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「水濃徃方」の解読 61


(散歩道のタイザンボクの花)

明日ははりはらの講座がある。本日はその準備。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

神田のお里へ、交肴(まぜざかな)持たせての使い、戻りに鎌倉町にかゝれば、人だかり。何事と、ちよっと覗けば、俵のさし持、面白く、これ見ても銭取りはせまいなと、側に立ちたる人に問う。
※ 交肴(まぜざかな)➜ 交魚。祝事の時や進物などに贈るもので、数種類をまぜた鮮魚。
※ 俵のさし持(たわらのさしもち)➜ 俵差し。一定の重さにした俵を差上げる競争。力比べ、力だめしとして日本では古くから行われてきた。

(まなこ)ざし発明(はつめい)、見る者は見てとり、「はて、そちは賢い者じゃが、伊勢下りか。伊勢は何所ぞ」と問われて、「わしは亀山と云う所。おまえ様は何所ぞ。わしもこの様な忙しい内に勤めたい」と云えば、「なんじゃ、亀山とは不思儀。わしも同村じゃが、そちは誰が子じゃ」「わしは直兵衛の子」「そんならそちは長吉か」「アイ」「これはしたり。知らぬ事とて、いつ下った。おれはそちが従弟(いとこ)の仁右衛門じゃ。親仁もおやぢ、(じょう)でもおこしはせられぬの」「今、状もおこしてで御座れど、届ける
隙が無いさかい」と。
※ 眼ざし(まなこざし)➜ 目つき。
※ 発明(はつめい)➜ 賢いこと。また、そのさま。利発。
※ 状(じょう)➜ 手紙。書状。
※ おこす(遣す)➜ よこす。届けてくる。

咄しにほれて連れ立つ内、「南無三宝、肴籠、確か今の俵の上に」と立ち帰れど、「もう無いは、悲しや、これはどうしよう」と啼き出せば、「はて、何とするものぞ。旦那様へはおれがよい様に詫びしてやろ」と親は泣き寄り、河井新石町の宿へ伴い行く。外の籠、弁えて、くれぐれの云い訳、親方大きに立腹せられ、このでっち、年不相応のませ者、末々は此方人(こちと)が手に余る生れなれば、仁右衛門殿、世話してやられと。すぐさま従弟に引渡せば、長吉
は幸いと、仁右衛門方へ来りて、木綿糸、茶袋のせり売り。
※ 南無三宝(なむさんぽう)➜ 驚いたときや失敗したときに発することば。「大変だ」「しまった」などの意。
※ 親は泣き寄り(しんはなきより)➜「親は泣き寄り他人は食い寄り」不幸に際して、身内の者は心から悲しんで集まってくれるが、他人は食物にありつくために寄り集まる。
※ ませ者(ませもの)➜ 年齢の割におとなびている者。早熟。
※ 此方人(こちと)➜ 一人称の人代名詞。わたしたち。わたし。

一日に二百文より内に、儲けたる事なく、私はもう奉公嫌じゃぞえと、一心不乱に挊(かせ)ぎ出して、二十(はたち)の年、舂米(つきごめ)に取つき、朝は一番鳥とともに起きて、暮てから四ツまでに、一臼の米、かゝさずあげて、月々の店賃(たなちん)壱分、晦日(みそか)々々に、大屋(おおや)へ急度持参し、ついでに明日はお目出たくござりますと、明日の礼さえ隙(ひま)を惜しみて挊(かせ)ほど。
※ 舂米(つきごめ)➜ ついて精白した米。精白米。
※ 四ツ(よつ)➜ 午後十時。
(「水濃徃方」つづく)
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