ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

米中の借金主導型経済に頼らず、日本の金融資産を生かせ~田村秀男氏

2015-06-03 08:56:23 | 経済
 田村秀男氏は、各種の経済データをグラフ化し、独自の分析を行うことのできる数少ないジャーナリストである。田村氏の記事には、常にそうしたグラフが付されている。5月3日の記事のグラフはそのうちでは単純なものだが、日米中の名目GDPのドル換算値の推移が描かれていた。2004年から2014年までの10年間のグラフである。
 「ショッキングなのは日本である」と田村氏は書いているが、誠にショッキングである。米国はGDPが10年間で約1.5倍、中国は約5倍に増大しているのに、日本は逆に減少しているのだ。田村氏は、日中を比較して次のように書いている。「ドル建て名目GDPは2010年に中国に抜かれて以来、その差は開く一方で、14年は中国が日本の2.5倍になった。日本は東日本大震災に見舞われた11年に比べ、3分の1、約2兆ドルも縮小した」と。
 原因は何か。「最大の原因は円の対ドル相場水準の変化である。14年末の円相場は120円台、11年末の77円台に比べ55%も安くなった。円安効果でGDPは5割以上も減るわけだが、それで済ますわけにいかない。円で見るGDP(名目)は14年488兆円で11年に比べて3.5%、13年比で1.6%しか増えていない」と田村氏は言う。
 特に田村氏は、消費増税の影響の大きさを指摘する。「14年4月からの消費税率引き上げに伴う物価上昇(年間で約2%、4月~12月の期間で約1.5%)分しか名目値を上乗せしていない。ドル換算値が示すほど悲惨ではないが、膨張する中国、低迷する日本という基調は、アベノミクスをもってしても変わらない。消費税増税が足かせになったのだ」と。
こうした日本経済を成長させるために、米国、中国は頼りになるか。田村氏は、米中とも「借金主導型経済成長」であり、「米国に過度に期待するわけにいかない。だからといって、北京に傾斜してもカネをむしり取られるのが関の山である」と言う。
 ここで田村氏は、多くのエコノミストが見逃している重要な事実を強調する。「日本は世界最大の金貸し国であり、国際金融市場での銀行総債権は3兆ドル(約360兆円)以上、純債権2.5兆ドル(約300兆円)に上る」と。
 財政の実態をつかむには、粗債務から金融資産を控除した純債務で見る必要がある。ところが旧大蔵省、現財務省は、財政を粗債務でしか見ない。債務だけを強調して、国民や政治家に財政危機を煽る。それに基づいて政府が緊縮財政政策をし、デフレになっても、財務官僚は一切責任を取らなかった。税収が落ち込み、財政赤字が増大すると、その原因が財務省の失策にあることを隠したまま、政策を消費増税へと誘導した。多くの政治家がこれに乗せられた。また財務省に同調し、協力するエコノミストが多かった。アベノミクスが功を奏し、デフレを脱却しつつある現在でも、この誤った財政論が改められていない。
 だが、日本は、世界一の金融資産を持つ債権国である。約300兆円の純債権を持つ。これをどう生かすかを考えるのが、エコノミストや政治家の役割である。田村氏は、「米中の借金型経済モデルにカネをまわしたところで、日本の経済成長には寄与しないことは、明らかだ」と言う。そして、次のように提言する。「日本の銀行は海外ではなく、国内で有望プロジェクトを発掘し、国内融資を最優先すべきだ。政府は巨額の余剰資金を動員して先端的な大型産業を創出するプログラムを提示すべきだ」と。そうしないと、「日銀の金融量的緩和と円安に偏重したアベノミクス」は「日本の衰退を国際的に印象づける結果しかもたらさないだろう」と警告している。
 以下は、田村氏の記事の全文。

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●産経新聞 平成27年5月3日

http://www.sankei.com/economy/news/150503/ecn1505030007-n1.html
2015.5.3 18:00更新
【日曜経済講座】
日本再浮上いまだ成らず 米中の借金主導型経済に頼るな 編集委員・田村秀男

 日米首脳は先週の会談で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の早期妥結、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への牽制(けんせい)で一致したが、対米関係強化だけで、増長する中国に日本は対抗できるわけではない。



