ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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トッドの人口学・国際論27

2010-01-16 08:48:00 | 文明
●イスラム諸国より中国こそ脅威

 トッドは、近代化が世界的に広まっていくと予想する。ただし、世界的な近代化はイコール西洋化ではなく、各社会は文化の多様性を保持しつつ近代化することが可能だと見る。私は、近代化とは「生活全般の合理化」と理解するが、とりわけ科学技術や資本主義は、最も普及しやすい。民衆の政治参加制度としてのデモクラシーも、自由化の程度の違いはあれ、広がっていくだろう。そういう部分では、トッドの言うように、諸文明は「接近」する。それは世界が安定に向かう要因である。しかし、国家異なった文明の間で、近代化した国家同士が、科学兵器で武装した軍事力でぶつかり合う可能性は、依然存在する。
 かつては、西洋文明の内部で、スペインとイギリス、イギリスとドイツ、またアメリカとドイツ等が争った。これは、覇権国家と対抗国家の争いである。欧州勢が衰えた後は、アメリカとソ連という二大超大国が争った。これは、ハンチントンによれば、西洋文明と東方正教文明の中核国家同士による世界覇権をめぐる争いである。私の見方では、ユダヤ=キリスト教系諸文明の内部における争いであった。ソ連が崩壊すると、超大国アメリカの一極支配という世界史上かつてない地球的な規模の大帝国が出現したかと見えた。ハンチントンは、これは一時的なもので、間もなく、一極・多極体制となったとする。
 ハンチントンは、今日の世界は一つの超大国(アメリカ)と複数の大国からなる一極・多極体制だと把握する。そして、将来的にはアメリカの地位が相対的に低下し、真の多極体制になると予想している。また最終的には「キリスト教文明」対「イスラム・儒教文明連合」の対立の時代を迎えるだろうとも予測する。ハンチントンは、こうした文明間の衝突に備えるため、アメリカとヨーロッパの連合を説く。西洋文明をともにする米欧が協力して、イスラム文明の諸国やシナ文明の中国に対応することを提唱する。
 しかし、イスラム文明には、自他ともに認める中核国家がない。イランは地域大国ではあるが、宗教はシーア派、民族はペルシャ系であり、スンニ派アラブ諸国を結集できない。イスラム文明とシナ文明の連合が形成されるとすれば、主導権を取るのは、中国である。ハンチントンは、中国の潜在的脅威を、1990年代前半から深く認識している。アメリカにとっても日本にとっても、今後、中国への対応が重要になることを明確に述べている。

●中国を中心とした「イスラム・儒教文明連合」が

 ハンチントンの予測は的中し、近代化を進める中国は、増大する軍事力と経済力によって、アメリカの脅威となっている。中国は、東アジアにおける地域大国であるだけでなく、世界覇権国家アメリカに挑戦しようとしている。これは、西洋文明とシナ文明の中核国家同士の争いである。中国は、中華思想をもって、19世紀清王朝末期に失った地域覇権を取り戻そうとしている。「キリスト教文明」対「イスラム・儒教文明連合」の対立が現実になるとすれば、世界覇権をかけた米中対決となるだろう。ハンチントンは、日本は、「アメリカが最終的に唯一の超大国としての支配的な地位を失いそうだと見れば、日本は中国と手を結ぶ可能性が高い」と指摘し、アメリカ指導層に日米の連携強化を促した。
 この点において、トッドの中国理解は浅い。トッドは、イスラム諸国が近代化し、過激な行動が鎮静化することを強調する反面、中国とイスラム諸国の連携を具体的に論じていない。しかし、2001年(平成13年)6月、中国はロシアとともに上海協力機構を作った。9・11の3ヶ月前のことである。上海協力機構には、中央アジアのイスラム諸国、カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタンが参加している。イランやインド等もオブザーバーとして参加しており、イランは正式に加盟する動きがある。中国はまたイランやバングラデッシュの間で、核開発やミサイル製造の技術供与を行っている。こうした中国とイスラム諸国の連携は、「イスラム・儒教文明連合」へと発展しうる可能性を秘めている。また、より広く、ユーラシア大陸に非西洋文明の多文明諸国連合が形成されつつあるとも言える。これらの動きは、多極化とともに多文明化が進みつつあることを示す動向である。

 次回に続く。


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