ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

安全保障関連法制の整備を急げ5

2015-06-17 08:53:20 | 時事
●安保法案は憲法に違反しない

 次に、安保法案が合憲か違憲かという議論が起こっている点について述べる。
6月4日の衆院憲法審査会で自民党が推薦した3人の参考人全員が安保法案を憲法違反と断じたため、野党は政府への批判を強めている。民主党の辻元清美氏は、5日の平和安全法制特別委員会で「政府は法案を一度撤回すべきだ」と要求した。 中谷防相は、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の閣議決定について「従来の憲法9条をめぐる議論との整合性を考慮した。政府による憲法解釈の裁量の範囲内で、違憲ではない」と答弁した。
 6月9日政府は本件について見解を出した。要旨を示すと「集団的自衛権の行使を限定的に容認した武力行使の新3要件は、憲法9条の下でも例外的に自衛のための武力行使が許される場合があるという昭和47年10月に示された政府見解の基本的な論理を維持したものだ。国際法上集団的自衛権の行使として認められる他国を防衛するための武力行使それ自体を認めるものではない。あくまでもわが国の存立を全うし、国民を守るため、やむを得ない措置として一部限定された場合において武力行使を認めるにとどまる」などと述べ、新3要件は「従前の憲法解釈との論理的整合性等が十分に保たれている」としている。
 実は1950代の鳩山首相・岸首相の時代は、集団的自衛権の行使を可能としていた。昭和30年代に岸首相は、「いっさいの集団的自衛権を持たない、憲法上持たないということは言い過ぎ」「他国に基地を貸して、協同して自国を守るというようなことは、当然従来集団的自衛権として解釈されている」などの国会答弁を行なった。第2次岸内閣の防衛庁長官・赤城宗徳は、「憲法第9条によって制限された集団的自衛権」という表現を用いた答弁をした。
 憲法と日米安保条約の関係は、砂川事件に関して法廷で正面から問われた。昭和34年(1959)12月の最高裁判決は、国家の自衛権を確認したうえで、憲法第9条の禁止する戦力には、外国の駐留軍は当たらないとした。この判決で田中耕太郎最高裁長官は、補足説明にて、「今日もはや厳格な意味での自衛の観念は存在せず、自衛はすなわち『他衛』、他衛はすなわち自衛という関係があるのみである。従って、自国の防衛にしろ、他国への防衛協力にしろ、各国はこれについて義務を負担していると認められる」と記した。この最高裁の判断は、集団的自衛権を肯定したものである。
 ところが、その後、昭和47年(1972)以降、特に56年(1981)以降、政府解釈が変更され、内閣法制局の官僚による「集団的自衛権は所有するが、憲法上行使できない」という解釈が定着するようになった。詳しい経緯は、拙稿「集団的自衛権は行使すべし」の第5章「政府解釈は自制的に変化した」をご参照願いたい。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion08n.htm
 このたび政府は、集団的自衛権の行使を限定的なものとし、また「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」「他に適当な手段がない」「必要最小限度」という極めて厳しい要件をつけている。この要件は、自国の存立を全うするために必要な自衛措置を容認した最高裁の砂川事件判決を踏まえている。砂川判決は、わが国は主権国家として、個別的自衛権にとどまらない「固有の自衛権」を持つという判断を示したものである。また、今回の政府見解は、国民の権利が根底から覆される事態に対処する、必要最小限度の武力行使は許容されるとした昭和47年の政府見解とも合致している。
 今回の政府の憲法解釈の変更は、行政府の公権的解釈権による合理的な範囲内の憲法解釈の変更である。内閣が憲法解釈の変更を行い、それに基づいて法案を国会に提出することは、行政府としての合法的な行為である。これに対し、国会は国権の最高機関として法案の審議を行う。最終的に合憲か違憲かの判断は、司法が違憲立法審査を行う。憲法の三権分立が機能している。そこに法治国家としての秩序が保たれている。
私見を述べると、今回の内閣による憲法解釈の変更は、恣意的な変更ではない。集団的自衛権の限定的行使の容認は、現行憲法に違反しない。昭和30年代には、それが政府見解だった。その後の「集団的自衛権は所有するが、憲法上行使できない」という内閣法制局の解釈がおかしかった。それを是正して元に戻すだけのことである。
 憲法は国民のための憲法であって、憲法のための国民ではない。国家の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険のある事態においても、集団的自衛権の限定的な行使さえできないとするような憲法解釈は、大間違いである。そのような憲法解釈は、日本を滅亡に導くものである。憲法守って国滅ぶ、というような愚かな判断をしてはならない。

 次回に続く。