まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

『海炭市叙景』と『函館物語』

2012年10月22日 | ブログ

またあの街に行ってみたいなと思った。

・・・それは北海道の玄関口である函館。

大学生の時に初めて北海道を訪れたのだが、その時は当時大阪から函館まで運転していた寝台特急「日本海」に揺られ、まず降り立ったのが函館である。

Dscn3560その時は函館山からの夜景を見て感動したものだったが、その後、辻仁成の(特に初期の)作品の舞台となったということで、この港町に強く惹かれたものである。函館山を中心とした眺望、かつての栄光と最近の衰退の様子が一度に目の前に現れる歴史的な幅、そして路面電車・・・・。数年後には東京からの新幹線がやってくる函館であるが、駅が市街地から離れていることもあり、この港町の風情というのはもうしばらく楽しむことができそうである。

408748517x_2そんな函館の、函館山とか洋館群といった有名観光地からはちょっと外れた、市井の姿を著していてお気に入りの一冊が、辻仁成の『函館物語』である。著者の手による写真もふんだんに盛り込まれ、街のガイドというよりはエッセイとしてもよくできている。わざわざこの一冊を片手に、「これはどの場面で撮影したものかな」というのを楽しみにこの港町を巡ったこともある。結果、どのくらいのスポットに出会えたか、また辻仁成という作家の視点からとらえた写真と比べてどうだったか(所詮、私の写真など幼稚園の子どもでも撮影できるようなものばかりだが)。まあそういうことは横に置いておくとしても、さまざまな被写体がこの街にはあふれているように思う。

話は変わるが、最近書店で手にした一冊に、佐藤泰志著作の『海炭市叙景』というのがある。ここで出てくる「海炭市」というのは、佐藤のオリジナルによる架空の街であるが、これは彼が一時期を過ごした函館という街をモデルにしている。

511ejkvjqyl__ss500__3「海炭市」という名前からもわかるように、これはあくまで架空の街の名前。実際の函館には炭鉱があったわけでもなく、それを含めてのフィクションであるが、ここに登場する人たちは、炭鉱で職を失ったあげくに自殺した若者とか、「首都」での生活に疲れて故郷の「海炭市」に戻ってきた人とか、この街で何十年と変わらず路面電車を動かしてきた運転手とか、競馬で多額の借金を作ったりとか。このほか、子ども目線のものもあれば、地回りのヤクザが登場するとか・・・。

作品の成り立ちからは、何も「海炭市」だけのことではなく、執筆当時に世間にあふれていたバブル経済とか、都会への憧れ、かつての重厚長大産業の斜陽とか、地方経済の疲弊とか・・・さまざまな問題に悩む「地方都市」のことを描いたというのがわかる。ただ一方で、「函館」という刷り込みがすごく、「海炭市の○○町というのは、現在の函館に当てはめたらこの辺りだな」というのが、旅行者として訪れただけの私でも何となくわかるように思うのである。

まだ鑑賞していないのだが、『海炭市叙景』は映画にもなったし、DVDでも一度観てみたいものである。好きな街のイメージも新たにできるだろうし、今度はその風情を味わいたいというのもある。

『函館物語』の世界が、あくまで他所の人たちとか、あるいは街を詩的にとらえられる人の視点として面白いなという一方で、『海炭市叙景』は、あくまでそこに長く住む人たちの日常、「実際にこういう人が住んでいそうだ」というのが伝わってくる世界であると言えるだろう。

ただ一つ謝っておきます。函館には路面電車に面して文学館があり、函館ゆかりの作品や作家を紹介するコーナーがある。辻仁成も佐藤泰志も作家として活動しており、『海炭市叙景』も発表された後だったのだが、佐藤泰志という作家の名前、全然気づかなかった。文学館を訪れた時には当然コーナーが設けられていたところだろうが、私の頭の中では「その他大勢」の扱いとなっていたのかな。

これから函館を訪れる人、また曾遊の地として函館を訪れる人・・・・この港町のどこか淡い風情を味わうための「参考書」になるかもしれないな。

うーん・・・こういうことを書くと私もまた函館に行ってみたいものである。できれば何日か滞在して街の隅々まで見て回る、また地元の人たちや関西から移った人たちとも語りあいたいと思う。写真の謎解きとか、その当時と現在では街並みがどう変わったかの話を聞いてもいいだろう。そういうチャンスがあるかどうかは置いておくとして・・・・。

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