4月の選挙で仲良くなった5人で、月例会を発足したのは以前お話しした。
毎月1回食事をする気軽な集まりである。
年齢が40代、50代、60代、70代と連なっているのが
私にとってお気に入りであった。
しかし3ヶ月前、40代が脱会した。
脱会の理由…表向きは「多忙」
本当は「ラン子さんの毒がつらい」というものであった。
「娘と孫の自慢ばっかり聞かされて、うんざりです!」
ラン子は私より3つ年上のうぐいす仲間だ。
良く言えば個性が強い、悪く言えば自己中の自慢屋である。
おぼこい40代は最年少の遠慮もあって
本気でラン子の相手をして、くたびれたのだ。
自慢したければ、優しい60代70代に
好きなだけ聞いてもらえばいいようなもんだが
自慢は、それを持たぬ者にひけらかし、うらやましがらせてこそ自慢である。
娘も孫も持っている60代70代に自慢すると、自慢返しの刑が待っている。
娘や孫を持たぬ私も、最初の頃はさんざん聞かされたクチだが
ある事情をきっかけに放免された。
そこでニューフェイスの40代が、ターゲットになってしまった。
気をつけていたつもりでも、力及ばず。
私が放免されたある事情とは
この春、独り身のラン子と同居していた娘一家が
内緒で家を借り、突然引っ越したという出来事である。
別居の原因は、ラン子が5才の孫に自分のお乳を吸わせている現場を
娘ムコが目撃し、恐れおののいたという少々デリケートなものだった。
家族とはいえ、他人にはちょっとしたホラーである。
ショックで寝込んだ彼女と、母親の自殺を心配する娘。
孫のおもちゃとして用をなすラン子の巨乳をうらやましく思いつつ
双方に泣きつかれた私は、仲介役を引き受けた。
お互いにあふれるほどの愛情を持ちながら
不器用ゆえに歯車を狂わせる母娘。
前々からマスオさん生活に嫌気がさしており
この一件を“渡りに舟(乳?)”にした、ムコの打算も垣間見えた。
立場は違えど、なんとなく他人事ではないような気がして
力になりたかった。
しかしそこは血を分けた親子、やがて普通に行き来するようになった。
よって、負けず嫌いが母親そっくりの娘と、5才で婆の乳を吸う孫が
自慢するほどのタマでないと知る私は、その時から圏外に置かれた。
「絶対に人のことを良く言わないし
割り勘の時、あの人だけなかなか払わないじゃないですか。
私、そういうのがすごく気になってしまうんです」
40代が言ったので、私はそれもそうだと大笑いした。
「笑いごとじゃありませんよ。
私たちのことだって、きっとよそで悪く言ってますよ。
とにかく私はもうこりごりです。
これからは、あの人がいない時だけ誘ってください」
そして40代は去った。
確かにラン子は、扱いにくい女だ。
しかし彼女の毒に、私はなぜか甘い。
ラン子はこんな性格なので、友達づきあいに慣れておらず
遊ぶのはたいてい身内だ。
身内であれば、自慢も悪口もそのまま意見として認められる。
他人にも同じ態度を通しているに過ぎない。
親兄妹であれば、グズグズしているうちに誰かが支払いをしてくれる。
割り勘が遅れるのは、おそらく払うタイミングがつかめないのだと思う。
それも「トイチの金利がつくぞ」と私にうるさく言われ
最近は徐々に克服しつつある。
こういう女は、こっちが男役になってグイグイ引っ張ると
そこいらの女性よりも従順になる。
使用法がわかれば、なんてことはない。
30年前に別れた旦那をいまだに恨んでいるラン子。
離婚の原因は、旦那の浮気であった。
今は高級マンションで、その相手と優雅に暮らしているのを悔しがる。
当時の義理親の冷たい仕打ちを根に持ち
再婚相手との間に生まれた子供と、自分の娘の扱いに差があると憎む。
娘や孫の自慢をするのも、満たされない心の叫びのように思える。
そんな彼女に、もっと楽しいことがたくさんあると教えたいような
おせっかいな気になるから、困ったものではないか。
気が合うって、こういうことなんだろう。
と、思っていた…思っていたのだ、先月までは。
先月の月例会は、ラン子の仕事の都合で日程を変更した。
