ほそかわ・かずひこの BLOG

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トッドの人口学・国際論26

2010-01-10 08:45:43 | 文明
●中国の将来予測

 今後の中国を中長期的にどう見るか。トッドは、近代のシナについて、移行期の危機のパターンが中国でも見られるとして、「文明の接近」に次のように書く。「男性識字化50%のハードル越えは、1942年頃に起こり、共産主義は1949年に勝利する。1963年頃に起こる女性の過半数の識字化は、1970年頃に始まる出生率の低下に道を開くが、それだけでなく、1966年から1977年の、文化大革命と錯乱的な毛沢東主義への道もまた開くのである」と。
 トッドの理論を中国に当てはめれば、出生率の低下が進むに従って、移行期の危機は収まり、暴力は鎮静化し、やがて中国は民主化すると予想されよう。旧ソ連では、移行期危機の後に民主化運動が起こり、共産主義体制が崩壊して、一定の民主化がされた。
 中国は、文化大革命の終焉以後、移行期の危機は終了したと見ることが出来るだろうか。確かに紅衛兵による過激な行動は、なくなった。小平は、経済の建て直しを進め、中国は経済発展の道に進んだ。経済成長の過程で、中国に欧米の思想が入り、東欧の民主化運動も影響を与えた。平成元年(1989)天安門広場に民主化を求める学生・青年が集まったが、彼らの運動は、共産党の軍によって鎮圧された。以後、中国では、民主化運動に厳しい弾圧が続いている。
 共産党政府は、昭和54年(1979)に一人っ子政策を開始した。人口の増加に法規制を加えて、出産または受胎に計画原理を導入したものである。女性の識字化に伴う意識の変化がもたらす出生率の低下とは異なり、政府が出生率を低下させたのである。
 また、中国は、平成元年(1989)から猛烈な軍拡を続けている。また共産党政府は、平成5年(1993)以後、江沢民のもと反日愛国主義の教育を行なった。国民は、統制の中で、日本への憎悪と敵愾心をたきつけられている。特に若い世代がそうである。それが、過激な反日的行動となって現われている。急激な経済成長は、社会的な矛盾を生み、都市と農村、富裕層と貧困層の格差を拡大している。平成17年(2005)には年間約9万件の暴動が起きたと政府が発表した。その後、公式発表がないのは、一層深刻になっているからだろう。とりわけ世界経済危機の影響で失業や賃金不払い等により生活を破壊された国民が多くなっている。増大する国民の不満をそらすために、中国政府がファッショ化し、周辺国へ侵攻を行なう危険性がある。

●文明学的な見方が必要

 こうした中国の動向に、トッドの移行期理論は、単純には当てはまらない。ある国家が近代化する過程には、トッドが西欧諸国の歴史から抽出した一般的傾向は存在する。すなわち、識字率の上昇、脱宗教化、出生率の低下、移行期の危機とその後の安定化である。しかし、個々の国家が近代化する過程では、その国家が置かれた国際環境や、社会の支配構造、政府の政策等が重要な条件として作用する。中国の場合、共産党が統治し、統制主義的な政策を行っている点は、旧ソ連と相似的な点があるが、中国独自の特殊な現象も表われている。
 そうした中国が今後、穏健なリベラル・デモクラシーの国家に変わっていくかどうかという問題は、日本にとっても、アジアにとっても、世界全体にとっても、重大な関心事である。トッドは、人類の人口が均衡化し、世界は政治的に安定すると予想するが、そのような世界が実現するためには、中国の民主化は不可欠の条件である。私は、超長期的には、中国は民主化されると考えている。共産党の独裁体制は終焉し、リベラル・デモクラシーが浸透するだろう。しかし、中長期的には、むしろ中国は巨大な帝国への道を歩んでおり、対外的に膨張政策を行う可能性が高い。世界覇権国家アメリカに対抗し、東アジアでの地域覇権を獲得し、世界覇権を奪い取ろうとしていくだろう。
 こうした中国の将来を予想するには、トッドの理論だけでは限界がある。文明学とそれにもとづく国際関係の理論が必要である。中国の将来だけでなく、現代の世界の構造を把握し、人類の課題を明らかにするためにも、文明学とそれにもとづく国際関係論は、有効な概念と有益な分析を提供してくれるのである。
 
 次回に続く。

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