ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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安全保障関連法制の整備を急げ9

2015-06-26 09:23:31 | 時事
●安保法案に関する学識経験者の意見(続き)

 次に、防衛関係の専門家2名の見解を紹介する。国会議員のほとんどは軍事に関する専門的な知識や経験がない。わが国では、国民が民間防衛のための訓練を受ける機会がない。また大学では一般教養科目として軍事に関することが教えられていない。このような現状において安全保障関連法案の国会審議を行うには、元自衛官や防衛大学の教授などの学識経験者を公述人として呼び、参考意見を聴く必要がある。そうした機会が設けられるのかさだかでないが、審議に預かる政治家は、防衛関係の学識経験者の意見に耳を傾けるべきである。

 元防衛大学校長で平和安全保障研究所理事長の西原正氏は、今回の安保法案を次のように評価する。 
 「一国の安全保障はあり得るさまざまな事態を想定し、それに対応するための方策を幅広く用意しておくのが原則である。最悪の事態を想定してその対応策の選択肢を多く持っていれば、余裕を持って対応することが可能であり、パニックに陥ることも少ない。この度の法案のほとんどは最悪の場合に、日本はどうするのかを規定したものである。重要な影響を及ぼす事態において米軍や他国軍への後方支援を拡充する改正法案や、武力攻撃を受けて日本の存立が危機に瀕する事態において集団的自衛権を行使する改正法案などである。そういうことが必ず起きるというのではなく、事態を想定して準備をすることを決めておくのが重要だ」と。
 また、次のように述べている。「存立危機事態にあって自衛隊が集団的自衛権を行使するのは、同盟国や友好国とともに国際秩序を回復するための共同行動である。しかもそれはホルムズ海峡機雷封鎖の事態に対するように、国際的共同行動によって共通の国益を守ろうとするのであるから、防御的防衛行為ではあっても戦争行為とはいえない。野党はこうした事態に対して日本の国益は何なのかという現実的議論をすべきである。ホルムズ海峡が閉鎖されても、自衛隊は何もすべきでないというのならば、石油の輸送中断で日本経済がガタガタになっても、国民に堪えるように訴える責任と覚悟が必要である。多少の犠牲は払ってもホルムズ海峡の航行再開を早期に完遂することで、国民の生命と財産を守り、国際社会から感謝される現実的選択肢の方がはるかに日本に有益だと考える」
 次に、自衛隊の任務については、次のように主張している。「今後の自衛隊は有事に任務を遂行することがあるという点で、確かにこれまでより危険度は高くなる。しかし自衛官は、『事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託に応えることを誓います』と服務の宣誓をしている。自衛官はこの任務を遂行することで厳しい訓練への報いと他国軍隊と同じ尊敬を得られることへの満足を抱く筈である。自衛官の防人としての誇りは彼らの精神的支柱となっている。『危険なところに送るな』というのは、自衛官を侮辱しているとさえ言える」と。
http://www.sankei.com/column/news/150520/clm1505200001-n1.html

