって、なんともないわい。


天知る地知る。

私には、この言葉がある。

誰もわかってくれなくても、天と地が知ってくれている。

天も地も、何も言わない。

だけど、わかってくれるのは、人間じゃなくてもいいのだ。

いや、人間でないほうがいいのだ。

なぐさめも、励ましも、称賛もいらない。

私は私のやっていることを知っている。


天知る地知る。

この天とは神であり、地とは人間一人一人の良心だと

私は勝手に解釈している。

そこいらの人間より静かな分、最強タッグのような気がするの。


そういえば先日、門の外まで伸びた芝生を、刈り鋏でジョキジョキ刈っていた。

ヨシコが出てきて、ここも、あそこも、と、足で指示していたちょうどその時

間の悪いことに、隣に住む89才のおじさんが家から出て来た。

このおじさん、今は亡き私の父のゴルフ仲間であった。


「嫁にやらせて、あんた、足で指図かい?

 ほどほどにしてくれんとなぁ、ワシ、この子のお父ちゃんに

 あの世で合わせる顔が無いわな」

ヨシコは少し耳が遠くなっているので、全部聞こえなかったのが幸いであった。

「足が悪いから、できないんですよ!私は!」

ヨシコは言ったが、おじさんも耳が遠いので、そのまま行ってしまった。


天知る地知る。

隣のおじさんも知る。

メリー・クリスマス!
コメント (16)
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