ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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人権157~ナショナリズムの役割

2015-06-02 10:27:17 | 人権
●人権の発達にナショナリズムは重要な役割

 この人権とナショナリズムに関する項目の冒頭に書いたように、人権の観念は、絶対王政の主権国家が国民国家に変化していく過程で発達した。国民国家は、nation-stateであり、ネイションの国家である。人権の発達は、そのネイションの形成と不可分だった。ナショナリズムは、ここで重要な働きをした。
 近代西欧において、それぞれの地域で、神話や伝承による祖先からの物語を含む伝統文化を基盤として、個性的な性格を持つネイションが形成された。多くの場合、エスニック・グループがネイションに発達する過程を通じて、固有の言語・文化・宗教・生活習慣等を基盤として、各国における自由と権利の思想が発達した。この文化的な土壌の上に発達した国民の権利が、同時に人権という普遍的・生得的な権利として理念化されてきた。それゆえ、人権の理論にはナショナリズムの理論が必要であり、またナショナリズムの理論には人権の理論が必要である。
 人権は、単に個人の権利の獲得・拡大ではなく、集団の権利の獲得・拡大の中で、集団の成員の権利として発達した。集団の例としては、身分や階級に基づく集団が第一に挙げられる。身分や階級に基づく集団的な権力闘争の中で、集団の権利を獲得・維持・拡大し、それに伴って集団の成員の権利を付与・拡大するものとして、人権は発達した。この過程で、国家権力の介入から自由を守ろうとするリベラリズムと民衆の政治参加を求めるデモクラシーが結合し、集団及び個人の権利の維持・拡大を促進した。
 しかし、身分や階級による集団だけでなく、一国の国民が集団的な権利を獲得・拡大することが、国民の権利を拡充し、人権の発達をもたらしたという側面もある。ここに集団の第二のものとしてのネイションがある。そして、ネイションを形成・発展させようとするナショナリズムが、人権の発達に重要な役割を果たしたことを、私は強調したい。
 欧米の多くの国において、ナショナリズムは、国際社会における国家の権利を拡大するととともに、国民の権利を拡大する思想・運動でもあった。国家の権利の拡大とともに国民の権利の拡大を図る運動または国民の権利の拡大とともに国家の権利の拡大を図る動きの中で、個人の権利としての人権という観念が発達した。国権・民権の拡大に裏付けられなくしては、個人の権利としての人権は拡大し得ない。人権という理想の実現は、国家の建設及び国民の形成による国家の権利、国民の権利の伸長によってこそ、一歩一歩現実のものとなってきた。それが実定法に国民個人の権利として制度化され、定着してきたのである。
 先にナショナリズムとリベラリズムの関係について書いたが、リベラリズムは、近代西欧においてデモクラシーと融合し、リベラル・デモクラシーを生んだ。リベラル・デモクラシーと、ネイションの形成・発展を目指すナショナリズムは、相互作用的に発達した。前者を欠くナショナリズムは、統制的な傾向を強く示し、個人の権利に抑圧的となり、後者を欠くリベラル・デモクラシーは、外国の干渉や侵攻に対して、脆弱さを晒す。人権が発達したのは、リベラル・デモクラシーとナショナリズムが相互補完的に発達した国々においてだった。人権の発達は、ナショナリズムの発達と切り離せない。またリベラル・デモクラシーなくして、ナショナリズムの発達はない。またナショナリズムなくして、リベラル・デモクラシーの成長はないのである。
 人権とナショナリズムの相互作用的発達は、20世紀初め以降の世界において、一層密接なものとなっている。本章でも少しふれたが、詳しくは、第4部に書く。

 次回に続く。

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