殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

サザンカを脅す

2010年06月06日 10時12分36秒 | 前向き論
義母ヨシコは無事退院し、自宅療養となった。

私は相変わらず、義父母の夕食を作り

毎日6時を過ぎると、鍋やタッパーを持って夫の家へ行く。


夫と義父アツシは、食後にサウナへ行くので

帰って来るまで、私はヨシコと過ごす。

一緒にテレビを見たり、ヨシコが今回の入院でハマッた

塗り絵にいそしむのを眺めたりする。


おしゃべりもする。

「あそこのお嫁さんはねえ、娘が台所をやってると

 な~んにもしないんだって~」

と、ヨシコ。

    「そりゃ娘がしゃしゃり出たら、嫁は手が出せんわ~。

     娘も考えないとねえ…もうお嫁に行ったんだから~」

「あ~ら、嫁がしないから、娘がするんじゃないの~?」

    「娘を押しのけて立ち回るのは、難しいと思うわ~」

「そういうもんかしらね~…私は一人っ子だから、よくわからないわ~」     

    「残酷よね~…動きを封じて、怠け者扱いじゃあねえ~」

「そうそ、あの姑さん、そういうとこ、あるのよ~」

このような、スリリングな会話もかわす。


退屈なので、掃除をすることもある。

ヨシコが、かがんで掃除機をかけるのがきついと言うので

スタンド型の掃除機を買ってやった。

お掃除ロボという手もあるが、あれは高いので惜しい。


すると今度は、新しい掃除機が重たいと言いだした。

紙パックじゃないので、ゴミ処理も難しいと言う。

何度やって見せても、わからないと言う。

結局、掃除は完全に私の仕事となる。

ハメられた感もあるが、深く考えないことにする。


またある日、家に行くと、アツシが汚れたズボンを着替えていた。

庭木の水やりをしていて、転んだという。

持病で足元がおぼつかなくなっており、ホースに足をとられたそうだ。

幸い、ケガは無かった。


ここでまた悪い癖が出る。

     「危ないから、これからは私が水をまくわ」

「そう?!」

待ってましたとばかりに、顔を輝かせるヨシコ。


「私がやれればいいんだけど、心臓がねえ…

 爆弾を抱えてるようなもんだって、先生に言われてるしねえ…」

またしてもハメられた気がするが、深く考えないことにする。


庭木に水をやるのは、ここを出て以来15年ぶりだ。

広い庭ではないが、家を囲むように木が並び

ヨシコの植えた花々が、ジャングルのように生い茂っている。

全部に水をやると、ゆうに30分はかかる。


若い頃は、これがイヤでイヤで仕方がなかった。

毎夕、水をやる夏は、蚊の餌食になった。

子供に手がかかるわ、メシの支度はせにゃならんわ、泣きたかったぜ。

雨が降ったら、カッパのような心持ちで喜んだっけ。


冬は冬で、4~5本植えられているサザンカの花が落ちる。

おびただしい量だ。

いったん落下したら最後、花びらはガクを離れて、思いっきり散らばりやがる。


冬枯れの硬い芝生に落ちた、白やピンクの花びらは

少々掃いたぐらいでは取れない。

寒い庭で、小さな金属のクマデを使用し、掻き出さなければならない。

   「自分が落としたものぐらい、自分で後始末しなさいよっ」

私はサザンカにつらくあたったものだ。     


そして考えたあげく、落ちる前に花を摘み取る方式を採用した。

こりゃあ、ええわい…自分の名案に感心し、せっせとブチブチやっていた。

やがてバレて、木が傷むと怒られる。

   「そのうち、おまえらを全部切り倒してやる…

    それまでの命と思えよ!」

腹立ち紛れに、いつもサザンカを脅迫していた。


昨日、水まきをしながら改めてよく見ると、サザンカが1本しか無い。

ヨシコに聞くと、枯れたと言う。

咲いたばかりの花を摘み続けたから、弱ったのか。

脅していじめたからか。

死因が何であれ、いびりまくった相手がいなくなると、後味が悪い。

気の毒なことをした。


   「あの時は、すいませんでしたねえ…」

残ったサザンカを始め、松、梅、クロガネモチ、ヒイラギ、菊桃…

その他のキャストにも、謝りながら水をまく。

彼らもまた、サザンカほどではないにしろ、私から脅迫を受けていたのだ。


15年の間に、いちだんと大きくなった木々…

植物と触れあう心地よさ…

もう若い頃ほど私の血液を欲しがらない蚊…

歳月は、苦しみを楽しみに変える。

お帰り…と言うように、風が吹いた。
コメント (43)
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