イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「パイプ随筆」読了

2022年02月10日 | 2022読書
青羽芳裕/編 「パイプ随筆」読了

この本は、パイプにまつわるエッセイを集めたアンソロジーである。編者は、「日本パイプクラブ連盟」という会の常任理事だそうだ。その中に師の文章も収録されていたので読んでみようと手に取ってみた。

パイプを吸う人のイメージとはどんなものだろうか。寡黙、知的、思慮深い・・ついでにお金持ち。僕はそんなイメージを持っている。本の中にはこんな一節があった。『パイプは哲学者の唇より叡智を引き出し、愚者の口をとざす。瞑想的で、思慮深く、にこやかなできどらない座談をかもしだす。』葉巻はどうだろうか。巨大な事業を回している大企業のエグゼクティブ。そんなイメージだ。昔、「ラリック」というガラス製品のメーカーの日本法人の社長という人に会った時、多分、お酒かタバコの話になったのだと思うが、「私はこれです。」とスーツの胸ポケットから葉巻を取り出して見せてくれた時はこれこそ紳士だと思ったものだ。巻きたばこはどうだろう。これはもう、市井のおっさんか、大人になり切れていない不良少年というところだろうか。
どれにしても煙草、たばこ、タバコというものはどんなものも絶滅寸前だ。しかし、パイプや葉巻については、紳士のたしなみのひとつであるのではないかといつも思っている。
特にパイプを咥えて原稿用紙に向かう作家の姿の写真には憧憬の念を覚える。パイプにはやはり、思慮深さと森羅万象を見通せる知性を感じるのだ。
パイプというのは、たばこと違い、しょっちゅう灰を捨てる必要がないので、じっと物事を考えるのに適しているのだと収録作品の中に書かれていた。そして、パイプを嗜む人々というのは、特に日本では、ほとんどの人は、最初は手軽に吸える巻きたばこから入り、西洋文化に倣ってパイプに至るという道をたどってきたのだろうが、その過程でたくさんの知識を吸収してきたというバックボーンとともに吸っているというところにその厚みを感じざるをえないのである。そこには、煙草だけにとどまらす、当然、お酒やスーツの着こなし、ハンティングやフィッシングなど様々な趣味や作法の知識も同時に吸収してきたに違いない。この本には登山家という人たちも多数登場していた。そんな知識の厚みが煙とともに立ち上るのである。
だから、たとえば、僕が、たまたま、リサイクルショップでパイプをみつけ、葉タバコがないのでセブンスターなんかをコンビニで買ってきてそれをほぐして火皿に詰め込んで吸ってみてもまったく様にはならないのである。戦後、物資のない時代には、イタドリの葉を乾燥させて代用していたらしいが、今年の春に山に行ってイタドリの葉を採ってきて乾燥させてももっと様にならないのである。

編者はそれを、パイプをたしなむ人は、『広い意味でのエピキュリアン、高い意味でのディレッタントである』と書いている。なるほどうなずける。

パイプにも様々なデザインがあって、それぞれ蘊蓄があるというのはどの趣味でも同じようだが、何か他のもの、たとえばバイクや車(クラシックカーとかは別にして・・)、ゴルフ、ましてや釣り(フィッシングではない・・)の世界とも違うように思う。何が違うのか、すでに絶滅寸前というように、先進技術をわざと取り入れず、伝統を固くなに守っているからだろうか、それとも健康を削ってまで嗜むのだという執念か、どう解釈してもいいのだろうけれども、近寄りがたく、でも憧れる世界なのである。ラリックの日本支社長に倣って、僕も安いながら葉巻を買って吸ってみたことがある。(新宿の紀伊国屋書店の地下には喫煙具を扱うお店があったのだ。)パイプもそうらしいが、煙は吸い込むものではなくて、鼻に抜けるようにふかしてその香りを楽しむものだというのだが、確かに、一瞬ではあるが、なんとも奥ゆかしい香りが鼻の中に残ることがあった。そういうことを確かに論じることができなければやはりスモーカーと言えないのだろうなとも思うのである。

せっかくなのでネットでいろいろ調べてみると、今でもパイプを売っている店舗というのは存在しており、安いものだと1万円くらいで買えるものもあるようだ。これくらいならお小遣いをひねり出して焚き火を前にして吸ってみるのもいいんじゃないかと思ったりするのだが、やはり、そこには知性も思慮深さも何もないのだから肺を汚すだけになってしまいそうだ。
しかし、2月20日というのが、国際パイプスモーキングの日(International Pipe Smoking Day)という日だということを知ると、そんな日を直前にしてこの本を読んでいたということは、僕にも何かパイプと縁を持ちなさいという神様の思し召しだったりするのだろうかと思ってしまうのである。

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