ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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橋下「慰安婦」発言きっかけに国連が事実誤認の勧告

2013-06-21 09:44:13 | 慰安婦
 日本維新の会・共同代表の橋下徹氏の慰安婦問題に関する発言が、国際的な波紋を呼んでいる。
 その発言は、5月13日橋下氏が、記者団に、「銃弾が雨・嵐のごとく飛び交う中で、命を懸けて走っていく時に、猛者集団、精神的に高ぶっている集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、慰安婦制度が必要なのは誰だって分かる」「軍自体が、日本政府自体が暴行・脅迫をして、女性を拉致したという事実は今のところ証拠で裏付けられていない」「当時慰安婦制度は世界各国の軍は持っていた」「なぜ日本のいわゆる従軍慰安婦問題だけが世界的に取り上げられるのか」などと発言。さらに、連休中に米軍普天間飛行場を視察した際、米軍司令官に、性的なエネルギーを合法的に解消できる場所が日本にはあるので、「もっと風俗業を活用してほしい」と求めたことを明らかにした。
 「軍自体が、日本政府自体が暴行・脅迫をして、女性を拉致したという事実は今のところ証拠で裏付けられていない」とい認識は、その通りなのだが、公職にある政治家の発言としては、不用意な発言だった。特に米軍司令官に語ったということに関しては、公の場で言うべきことではない。同盟国の米軍のみならず米国民をも侮辱することになる不適切な表現だった。
 橋下氏は、政治家として、思慮が足りない。これまでにも、政治家としての資質を疑われる発言をしばしばしてきたが、今回はその極みである。慰安婦問題の最重要点は、強制連行の有無である。橋下氏は、慰安婦問題について発言したかったなら、誤解を招き、反発を食らいやすいことは言わずに、その点に限って発言し、河野談話批判に焦点を絞るべきだった。
 わが国内では、橋下氏の発言は、基本的人権を無視し、女性を差別している、女性の尊厳を損ねたなどと、広く批判を受けた。米国を含む海外諸国からも批判を受けた。その波紋は続き、むしろ拡大している。国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会は、わが国政府に、慰安婦問題で「政府や公人による事実の否定や被害者を再び傷つける試みに反論」することを求める勧告を出してきた。
 同委員会は、5月21~22日、ジュネーブで対日審査を行い、橋下氏の発言に関し、日本政府の見解を求めた。強制的に慰安婦になったわけではないという主張が日本にあることに言及し、「とうてい受け入れられない」という厳しい指摘があった。日本政府側は、慰安婦問題は大東亜戦争での出来事で、1987年に発効した拷問禁止条約の対象にはならないと主張した上で、「心が痛む問題で、アジア諸国に多大な損害を与えたという事実を謙虚に受け止めている」と説明した。
 だが、拷問禁止委員会は、日本側の主張を聞き入れず、今回の勧告をだしたものだ。勧告は慰安婦を「日本軍の性奴隷」と表現し、元慰安婦への補償が不十分で関係者の訴追が行われていないと指摘して、日本が「法的責任を認め、関係者を処罰」し、すべての歴史教科書に慰安婦を記述するよう求めてもいる。
 これに対し、わが国政府は6月18日、拷問禁止委員会の勧告に関し、「法的拘束力を持つものではなく、締約国に従うことを義務付けているものではない」との答弁書を閣議決定した。菅義偉官房長官は、答弁書の内容について「政府としてあらためて発言することはないという趣旨だ」と説明した。
 私は、この政府の対応は、消極的だと思う。国際人権規約に基づく委員会の勧告は、法的拘束力はないが、勧告的な効果を持っている。上位には国連人権理事会があり、強い影響力を振るっている。人権の定義が不十分のまま、各種の人権条約が結ばれており、実行がされないと、実行が促されるという仕組みが出来上がっている。政府が消極的な対応にとどまっていると、いずれわが国は窮地に陥る。第1次安倍内閣は平成19年3月、「政府が発見した資料中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」との政府答弁書を閣議決定している。この機会に、その決定内容を以て、回答すべきである。同時に、河野談話に関し、再検討を急ぎ、官房長官談話を出し直すべきである。
 事の発端となった発言をした橋下氏は、6月15日、テレビ大阪の番組「たかじんNOマネー」に出演し、戦時下の慰安婦について、「日韓の歴史家で共同研究して、(日本の)国家的な意思として拉致や人身売買があったなら、日韓基本条約の対象外として国家補償も考えないといけない」と発言した。橋下氏は「日韓基本条約があるから一切責任がないというのが日本政府の立場」と改めて説明。その上で「日韓共同で研究し、もう1回補償問題を考えるべきだ」と述べたと伝えられる。この発言は、国際法に照らして誤った認識によるものである。橋下氏は、根底にこうした認識を持っているから、慰安婦問題について整理ができておらず、不用意に焦点の拡散した発言をしてしまうのだろう。橋下氏については、有識者の間で、他に例のないほど大きく評価が分かれてきた。私は、橋本氏が国政を目指すなら、過去の自分の言動を恥じ、時間をかけて徳を磨くことが必要と述べてきたが、橋下氏にはほとんど進歩がない。発言の自重を強く求めたい。
 以下は関連する報道記事。

