大晦日の昼下がり、津和野駅に降り立つ。10何年ぶりかの訪問である。学生時代に1回、社会人になってすぐに1回だったが、その時はいずれも町外れにあるユースホステルに宿泊。今はもうやっていないのだが、風呂が五右衛門風呂だったり、1回目の時は安野光雅、2回目の時は森鴎外のファンだという女の子と出会ったりとか、若い旅の思い出もあった。そんなことを懐かしく思う。
今回は駅から歩いて5分ほどにある民宿「原田屋」にお世話になる。だが道路は一面の雪。ここまでバッグのキャスターをゴロゴロ転がしていたのだがこれでは無理。紐をかけて肩にかけ、雪が舞う中を歩く。
通されたのは4畳半の一人部屋。「暖房がストーブとこたつしかなくて」とおかみさんに恐縮されるが、普段自室では暖房をほとんど使用しない私としては、懐かしい日本らしさを感じてありがたい。ただ、せっかく明るいうちに着いたので町も歩いてみたい。バッグを置いて外に出る。あちこちの路地では玄関先の雪かきが行われている。
メインストリートを歩く。源氏巻を扱う店、「津和野の女 伊沢蘭奢のように」とのパネルを出す薬屋、昔ながらの商店が歩く。そろそろ年内の営業も終わりということで、仕舞支度をする光景が見られる。
そんな中で「華泉」「初陣」といった酒蔵に出会う。津和野も青野山ときれいな水が生み出す酒どころ。これまで来た時はのぞくこともなかったが、今回は酒蔵に入りいろいろ試飲し、300ミリの瓶を買い求める。これで年越しも万全(?)である。「一杯一杯復一杯」・・・この旅ではどうもこのフレーズが頭に浮かんでは消える。いかんな、どうも。
そしてやってきたのが殿町通り。観光バスの客も多く賑わっている。カトリック教会、なまこ塀、堀割の鯉・・・・雪を纏うと実に美しく見える。舞っていた雪もやんで青空が見えてきた。特にカトリック教会の佇まいは、一瞬北欧にでもいるかのような神秘さを感じさせるが、そのすぐ後には静かな城下町によく溶け込んだ、和の佇まいも感じる。
雪の城下町、地元の人にとっては煩わしい雪だろうが、観光客としては冬の風情ある景色に出会うことができて、いい思い出である。一年の締めくくりにいい景色に出会え、新しい年が良いものになるかなと期待させるものであった・・・。