 まずグラフを見ていただこう。「世界3大経済大国」米中日の名目国内総生産(GDP)のドル換算値の推移である。党中央の指令によって数値が動く中国のGDP統計の信憑(しんぴょう)性に疑問は大きいが、国際的にはそのドル換算値がモノを言うのが現実だ。ショッキングなのは日本である。ドル建て名目GDPは2010年に中国に抜かれて以来、その差は開く一方で、14年は中国が日本の2.5倍になった。日本は東日本大震災に見舞われた11年に比べ、3分の1、約2兆ドルも縮小した。
 最大の原因は円の対ドル相場水準の変化である。14年末の円相場は120円台、11年末の77円台に比べ55%も安くなった。円安効果でGDPは5割以上も減るわけだが、それで済ますわけにいかない。円で見るGDP(名目)は14年488兆円で11年に比べて3.5%、13年比で1.6%しか増えていない。14年4月からの消費税率引き上げに伴う物価上昇(年間で約2%、4月~12月の期間で約1.5%)分しか名目値を上乗せしていない。ドル換算値が示すほど悲惨ではないが、膨張する中国、低迷する日本という基調は、アベノミクスをもってしても変わらない。消費税増税が足かせになったのだ。
 米国との「蜜月関係」には、米国との連携で経済を成長させられるとの期待が背景にある。他方では、「成長著しい中国との関係を強化せよ」「AIIBに参加せよ」との声を、特に経済を重視する経済産業省やビジネス界、さらに与党内部の長老たち、朝日新聞や日経新聞などメディアが挙げている。グローバル経済のもとで、経済超大国との関係がよいのに越したことはないのだが、米国、中国のいずれか、あるいはいずれも頼りになるだろうか。
 米、中の経済モデルには共通点が一つだけある。借金主導型経済成長である。米国のGDPの7割は家計消費が、中国のそれは固定資産投資が5割を占める。米国は金融市場で多種多様な金融商品をそろえて、世界の余剰資金を集め、住宅市場に投入した。住宅相場が上昇し、家計は住宅の値上がり分を担保に借金し、消費に励んできた。2000年から8年間で家計債務は7兆ドル以上も膨らみ、それが原資となって日中など世界からモノを輸入して世界景気を引っ張った。このモデルは2008年9月のリーマンショックで完全に崩壊した。家計は債務を減らすしかないので、消費主導の米国景気は一進一退というありさまだ。
中国の経済モデルは、借金投資型である。中国人民銀行が流入する外貨をもとに人民元資金を発行して国有商業銀行に流し込み、党官僚が支配する国有企業や地方政府が不動産開発に邁進(まいしん)した。中国はリーマン後、1、2年で2ケタ成長に回帰したが、12年あたりから乱開発と不動産バブルのためにほころび始めた。過剰生産、過剰投資のために景気は停滞し、本国に見切りをつけた党官僚を含む中国投資家は国外に資産を逃避させている。資金不足を補うために、中国の金融機関や企業は国際金融市場から借金せざるをえない。昨年1年間でみると、中国は米国をしのぐ世界最大の借金国である。(本欄4月12日付参照)
 さりとて、中国には借金投資以外に経済を成長させるモデルは見当たらない。「多国間銀行」という看板を挙げて世界からカネを集めて、インフラ投資を行うというのが、AIIBである。もちろんインフラ投資の7割以上は中国国内向けである。
 日本は経済面で米国に過度に期待するわけにいかない。だからといって、北京に傾斜してもカネをむしり取られるのが関の山である。
 日本は世界最大の金貸し国であり、国際金融市場での銀行総債権は3兆ドル(約360兆円)以上、純債権2.5兆ドル(約300兆円)に上る。米中の借金型経済モデルにカネをまわしたところで、日本の経済成長には寄与しないことは、明らかだ。
 日本の銀行は海外ではなく、国内で有望プロジェクトを発掘し、国内融資を最優先すべきだ。政府は巨額の余剰資金を動員して先端的な大型産業を創出するプログラムを提示すべきだ。でないと、日銀の金融量的緩和と円安に偏重したアベノミクスは冒頭で述べたように、日本の衰退を国際的に印象づける結果しかもたらさないだろう。
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関連掲示
・財政を純債務で見ること、世界一の債権国の強みを生かすことについては、下記の拙稿をご参照下さい。
 「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13i-2.htm