親会社が松木氏という営業の男性を雇い入れ
我々と同じ建物で仕事をしていることは、前回書いた。
親会社の支店を兼ねるこの事務所を拠点に営業活動をし
取った仕事の内容によって、親会社と我々の会社のどちらかに振り分けるのが
彼の仕事になるはずであった。
親会社は彼と我々との身分差を、あえてはっきりさせなかった。
“縁あって同じ場所で働く仲間”という意向である。
我々はその意向に添う形で、常識的な敬意を払っていた。
しかし彼のほうは、営業成績がさっぱりなので
次第にこちらの業務に干渉するようになり
上司として振る舞いたがるようになっていった。
威張りたいなら、いくらでも威張らせてやる。
チャチャを入れたいなら、存分にすればいい。
こちとら海千山千だ。
それくらいのことは、気にしない。
が、隙あらばパソコンを操作して、こちらの基本単位であるm3(立法メートル)を
生コン会社出身の自分がやりやすいようt(トン)に変更したがるのは困る。
こちらに来た客を、自分の好き嫌いや
本社の予審が通りそうか否かで選別し、追い返すのも迷惑だ。
決してわざとではなく、心からそれがベストだと思い込んでいるのが
彼のイタいところである。
阻止やブレーキ、修正に忙しい毎日だが
やはり毎晩の悪口大会…いや、家族会議は楽しい。
松木氏の素行は、親会社には絶対に言わないと決めている。
チクれば彼と同類だし、彼を採用した人の判断にケチをつけることになる。
若いカワイコちゃんならまだしも、50を過ぎた爺や婆が
わけありげなソブリをしたって、見苦しいだけである。
その松木氏、先日初めて工事の見積りが通り、有頂天だった。
今度、隣の市にできるホームセンターのものである。
しかもスーパーゼネコンの仕事なので、とても嬉しそうだった。
我々一家は、複雑な心境であった。
親会社の仕事なので、早い話、うちには無関係だが
苦節3か月…売り上げゼロからとうとう抜けたのは、めでたいことである。
拍手して、共に喜んであげたい。
が、ただでさえ勘違い男の松木氏のことだ。
舞い上がって、さらに暴走するのは目に見えている。
そしてこの男が、そうやすやすと仕事を取ってくるとは思えなかった。
その勘は、早晩当たることになる。
契約の段階で、松木氏渾身(こんしん)の見積りは
協会の協定を無視した格安価格…
つまりダンピングだったことが判明したのだ。
協定を破り、赤字の値段を出せば、そりゃ大手でも誰でも取引してくれる。
見積書を取り戻せと、本社から厳命を受けた松木氏は
例のごとく横柄な態度で、かえって相手を怒らせた。
見積書は相手先の本社に渡ってしまい、訴訟問題に発展しそうな勢いである。
この値段で仕事を取れば、税務署も黙ってはいない。
親会社が明日をも知れぬ危ない所であれば、目をつぶってくれる場合もあるが
黒字経営だと、査察の格好のターゲットになる。
親会社のおえらいさんが飛んで来て言うには
彼がしたのは営業でなく、会社を危機にさらすことだったらしい。
そこで、急きょ登場させられたのが夫である。
夫の叔父、つまり義父アツシの弟は
現役時代、そのスーパーゼネコンの東京本社で取締役をしていた。
70半ばの今も、関連会社の雇われ社長をしている。
夫は叔父に連絡し、手を回してもらった上で
松木氏の付き添いとして、再度支店へ謝罪に行った。
結果、見積書はすんなり返してもらい、価格を協定水準に修正する同意も得た。
血は汚いと言うが、その血もたまには役に立つのだ。
「ヤツから初めて礼を言われた」
夫は驚いていた。
親会社に、ちょっぴり恩返しができた喜びもあった。
だが、これでおとなしくなる松木氏ではないというのは
この3ヶ月でよくわかっている。
翌日はいつも通り、高飛車、あまのじゃく、横柄な松木氏であった。
失敗の言いわけは「仕事への情熱が、数字を越えた」。
迷言賞。
(今後、絵や写真の添付は、時間のある時だけにさせていただきます。
つたない文章を画像でカバーするという姑息な考えの元
暇にあかせて始めましたが、時間的に困難になりつつあるのでな。
