夕方の一時を八高線は児玉駅で過ごした後、次に高崎からやってきた18時20分発の高麗川行きに乗る。まさか大回りをしているとは思わないが、汽車旅派らしいのも乗っている。夏のこととて日も長いが、さすがに18時を回ると秩父の山々の稜線も薄くなってくる。もう1時間早ければもう少し車窓も望めたわけで、返す返すもあのロスタイムが痛く感じられる。
少しずつ暗くなる中、折原駅と竹沢駅の間で、警笛が鳴ったかと思うと急にスピードが落ち、そして停まってしまった。何だろうか。運転手と車掌が車外に出て、列車の周りを何か捜しているようだ。しばらくして車掌の案内放送で、イノシシらしきものと列車が接触したようなことを言っている。確かに薄暗い山村で、イノシシくらいは出ても不思議ではない。結局、イノシシが列車をよけて逃げ切ったか、轢いた痕も見られないということで、10分近く停車していたがようやく発車。先ほどは3分のロスタイムで嫌な思いをしたが、ここまで来れば多少遅れようがどちらでもいいような気がしてきた。
小川町、越生と東武線に接続する駅を通るがもちろんそのまま乗車し、遅れも縮まって高麗川着。ホーム向かいの19時23分発八王子行きに乗る。すっかり辺りも暗くなり、車窓を望むべくもない。ここから先は淡々と距離を稼ぐのみである。少し距離を稼ぐために、途中の拝島で降りて、青梅線で立川、そして中央線で八王子に出るという手も考えたが、もう立つことも考えず、そのまま八王子まで乗り通す。20時を回ったが一般の人にとっては十分な活動時間帯で、乗換駅である八王子駅は賑わっていた。ここで、駅舎内のスタンドでカレーライスの軽い夕食。
この後は、20時20分発の横浜線~相模線直通の茅ヶ崎行きに乗る。東京近郊区間の最も西側の路線だ。電車は通勤タイプなのだが、ドアのところに押しボタンがあり、駅の規模に関係なくボタンを押しての乗り降り。橋本からの相模線は単線で、時折行き違いの停車がある。さすがに車内も静かな時間帯・・・と思いきや、労働者風の男性の高いびきが車内に余計響き渡る。さすがに私もぼんやりとしてきた。
茅ヶ崎着。大回り乗車の西南の端である。ようやくにして東海道線に乗ることになるが、次にやってくる21時47分発の列車は「2ドア グリーン車なし」とある。これはひょっとして・・・・やっぱりそうか。やって来たのは、あの「ムーンライトながら」の車両。今夜の東京発の「ながら」になるために、基地である静岡から東京に向かうのに一本営業をこなすというやつである。これまで、「ながら」が静岡の基地に帰るまでの列車(東京発の東海道線の始発列車)には乗ったことがあるが、帰りの東京行きは初めて。9両の車両はほぼ満席で、私はちょうど空いた端の席に座れたが、デッキに立っている人や、今日すでに「青春18」で遠出をしてきたと思われる客で混んでいる。
八高線のロスタイムがあったために、東海道線でこの車両に出会えたのはラッキーである。こうなったら少しでもこの列車に乗るために、もうどうせ外も見えないのだからと、大船から横浜までの根岸線、そして鶴見からの鶴見線もカットすることにする。大回り乗車中の、「鶴見駅での有人改札で事情を説明して通してもらう」という行事(?)はできないが、仕方ないだろう。また、川崎から南武線に乗り換え、川崎-立川-西国分寺-南浦和-赤羽-池袋-日暮里-綾瀬と行けばまだ距離が伸びるなとも思ったが、さすがにそこまで回ると終電の時刻が気になる。結局その辺は断念して、特急型車両で品川まで向かう。
品川からは22時37分の山手線。やけに混雑している。この後のこともあり次の大崎で下車。22時53分の埼京線経由川越行きにスライド。この後のコースは埼京線経由で赤羽、京浜東北線で折り返して日暮里、常磐線で北千住、そして常磐線各停で綾瀬・・・と、ようやく先が見えてきた。といっても時計は23時近い。
その埼京線、渋谷、新宿、池袋と、東京の北側や埼玉エリアに住む人たちが遊びに来るスポットに停車、ちょうどそろそろ帰宅しようかという時間帯であり、朝のラッシュ時もかくやと思わせるほど乗客が乗ってくる。積み残しになった客も多い。本日これまで17時間以上改札内で過ごしたが、一番の混雑。ホント、何の因果でこういうところに身を置いているのだろうか。
幸い赤羽で乗り換える客が多いため、降りられないということはなかった。それにしても東京と埼玉の境にある赤羽。北の関所といわんばかりにこの時間でもホームは人であふれている。週末の夜はまだまだ終わらないようだ。
ここまで来ればようやく先が見えてきて、23時33分発の大船行きで日暮里に南下、23時52分発の常磐線で北千住へ・・・。とここで、とうとう0時を回ってしまった。暦の上での「当日」は過ぎてしまったわけだが、切符の有効はこのエリアでは終電が終わるまでである。北千住から0時03分発の各駅停車に乗り継ぎ1駅。
ようやく0時06分、綾瀬着。ようやく長かった大回り乗車の旅が終わる。高架ホームを降り、ようやく「亀有→130円」の乗車券を自動改札に入れる。駅によっては時間切れでゲートが閉まってしまうらしいが、ここ綾瀬ではあっけなく、乗車券が吸い取られてゲートが開いた。いつも通る隣の駅ということで見慣れた景色が広がり、いつもの週末の夜の雰囲気だった。
結局この大回り乗車。亀有から綾瀬までの営業キロの合計は651.5キロ。乗った列車は23本。所要時間は18時間24分というものだった・・・・。東京近郊区間のさまざまな路線の様子を見ることができ、それは面白かったのだが、一日の4分の3をJR構内で過ごしたことで、さすがに疲れた・・・・。
この日乗り終えての教訓というか。
1.事前に時刻表でシミュレーションを立て、ある程度計画的に乗ったほうがよいこと。
2.とはいうものの、やはり始発から出て本当の終電で戻るくらいでないと。今日これをやれば、もう2時間近く生み出せたはず。
3.どこかの駅で時間調整するよりは、前に進める時に少しでも進めておくこと。(大宮駅で時間をつぶしすぎた結果から)
で、もう一度やってみるかって・・・?うーん、今度は西のほうから時計回りというのもいいかなと思うが、さすがにしばらくはいいかな・・・・・。(終わり)