goo

「水濃徃方」の解読 60


(散歩道のグラジオラス その2)

朝、ワクチンの予約をした。二週間後で、主治医は一杯だったので、別の開業医に予約を取った。午後、女房と散歩。

********************

「水濃徃方」の解読を続ける。 

 水能行邊巻之五
  亀山(きさん)丈人之篇  付たり、三言翁

隣村の与茂三(よもさ)の息子が、中登りわせたが、また、お江戸の水は薬じゃぞ。男は能くなる。物は暮(く)れきゃる。着る物も乗下(のりした)につけて来て、毎日/\着替えて、今日も松坂の伯父貴の所へ、赤い襦袢着て行きやった。こちの内へも、土産が来た。ても、見事な江戸絵、何と云う役者衆じゃか、大方(おおかた)団十郎殿とやらでもあろぞいの。長吉よ、これ我れにやるぞ、大事にせい。頓(やが)て、祖父(ぢ)さまの年季。お寺様、申し入る時のはれ尓、屏風に張ろぞと、親仁(おやじ)の、ほと/\けなりがりやるを見るにつけて、何とぞ、江戸へ下りて、一挊(ひとかせぎ)仕出して、己れやれ、親仁の売られた田地、片端から請け返して、誉められいで置こうかと、長吉が力瘤(ちからこぶ)の念力届いて、どうやらこうやら、連れ立って下る様になりぬ。
※ 中登り(なかのぼり)➜ 上方から江戸に奉公に出ている者が、途中で一時上方へ帰ること。
※ わす(座す)➜《「おわす」の音変化》「ある」「来る」などの意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
※ 乗下(のりした)➜ 荷をつけて運ぶ馬の鞍の下部。また、そこに付けた荷物。
※ ても ➜ (「さても」の変化したもの)あきれたり、いまさらのように感じ入ったりして発することば。
※ はれ ➜ 表立って晴れやかなこと。おおやけのこと。また、そのような場所。
※ けなりがる ➜ うらやましがる。

親仁(おやじ)、桑名の渡し場まで送って、互いに涙の暇乞(いとまごい)。何時(いつ)を中登りと、今から問うも、果てし無き恩愛の別れ路(みち)に、七里の渡し恙(つつが)なく、名にのみ聞きし大井河、富士の山程、金儲けて、古郷(こきょう)へ帰る錦の袖、荒井、箱根の御関所、滞(とどこおり)なく越て、まづ親方に落着き、その夜は旦那衆、傍輩の若い者のなぐさみもの。
※ 恩愛(おんあい)➜ 恵み。慈しみ。夫婦・肉親間の愛情。

明ければ、模様の染浴衣(そめゆかた)着て、きせる(煙管)灰吹きの掃除。何時か早う算盤(そろばん)とやら弾いて、商いがして見たいと思えど、今日は二軒茶屋、深川へ寄合のお供、今日は中村が桟敷(さじき)に、一日茶弁当の火をおこし、宿へ帰れば御新造の腰打ったり、旦那の肩ひねったり、若子(わこ)の守り、御隠居のくすり取り、と奥でばかり仕(つか)われて、月日の立つ程、世間と違うて、自堕落なる家風、終始居てから、面白からずと思ふ折節。
※ 染浴衣(そめゆかた)➜ 染めた浴衣。
※ 灰吹き(はいふき)➜ タバコ盆についている、タバコの吸い殻を吹き落とすための竹筒。
※ 若子(わこ)➜ 坊ちゃま。
※ 自堕落(じだらく)➜ 雑然としていること。また、そのさま。 
(「水濃徃方」つづく) 

読書:「三谷幸喜創作を語る」 三谷幸喜・松野大介 著
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )