羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

野口三千三の運動感覚と言語能力の卓越性を再確認した話

2017年07月23日 07時47分52秒 | Weblog
 昔の師範学校は、小学校の先生を養成するところだった。
 野口は、さらに上の学校の教師になるべく、国家検定試験を受験した。
 既に戦時体制に入っていた時代のこと、体育・体操で受験することが有利だと、教師や先輩から聞いていた。
 そこで師範学校に在学中から、受験勉強準備を始めたのでという。

 なかでも解剖学は必須であった。そこで1頁ずつ隅から隅まで、あますところなく暗記したそうだ。
 ◯◯筋は、どこから始まり、どこについてくる、という風にとにかく覚えた、という。
 この話は、野口の著書や、春秋社『DVDブック アーカブス野口体操』で養老孟司先生を相手に話をしている記録が残っている。

 結局、一生懸命覚えた知識は、実際の動きの際に役立つことはなかった。
 主働筋はこれこれで、それに対する拮抗筋はこれこれ。それの補助的に動く筋はこれこれ。
 つまり死体解剖がもとになっている解剖学は、時間がとまり、重さの方向がなく、そもそも死体は動かないわけだから、動きには関係がない、と豪語されていた。
 それだけ一生懸命勉強したにもかかわらず、という恨みにも似た(?)思いが根底にはあった。

 当時の年齢を18歳から19歳と想定してみるとざっと85年以上が経過している。
 解剖学はすでに変わりようのない学問と思われてきた。
 それが機能解剖が研究され、動きとの関連で学べるようになった。

 さらに、「アナトミー・トレイン」という考え方の本が何冊も出版される時代となった。
 日本語に訳すと「解剖列車 筋筋膜経線を鉄道に見立てて、からだの旅に出る」というようなことらしい。
 筋の働きをつながりとして捉え、12路線を想定している。

 さて、7月15日土曜クラスでは、FB上で見つけた代表的な図録:スーパーフィシャル・バック・ライン 略してSBLをiPadでご覧にいれた。
 足の裏からはじまって、足の後ろ側、背中、頸、頭、頭頂から眉間にかけて繋がる筋と筋膜の繋がりを示した図であった。

 20日木曜日に、偶然のことに紀伊国屋書店で第三版Web動画付き『アナトミー・トレイン』医学書院を購入して来た。

 いや、驚きましたね。
 何がって、本に一つずつ、IDとパスワードが隠されていた。
 医学書院のサーバーに入っていくと、ログイン画面が待っていて、IDとパスワードを打ち込むとWeb画面が表示される。
 本文の図版にふられている番号をクリックすると、その英語による音声説明に日本語の音声説明がかぶっていて、よく聞こえるのである。
 一見、難しそうな専門書が、本文と照らし合わせWebを見て聞くことで、すんなりと理解できる教科書であった。

 いやはや時代は変わった。
 晩年の野口が「文明さんお先にどうぞ」と言って、ファックスさえ拒否しておられた。
 むしろ懐かしい。
 今や、PCだけでなく、タブレット(たとえばiPad)スマホ(たとえばiPhone)なしには、学びにも乗り遅れる時代となった。
 つまり、ガラケーは、すでに過去のものになりつつある。

 フーフー言いながらも、結構、楽しんでいる私としては、レッスンの場でご披露する有様である。

「つながり、つたわり、ながれ、とおり、まわり、めぐり、次々順々」とは野口体操の動きにとって重要なキーワードであり、実際にその方向でからだの動きをみていく。
 足の運動、手の運動、頸の運動、などと分けられないのが、体の動きである、という野口の実感に基づく考えで、野口体操の動きは成り立っている。
 繋がりとしてのうごきを大切にしている。

「アナトミー・トレイン」とまったく同じとは証明できないが、考えとして共通するところがある。
 解剖学もこうした方向にまでようやくなった、別の言い方をすれば野口が主張していた、臓器も筋もバラバラにしては、生きているからだの理解にはならない、という考えに近づいた、ということである。

 朝日カルチャーのレッスンでは、二週にわたって野口流マッサージ法のうち、三つの姿勢をとりながら腰から上、肩、背中、頸、頭を中心にマッサージをする。腰や足に直接触れていないにもかかわらず、SBL スーパーフィシャル・バック・ラインの全体、とくに足から腰がほぐれて「上体のぶらさげ」が楽になる。からだの中身の質感が変わる、骨盤を含む上体が重さによって下へ下へ地球の中心に引っ張られる感覚がつかめた、という結果が現れた。
 野口指導の正統(丁度いい表現がみつかりません)なマッサージのやり方を、まず守っていただいて、確かめた。
 先週よりも今週の方が、重さが実感できた方が増えていた。
 本を見て、Web動画を見ながら解説を聞いてもらった効果は大きかったようだ。
 
 解剖学も変わった、ということ。
 教科書もWeb導入の時代になった、ということ。
 野口の先見性、というより運動感覚と言語能力の卓越性を、実感させられた、ということ。

 この三点がお伝えしたかったことでした!
コメント
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