ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

パリ同時多発テロ事件と国際社会の対応2

2015-11-29 08:45:12 | 国際関係
●なぜフランスが、パリが狙われるのか

 イスラム過激派は執拗にフランスを標的としている。またパリが狙われた。その理由は何か。
 フランスが標的にされるのは、まずフランスがISILに空爆を行う有志連合の一角を占めるからである。それとともに、フランスがイスラム過激派の価値観と相容れない西洋文明の文化的中心の一つであることが挙げられる。
 日本エネルギー経済研究所中東研究センター副センター長の保坂修司氏は、次のように語っている。「パリ同時多発テロは、欧州で起きたために、大きなインパクトを与えたが、劇場やレストランなど、中東や東南アジアでこれまでも狙われてきた場所がターゲットにされている。つまり、音楽や酒を供し、テロリスト側が享楽的で反イスラム的だとみなす場所だ。これらの施設は常に狙われる危険性があった」と。
 テロに襲われた劇場では、ロック・コンサートが行われていた。劇場は、若者が楽しむ現代の大衆文化を象徴する場所である。また、カフェのテラス席も開放的で、自由を謳歌できる場所である。それらは、現世の快楽を否定するイスラム教の理想と正反対であるため、過激派によって攻撃されたと考えられる。
 ISILのテロリストは、単に文化的・思想的に象徴的な場所で大量殺戮を企てただけではない。パリ同時多発テロの容疑者たちは、フランス経済の心臓部であるビジネス街への攻撃も画策していた。そのことが、11月18日仏当局によって明らかにされた。攻撃が計画されていたのは、パリ西郊にあるデファンス地区である。デファンスは、フランスの石油や電力、保険、銀行など、同国を牽引する大手企業が本社を置く経済の中心地である。こうした計画は、イスラム教過激派のテロは、無差別殺戮で人々を恐怖に陥れるだけでなく、国家の経済的中心部を破壊しようとしていることを意味する。このことにより、ISILによるテロは、テロというより戦争というべき水準、テロリストというより都市ゲリラというべき水準に来ていると考えられる。

●テロ事件は各地で頻発している

 パリ同時多発テロ事件は世界的に注目を集めたが、その前からイスラム教過激派によるテロが各地で増加している。事件前1か月ほどの間を見ると、中東・北アフリカ・西アジア等で、ISILまたはその系統の組織によるテロが、次々に起こっていた。
バングラデシュの首都ダッカでは、10月24日、イスラム教シーア派の宗教施設で宗教行事の最中に手りゅう弾が爆発し、1人が死亡、100人以上がけがをした。過激派組織「イスラム国・バングラデシュのカリフ国」が、「不信心者たちの儀式の最中に爆破に成功した」とする犯行声明を出した。
 トルコでは、10月28日、首都アンカラで102人が犠牲となった自爆テロが起こった。容疑者グループは、ISILから直接の指令を受け、資金の提供も受けていたと、トルコ当局は発表した。
レバノンでは、11月12日首都ベイルート南部にあるイスラム教シーア派組織ヒズボラの拠点地域で、自爆テロとみられる2回の爆発があった。少なくとも41人が死亡、200人以上が負傷した。ISILは同日、ネット上に犯行を認める声明を発表した。
 10月31日には、エジプト北東部シナイ半島でロシアの旅客機が墜落し、乗客乗員224人が死亡した。ロシア国外で製造された爆発物の痕跡が発見され、プーチン大統領はこのロシア機爆発をテロによるものと断定した。ISILは11月18日、オンライン機関誌『ダービク』に、ロシア機墜落に使用したとする爆薬を詰めた清涼飲料水の缶やスイッチのついた起爆装置の写真を掲載した。
 パリでの同時多発テロ事件が世界的に注目されたのは、ISILを掃討する主要国の首都で起こったからである。まさにそこにこそ、パリを襲ったテロリストの狙いがあると考えられる。

●イスラム過激派は各国に広がっている

 世界には、ISILを支持・連携している組織が現在、17か国35組織あるとされる。これらは、決して大規模な国際組織ではなく、各地の小規模な組織の緩やかな連合体と見られる。地域的な過激組織がISILを支持するとか連携するなどと表明すると、そのことによって、その地域での格が上がり、勢力を伸ばせる。各地で頻発するテロは、地域的な組織や個人の集団が行っている。だが、そうした行動をする者がISILと称することで、国際的に大きな組織が存在するかのように錯覚しやすい。
 ナイジェリアでは「イスラム国西アフリカ州」、エジプトでは「イスラム国シナイ州」等と、地域的な過激組織が名乗っている。そのうえ、パリ同時多発テロ事件は「イスラム国フランス州」を称する者が犯行を宣言した。これは実際に「イスラム国」が諸国家にまたがって存在しているのではない。単に「イスラム国○○州」と自称する組織が点在しているに過ぎない。
 イスラム過激派には、国境の概念がない。国境は西洋諸国が引いたものだとして認めない。彼らの観念の中では、国境のないイスラム世界が広がっているのだろう。地域組織の過激派には、もともと領土的な野心はない。自国の政権を打倒したいということのみである。それゆえ、独立国家を宣言するのではなく、「イスラム国○○州」と名乗ることに抵抗はない。
 ISILにとっては、各地の地域的な組織が「イスラム国○○州」と称することは、「イスラム国」という国家が世界に広がっているようなイメージを与えられる。大きな宣伝効果を生み、各地に支持者・賛同者を増やすことができる。そうした支持者・賛同者の一部は、シリア・イラクのISIL本拠地にやってきて戦闘員になる。そして訓練を受けたり、実践経験を積んだりした者が、各国に帰り、行動を広げる。そこに「ホームグロウン」のテロリスト志願者が加わり、テロ事件を起こす。こうした関係があると思われる。
 先ほどISILによるテロは、テロというより戦争というべき水準、テロリストというより都市ゲリラというべき水準に来ていると考えられると書いたが、今後、こうした都市ゲリラによる戦争が各地で頻発することが懸念される。

 次回に続く。