クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

FMで聴いた内田光子のピアノ演奏

2014年05月30日 | 演奏(家)を語る
去る日曜日(2014年5月25日)、おなじみのFM番組『名演奏ライブラリー』で、内田光子の演奏を聴いた。最初にモーツァルトの2作、<ロンド>K.511とピアノ協奏曲第9番<ジュノム>。世間の評判はすこぶる良いらしい内田のモーツァルトだが、私の中でのモーツァルト演奏の理想がやたら高すぎるためか、どうも聴いていてすっきりしない。手短に言うと、「とても美しい演奏ではあるんだけど、ちょっと考え過ぎて暗くないですか」といった感じのひっかかりが、常にぬぐえないのである。

随分前になるが、内田のモーツァルトは一度だけ、生で聴いた経験がある。サントリーホールで行なわれたモーツァルト協奏曲シリーズの一つで、何番だったか、あまりポピュラーではない曲をやったときに聴きに行ったのだった。内田自身が指揮も兼ねての、いわゆる「弾き振り演奏」である。私が座った席は、ピアニストの背中だけが見える角度。オケを振る時に両手を頭上に掲げ、手のひらをひらひらと翻すようなユニークな指揮ぶりを見ることができた。休憩時間にホールをうろうろ歩いていたら、当日聴きに来ていた学生さんらしき数人の会話が聞こえた。そのうちの一人が両手を胸の前でわなわなさせながら、「おおお、究極のピアニッシモ~♪」なんて言って喜んでいた。まあね、きれいな音ではあるよね、と私は声に出さず、彼の言葉に呼応していた。

後日、このコンサート・シリーズの一つがTV放映され、演奏時の内田の表情を正面カメラのどアップで見ることができたのだが、その顔たるやもう、夜叉か般若。怖いわ。w 私が行った日も多分、あの顔でやっていたのだろう。見えなくて良かった(笑)。とにかく発売当時非常に好評だったので、内田のモーツァルトについては、ピアノ協奏曲の有名どころのCDをいくつか入手して聴いたものだった。しかし感想は、今回上で書いた通り。「なんか暗いんだよなあ、この人のモーツァルトは」。で、いずれのCDも、ほどなく放出。

番組で次に紹介されたのは、シューベルトの<即興曲集>Op.90(D899)。この日はこれが聴きたくてチューン・インしたみたいなもの。これが、お目当てだった。趣味の基本がオペラや大管弦楽曲にある私にとって、ピアノ独奏曲なんてのは殆ど守備範囲外の物なのだが、シューベルトの<即興曲集>は学生時代から割と好きな作品の一つだった。でも、“これだ!”と言えるような決定的名演には、ついぞ出会ったことがない。で、今回初めて内田の演奏が聴けたわけだが、一言で言うと、「良いポジションにいるな、これ」というところである。「良いポジション」とはどういう意味か、それは、他のピアニストたちとの比較によって初めて説明され得るものだ。

まず、アルフレード・ブレンデル。シューベルトのピアノ曲をこよなく愛する人。当<即興曲集>については、フィリップスへのセッション録音だけでも最低2回は行なっている。基本的な解釈は新旧でそんなに変わらず、どちらも深く深く黙考し、内省に打ち沈んでいくような演奏だ。ただ、私の感覚では、このヒッキーな音楽作りにはついていくのがしんどい。往年のドイツの名ピアニスト、ウィルヘルム・ケンプは逆に自然体の演奏で、普段着のシューベルトを滋味豊かに聴かせる。学生時代の私はたまたま、中古LPでこのケンプ盤が見つかったので購入し、これを基本コレクションとしたものだった。とは言うものの、けれん味の無い、聴いていて疲れない良さと同時に、ある種の物足りなさもケンプ盤には付きまとった。「ここ、もう少し、表情をこめてほしいんだけど」みたいに注文をつけたくなる箇所が結構あるのだ。次いで、リリー・クラウス。男性ピアニスト顔負けの、何とも雄大なシューベルト。岩井宏之氏の言葉を受け売りするなら、「作品に流れる豊かな情感を、細大漏らさず表出しなければ気がすまないといった趣」で、音楽がとにかく大柄。でも、この曲集にこんなスケール感ってどうかなあと。

そして、我らが(?)内田光子。ケンプ盤よりもずっと細部に分け入った緻密さがありながら、かといって、ブレンデルのように深い内省に嵌り過ぎることもない。随所に明るい響きも使って、シューベルトの音楽をやたらな根暗世界から適宜解放している。スケール感も、クラウスのように「構えがいささか大き過ぎるのでは」といった疑問を感じさせることのない適切なもの。・・・ということで、シューベルトの<即興曲>演奏として「良いポジションにいるな、これ」という感想が、内田の演奏に対して浮かんできたわけである。

次は、晩年のクルト・ザンデルリンクと共演したベートーヴェンの<皇帝>。これはかつてCDを持っていた物なので、この日はここでラジオを切って終了にした。内田のピアノだと、同じベートーヴェンの協奏曲でも第1番、第2番などの方が合っているんじゃないかという気がする。いつか機会があったら、聴いてみたいものである。

―というところで、今回はこれにて。

(PS) 消費税増税と、節電による生活防衛

ちょっとおまけの横道話。昨年10月に消費税の増税が決定して以来、我が家では生活防衛の手立てを考え、いくつかを実行に移してきた。その中で電気の節約に関しては、以下の物が大きな効果を発揮した。ご参考までに。

●冷蔵庫の買い替え・・・昨年秋、それまで使っていた17年前の古い物から、2013年製品に入れ替え。1日あたり約2キロワット(1ヵ月で約60キロワット)もの節電となり、びっくり仰天。

●各部屋の照明をLEDに交換・・・最初にお風呂やトイレ、玄関などの電球をLEDに交換。その後、天井についている明かりを各部屋ともLEDシーリングライトに付け替え。これでさらに節電が進行。

●消費税5%の最後の買い物の一つとして、お湯をとっておく電動ポットを3月に買い替え、4月1日から新しい方を使用開始。しょっちゅうお茶を飲みたがっていた父が他界したため、それまで使っていた4・3リットルという大きなサイズは不要となり、今回は2・9リットル型に。朝や晩など、お湯が欲しい時だけ沸かし直すようにして、日中や夜中はヒーターを切って「魔法びん状態」にしておく。これが意想外に大きな効果を発揮し、電気メーターの数字がさらに下がった。
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