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●CNNニュース 平成25年5月28日

http://www.cnn.co.jp/world/35032606.html
橋下氏「米国民に謝罪する」 慰安婦問題巡る発言も釈明
2013.05.28 Tue posted at 12:35 JST

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は27日、日本外国特派員協会で記者会見し、在日米軍による「風俗業の活用」や慰安婦問題を巡る発言について釈明した。
 橋下氏は会見で配布した文書の中で、在日米軍に風俗業の「活用」を勧めた発言は「米軍のみならず米国民を侮辱することにもつながる不適切な表現だった」と認め、「撤回するとともにおわび申し上げる」と謝罪した。同時に、発言の根底には、一部米軍兵士の犯罪被害に苦しむ沖縄の問題を解決したいとの強い思いがあったと説明した。
 一方、旧日本軍の慰安婦は「必要だった」とした発言については、「私の一つのワードが抜き取られて報じられた」と主張。この部分については謝罪せず、「戦時においては世界各国の軍が女性を必要としていたのではないかと発言したところ、私自身が必要と考える、私が容認していると誤報された」と釈明した。
 橋下氏は、戦時における性の問題は旧日本軍だけにとどまらず、第2次世界大戦中の米軍、英軍、フランス軍、ドイツ軍、旧ソ連軍や、朝鮮戦争、ベトナム戦争中の韓国軍も抱えていたと指摘。「もし、日本だけが非難される理由が、戦時中、国家の意思として女性を拉致した、国家の意思として女性を売買したということにあるのであれば、それは事実と異なります」と主張した。
ただ、慰安婦が「筆舌につくしがたい」苦痛を被ったことは認識していると述べ、「かつて日本兵が女性の人権を蹂躙(じゅうりん)したことについては痛切に反省し、慰安婦の方々には謝罪しなければなりません」と言明した。

●産経新聞 平成25年6月16日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130616/stt13061603290000-n1.htm
【日曜に書く】
論説委員・石川水穂 慰安婦で一方的な国連勧告
2013.6.16 03:17

「日本軍の性奴隷」と表記
 国連の拷問禁止委員会が慰安婦問題で「政府や公人による事実の否定や被害者を再び傷つける試みに反論」することを日本政府に求める勧告を出した。日本維新の会共同代表、橋下徹大阪市長の慰安婦をめぐる発言を踏まえたものとみられる。
 勧告は慰安婦を「日本軍の性奴隷」と決めつけ、元慰安婦への補償が不十分で関係者の訴追が行われていないと指摘した。そのうえで、日本が「法的責任を認め、関係者を処罰」し、すべての歴史教科書に慰安婦を記述するよう求めた。
 外務省によれば、日本政府が慰安婦問題を含めて「反省とお詫(わ)び」を繰り返し表明していることや、女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)で元慰安婦1人につき200万円の「償い金」を支払ったことなどを説明したという。
 日本側の主張は、ほとんど聞き入れられなかったようだ。
 1996(平成8)年、国連人権委員会が出した慰安婦問題に関するクマラスワミ報告も、虚偽の多い内容だった。報告書を作成したクマラスワミ氏はスリランカの女性法律家だ。

