羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

時は命なり……時計遺伝子の発見から

2012年04月24日 08時28分00秒 | Weblog
 昨晩、7時30分からのNHK「クローズアップ・現代」で放送された内容は、本川達雄『生物学的文明論』とリンクするものだった。
 人間のからだをつくる60兆の細胞、ひとつ一つに「時間遺伝子」が存在することが発見された。そこから「リウマチ」「癌」「メタボリックシンドローム」等々の治療に、画期的な効果が得られるというリポートだった。

 それは「時間治療」と呼ばれるもので、たとえば抗がん剤を投与する時間を深夜に行うと、驚くほどの効果が現れた。
 また、「リウマチ」の薬の服用時間を、就寝前の21時に設定する、昼間に服用した場合とは雲泥の差ほどの効果が得られた、という。

 細胞の中では、それぞれに異なるリズムが刻まれ、各々の時間遺伝子を上手く利用することで、薬が有効に働くことが実証されつつある。アメリカやフランスはもとより、すでに国内でも臨床で応用されているらしい。
 体内で作られるステロイドホルモンや、白血球に対して有効に働き、免疫力を高めることが可能ということだった。

 肝臓癌の治療に、この方法をとって手術不可能な大きな癌を小さくし、手術に踏み切ることができた日本人男性の元気な姿とインタビューが印象的だった。
 突き詰めれば、どの癌にも効果があるわけではなさそうだ。どんな病気にも効く万能薬でもなさそうだ。しかし、効果が明らかにある病もある。

 他には、夜勤などの不規則な時間帯で仕事を行う人々に対して、体内時計を大きく狂わせないために、深夜に二時間ほどの仮眠を取ってもらことで、体内時計の微調整を行うことも有効に働くらしいことも報告されていた。

 最後に、「体内時計を正常に近く保つにはどうしたらいいのでしょう」という質問に「しっかり朝食をとって、光を見ること」と、話の内容の重さにしては、思わず肩の力が抜けてしまうような答えが返ってきた。
 しかし、この当たり前のことがいちばん大事だ。それが出来ないのが現状だ。忙しく不規則な生活を強いられる現代人の現実が浮き彫りになった。

 外部環境には、自然環境・人工環境があり、身体の内部環境にはこの体内時計の働きが深く関わる。
「時間遺伝子」の存在が、これから研究対象として、今よりも多く脚光を浴びる機会が増えることは間違いない。
 本川さんは「時間環境」の大切さを説く。
 グローバル化の時代に、生物のリズムと社会のリズムの齟齬をどのように埋めていくのだろう。一生の生き方の価値観を、生活や暮らし方と照らし合わせて、「時間環境」を視野に入れ、覚悟を決めて選択を迫られる時代が、そこまでやって来ている。知らなければ知らないで済んだかもしれないが、ということはもう言えない。
 
 そしてリタイアしたら家庭に社会の時間環境を持ち込むな!とおっしゃるが、この言葉は重すぎる。バランスが上手くとれる閾値をすでに超えてしまった社会を、人間は作り上げてしまっているのだから。
 すでに生きものとして生を全うすることと、社会的存在として生きようとすることと、二者択一の問題ではなくなっていることだけは確かである。

 別件だが、「グローバル化時代に秋入学だ!いや春のままだ」という議論が、虚しく聞こえる。
 これからの若者に安全な生をどのように担保してあげるのか、という根本的な問題を孕んでいることは間違いない。
 60兆の細胞が真っ当に気持ちよく時を刻む生を生きることは、もはや無理な相談なのだろうか。
 文明と文化の違いが失われていく現代だ、と言われるようになって久しい。が、全てが文明に集約されるとしたら、人間の命を蝕む方向へと突き進むことになるのだろう。たとえ文明の中で生きざるを得ないとしても、身の丈にあった地域文化の見直しをすることで、生命としての体内時計のネジをもう一度巻き直すことができる生活の有り様を、本気で考えなければなるまい、と思う。

 とにもかくにも、ファストフード店(ファミレスの聞き違いかもしれませんが)で食事をとっただけで、真夜中無免許で、しかも友達を乗せて、当てもなく車を乗り回す。朝になって襲われる睡魔の瞬間に、人の命を奪う若者の出現は、悔やんでも悔やみきれない。
 そういう社会を作ったのは、私たち大人の世代だということを重く受け止めよう。
 時は金なり、ではなく「時は命なり」。
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