あ、別にかまわない?ありがとさ~ん)
我々と同じ建物で仕事をしていることは、前回書いた。
親会社の支店を兼ねるこの事務所を拠点に営業活動をし
取った仕事の内容によって、親会社と我々の会社のどちらかに振り分けるのが
彼の仕事になるはずであった。
親会社は彼と我々との身分差を、あえてはっきりさせなかった。
“縁あって同じ場所で働く仲間”という意向である。
我々はその意向に添う形で、常識的な敬意を払っていた。
しかし彼のほうは、営業成績がさっぱりなので
次第にこちらの業務に干渉するようになり
上司として振る舞いたがるようになっていった。
威張りたいなら、いくらでも威張らせてやる。
チャチャを入れたいなら、存分にすればいい。
こちとら海千山千だ。
それくらいのことは、気にしない。
が、隙あらばパソコンを操作して、こちらの基本単位であるm3(立法メートル)を
生コン会社出身の自分がやりやすいようt(トン)に変更したがるのは困る。
こちらに来た客を、自分の好き嫌いや
本社の予審が通りそうか否かで選別し、追い返すのも迷惑だ。
決してわざとではなく、心からそれがベストだと思い込んでいるのが
彼のイタいところである。
阻止やブレーキ、修正に忙しい毎日だが
やはり毎晩の悪口大会…いや、家族会議は楽しい。
松木氏の素行は、親会社には絶対に言わないと決めている。
チクれば彼と同類だし、彼を採用した人の判断にケチをつけることになる。
若いカワイコちゃんならまだしも、50を過ぎた爺や婆が
わけありげなソブリをしたって、見苦しいだけである。
その松木氏、先日初めて工事の見積りが通り、有頂天だった。
今度、隣の市にできるホームセンターのものである。
しかもスーパーゼネコンの仕事なので、とても嬉しそうだった。
我々一家は、複雑な心境であった。
親会社の仕事なので、早い話、うちには無関係だが
苦節3か月…売り上げゼロからとうとう抜けたのは、めでたいことである。
拍手して、共に喜んであげたい。
が、ただでさえ勘違い男の松木氏のことだ。
舞い上がって、さらに暴走するのは目に見えている。
そしてこの男が、そうやすやすと仕事を取ってくるとは思えなかった。
その勘は、早晩当たることになる。
契約の段階で、松木氏渾身(こんしん)の見積りは
協会の協定を無視した格安価格…
つまりダンピングだったことが判明したのだ。
協定を破り、赤字の値段を出せば、そりゃ大手でも誰でも取引してくれる。
見積書を取り戻せと、本社から厳命を受けた松木氏は
例のごとく横柄な態度で、かえって相手を怒らせた。
見積書は相手先の本社に渡ってしまい、訴訟問題に発展しそうな勢いである。
この値段で仕事を取れば、税務署も黙ってはいない。
親会社が明日をも知れぬ危ない所であれば、目をつぶってくれる場合もあるが
黒字経営だと、査察の格好のターゲットになる。
親会社のおえらいさんが飛んで来て言うには
彼がしたのは営業でなく、会社を危機にさらすことだったらしい。
そこで、急きょ登場させられたのが夫である。
夫の叔父、つまり義父アツシの弟は
現役時代、そのスーパーゼネコンの東京本社で取締役をしていた。
70半ばの今も、関連会社の雇われ社長をしている。
夫は叔父に連絡し、手を回してもらった上で
松木氏の付き添いとして、再度支店へ謝罪に行った。
結果、見積書はすんなり返してもらい、価格を協定水準に修正する同意も得た。
血は汚いと言うが、その血もたまには役に立つのだ。
「ヤツから初めて礼を言われた」
夫は驚いていた。
親会社に、ちょっぴり恩返しができた喜びもあった。
だが、これでおとなしくなる松木氏ではないというのは
この3ヶ月でよくわかっている。
翌日はいつも通り、高飛車、あまのじゃく、横柄な松木氏であった。
失敗の言いわけは「仕事への情熱が、数字を越えた」。
迷言賞。
(今後、絵や写真の添付は、時間のある時だけにさせていただきます。
つたない文章を画像でカバーするという姑息な考えの元
暇にあかせて始めましたが、時間的に困難になりつつあるのでな。
あ、別にかまわない?ありがとさ~ん)