ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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尖閣の守りに自衛隊を~志方俊之氏

2012-09-19 08:55:16 | 尖閣
 帝京大学教授・志方俊之氏は、今年4月、民主党・田中直紀防衛大臣のもとで、防衛大臣補佐官に就任した。素人以下の防衛大臣のもとで、よく補佐官の仕事を受けたものだと思うが、6月に田中氏が解任され、森本敏氏が防衛相に就任すると、志方氏はわずか2か月余で補佐官を退職することになった。せっかく国政に参与した優秀な人材が、短期間で職を離れたのは、残念なことである。
 私は、志方氏のほうが森本氏より、防衛大臣にはふさわしいと思っている。森本氏は、政界では安全保障の専門家として評価が高く、石破茂氏でさえ一目置いているようだが、森本氏の政治思想は保守系リベラルであり、歴史認識は自虐史観に近いと私は見ている。案の定、森本氏は今年8月、韓国の李明博大統領が竹島に上陸する暴挙を行うと、これは「内政上の要請だ」と発言した。この一言で、防衛大臣は失格である。森本氏の見識のゆがみは際立っている。志方氏が防衛相であったなら、きちんと国益に基づく見解を示したに違いない。
 さて、志方氏は、産経新聞9月12日号の正論欄に「自衛隊抜きに語れぬ尖閣の守り」と題する文章を書いた。この文章は、前防衛大臣補佐官の文章としても重みがある。
 志方氏は、次のように言う。「海空軍力の増強を背景にした中国の『尖閣盗り』は、日米同盟の一瞬の隙を突いて行われるであろう。その時が来るまでは、人民解放軍の独特の政治戦略である『三戦(法律戦、世論戦、心理戦)』を駆使してくることだろう。
 『法律戦』では、東南アジア諸国などと領有権を争う南シナ海の南沙(スプラトリー)、中沙、西沙(パラセル)の諸島をまとめて、『三沙市』なる行政区を設けたように、『釣魚(尖閣の中国名)市』を設置する手続きを取ることが考えられる。『世論戦』では、今回行われたように、主要都市で暴徒化しないように制御しつつ反日デモを組織し、メディアで全世界に見せる。『心理戦』では、日米安保体制を弱体化させるためなら、ありとあらゆることをしてくるであろう。『戦わずして勝つ』という古くから伝わる孫子の兵法である」と。
 補足すると、米国国務省の見方では、法律戦は「国際法及び国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する予想される反発に対処すること」、世論戦は「中国の軍事行動に対する大衆及び国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反すると見られる政策を追求することのないよう、国内及び国際世論に影響を及ぼすこと」、心理戦は「敵の軍人及びそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させること」である。
 この中国の法律・世論・心理の三戦をよく分析し、これに対抗することが、わが国の防衛において非常に重要である。国防は、軍事力の強化だけでなし得るものではなく、政治・外交・教育等、総合的な取り組みがされてこそ、最後の手段としての軍事力の行使が生きるのである。
 志方氏は、尖閣諸島の防衛は自衛隊抜きでは為し得ないと見ている。海上保安庁法、外国船舶航行法が改正されたことは大いに評価できるが、「海保による警察行動では不十分になった場合、海自の海上警備行動へ途切れずに移行できるよう、現場だけでなく首相官邸の情報共有と指揮統制能力をかねてから鍛えておくことも欠かせない」と志方氏は主張する。そして、自衛隊については、直ちに取り組むべきことを3点挙げる

①「自衛隊の態勢も、南西諸島各島に小規模な沿岸監視チームを常駐させて強化する。ある離島が外敵に占領されたら間髪を入れず逆上陸作戦ができるよう、西方普通科連隊を本格的に海兵隊化し、水陸両用の装甲車両を導入する」
②「海自では、陸自の水陸両用装甲車両を搭載して発出できる新型ヘリ搭載護衛艦を建造し、配備すること、空自では、南西航空団の2個飛行隊化を繰り上げ実施すること、そしてF35戦闘機導入のペースを加速することである」
③「統合レベルでは、南西諸島防衛の統合任務部隊を常設化し、同部隊の米軍との警戒監視や偵察活動における日米共同訓練を恒常化することが喫緊の課題である」

 これら3点に関して、私見を述べると、まず陸上自衛隊の一部を海兵隊化し、水陸両用の装甲車両を導入することは、重要なポイントだと思う。尖閣諸島などの離島を守るには、陸自が上陸して防衛にあたらねばならないが、上陸には海自の協力が必要である。しかし、緊急出動は、陸海ともに行動できる能力を持った部隊が行くのが早い。その部隊には水陸両用車が必須である。また陸海空の統合部隊を作るのもよいと思う。部隊南西諸島のどこかの島に基地を置き、統合部隊を配備して、ミサイルや戦闘機で即時対応できるようにする。これによって、中国に対する抑止力は格段と高まるだろう。なお、これらの方策は志方氏の独創ではなく、例えばこれらを含む国土防衛策を、田母神敏雄氏は著書『田母神国軍』(産経新聞出版)で発表している。
 ただし、装備の充実には、時間もかかるし費用もいる。今すぐできる方策を打たないと態勢不十分なところを中国に衝かれる。領域警備の緊急立法が望ましいが、これも今の内閣と国会では時間がかかる。そこで、尖閣諸島に自衛隊員を陸上配備するのがよいと思う。国有地の防衛に自衛隊を充てるのだから、法的問題はないだろう。内閣総理大臣が、自衛隊法76条に基づく防衛出動を発令すれば、さらによい。要は、国家指導者の覚悟次第である。
 以下は、志方氏の投稿記事。

