ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

トッドの人口学・国際論23

2009-12-19 10:22:28 | 文明
●アメリカから自立して欧露と連携を、と助言

 次に、トッドが今日の日本に対して述べる助言について記したい。
 トッドは、著書「帝国以後」において、アメリカ帝国の弱さを指摘し、アメリカ帝国は2050年前後までに解体すると予想している。「帝国以後」の邦訳出版後、日本人向けに刊行された「『帝国以後』と日本の選択」(2006年、藤原書店)という本がある。本書において、トッドは、アメリカの覇権の下から脱し、自立することを日本人に促している。それはあくまでヨーロッパ人の立場から、他者としての日本に自立を勧めるものである。私自身は、わが国が独立主権国家として憲法を改正し、国防を充実して、主体的な外交を行なうことを持論としている。それゆえ、トッドの助言は、当然のことを外国人の立場で言ってくれたものと思っている。
 最初に現代日本に対するトッドの理解を記しておく。トッドは「日本の選択」に収められた対談で次のように述べている。「第2次大戦の犯罪は日本の犯罪がよく語られていますけれども、その何倍ものものがドイツにはあった。ところが日本の場合はパール・ハーバー、これははるかに自分の力を凌駕する大国に向かってカミカゼをやったわけです。これの評価も、いろいろな角度から考えなければならないと私は思っています」と。この見方は、単なる日本悪玉論ではない。
 また戦後日本については、同じく「日本の選択」で概ね次のように語っている。「第2次大戦の敗者であり、アメリカによって負かされ、そしてアメリカによって改造された二つの国、そして経済大国になったのはドイツと日本です」「大戦で負けた二大大国ドイツと日本は、アメリカ・システムの二本の柱でした。ドイツも日本も主要な輸出工業国です。この二国を支配している限り、合衆国は本当の意味で世界の主人でした」と。トッドは、日本がアメリカに対し、従属的な立場にあることを認識している。ただし、トッドは、わが国がアメリカによってどのように改造されたのか、アメリカの占領政策、特に東京裁判と憲法の押し付けについては、理解が深くないようである。
 トッドは、「帝国以後」で、日本に対し、アメリカから自立し、ヨーロッパと連携することを提案する。日欧連携論である。トッドは、ヨーロッパとロシアによるユーラシア連合を唱えており、その連合は進みつつある。それゆえ、トッドの提案は、欧露の連携に日本が参入することを求めるものとなる。

 トッドの助言は、私の理解するところ、三つの認識に基づいている。
 第一に、ヨーロッパはイラク戦争によってアメリカから離脱しつつあり、また既に経済的技術的にアメリカを乗り越えているという認識である。
 「日本の選択」に収められた平成16年(2004年)来日時の講演で、トッドは次のように言う。「ユーラシア大国の東と西とでは、アメリカ・システムの解体を受け入れるスピードが違う」「ヨーロッパのほうが早く受け入れている。ドイツが統一し、フランスと組み、そしてロシアとも組んで、独仏露の枢軸ができつつあります。ですからアメリカなしでやっていけます」と。
 第二に、日欧は同質的という認識である。
 トッドによれば、日本は、ドイツ・スェーデン等と同じく家族構造が直系家族であり、近代化がされ、脱宗教化している。トッドは、先ほどの講演でトッドは、日本とヨーロッパの協調を強調する。「日本はもともと農村社会で、非常に急速に産業化し、安定した社会をつくっている」。だから日本は「ヨーロッパ的、ヨーロッパに近い社会」であり、「ヨーロッパと同質的で、協調してやっていけるベースを持った社会だということを申し上げたいのです」と述べている。
 第三に、多極化する世界で日本の役割は重要という認識である。
 トッドは、「日本の選択」に収められた榊原英資氏、小倉和夫氏との討論で、次のように発言している。「世界の安定と成長のために、日本がいま一番重要なキーファクターになりつつある」。アメリカの「一極システムになることによって、世界は不安定要因が増えた」「多極的な、あるいはマルチラテラルな協調関係をつくっていく必要がある。そのためには、日本の役割が重要だ」と。
 トッドは、以上の三つの認識に基づいて、欧露の連携に日本も加わるよう求める。独仏露の枢軸に参加して、共にアメリカに対抗し、多極化を進め、多極体制の世界政治を主導しようという呼びかけである。
 「帝国以後」でトッドは、将来の国際政治の中心は、アメリカではなく国際連合になると想定していた。そして、日本が安全保障理事会の常任理事国になることを支持し、ドイツとフランスは常任理事国の地位を共有することを提案している。

 次回に続く。


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