殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

出刃包丁…それから

2010年05月22日 12時04分45秒 | みりこんぐらし
義母ヨシコの再入院が近付いてきた。

ヨシコの心残りは、依然としてうちの長男。

前に書いたが、一昨年、夫の姉カンジワ・ルイーゼの陰謀が発端で会社を辞め

転職した孫と和解したいのだ。


長男は、弟が会社に入った時から

「兄弟揃って家業にぶら下がるのはダサい」と言い出し

転職先を探し始めた頃だった。

実家の経理を受け持つルイーゼに

「タイムカードをごまかして、給料を余計にせしめている」

とあらぬ告げ口をされ、泥棒扱いとなって以来、祖父母に会っていない。


その時、出刃包丁を研いだのも、今は懐かしい。

退職者と銘打って、長男の名前を大きく書き

「この者は、今後弊社と一切関係ありません」

という内容のFAXを取引先に回したルイーゼに、逆上した私だった。


退職手続きの際も、書類と共にイヤミなメモを添えてよこした。

「もう我が社とは無関係ですので、迷惑をかけないようにお願いします。お元気で」

という内容だ。

その頃には、私もあきらめがついており、長男の選択を喜べる気持ちになっていた。

そしてそのメモは、親としての情という最後の未練を断ち切る

絶好の最後屁(さいごっぺ)となった。


いずれは兄弟のどちらか一人を残す予定だったので

断腸の思いで二者択一をしなくてすんだのは、我々家族にとって幸運だったと思う。

まったく、ルイーゼさまさまだ。


弟をルイーゼの魔の手から守るために、しばらくは祖父母にも会わず

「ものすごく怒っているから、何をするかわからない」

ということにしていた長男であるが、これがこじれた。

原因はヨシコである。

孫に会たいさ1カップ、娘かわいさ1カップ

罪の意識大さじ1杯、逆ギレ少々、いら立ち風味…

複雑な心境を自己処理出来ず、迷走し始めた。


私や家族にあれこれ言っているうちはまだ良かったのだが

しばらく経ってから長男に電話して

「謝りに来れば、会社に戻って来てもいい」と伝えた。

これで長男は、ヘソを曲げてしまったのだ。

そんなこんなで、長男とヨシコはいまだ会わず。


「謝れば、家に戻って来てもいい」

15年前、両親の家を出た私に、ヨシコは同じことを言った。

気持ちはわかる…悪気は無いのだ…

かわいいからこそ、その方向へ行ってしまう。


当時、謝るのはそっちだろう!と憤慨し、音信不通が何年も続いた。

それゆえ、長男の気持ちもわかる。

私としては、サンドイッチの具みたいな気分ではある。


近頃はヨシコも焦り

「老い先短い病人なのに、顔ぐらい見せてくれたっていいじゃないの」

と私に言う。

ちょっとやつれて、前より多少、かっこよくなってるよ…ひっひっひ…

などと、いい加減なことを言うと、ますます会いたがる。


義父アツシは、最初からパッと違う方向へ行ったままだ。

「若いうちに、外へ出て苦労するのはいいことだ」

当事者の立場から、斜めに身をひるがえすこの手口…

何でもこれで乗り切って80年。

さすが年期が違う。


リングに一人残されたヨシコ。

「あの子は、会社と私達を見捨てたんだわ」

いやいや…あんたが娘にだまされたんじゃん。


「もういいです、辞めますって、私をにらみつけて言ったのよ。

 かわいい孫に、あんな態度をとられるとは…」

おいおい…その前に、あんた、泥棒って言ったじゃん。


「将来は、兄弟二人でやってもらいたかったのに

 私や娘が止めるのも聞かずに勝手に辞めて、恨まれて…」

やれやれ…原因がいつの間にか、すり替わってるじゃん。


「色々あっても、水に流せばいいのよ」

こらこら…あんたが色々やったんじゃん。


口論しても無駄なので、ほほほ…と笑っておく。

孫との再会を取り持たない私をなじることもあるが

あの子も私に似て、意固地だから、ごめんね~と言っておく。


ヨシコの主張を、長男には伝えてない。

そろり、そろりと「会いたいと言ってたよ」みたいなことだけ言う。

30もつれの大男を引っ張って連れて行くわけにもいかず

ヨシコの望みは早めに叶えてやりたいし…私も一応努力中なのだ。


はっはっは…甘いわい…長男は笑う。

この男の良くないところだ。

私にそっくりだ。


問題は、会う会わないではない。

事実を都合良くすり替えたり、善悪でなく、年齢や病気を武器に

頭を下げずに押し切ろうとする、天性の魂胆がいやなのだ。

こちらが折れて、それを通してやるのがシャクなのだ。

自分を見ているようで、痛し、痒し、面白し。


自分はブチ切れて、出刃包丁を研いでおきながら

長男には、ここからもう一歩前に進んで欲しいと思う、身勝手な私よ。

だが、二人の再会は近い予感がしている。
コメント (18)
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