そして当日、ラン子に「これから迎えに行く」と電話したら、様子がおかしい。
「あのぉ、私ぃ、会社の人の結婚式の二次会にぃ
今ぁ、みんなで向かってるんですよぉ」
変によそよそしく語尾を伸ばして若ぶるのは
そばに若い同僚達がいるからだと思われる。
「急にぃ、二次会だけ出てと言われてぇ
遠くなんでぇ、今日は行けそうにないんですけどぉ」
「こらこら、日にちを変更したのはラン子さんじゃん」
「そうなんですけどぉ、私も体は一つしか無いしぃ」
一瞬ムッとしたが、よく考えればラン子が欠席して困ることは何も無い。
同僚の前で引っ張りだこの人気者を演じるラン子につき合って
フラレ役をするのは願い下げだ。
いつも遠くて珍しい所へ行きたがるラン子は
より遠く、より珍しいほうを選んだまでだ。
こういうことは、初めてではない。
そしてドタキャンしては、後で急に淋しくなってすり寄って来るのだ。
このやりとりを義母ヨシコが聞いていた。
「ラン子さん?」
「そうよ、またドタキャンよ」
「あの子、悪魔みたいでしょ」
ヨシコの口から、まさかの悪魔発言。
ヨシコが人をこのように一刀両断するのは、珍しい。
「何でラン子さんを知ってんの?」
「遠いけども、親戚なのよ」
「どえぇ~!!」
驚愕する私を前に、ヨシコはさらりとのたまう。
「あの子、昔からそうよ…親もあんなだわよ」
ヨシコの母方の祖母と、ラン子の父方の祖母がイトコ同士だと
この時初めて知った。
「子供の頃、ラン子さんの実家に泊まったこともあるわ」
「し…知らんかった…」
「私も忘れてたけど、最近あんたが名前をよく出すから思い出したの」
後日、ラン子にこのことをたずねてみた。
やはり彼女も、昔から親戚だと知っていたそうだ。
薄いとはいえ、ヨシコの血筋と知ってしまったからか
どんぐりチックな体型、粋で華やかな印象
こまめで几帳面、体は弱いが気は強い…共通点多し。
もしや気が合うのは、ラン子の中にヨシコを感じているからかもしれない。
この世には私の知らないことが、まだたくさんあるみたい。
だから人間はやめられない。
毎月1回食事をする気軽な集まりである。
年齢が40代、50代、60代、70代と連なっているのが
私にとってお気に入りであった。
しかし3ヶ月前、40代が脱会した。
脱会の理由…表向きは「多忙」
本当は「ラン子さんの毒がつらい」というものであった。
「娘と孫の自慢ばっかり聞かされて、うんざりです!」
ラン子は私より3つ年上のうぐいす仲間だ。
良く言えば個性が強い、悪く言えば自己中の自慢屋である。
おぼこい40代は最年少の遠慮もあって
本気でラン子の相手をして、くたびれたのだ。
自慢したければ、優しい60代70代に
好きなだけ聞いてもらえばいいようなもんだが
自慢は、それを持たぬ者にひけらかし、うらやましがらせてこそ自慢である。
娘も孫も持っている60代70代に自慢すると、自慢返しの刑が待っている。
娘や孫を持たぬ私も、最初の頃はさんざん聞かされたクチだが
ある事情をきっかけに放免された。
そこでニューフェイスの40代が、ターゲットになってしまった。
気をつけていたつもりでも、力及ばず。
私が放免されたある事情とは
この春、独り身のラン子と同居していた娘一家が
内緒で家を借り、突然引っ越したという出来事である。
別居の原因は、ラン子が5才の孫に自分のお乳を吸わせている現場を
娘ムコが目撃し、恐れおののいたという少々デリケートなものだった。
家族とはいえ、他人にはちょっとしたホラーである。
ショックで寝込んだ彼女と、母親の自殺を心配する娘。
孫のおもちゃとして用をなすラン子の巨乳をうらやましく思いつつ
双方に泣きつかれた私は、仲介役を引き受けた。
お互いにあふれるほどの愛情を持ちながら
不器用ゆえに歯車を狂わせる母娘。
前々からマスオさん生活に嫌気がさしており
この一件を“渡りに舟(乳?)”にした、ムコの打算も垣間見えた。
立場は違えど、なんとなく他人事ではないような気がして
力になりたかった。
しかしそこは血を分けた親子、やがて普通に行き来するようになった。
