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「水濃徃方」の解読 56


(散歩道のアジサイ4)

昨日、話題のサイドミラーの蜘蛛の巣に、小さな蚊ほどの虫が掛かっていた。これで獲物が掛かることは判った。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

四十八夜じゃのと云う場へ、年寄衆をやって、五十年跡の奢り気(おごりけ)の無い、世間の風に博学な人のある所へ行って、その咄しを聞くが商人の学問で御座る。言(こと)くどけれども、かゝる結構な時に逢うて、琴引かぬ出格子(でごうし)もなく、三弦(さみせん)鳴らぬ裏店(うらだな)もなし。六十余州の大御宝(おおんたから)の、汗水流して才覚して、上納する御知行米や畑金(はたきん)
じゃぞや。
※ 四十八夜(しじゅうはちや)➜ 阿弥陀仏の四十八願にちなんで、四十八日間の夜に限って行う念仏、または経の講説。
※ 奢り気(おごりけ)➜ ぜいたくする様子。。
※ 出格子(でごうし)➜ 窓から外へ張り出して作ってある格子。(出格子を構えた家に多く住んだところから)囲われ者、踊り子などの住居。
※ 裏店(うらだな)➜ 裏通りに面して建てられた粗末な棟割長屋
※ 大御宝(おおんたから)➜ 農民。
※ 畑金(はたきん)➜ 江戸時代の関東地方で畑に課された年貢。

それを、恐れも怖(こわ)げものう、今朝、鼈甲(べっこう)の櫛十枚おさめて、片手(かたて)。しめた、これから二軒茶屋へ参りて、二分(ふん)程奢ったら、ちとは腹がふくりょうかと、物喰(くわ)せぬ主人でも持った様に言いおる。一食万銭の費(つい)えとて、唐の大名の奢(おご)り者の上にさえ、有るまじき事に、珍しう書いて、身を亡ぼす戒(いまし)めの書物も有るげなに、年季奉公人の身で、冥理(みょうり)を知らぬ大たわけ、主人/\の奢(おご)りの程まで、思いやられて浅ましい。立身出世は及びもない事。仕舞いの果ては、引き負いの有り。毒喰(くら)わば皿舐(ねぶ)れの強慾心。掛先(かけさき)からの欠落(かけおち)、非道の金の身につかず。
※ 片手(かたて)➜ 五の数を示す。五十、五百を示すこともあり、隠語的に用いられる。ここでは五両だろうか。
※ しめた ➜ 期待どおりうまくいって喜ぶときに発する語。しめしめ。
※ 二軒茶屋(にけんぢゃや)➜ 道の両側に一軒ずつ、または隣り合って並んだ二軒の茶屋。江戸富岡八幡宮にあった料理茶屋が名高い。
※ 二分(にふん)➜ 二分(にぶ)。一両の半分。
※ 冥理(みょうり)➜ 冥利。ある立場にいることによって受ける恩恵。
※ たわけ ➜ おろかもの。ばかもの。また、人をののしっていう語。
※ 浅ましい(あさましい)➜ 見苦しく情けない。嘆かわしい。
※ 引き負い(ひきおい)➜ 主家の金を奉公人が使い込むこと。また、その金銭。
※ 有り丈(ありたけ)➜ 可能な限り多く。できるだけ。思う存分。
※ 掛先(かけさき)➜ 掛け売り代金を受け取るべき得意先。
※ 欠落(かけおち)➜ 近代法における失踪、律令制における逃亡に比当される近世法の用語。
(「水濃徃方」つづく)
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