ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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尖閣:米中再接近の動きに注意すべし3

2013-05-23 08:45:11 | 尖閣
●親中派ケリー氏への国務長官の交代

 第1期オバマ政権はアジア太平洋重視の外交を続けた。それを主導したのは、クリントン国務長官だった。だが、健康問題を抱えるクリントン氏は国務長官を勇退し、氏の後任に、ジョン・ケリー氏が指名された。国防長官は、レオン・パネッタ氏からチャック・ヘーゲル氏に交替した。
 ケリー氏は平成16年(2004)大統領選では、民主党の候補としてブッシュ子と戦って敗れた。その後、上院外交委員長を務め、第1期オバマ政権ではアフガニスタンやイラク問題で外交の実務で活躍した。ヒラリー・クリントン氏に勝るとも劣らない大物である。だが、私はケリー氏の国務長官就任で、オバマ政権が対中融和路線に戻る可能性があることに懸念を覚えた。ケリー氏は、親中派なのである。平成16年(2004)ブッシュ子前大統領と戦った大統領選で、「中国は一つ」との認識で一貫し、米国が台湾支援の根拠としている台湾関係法には一切言及しなかった。
 案の定、今年1月末の米議会上院公聴会で、ケリー国務長官は、「米国は中国を敵視せず、協力相手とみなすべきだ」と主張し、「アジア太平洋地域での軍事力増強は中国包囲網との印象を与える」と親中的な姿勢を示した。ケリー氏は、上海生まれの母方の祖父が、アヘン貿易で財を成したという家系の過去に反省の意識を持っているらしい。フランクリン・デノア・ルーズベルトも、母方のデラノ家がやはりアヘン貿易で財を成した富豪だった。そういうコンプレックスが、彼の対中政策に影響を与えたと指摘されている。ケリー氏の場合、その点はどうか分からないが、対中融和的であることは、明らかである。
 2期目のオバマ政権は、「財政の崖」と呼ばれる財政危機に直面しており、強制的に国防費を削減することとなった。ヘーゲル国防長官は、この課題を担っている。国防費の削減は、アジア太平洋地域での軍事的対応の縮小につながる。ちょうどそういう時期に、親中派のケリー氏が国務長官になった。一方のへーゲル国防長官は、これまでアジア太平洋地域の安全保障に携わったことがなく、日本や中国に対してどういう認識を持っているか、まだよく分かっていない。
 4月12~15日、ケリー長官は東アジアを歴訪した。韓国・中国に続いてわが国も訪問した。13日には、習近平国家主席と会談した。このとき、習主席は、「先ごろオバマ大統領との電話会談で中米の協力関係を強化し、『新型大国関係』の構築を模索することで合意した。双方が戦略的、長期的な視点から積極的に協力関係を拡大することを希望する」と語ったと報じられる。
 ケリー長官は北京で興奮気味に、「期待したよりもずっと多くの分野で、ほとんどの分野で、いや全ての分野で、不同意よりも同意が実現した。(米中という)世界最強の2カ国、世界最強の2大経済国、2大エネルギー消費国、国連安保理の2大国が、国際社会の隅々にまで目配りするとき、相乗作用が生じるのです」と語った。櫻井氏は「米中協調を国益とする二大国主義(G2)への転換を思わせる発言だった」と書いているが、ケリー氏の発言は、オバマ政権があたかも第1期のスタート時点に戻ったかのようである。
 習主席が唱える「新型大国関係」には、「双方の核心的利益を尊重し合う」という条件がある。中国の「核心的利益」とは、台湾・チベット・新疆ウイグル、そして南シナ海・東シナ海を含む。ケリー国務長官が、クリントン氏もそうだったように、中国との外交に実際に当たる中で、相手の正体に早く気づき、外交姿勢を改めることができるかどうか。それによって、米中関係、さらにアジア太平洋地域の情勢が大きく左右されることになるだろう。

●米中再接近を防ぎ、日米の連携を強化する

 私は、世界の平和と安定にはアジアの平和と安定が不可欠だと考える。そのためには、日米が連携し、アジア太平洋における中国の覇権主義を抑える必要がある。中国は尖閣諸島だけでなく、尖閣の次は沖縄を狙っている。沖縄を略取したら、さらに日本全体を狙ってくる。だから、尖閣を守ることは、沖縄を、そして日本を守ることになる。このことは、米国にとっても重大な意味を持つ。沖縄には米軍基地がある。沖縄から米軍が撤退した後、沖縄が中国領になれば、米国はアジア太平洋における拠点を失う。沖縄が中国の手に落ちると、アジア太平洋における軍事的なバランスが大きく崩れる。クリントン前長官は、この点の理解がかなり進んでいたようだが、ケリー長官はまだしっかりした認識を持っていないように見受けられる。
 東アジア歴訪の最後にわが国を訪れたケリー長官は、4月15日安倍首相、岸田外相と会談した。対北朝鮮政策、尖閣諸島、普天間移設等を議論し、日米の連携の強化が図られた模様だが、その一方、ケリー長官は会談で中国への言及が少なかったと伝えらえる。中国との融和・協調に意識が傾き、中国の術策にはまって、日米間に隙間を生じないようにしれもらいたいところである。
 米国政府では、知日派のカート・キャンベル国務次官補が退任したが、後任には幸い知日派の国家安全保障会議(NSC)のダニエル・ラッセル・アジア上級部長が内定した。近く上院で承認を受ける見通しである。わが国の政治家・外交関係者は、日本をよく知る米国の政治家・外交官等とのつながりを生かし、ケリー国務長官が中国の領土的野心、覇権主義を理解し、同盟国日本の重要性を認識できるよう、働きかけを強めるべきである。そのことが現下で米中再接近の動きを防ぎ、日米の連携を強化する上で要になると思う。
 以上で本稿を終える。価値観外交については、引き続き、稿を改めて書く。

関連掲示
・拙稿「2013年明けの『財政の崖』は回避、だが米国に次の危機が」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12.htm
 目次から項目36へ
・拙稿「米中が競い合う東南アジアと日本の外交」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12p.htm

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