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●産経新聞 平成24年9月12日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120912/plc12091203190007-n1.htm
【正論】
帝京大学教授・志方俊之 自衛隊抜きに語れぬ尖閣の守り
2012.9.12 03:18

 韓国の李明博大統領による島根県竹島への上陸強行で、困っているのは韓国の方ではないか。年末に選ばれる韓国の新政権は、傷つけてしまった我が国との関係修復にかなりの力を注がなければなるまい。日韓関係は経済面だけではない。韓国の防衛は、在韓米軍、正確には在韓国連軍と、それを背後から軍事的に支える日米同盟がなければ成り立たないからだ。これは世界の軍事常識である。
 他方、日本人の多くは、中国人による駐中国日本大使への前代未聞の無礼があっても、国旗が焼かれるテレビ映像を見ても、海上保安庁巡視船に煉瓦(れんが)が投げつけられても、いきり立ちはしない。政府も中国政府の立場に配慮し、通り一遍の抗議をするだけだ。

≪中国の次の一手を警戒せよ≫
 相手が感情的になっても冷静でいるのは、一つの「賢明さ」だと国際社会でほめられるかもしれない。が、今回はさすがに、少し様子が違ってきた。竹島、尖閣諸島への相次ぐ上陸事案を契機に、我が国では、60年以上も続いてきた「謝罪外交」を卒業すべきだという国民感情が高まると同時に、領域防衛能力を強化する必要性が真剣に語られるようになった。
 首相官邸が尖閣不法上陸事件の早期収拾を考えたことは分からないではない。だが、相手に足元を見られたマイナスは大きい。
 中国は、野田佳彦政権の反応を見る「探り」の一つを入れてきたのであって、当然のこと、次の一手を考えているだろう。訓練を受けて漁民に扮(ふん)した何十人もの工作員が荒天時に漂着して人道的取り扱いを要求したり、一度に何十隻もの漁船が何日も組織的な上陸を試みたりするかもしれない。

≪人民解放軍「三戦戦略」駆使≫
 海空軍力の増強を背景にした中国の「尖閣盗り」は、日米同盟の一瞬の隙を突いて行われるであろう。その時が来るまでは、人民解放軍の独特の政治戦略である「三戦(法律戦、世論戦、心理戦)」を駆使してくることだろう。
 「法律戦」では、東南アジア諸国などと領有権を争う南シナ海の南沙(スプラトリー)、中沙、西沙(パラセル)の諸島をまとめて、「三沙市」なる行政区を設けたように、「釣魚(尖閣の中国名)市」を設置する手続きを取ることが考えられる。
 「世論戦」では、今回行われたように、主要都市で暴徒化しないように制御しつつ反日デモを組織し、メディアで全世界に見せる。「心理戦」では、日米安保体制を弱体化させるためなら、ありとあらゆることをしてくるであろう。「戦わずして勝つ」という古くから伝わる孫子の兵法である。
 北方領土と竹島が、それぞれ軍事力を伴ったロシアと韓国の実効支配下にあるのに対し、尖閣諸島は我が国が実効支配していると日本政府は喧伝(けんでん)しているが、その内実となると心許ないものだ。
 海上自衛隊のP3C対潜哨戒機が上空を飛んでいるから、海保巡視船が尖閣周辺の領海を遊弋(ゆうよく)しているから、大丈夫なのではない。日本人が正当な理由で何時でも立ち寄れるようにすることが、不可欠だ。まずは、しけの時に数隻の漁船が避難できる程度の接岸設備を構築しなければならない。
 政府は、「尖閣諸島の平穏かつ安定的な維持管理」のためと称して、国の関係者以外の日本人に対しては上陸許可を与えない。それを目的に国が尖閣を購入するのなら本末転倒である。政府は正当な理由ある日本国民の上陸を認める不退転の姿勢を見せよ。

≪海上警備行動へ途切れずに≫
 直ちに取り組まなければならないことは多い。海保に離島での逮捕権を与える海上保安庁法改正、理由なく領海内を周回・停泊する外国船に、立ち入り検査抜きで処罰を伴う退去命令を出せるようにした外国船舶航行法改正が実現したことは大いに評価できる。法的権限だけでなく、海保の人員と装備を質量両面で劇的に強化し、巡視能力を高める必要がある。
 海保による警察行動では不十分になった場合、海自の海上警備行動へ途切れずに移行できるよう、現場だけでなく首相官邸の情報共有と指揮統制能力をかねてから鍛えておくことも欠かせない。
 自衛隊の態勢も、南西諸島各島に小規模な沿岸監視チームを常駐させて強化する。ある離島が外敵に占領されたら間髪を入れず逆上陸作戦ができるよう、西方普通科連隊を本格的に海兵隊化し、水陸両用の装甲車両を導入する。
 北海道の陸自部隊を九州に輸送する「南西シフト演習(2011年11月)」では、民間の高速フェリー「ナッチャン・ワールド」を利用したものの、問題があり過ぎた。海自では、陸自の水陸両用装甲車両を搭載して発出できる新型ヘリ搭載護衛艦を建造し、配備すること、空自では、南西航空団の2個飛行隊化を繰り上げ実施すること、そしてF35戦闘機導入のペースを加速することである。
 統合レベルでは、南西諸島防衛の統合任務部隊を常設化し、同部隊の米軍との警戒監視や偵察活動における日米共同訓練を恒常化することが喫緊の課題である。(しかた としゆき)
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