よって、負けず嫌いが母親そっくりの娘と、5才で婆の乳を吸う孫が
自慢するほどのタマでないと知る私は、その時から圏外に置かれた。
「絶対に人のことを良く言わないし
割り勘の時、あの人だけなかなか払わないじゃないですか。
私、そういうのがすごく気になってしまうんです」
40代が言ったので、私はそれもそうだと大笑いした。
「笑いごとじゃありませんよ。
私たちのことだって、きっとよそで悪く言ってますよ。
とにかく私はもうこりごりです。
これからは、あの人がいない時だけ誘ってください」
そして40代は去った。
確かにラン子は、扱いにくい女だ。
しかし彼女の毒に、私はなぜか甘い。
ラン子はこんな性格なので、友達づきあいに慣れておらず
遊ぶのはたいてい身内だ。
身内であれば、自慢も悪口もそのまま意見として認められる。
他人にも同じ態度を通しているに過ぎない。
親兄妹であれば、グズグズしているうちに誰かが支払いをしてくれる。
割り勘が遅れるのは、おそらく払うタイミングがつかめないのだと思う。
それも「トイチの金利がつくぞ」と私にうるさく言われ
最近は徐々に克服しつつある。
こういう女は、こっちが男役になってグイグイ引っ張ると
そこいらの女性よりも従順になる。
使用法がわかれば、なんてことはない。
30年前に別れた旦那をいまだに恨んでいるラン子。
離婚の原因は、旦那の浮気であった。
今は高級マンションで、その相手と優雅に暮らしているのを悔しがる。
当時の義理親の冷たい仕打ちを根に持ち
再婚相手との間に生まれた子供と、自分の娘の扱いに差があると憎む。
娘や孫の自慢をするのも、満たされない心の叫びのように思える。
そんな彼女に、もっと楽しいことがたくさんあると教えたいような
おせっかいな気になるから、困ったものではないか。
気が合うって、こういうことなんだろう。
と、思っていた…思っていたのだ、先月までは。
先月の月例会は、ラン子の仕事の都合で日程を変更した。
そして当日、ラン子に「これから迎えに行く」と電話したら、様子がおかしい。
「あのぉ、私ぃ、会社の人の結婚式の二次会にぃ
今ぁ、みんなで向かってるんですよぉ」
変によそよそしく語尾を伸ばして若ぶるのは
そばに若い同僚達がいるからだと思われる。
「急にぃ、二次会だけ出てと言われてぇ
遠くなんでぇ、今日は行けそうにないんですけどぉ」
「こらこら、日にちを変更したのはラン子さんじゃん」
「そうなんですけどぉ、私も体は一つしか無いしぃ」
一瞬ムッとしたが、よく考えればラン子が欠席して困ることは何も無い。
同僚の前で引っ張りだこの人気者を演じるラン子につき合って
フラレ役をするのは願い下げだ。
いつも遠くて珍しい所へ行きたがるラン子は
より遠く、より珍しいほうを選んだまでだ。
こういうことは、初めてではない。
そしてドタキャンしては、後で急に淋しくなってすり寄って来るのだ。
このやりとりを義母ヨシコが聞いていた。
「ラン子さん?」
「そうよ、またドタキャンよ」
「あの子、悪魔みたいでしょ」
ヨシコの口から、まさかの悪魔発言。
ヨシコが人をこのように一刀両断するのは、珍しい。
「何でラン子さんを知ってんの?」
「遠いけども、親戚なのよ」
「どえぇ~!!」
驚愕する私を前に、ヨシコはさらりとのたまう。
「あの子、昔からそうよ…親もあんなだわよ」
ヨシコの母方の祖母と、ラン子の父方の祖母がイトコ同士だと
この時初めて知った。
「子供の頃、ラン子さんの実家に泊まったこともあるわ」
「し…知らんかった…」
「私も忘れてたけど、最近あんたが名前をよく出すから思い出したの」
後日、ラン子にこのことをたずねてみた。
やはり彼女も、昔から親戚だと知っていたそうだ。
薄いとはいえ、ヨシコの血筋と知ってしまったからか
どんぐりチックな体型、粋で華やかな印象
こまめで几帳面、体は弱いが気は強い…共通点多し。
もしや気が合うのは、ラン子の中にヨシコを感じているからかもしれない。
この世には私の知らないことが、まだたくさんあるみたい。
だから人間はやめられない。