羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

医学と芸術展 ウエルカムコレクション

2010年02月05日 07時53分36秒 | Weblog
 昨日のブログに書いたこの展示会というか美術展は、ヘンリー・ウエルカムコレクションを中心としてなりたっている。このコレクションは《財政的にも現実的にも、さらには倫理的にも実現できなくなる前に収集された最後の偉大な私設博物館》であるという。
 ヘンリー・ウエルカム(1858~1936年)は、米国西部スー族の居留地にある丸太小屋で生まれた。医薬業界に革新を起こした製薬会社をつくり上げ、晩年は英国でナイトの称号を授与された。その生涯は波乱万丈のエネルギッシュなものだった、と解説書にある。

 彼が立ち上げた会社は、世界中の医薬品の開発・販売方法に多大な影響を及ぼした。
 とりわけ画期的なことは、圧縮した錠剤の形で薬の生産・販売を実現したことだという。つまり、タブレット+アルカロイドの合成語である「タブロイド」を商標登録したことに象徴される。マーケティング能力に加え、具体としての‘物’をどのような形で流通させるのか。技術革新を実現するビジネスの才覚で成功をおさめ財をなした。
 その彼は一方で「健康と生命の維持」についての関心が強く、「人の博物館」となるようなコレクションの礎を築き、没後も収集は続けられたのが今日に至っている。
  
 話は前後するが、液体や粉体の薬に比べて、タブレット(錠剤)は呑みやすさだけではなく流通に適した形態に違いない。「どのように物を手渡していくのか」、薬の大衆化はこの形状が大きくかかわっている。
 思い起こせば、私が子供ころ昭和三十年代ではまだまだ‘粉ぐすり’が町の医者では主流だった。乳鉢で細かく摩り下ろされ調合された薬は、天秤の上に乗せられた真四角の白い紙に包まれた。なかでも高貴薬とか強力な効き目がある薬は赤い紙だった。それが四十年代になってからは、すべてが錠剤やカプセルに換わったような記憶がある。

 さて、ウエルカムコレクションを支えた物質文化への関心は、少年時代に彼の家のそばの埋葬塚で新石器時代のやじりを見つけたことに端を発しているのだろう、と書くのはケン・アーノルドウエルカム財団パブリックプログラム部門長である。
 このコレクションを見るにつけ、おそらく多くの人が、「健康と医療、人体をどのように見るのか、生と死は?」そういった問いかけをせずにはいられないだろう。インパクトの強いコレクションである。

 因みに、現在も活動を続けているウエルカム財団は英国最大の医療助成団体で、そのなかのサンガー研究所は‘ヒトゲノム’のおよそ三分の一を解読したそうだ。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする