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「水濃徃方」の解読 64



(庭のアマリリス)

庭の隅、キンモクセイの根元に、青い葉っぱが大きく目立った。昔からあったのだろうが、廻りをきれいにしたら、目に着いた。何か花が咲くだろうとコロナの始まった一年前から注意して見ていたところ、ここに至って、太い花茎を延ばしてきた。こんな所に植えたことすら忘れていて、昔鉢に植わっていて、毎年花を咲かせたクンシランかと、楽しみにしていたところ、咲いたのはアマリリスであった。真っ赤な畑のアマリリスに比べて、花は余り目だたない色あいで、今までも咲いたことはあったのだろうが、気付かずに過ぎていたのだろうと思った。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

在所の親仁(おやじ)の売られたる田地は勿論、一族一家の貧家まで、相応に合力(ごうりき)し、直兵衛殿は一躰が正直な人ゆえ、その恵みであの様な金息子
持たれたと、登(のぼ)る度ごと、隣郷(りんごう)まで、誰誉(ほ)めぬ者なく、人の鏡とはなりぬ。内義も舂米(つきごめ)屋、恥ずかしくて、心ならず御機嫌も伺い兼ねし御屋敷も、御金の御用聞く様に成って、御由緒ある町人衆と呼ばれ始め、笑いし朋輩衆、今ぞ内義の辛抱(しんぼう)を感じぬ。
※ 合力(ごうりき)➜ 金銭や物品を与えて助けること。
※ 隣郷(りんごう)➜ となりむら。隣村。

出世のすなれや、花房町の角屋敷引廻し、家蔵(いえくら)軒を並べ、手代とも豊かに、惣格子の見入れよく、繁昌何が不足なかりしに、如何なる事にや、一つの憂いは子なき事を悲しびて、何とぞこの家を譲るべき男子一人、と願いける折節(おりふし)、門さきを、忍冬(すいかづら)買わっしゃれぬかと、大きなる籠、背負いて、身には裂き織り荒気なき、足手髭生(お)いて、鬼か人かと怪しむばかりの山家の翁(おきな)。門さきへ来るを、長右衛門呼び入れ、この忍冬、陰乾し(かげぼし)にして、茶に混ぜて呑めば、湿気(しっけ)(わずら)わぬと云う程に、買うて置くべし。
※ 花房町(はなぶさちょう)➜ 江戸神田花房町。
※ 見入れ(みいれ)➜ 外見。。
※ 忍冬(すいかづら)➜ 常緑の木本性ツル植物で、道端や林縁など、やや湿り気のある場所に生育する。「吸い葛」の意で、細長い花筒の奥に蜜があり、古くは子どもが好んで花を口にくわえて甘い蜜を吸うことが行なわれたことにちなむ。
※ 裂き織り(さきおり)➜ 傷んだり不要になったりした布を細く裂いたものを緯糸(よこいと)として、麻糸などを経糸(たていと)として織り上げた織物や、それを用いて作った衣類のこと。
※ 荒気ない(あらけない)➜ ひどく荒々しい。 粗暴である。
※ 湿気(しっけ)➜ 梅毒(ばいどく)。湿毒。

有り切り買えば、直段(ねだん)詰め給えと。三十八文に直段を極めて、銭払いながら、こなた何処(どこ)から御座ったと問えば、わしは富士の根方で御座る。江戸と云う所ありとは聞けど、今日が見始めと云うにぞ。親仁手を打ち、手代どもに向いて、聞きやれ、三十八文の銭取ろうとて、三十里の道、愚かに銭を使いやるな。しかし、其許(そこもと)はこればかりの売り物では、泊り銭あるまいと云えば、これにも御座ると紙袋、渋紙のきれにくるみたる、熊膽(くまのい)百朮(びゃくじゅつ)、富士黄耆(おうぎ)、何くれと少しずつの木薬並べて見せける。
※ 有り切り(ありきり)➜ あるかぎり。あるだけ。
※ 百朮(ひゃくじゅつ)➜ キク科 オケラの若い根の外皮を取り除き乾燥したもの。健胃、利尿、解熱、鎮痛などの作用がある。
※ 黄耆(おうぎ)➜ マメ科の多年草キバナオウギ、またはその近縁の植物の根。漢方で止汗・利尿・強壮薬などに用いる。
※ 木薬(きぐすり)➜ 生薬。天然に存在する薬効を持つ産物を、そこから有効成分を精製することなく、体質の改善を目的として用いる薬の総称。
(「水濃徃方」つづく)
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