ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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中国経済は長期低迷に陥った

2015-11-24 08:56:56 | 国際関係
 本ブログでは、中国経済が深刻な危機に陥っていることを何度か書いてきたが、拓殖大学総長で開発経済学者の渡辺利夫氏は、具体的な指標を用い、日本・韓国との比較を示して、中国経済が長期低迷局面に入ったと主張している。
 産経新聞10月27日の記事で、渡辺氏は、投資率、限界資本係数、債務残高の対GDP比の指標を以て、中国経済の深刻さを示している。
 投資率とは、固定資産投資の対国内総生産(GDP)比である。渡辺氏によると、中国は2009年には44・1%となり、以降、14年までの6年間44~45%の幅の中にある。「いかにも異常な高水準だ。実際、先発国の中で最大の投資率を達成したのは『いざなぎ景気』の日本(1969年)、『漢江の奇跡』の韓国(91年)でありその値は39%であった」と渡辺氏は言う。今の中国は、「いざなぎ景気」の時期の日本、「漢江の奇跡」の時期の韓国と、比べることのできない不況に陥っている。それなのに、異常に高い投資率を続けている。
 限界資本係数とは、1単位の成長に要する投資単位である。係数が高いほど投資効率は低い。渡辺氏によると、中国は2000年代前半に4を超え、2011~14年には実に6・12に達した。「高度成長期の日本(1966~70年)、韓国(1986~90年)の値はそれぞれ2・90、3・12であった。中国は日本の2倍以上、韓国の2倍近くの固定資本を投入しなければ、同率の経済成長率を実現できないのである」と渡辺氏は言う。この数字は、絶対に不可能である。
 渡辺氏は、中国の非金融企業の債務残高が厖大であることを指摘する。「日本のバブル最盛期1989年の非金融企業の債務残高の対GDP比は132%であったが、中国の2014年の同値は157%である。バブル期の日本の企業が本業を離れて土地や株式などへの財テクに走って自滅したことは広く知られている」と渡辺氏は言う。
 渡辺氏は結論として「中国は日本のバブル崩壊とその後の平成不況に類する長期の経済低迷局面に入ったとみていい」と書いている。詳しくは、次に掲載する記事の全文をご参照下さい。

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●産経新聞 平成27年10月27日

http://www.sankei.com/column/news/151027/clm1510270001-n1.html
2015.10.27 05:02更新
【正論】
長期低迷局面にはまり込む中国 拓殖大学総長・渡辺利夫

 中国経済失速への懸念が高まっている。今回は私の中国マクロ経済観察について記したい。中国の成長は固定資産投資(機械設備・インフラ・不動産投資)が牽引(けんいん)し、他方、最終財の家計消費は長期にわたり低迷してきた。この対照的傾向は2008年秋のリーマン・ショック直後に打ち出された4兆元(約75兆円)の緊急景気刺激策を受けて一段と先鋭化した。

《疑わしさが残る経済成長率》
 固定資産投資の対国内総生産(GDP)比が投資率である。この比率は緊急景気刺激策以前は30%台で推移してきたが、09年には44・1%となり、以降、14年までの6年間44~45%の幅の中にある。いかにも異常な高水準だ。実際、先発国の中で最大の投資率を達成したのは「いざなぎ景気」の日本(1969年)、「漢江の奇跡」の韓国(91年)でありその値は39%であった。
 現在の中国は効率性を無視した投資拡大をつづけているかにみえるが、果たせるかな中国の投資効率は改革・開放期において最低のレベルにまで劣化している。
 1単位の成長に要する投資単位が限界資本係数である。係数が高いほど投資効率は低い。2000年代に入るまで4未満にあったこの値は、2000年代前半に4を超え、11~14年には実に6・12に達した。高度成長期の日本(1966~70年)、韓国(1986~90年)の値はそれぞれ2・90、3・12であった。中国は日本の2倍以上、韓国の2倍近くの固定資本を投入しなければ、同率の経済成長率を実現できないのである。
 中国は非効率的な投資を積み上げて、実需を上回る過剰生産能力を築いた。設備過剰率は鉄鋼、セメント、アルミ、板ガラス、造船、自動車において25~30%である。在庫の山を築き稼働率を落とし価格低下を招いてこれがデフレ圧力となる。卸売物価指数は2012年以降低下の一方である。
 「李克強指数」として知られる鉄道貨物輸送量、電力消費量などの伸び率は急低下してマイナスである。今年第3四半期の経済成長率は6・9%だが、これは2000年代に入っての最低率である。この公表成長率さえ現実をどの程度反映しているか疑わしい。

《「新常態」と辻褄合わない方策》
 投資依存型の高成長経済を脱して、消費内需依存型の中成長経済への移行を求める「新常態」を明確に打ち出したのは、今年3月の全人代(全国人民代表大会)であったが、景気減速が明瞭になればそうもいってはいられない。
 中国人民銀行(中央銀行)は昨年11月に2年4カ月ぶりに利下げを実施、今年に入って追加利下げを連続して行い、預金準備率も引き下げた。同時に政府は金融機関に対し、インフラ建設企業や不動産開発企業への融資規制を再び緩和方向へと転じた。新常態とは辻褄(つじつま)の合わない方策である。
 しかし、利下げや融資規制緩和にもかかわらず、企業の資金需要は高まりをみせない。投資過剰感の薄かったリーマン・ショック後の緊急景気刺激策としての利下げは、企業の資金需要を大いに高めた。しかし現在の企業には金融政策に反応する気配は少ない。
 人民銀行は毎年3千余の銀行に対して企業の資金需要を問うアンケートを実施しており、資金需要判断指数(DI)として発表している。「増加」企業数から「減少」企業数を差し引いた数を標準化した値である。このDIが13年に入って以降、今年の第2四半期まで一貫して下降している。

《デフレが恒常化する可能性も》
 過剰投資の裏側には過剰債務がある。非金融企業の債務残高は厖大である。ちなみに日本のバブル最盛期1989年の非金融企業の債務残高の対GDP比は132%であったが、中国の2014年の同値は157%である。バブル期の日本の企業が本業を離れて土地や株式などへの財テクに走って自滅したことは広く知られている。
 緊急刺激対策後の中国企業は、鉄鋼、セメントなどで新規投資をつづけ、さらにそれに倍する企業が不動産開発や株式投資などの財テクに精出している。
 日本では金融引き締めや総量規制が地価や株価の急落を招いて、バブルは沈静化した。企業は設備投資を抑え込んで債務の返済を優先し、1991年以降の金融緩和をもってしても投資の回復は成らず、長期不況にはまり込んだ。
 対GDP比で日本を上回る今日の中国企業が新規借り入れに抑制的であり、資金需要DIの低下がつづいてデフレが恒常化する可能性は高い。デフレによる販売価格の低下は、企業収入を圧縮し、企業債務の実質的負担をその分大きくする。債務をいちはやく返済しようという誘因が強く働き、新規投資は容易には喚起されまい。中国は日本のバブル崩壊とその後の平成不況に類する長期の経済低迷局面に入ったとみていい。
 26日から第18期中央委員会第5回総会(5中総会)が開かれ、「成長モデルの転換」が改めて議論されるもようだが、胡錦濤政権時代以来の難題に答えを見いだすのは容易なことではあるまい。(わたなべ としお)
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関連掲示
・拙稿「中国AIIBの野望と自滅に加わるな3」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/fe4cacac9279409ff71c288ed20b8648
 渡辺氏の中国経済論を紹介。