ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

安倍・シン両首相による日印連携を歓迎する

2013-06-25 08:44:41 | 国際関係
 5月29日、安倍首相は来日したインドのシン首相と会談し、共同声明を発表した。共同声明は「国際法の諸原則に基づく航行の自由への関与」に言及し、東シナ海や南シナ海で権益拡大の野心をあらわにする中国を牽制した。
 安全保障は、海上自衛隊の救難飛行艇US-2の輸出に向けた合同作業部会の設置や、海自とインド海軍の共同訓練の活発化で合意した。経済協力では、日本の原発輸出の前提となる原子力協定の「早期妥結」で一致した。首脳会談では、インド政府が進めるムンバイ-アーメダバード間の高速鉄道計画について、共同調査を行うことでも合意した。
 インドは自由と民主主義、法の支配といった普遍的価値を日本と共有しており、安倍首相が掲げる「価値観外交」で重要な位置を占める。インドは中国と並ぶ2大新興経済国であり、今世紀半ばには、GDPで中国を抜くという予想もある。何より、有数の親日国である。
 シン首相は、第1次安倍内閣のときにも来日し、平成18年12月安倍首相と共同声明を発表した。その時から日本とインドは、戦略的なパートナーとして、新たな歩みを始めた。この来日の際、シン首相は、衆議院で演説をした。だが、その内容を、日本のマスメディアは、新聞・テレビとも報道していなかった。おそらく中国共産党の反発を恐れて、自粛したものだろう。私は、その演説をマイサイトに掲載している。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12d.htm
 シン首相は、この演説で、重要なことを述べた。ネール首相が日本の近代化と復興に学ぼうとしたこと、日本のODA支援と岸信介元首相への感謝、90年代のインド経済危機への支援への謝意、インドは戦後賠償を放棄したこと、東京裁判でのパル判事の見解、民主主義国同志である日印のパートナーシップの構築、インドのソフト産業と日本のハード産業の相乗効果、シーレーン保護を含めた防衛協力、国連における日印の協力、インドへの日本企業の進出の要請、アジア経済共同体の形成等である。日本とインドの関係においてだけではなく、アジアの安定と繁栄にとっても、世界の平和と協調にとっても、歴史的な意義を持った演説だった。
 それから、6年半。インドはこの間、確実に成長を続け、存在感を増している。その一方、中国はパキスタンやスリランカ、ミャンマーなどで港湾開発に協力することを通じて、インド洋での拠点づくりを着々と進めている。中国の覇権主義的な海洋進出は、日印両国にとって共通の懸念であり、安全保障の協力が必要である。
 シン首相の訪日に先立って、中国の李克強首相が就任後初の外遊先としてインドを訪問した。中印の「相互信頼」を強調した。インドは、李首相の訪印前の4月中旬に、カシミール地方の支配地で中国人民解放軍の侵入と駐留を受けたばかりだった。中国軍は突如、実効支配線からインド側に10キロ以上も侵入した。インドは3年前から国境警備を軍から警察に移し、国境を守る意思の低下というスキを中国に与えていた。そして李首相の訪印を前に、中国軍の撤退の見返りに監視所を撤去し、塹壕など防御要塞を破壊することに合意してしまったという。こうした体験をしているインドは、日本が尖閣や沖縄をめぐって中国から理不尽な圧力をかけられていることを理解できるだろう。膨張する中国に対し、日印が防衛協力を行い、米国や他のアジア諸国とも協力して「アジア協調」体制を築くべきである。また日印の経済協力を拡大し、中国の進出に一部追従し、一部反発している東南アジア諸国を、自由主義の側に引き付け、日本―東南アジアーインドを結ぶ自由と協調の経済圏を築くべきである。
 以下は、共同声明と関連する報道記事。

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●外務省のサイト

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000005382.pdf
共同声明 国交樹立60周年を超えた日インド戦略的グローバル・パートナーシップの強化(仮訳)

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000005380.pdf
安倍晋三総理大臣とマンモハン・シン首相による共同声明(骨子)
~国交樹立60周年を超えた日インド戦略的グローバル・パートナーシップの強化~

