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「女流阿房列車」を読む

(酒井順子著「女流阿房列車」)

用もないのに汽車に乗る。汽車が好きだから汽車へ乗る。内田百氏が阿房列車の旅を始めて、その紀行文を文学にまで高めたのは、戦後の昭和26年のことである。戦前には思いも浮かばなかった、汽車に乗ることを楽しむ旅の始まりである。その後、鉄道の楽しみ方は色々と分化して、亜種が幾つも出来ている。電車、路線、鉄道写真、鉄道模型、鉄道施設、時刻表、車窓、駅、廃線など、それぞれ興味を持つところが違う。彼らは鉄道オタク、あるいは鉄人と呼ばれて認知されている。

鉄人には色々な変り種もあって、それを語るのも面白いが、ここでは、色々なテーマや条件を設けてひたすら汽車に乗り、その記録を発表するライターの話である。内田百氏を先頭に、色々な文学者が汽車の旅を書いているが、忘れてはならないのが宮脇俊三氏である。「最長片道切符の旅」「時刻表2万キロ」など、鉄道の旅に関わるたくさん著書は、鉄道オタクをメジャーな位置まで引き上げた。前述の二著をバイブルとして、多くの人たちが鉄道の旅に出かけた。

かくいう自分も汽車好きを自認している。鹿児島へ度々の出張に、飛行機はめったに使うことはなかった。かつてはブルートレイン、新幹線にリレーつばめ、さらに現在は鹿児島まで新幹線で行ける。それぞれ目的のある出張だから鉄道オタクとはいえないが、鉄道好きは否定しない。

今日読み終えた本は、酒井順子著「女流阿房列車」である。鉄道オタクや鉄道好きは男性専科と思っていたが、立派な女流がいた。但し、男性の鉄人とは楽しみの壺が違うようである。鉄道の旅は時刻表を駆使して誰も考えなかった旅程を組み上げるのが、楽しみの大きな部分である。けれども、鉄女(サッチャー元英首相ではない)は計画作りは他人任せで、与えられた難行苦行をひたすらにこなしていく。いささかマゾ的な楽しみ方である。

ところが、読み進んで行くと、せっかくの車窓の絶景ポイントを、何度も、激睡、熟睡、気絶状態と、寝てしまい見逃している。つまりは、彼女にとっては列車はゆりかごであって、何を隠そう、彼女の鉄道好きは電車に乗って寝ることが好きという事なのかもしれない。そういう自分も新幹線の車内で数時間読書が出来ると楽しみにしながら、半分以上を寝て過ごしてしまうから、その気持はよく理解が出来る。

鉄女に与えられたミッションは「東京地下鉄一日で完乗」「24時間耐久鈍行列車の旅」「東海道53乗り継ぎの旅」「東京-博多こだま号の旅」「四国旧国名駅17(改)札所の旅」といった、物々しいミッションが並んでいる。それぞれどんな旅なのか想像がつくだろうか。
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