「詐話師」の証言を採用
 報告は、山口県労務報国会下関動員部長だったという吉田清治氏の「自ら、韓国・済州島で慰安婦狩りを行った」とする証言を取り上げ、日本による強制連行があったと断定した。
吉田氏の加害証言は、朝日新聞などで勇気ある告白として紹介された。
 だが、現代史家、秦郁彦氏の済州島での現地調査により、吉田氏の証言は嘘と分かった。秦氏はクマラスワミ氏と会い、吉田氏を「詐話師」と指摘し注意を喚起したが、無視された。
 クマラスワミ報告から2年後に国連から出された米国の女性法律家、マクドゥーガル氏の報告も、慰安所を「レイプ・センター」と表記し、日本が責任者を捜し出して起訴することを求めるなど一方的な内容だった。
 いずれも、慰安婦を「日本軍の性奴隷」と表記していた。
 もともと、この言葉を国連に持ち込んだのは日本弁護士連合会(日弁連)とされる。
 国連の報告や勧告といえば、権威があると思われがちだが、慰安婦問題に関しては悪意と偏見に満ちた内容が多い。日本政府は言われなき非難には、きちんと反論すべきだ。

河野談話批判に絞れ
 橋下氏が慰安婦問題に絡み、在日米軍幹部に「風俗業を活用してほしい」などと述べた発言は、女性の尊厳を損ない、米軍や米国民をも侮辱した不適切な表現だった。外国人特派員協会で発言を撤回し、謝罪したのは当然である。
 しかし、橋下氏が慰安婦問題に関する平成5年の河野洋平官房長官談話を批判し、「軍が暴行脅迫して拉致して慰安婦にしたということは証拠に裏付けられていない」などと述べた発言は正論である。
 繰り返すまでもないが、河野談話は根拠なしに慰安婦強制連行を認めたものだ。
 当時の宮沢喜一内閣が内外で集めた200点を超える公文書には、強制連行を示す資料はなかった。しかし、談話発表の直前に行った韓国人元慰安婦からの聞き取り調査だけで「強制」を認め、河野氏も会見で「強制連行」があったと明言した。
 橋下氏は昨夏、「河野談話は証拠に基づかない内容で日韓関係をこじらせる最大の元凶だ」と述べた。当時、野党だった自民党の安倍晋三氏は「大変勇気ある発言」と評価していた。
 慰安婦問題の本質は、強制連行の有無だ。今回、橋下氏は誤解を招くことを言わず、河野談話批判に絞るべきだった。
 第1次安倍内閣は平成19年3月、「政府が発見した資料中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」との政府答弁書を閣議決定した。第2次内閣では、菅義偉官房長官の下で、有識者ヒアリングを通じて河野談話を再検討する考えを示している。
 「遠くない過去の一時期、国策を誤り」と決めつけ、「植民地支配と侵略」に対する反省とお詫びを表明した平成7年の村山富市首相談話についても、それを破棄しないものの、新たに未来志向の安倍談話を発出したい意向だ。談話の内容や発出時期は、有識者会議を立ち上げて検討するとしている。
 安倍政権は橋下氏の発言が国際社会に与えた影響を考え、慎重に言葉を選びつつ、手順を踏んで歴史認識の見直しを進めてほしい。(いしかわ みずほ)
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関連掲示
・拙稿「慰安婦問題は、虚偽と誤解に満ちている」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12f.htm
・拙稿「橋下徹は国政を担い得る政治家か」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13p.htm