1. 2012年の国交樹立 60周年に祝意。「戦略的グローバル・パートナーシップ」の一層の定着・強化を決意。両陛下に国賓としてインドを御訪問いただけるよう調整することで一致。閣僚級経済対話,2+2対話,日米印協議をはじめサイバー,テロ対策,経済連携等に関する対話・交流評価。海洋に関する対話の実施歓迎。
2. 海上自衛隊とインド海軍との間の二国間共同訓練の定期的・より頻繁な実施。US-2飛行艇に関する協力の態様を模索する合同作業部会(JWG)設置。
3. 包括的経済連携協定第2回合同委員会開催等歓迎。社会保障協定署名を歓迎しつつ,早期発効に向けた作業を関係政府当局に指示。
4. シン首相は, ODAの継続に謝意。円借款案件「ムンバイ地下鉄」(710億)の交換公文署名歓迎,「インド工科大ハイデラバード校」(177億)等の供与意図表明。
5. 貨物専用鉄道建設計画(DFC)の進展,デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)及び個別事業の進展,チェンナイ・バンガロール地域開発の包括的な統合マスタープラン策定作業の進展を歓迎。
6. 高速鉄道のムンバイ・アーメダバード路線に関する共同調査の実施を決定。
7. 日インド原子力協定の早期妥結に向け交渉を加速。
8. JENESYS2.0によるインド人青少年日本招待。観光の協力強化を確認。インド工科大学ハイデラバード校,インド情報技術大学ジャバルプル校の協力進展,ナーランダ大学に関する日本の平和研究等の貢献の意図,製造業経営幹部育成(VLFM)計画を評価。
9. 国際法に基づく海洋における航行の自由等を再確認。海上保安庁と沿岸警備隊との間の連携訓練の実施歓迎。
10. 東アジア首脳会議(EAS)に関し,ASEAN海洋フォーラム拡大会合開催等歓迎。
11.核兵器の全面的な廃絶に向けた両国のコミットメントを再確認。安倍総理は,包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効の重要性強調。シン首相は,一方的かつ自主的な核実験モラトリアムに対するインドのコミットメントを改めて表明。両首脳は,兵器用核分裂性物質の生産禁止条約(FMCT)の交渉即時開始及び早期締結支持。両首脳は,輸出管理レジームへのインド参加の素地を作るために引き続き作業していくことで一致。
12. アフガニスタン,北朝鮮,テロ対策,気候変動,安保理改革等での協力確認。
13.シン首相による年次首脳会談のための訪印招待を安倍総理受諾。

●産経新聞 平成25年5月31日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130531/asi13053122570004-n1.htm
インド各紙がシン首相の訪日で日印関係強化を訴え 「中国を鼻先であしらう好機」
2013.5.31 22:55

 【ニューデリー=岩田智雄】5月30日付のインド主要紙は、シン首相の訪日を1面トップ記事などで手厚く報道し、日印関係の強化を大々的に歓迎した。インドはカシミール地方の支配地で中国人民解放軍の侵入と駐留を受けたばかりで、中国の軍事的脅威に対抗するため、日印の連携強化を訴える論調が目立った。
 ヒンドゥスタン・タイムズは1面トップで「仕事と円を中国からインドに移すのに熱心な日本」との見出しで、「何百もの日本企業が、工場を中国からインドに移し、巨額の投資と大量の仕事をもたらすかもしれない。日本はインドにとり(軍事)技術の魅力的な源として浮上しそうだ」と期待を示し、「共同軍事演習を深化させることは、最近、インド領にずうずうしい侵入をした中国を鼻先であしらう好機となるだろう」と伝えた。
 シン首相が日印の関係強化や海洋の自由での協力を訴えたのは「中国の海洋での拡張路線に抵抗する穏やかな表現だ」と指摘した。中国共産党機関紙、人民日報が最近、日本がインドなど中国周辺国との関係を深めていることに「中国関連問題で押し込み泥棒になっている政治家がいる」と批判した記事についても、「こうした邪悪な警告は命運が尽きた」と断じた。
 タイムズ・オブ・インディアは「日印が真珠の首飾りの破壊で手を携え」との見出しで日印首脳会談の成果を報じ、中国がスリランカやパキスタンなどインド洋周辺国で軍事利用を視野に港湾整備を支援していることに対抗するため日印が協力を強化するとの趣旨の記事を掲載した。
 インディアン・エクスプレスは「トーキョー(日本政府)との団結」と題する社説で、シン首相は中国の顔色をうかがって日本への接近を心配していたようだが、カシミール地方での侵入事件が「いつまでも続く中印関係のもろさをさらけ出し、日本という選択肢を新たに突出させた」と分析している。
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関連掲示
・拙稿「インドへの協力・連携の拡大を~シン首相の国会演説と日印新時代」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12d.htm