日本語学校からこんにちは ~水野外語学院~

千葉県市川市行徳にある日本語学校のブログです。日々の出来事、行事、感じたことなどを紹介しています。

馬鹿という言葉

2008-07-20 16:26:41 | 学生から
 「日々是好日」先生のブログを読んで、「馬鹿」という言葉についていろいろ考えました。その語源は、検証したことはありませんが、確か、漢字の故郷、中国の秦の時代の「鹿を指して馬と為す」という故事から来ているという説があるようです。

 でも、確かに仰るとおりです。日本語を勉強してこのかた、この「馬鹿」という言葉は、自分でも使ってきているようにもかかわらず、一体正しく使っているかどうか、或いは使うべきかどうかはよく分からないのです。

 日本人を見ても、大体「阿呆」とか、頭が悪いとかのような意味合として気分が相当悪い時に或いは誰かを蔑視して軽く使われているようですが、そうめったに聞こえるものでもないような気がします。

 こればかりではなく、日本語を勉強して不思議に思ったことがあります。人をののしる言葉として、「馬鹿」、「阿呆」、「畜生」、「糞」、「野郎」はどうも一番程度のひどいものであり、それ以上のものは、辞書を引いても、人に聞いても余り出てこないのです。

 そういう話しをすると、変に思われるかもしれませんが、実は中国語には、そのような罵言があまりにも多いからです。これについて、私の尊敬してきた台湾の学者・柏楊先生(今年4月末に亡くなった)が20数年前に既に「醜い中国人」という本の中で指摘しています。中国人は、不衛生で、口も汚いという。

 その本が出版されてから、柏楊先生は中国人社会から物凄い批判を受けました。大陸では、勿論本は発禁となっていました(海賊版は出回っています)。まあ、口が汚いと言えば、柏楊先生ご自身もその一人だと思われますが、中国人を批判する口調が余りにも激しいため、普通の中国人ならなかなかこれを受け入れにくいのでしょう。

 人は、生まれてから罵言が吐けるようなものではなく、育った環境の中で見よう見まねでこのような悪態をつくことを身に付けたものだと思われます。日本語の中にも、話を聞いて相手の素性が分かるというような言い方があるかと思われますが、言い換えれば、相手の育った環境がよく分かるということでしょう。

 では、なぜ中国語に罵言が多く、中国人が口が汚いと言われなければならないのでしょう。

 正直に言うと、柏楊先生の指摘を読んで、最初私も非常に不服でなりませんでした。でも、年が取り、段々人間らしくなってくるにつれて始めてその言葉の重みを感じられるようになりました。

 人様の欠点に目をつけるのは簡単でしょうが、自分の非を見直し、改めるのは、なかなか難しいことです。そういう意味で、80年代当時、「中華民族は龍の子孫だ」と誰も彼も酔いつぶれたように自惚れている最中に、中国人の悪口を言った柏楊先生は、非常に偉いと思います。今その本を読み返してみても、ぴりぴりする所があります。

 日本語と比較して、中国語に罵言が多い理由についていろいろ考えてみましたが、次のような点に辿り着きました(皆様にも一つ検討していただきましょう。)。

 つまり、中国及び中国文化は、余りにも旧いからである。

 「醜い中国人」の中で、柏楊先生は、中国は貧しいからだとか、歴史上戦乱が多すぎるからだとか、いろいろな理由を挙げていますが、結局、上のような一言に帰結することができるかと思われます。

 言葉というのは、民族文化そのものの象徴です。中国文化の場合、数千年の間に一番栄えた時期は、紀元前の春秋戦国時代(つまり「馬鹿」という故事が生まれた時代)と20世紀始めの植民地時代だと一般的に見られています。社会大混乱の中に百家争鳴した結果、中国の人文学は逆に大きな進展を見せたのです。儒教、道教、法教及び墨教はいずれも春秋戦国時代に生まれたものであり、民主主義及び共産主義は植民地時代に外国から取り入れたものです。どの教えが正しいか、或いはどっちが進んでいるかはここで議論するつもりはないですが、結局2千年もの間に、道教、法教、墨教の上に儒教が君臨し続け、所謂共産主義が栄えた昨今にもそれがこの国の底流をなしてきたところから見ると、どっちも中国文化の一側面に過ぎないことが分かります。2千年という古めかしさに更に56の民族という要素を無理矢理に取り入れると、中国文化の色合いは、本当に陳腐繚乱そのものです。

 2千年という長い歳月。戦乱、動乱、圧迫などが繰り返されてき、人々の鬱憤の溜まり具合も想像できるほどです。それを言葉に反映してしまうと、罵言が多いのも決しておかしくないことでしょう。

 「馬鹿」の語源は、本当に「鹿を指して馬と為す」という故事から来ているのならば、今の中国にもそのような馬鹿が少なくないと思われます。

天山来客 
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