山の次は海ということで、三原港からの高速船に乗り込む。瀬戸田行きの便は、直近だと3年前に、マツダスタジアムに行く途中の立ち寄りということで乗っている。この時は耕三寺を訪ね、レンタサイクルにて島を渡って大三島の大山祇神社にも行った。これから行く向上寺のすぐ近くも通っているが、その時は全く意識することもなく、実は行くのは初めてである。こうした「抜け」というのは結構あるもので、他も含めて札所めぐりというのがきっかけになって訪ねるところは結構ある。ということで今回の瀬戸田行きは、向上寺と平山郁夫美術館が目的地で、同じ寺でも耕三寺に行くかどうかは行ってから考えることにする。
これから乗るのは12時10分発の便。三原~瀬戸田は2社が運航しており、やって来たのはマルト汽船の便である。同じ区間でもう1社の弓場汽船と競合するというよりは、ほぼ交互に便を出したり、途中の島に立ち寄るのがマルト汽船だったりと、それぞれ小さな船会社どうしが共存しているようである。もちろん瀬戸田までの運賃は同じで、瀬戸田や、同じ生口島にの沢まで行くのなら来た便に乗ればいいわけである。
船室の座席にも余裕があるが、天気もいいし、外も穏やかなので船尾のデッキに陣取る。途中の島で下りるのか、買い出しの食料を積んだママチャリを持ち込む外国人らしい客もいる。こういうのを見ると瀬戸内航路らしさを感じる。
定刻に出航。少し遅れて因島行きの便が続く。まずは三原の港を抜け、左手には糸崎の町並み、右手には筆影山を見る。沖合に出ても極端に揺れることもなく、風も心地よい。先ほどの山の紅葉とは打って変わった景色である。ここまでハードな歩きが多かった(まあ、夏の暑い時季だったこともあるが)中国観音霊場めぐりだが、こんなに交通機関で楽をさせてもらっていいものやらと思う。
この便は途中の立ち寄り便で、小佐木(小佐木島)、向田(佐木島)に停泊する。その都度数人が下船し、ママチャリでやってきた外国人も向田で下船した。佐木島は人口が700人あまり、小佐木島にいたっては10人いるかいないかくらいの小島だが、こうしたフェリーは欠かせないものである。
生口島に差し掛かるとまず目に入るのは内海造船の巨大な造船所。ちょうど客船を手掛けているところのようで、フェリー会社のロゴらしきものが部分的に見える。どこの会社だろうか。
高根島との間の狭い水路に入ると、瀬戸田に到着である。その港の奥に小高い丘があり、三重塔の上半分が見える。これから目指す向上寺の国宝三重塔である。
まずは向上寺を目指そうということで、港町らしく家並みが固まった一角を歩く。すると石段が現れる。寺に行くにはもう一本奥の坂道を上るようだが、この石段の先に生口神社というのがあり、その脇からも向上寺に行けるようなのでそのまま上ってみる。
生口神社は生口島の祇園社だったそうで、室町~戦国時代に生口島を拠点とした水軍の生口氏が寄進したとされている。生口島には他にも小さいながら寺社があちこちあり、生口氏や商人たちの寄進によるところが多いそうだ。
そして向上寺である。瀬戸田出身の平山郁夫は、しまなみ海道の開通を記念して「しまなみ海道五十三次」と題して水彩画を描き下ろしたが、生口島とは別に向上寺三重塔だけで1グループとした。そのくらいのスポットなのに、これまで訪ねたことがなかったとは、午前中の仏通寺ともども、まだまだ経験が足りないなと思う。
山門をくぐり、少し坂を上ると本堂に出る。新しい感じの建物だ。その背後に、先ほどと比べて近くなった三重塔が見える。
向上寺は曹洞宗の寺院である。先に訪ねた仏通寺と同じく、室町時代の応永年間に、先に触れた生口氏、そして仏通寺を開いた愚中周及(仏徳大通禅師)により開かれた。仏徳大通、ここでも出たか。記録が残る室町時代のことだから、単なる言い伝えではなく実際に携わったのだろう。
扉を開けると畳敷きの空間が広がる。ただなぜか、靴を脱いで上がるのはためらわれる。これも外のところでちょこちょこっとお勤めとする。こういうのは、これまでの札所めぐりのほとんどが真言宗か天台宗の系列だったのと比べての禅宗系寺院の違和感だろうか。無邪気にお賽銭をあげて「観音様、お大師様、よろしくお願いします」と手を合わせるのとは少し世界が違うというのか(浄土宗、浄土真宗、日蓮宗の系統についてはひとまず置いておくとして)。
この本堂は2010年の再建で、なるほど新しいわけだ。かつては他にもいろいろお堂があったそうだが、江戸時代に臨済宗から曹洞宗に変わり、その後もいろいろあって失われたという。その中にあって、唯一開創時代から残っているのが三重塔である。歴代の向上寺の人たちが、何があっても三重塔だけは守ろうと受け継いで来た歴史があるのだろう。
本堂の裏手は潮音山公園という。「しまなみ海道五十三次」のスケッチポイントもある。
少し歩くと、三重塔を上から見る展望台に出る。甍の向こうには瀬戸内の海、その先は大三島。これは素晴らしい。こうした景色が楽しめるのも中国観音霊場めぐりのポイントである。
ここから再び港まで下り、もう少し歩いて平山郁夫美術館に向かう。途中の商店街のことなどは、また次回にて・・・。
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