 元陸将・北部方面総監で帝京大学教授の志方俊之氏は、安保法案を次のように評価する。
 「今回の『国際平和支援法案』と『平和安全法制整備法案』は、冷戦終結後の1990年頃に整備しておくべきものだった」。わが国はカンボジアでのPKO、ペルシャ湾掃海、イラク人道復興支援活動等に、「安全保障関連法が整備されていないにもかかわらず、国際社会が求める諸活動のために現地に自衛隊を送ってきた。そして現地の実情に対して十分ではない法律との難しい隙間を自衛隊が埋めてきた。その意味で、今回の法整備を高く評価するものである」。
 次に、自衛隊の海外活動の拡大については、次のように述べている。「海外における自衛隊の活動範囲が広くなり、武器使用の枠も拡大されるので、現地における自衛隊員のリスクは急激に高くなると心配する向きもある。しかし、必ずしもそうとはかぎらない。法整備がないまま現地の指揮官が武器使用を逡巡して対応が遅れることで、逆にリスクは高くなる。過剰に反応すると心配する論議もあるが、そこは現地指揮官を信頼してもらうしかない。部下を不必要な戦闘に巻き込まずに、任務を達成することが指揮官の務めである。今回の法案では『駆け付け警護』が含まれている。これで現地の指揮官は大きい悩みが一つ消える」
 「これまでの海外活動で、自衛隊に死傷者が出なかったのには『運』もあるだろうが、必ずしもそれだけではない。自衛隊は現地で遭遇する状況よりも厳しい訓練をしている。訓練で汗をかき、実任務で血を流さないようにと努めているのだ。その厳しい訓練ですでに1851柱の殉職者を出している。自衛官だけではない。海上保安官は日本の海を守るため何人も殉職している。PKOでは警察官も殉職した。イラクでは2人の外交官が殉職している。このような若者たちの命によって国民の安全と生活が守られているのだ。自衛官である以上、リスクは当然ある。だからこそ自衛官は『事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託に応える』と入隊時に宣誓しているのである」と。
http://www.sankei.com/column/news/150602/clm1506020001-n1.html

 参考に加えると、元米海軍士官、元国防総省安全保障局日本部長で、ヴァンダービルト大学名誉教授のジェームス・E・アワー氏は、米国人の側から、1960年成立の日米安全保障条約は「日本を危うくする どころか、55年間の日本の安全を実現させた」と評価する。そして、次のように言う。
 「60年以降、時代は変わった。北朝鮮は危険な軍事力を持つ予測不可能な専制体制によって統治され、顕在的な核武装脅威国になろうとしている。中東は、非常に不安定だが戦略的に重要だ。中国の軍事費は、控えめに言っても気がかりな種々の理由で増加しており、中国の東シナ海と南シナ海での挑戦的な行動は、日本の安全保障と航行の自由を脅かし、日本やより広大な地域、世界の経済に深刻な結果をもたらしかねない。それゆえに、日米同盟が今も存在していることに関する論理的根拠はある意味、前にも増して重要になっている」と。
 今回の安保法案については、戦争抑止力を高めるものとして評価している。
 「もし日本が集団的自衛権に関する閣議決定とガイドラインの履行に向けた新たな安全保障法を成立させたならば、北朝鮮が日本海を警戒行動中の米軍艦船に向けてミサイルを発射したり、イランがホルムズ海峡に機雷を敷設したり、また、中国が太平洋の米ミサイル防衛システムにサイバー攻撃を仕掛けたりした場合、日本はこれらの状況のうち一つでも複数でも日本の安全保障をも危うくすると判断した場合は、米国とともに問題に対処できるようになる。新たな安保法で、日本は合法的かつ現実的な行動を取ることを検討できる権利を得る。北朝鮮、イランと中国は、もし日本が米国と連携できないと知れば勢いづく恐れがある。一番重要なのは、西太平洋の技術的に最も高度な防衛力を備えた両国が合法的に対抗措置をとることができ、日本の安全保障が脅かされた際は、日米両政府が共同行動を取る決意であると知れば、これらの国々は、先に挙げたような攻撃を実施しないだろうということだ」。
 そして、安倍首相が日米の連携は抑止力においては「1+1=2以上」だという考えを表したことを受けて、次のように主張している。
 「いつ、どこで日本の安全が脅かされたとしても、日本が法律に従って行動できることを可能にする新たな措置と、日米両国が共に行動し、『1+1=2以上』という潜在的相乗効果を生みだすという決意を相互に確認することが、1960年の安全保障条約を残りの21世紀においてはるかに(現実世界と)関連の深いものにすることになるのだ」と。
http://www.sankei.com/column/news/150519/clm1505190001-n1.html

 以上、憲法学者、国際政治学者及び防衛関係の学識経験者の意見を紹介した。安保法案の審議に預かる政治家は、ここに揚げたような日本人有識者の意見に耳を傾けるべきである。国民もまた自分の国は自分で守るという自覚を以て、安保法制の整備を真剣に考えなければならない。(了)