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「水濃徃方」の解読 62



(牧之原市史料館前の田沼意次像)

午後、はりはら塾「古文書解読を楽しむ」講座に出掛ける。今日は9名全員出席となる。コロナワクチンを打ったとか、予約したとか、まだとか。その話が行き交う。

講座後、お借りした資料を返却に、牧之原市史料館に行く。話題の田沼意次像に逢ってきた。時間的に逆光でうまい写真にならなかったが、バックが少し無粋。何か立木でも植えた方が良いのかもしれない。像が若いと思ったら、70歳まで生きた意次の40歳ころの像だという。凛々しさが印象の、銅像であった。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

世間の唱えよく、内證に苦が無うて、舅(しゅうと)はなし、男付(おとこづき)の太うなは、気だての頼もしいを取柄(とりえ)にして、御座れ/\と。さる歴々の取持にて、生れは崎西の人で、さる御大名方へ、七っの年から姨御(おばご)部屋子に出て、生れつき、たおやかで、縫針きいて、愛苦(あいくろ)しうて、しかも少し手箱金持ちたる女中(じょちゅう)、親元も商人なれば、武家よりは町方がよいと、縁はいなもの、つい談合出来て、媒(なこうど)も深切(親切)づく
※ 内證(ないしょう)➜ 内々の経済状態。家の暮らし向き。
※ 男付(おとこづき)➜ 男としての気性や様子。おとこぶり。
※ 崎西(きさい)➜ 騎西町(現埼玉県加須市)。『新編武蔵風土記稿』によれば、騎西荘が確認できるが、この地名には、八潮市域の大曽根村を含めて、埼玉県下で四十四ヶ村が属した。(現在のさいたま市岩槻区・白岡市・蓮田市・越谷市・八潮市の一部に相当する。
※ 部屋子(へやこ)➜ 江戸時代、御殿女中に召し使われた小間使の少女。
※ 手箱(てばこ)➜ 手まわりの小道具などを入れておく小型の箱。「手箱金」はへそくりのようなものか。
※ 女中(じょちゅう)➜ 近世、宮仕えをしている女性。または、武家の殿中に奉公している女性。御殿女中。奥女中。
※ づく ➜ 名詞またはそれに準ずる語に付いて動詞をつくり、そのような状態になる、そういう様子が強くなるという意を表す。

取り繕いのない証拠は、三と約束の拵(こしら)え。縁付の事、奥様へ聞えて、色々の拝領物、朋輩衆のはなむけ(餞)、箪笥(たんす)、長持(ながもち)に余りて、十七荷の婚礼道具。当分引取る所無ければ、すぐさま御殿へ預け、媒(なこうど)も、この位なりや、少々年は老けても、こちの娵(よめ)にしたらよいにと、跡での悔(くや)みもまゝよ。それぞれの果報づく長吉殿、あやかりものと誉(ほ)めそやせど、長吉は、すきと浮かぬ皃(かお)。このよな女房持てば、(いこ)、わしは思い入れが違い、反りが合いますまい、と案じたとは違うて、内義(ないぎ)気立てのおとなしさ。
※ 荷(か)➜ 助数詞。数を表す漢語に付いて、一人が肩に担える物の量を単位として数えるのに用いる。
※ はなむけ(餞)➜ 旅立ちや門出を祝って、別れて行く人に金品などを贈ること。また、その贈り物。餞別。
※ 果報(かほう)➜ よい運を授かって幸福なこと。また、そのさま。
※ づく ➜ 名詞またはそれに準ずる語に付いて動詞をつくり、そのような状態になる、そういう様子が強くなるという意を表す。
※ 厳う(いこう)➜ はなはだしく。ひどく。非常に。
※ 思い入れ(おもいいれ)➜ 思わく。見込み。予想。
※ 反りが合う(そりがあう)➜(刀身と鞘との関係から)人の性向や世の風潮に合う。またそれとの相性が良いことをいう。
※ 内義(ないぎ)➜ 内儀。他人の妻を敬っていう語。多く、町家の妻にいう。
※ 気立て(きだて)➜ 他人に対する態度などに現れる、 その人の心の持ち方。性質。気質。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「魂手形 三島屋変調百物語七之続」 宮部みゆき 著
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