日本ではピアノメーカーとして、YAMAHAピアノとカKAWAIピアノが有名である。
その河合楽器 KAWAIピアノの二代目が「SHIGERU KAWAI」というグランドピアノをつくりあげた。
ショパンコンクールなどでも使用されるという、日本生まれの名器らしい。
最近ではピアノとすっかり疎遠になっていた私だ。
今年の春までこのピアノの存在を知らぬままであった。
メールで取材の申し込みを受けたのは4月だった。
母が自宅にいる頃である。自宅には御呼びしにくく、新宿の喫茶店で落ち合う約束をした。
50がらみの紳士のライターさんに、音楽やピアノについて、野口体操とからめてお話ができた。
その冊子がおくられてきたのである。
SHIGERU KAWAI オーナーズ・マガジン「エレガンテ」2017 JUNE vol.3
一般には手に入りにくいマガジンなので、野口体操公式ホームページ「のnet通信」に、「心とからだと音楽ー身体感覚をひらく」見開きページを、佐治嘉隆さんが中身が読める状態で掲載してくれた。
他には、バレー、ヴァイオリン、万華鏡、特別なスィーツ、モーツアルトやメンデルスゾーンの話、上村松園の美人画等々に混じって、野口体操の記事である。エレガントで高尚な雰囲気が漂っている。
さて、昨夕、このマガジンを持って、母を訪ねた。
寄り添ってページをめくりながら、たわいのない会話を交わした。
ふと、母の目を見ると、親の欲目ならぬ子供の欲目だろうか、今までみたこともないほどきれいに澄んでいるではないか。
ついでに口の中も見せてもらった。口腔ケアを受けていて、歯茎の様相もよい方向に向かっているのが確認でした。
再びマガジンに戻る。
何度も繰り返しページをめくりながら、同じ反応を示す。
「モーツアルトね」とか、「上村松園 美人画は綺麗ね」とか、言いながら見ているのである。
私の名前を見つけて、読み上げる声には力があった。
そんな母を介護職員の方が、トイレに連れて帰って来た瞬間のことだった。
一緒にいたテーブルから少し離れてところに立っていた私を見つけて「みさお」と名前を呼んだ。
直前の記憶が失われる母だ。
今しがたまで、私とマガジンを見ていたことは忘れているらしい。
むしろ、私が、そこに居ることに、新鮮な驚きを感じた声であった。
脳科学の知識を調べたわけではないが、何かが残るような気がする。
「羽鳥操」と印刷された漢字が、脳の深層に働きかけ、久しぶりに顔認証と名前が一致したような印象を受けた。
特別にクラシック音楽が好き、興味を持っているか、というとそれほどではなかった。
積極的に関心を示めすことはなかった母だったが、日常的に娘の音楽があった暮らしを長く続けた証拠を見せてもらった。
そうこうするうちに
「さぁ、帰りましょう」
「えッ、あ あの もうすぐ夕食だから、ここにいましょうね」
「あッ、そう」
私の言葉に、納得したようなしないような母を残して、ディルームを後にしたのは5時少し前だった。
「あぁー、脱がないでくださーい」
夜勤の女性介護士の方の声が後ろの方から聞こえたてきた。
「お任せ、お任せ」
エレベーターの5桁の暗号を押して、階下におりた。
外に出ると、梅雨明けではないがすでに真夏の夕暮れの彩りに、からだとこころを偲ばせるように、自宅に向かって歩きはじめた。
その河合楽器 KAWAIピアノの二代目が「SHIGERU KAWAI」というグランドピアノをつくりあげた。
ショパンコンクールなどでも使用されるという、日本生まれの名器らしい。
最近ではピアノとすっかり疎遠になっていた私だ。
今年の春までこのピアノの存在を知らぬままであった。
メールで取材の申し込みを受けたのは4月だった。
母が自宅にいる頃である。自宅には御呼びしにくく、新宿の喫茶店で落ち合う約束をした。
50がらみの紳士のライターさんに、音楽やピアノについて、野口体操とからめてお話ができた。
その冊子がおくられてきたのである。
SHIGERU KAWAI オーナーズ・マガジン「エレガンテ」2017 JUNE vol.3
一般には手に入りにくいマガジンなので、野口体操公式ホームページ「のnet通信」に、「心とからだと音楽ー身体感覚をひらく」見開きページを、佐治嘉隆さんが中身が読める状態で掲載してくれた。
他には、バレー、ヴァイオリン、万華鏡、特別なスィーツ、モーツアルトやメンデルスゾーンの話、上村松園の美人画等々に混じって、野口体操の記事である。エレガントで高尚な雰囲気が漂っている。
さて、昨夕、このマガジンを持って、母を訪ねた。
寄り添ってページをめくりながら、たわいのない会話を交わした。
ふと、母の目を見ると、親の欲目ならぬ子供の欲目だろうか、今までみたこともないほどきれいに澄んでいるではないか。
ついでに口の中も見せてもらった。口腔ケアを受けていて、歯茎の様相もよい方向に向かっているのが確認でした。
再びマガジンに戻る。
何度も繰り返しページをめくりながら、同じ反応を示す。
「モーツアルトね」とか、「上村松園 美人画は綺麗ね」とか、言いながら見ているのである。
私の名前を見つけて、読み上げる声には力があった。
そんな母を介護職員の方が、トイレに連れて帰って来た瞬間のことだった。
一緒にいたテーブルから少し離れてところに立っていた私を見つけて「みさお」と名前を呼んだ。
直前の記憶が失われる母だ。
今しがたまで、私とマガジンを見ていたことは忘れているらしい。
むしろ、私が、そこに居ることに、新鮮な驚きを感じた声であった。
脳科学の知識を調べたわけではないが、何かが残るような気がする。
「羽鳥操」と印刷された漢字が、脳の深層に働きかけ、久しぶりに顔認証と名前が一致したような印象を受けた。
特別にクラシック音楽が好き、興味を持っているか、というとそれほどではなかった。
積極的に関心を示めすことはなかった母だったが、日常的に娘の音楽があった暮らしを長く続けた証拠を見せてもらった。
そうこうするうちに
「さぁ、帰りましょう」
「えッ、あ あの もうすぐ夕食だから、ここにいましょうね」
「あッ、そう」
私の言葉に、納得したようなしないような母を残して、ディルームを後にしたのは5時少し前だった。
「あぁー、脱がないでくださーい」
夜勤の女性介護士の方の声が後ろの方から聞こえたてきた。
「お任せ、お任せ」
エレベーターの5桁の暗号を押して、階下におりた。
外に出ると、梅雨明けではないがすでに真夏の夕暮れの彩りに、からだとこころを偲ばせるように、自宅に向かって歩きはじめた。