ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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円安株高持続の条件~田村秀男氏

2013-06-06 10:31:31 | 経済
 昨年12月の衆議院総選挙後、円安株高が続いている。一時円は101円台にまで下がり、株は日経平均株価は1万5千円台にまで上がった。この円安株高はいつまで続くのか。持続の条件は何か。
 産経新聞の社員エコノミスト、田村秀男氏は、昨秋より、株と円相場の振幅が常時同調しており、「円安即ち株高、円高即ち株安という図式が『アベノミクス』相場の特徴」だと指摘する。
 ただし、現在の円安株高は、日本国内の景気回回復への期待のみで起こっているのではない。円の価格はドル等の通貨との相関関係で決まる。田村氏は、端的に「円相場水準は日米のお札の刷り具合で決まる」と断言する。そして、今後の予想としては、「一本調子の円安は考えにくい」という。その背景にはFRBによる量的緩和(QE3)があることを指摘する。
 田村氏によると、日銀はこれから年末にかけて月平均7兆2500億円の円資金を刷り増す方針を決めているが、米国も今年に入って、毎月平均800億ドル余りのドル資金を追加発行している。「7兆2500億円を800億ドルで割ると90円余りとなり、日銀のおカネの発行規模からみると、1ドル=100円水準には届かない」と言う。
 では、現行水準以上に円安が進まない場合、日本の株価はどうなるか。「当面、その鍵を握るのは残念ながら日本ではなく、FRBとウォール街である」と田村氏は見る。米国が量的緩和を解除すれば、円高株安の圧力になる。ただし、米株式市場はFRBによるドルの輸血が止まると、市場が大きくふらつく恐れがあり、米景気の力強い復調が確かになるまで、FRBのバーナンキ議長はQE解除に慎重な姿勢である。逆に、「FRBがQE3を打ち切れば、黒田日銀の異次元緩和の威力が増し、ドル資金に比べた円資金量が増えて円安に振れ、日経平均が上昇気流に乗るだろう」と田村氏は予想する。
 基本的にこの見方は、金融理論から見て正しいと私は思う。
 田村氏は言う。「日本としてはまだまだ楽観できない。アベノミクスの実行は始まったばかりで、依然として金融政策に偏重しているし、脱デフレの道筋は描けても、現実に見えたわけではない。安倍首相はこの秋には予定通り来年4月に消費増税に踏み切るかどうか、最終決断するが、『15年デフレ』が短期で解消されるはずはない。デフレ下の消費増税は円高・株安ムードを再燃させる危険が大いにある。円安・株高の軌道固めを優先すべきなのだ」と。
 この点の主張にも私は同意する。平成10年以来続くわが国のデフレは、円が100円前後、株が1万4千~5千円になったところで、急激に解消されるものではない。大胆な金融緩和の効果が、実体経済を活性化し、国民の所得が増えて消費が増え、また民間の投資が活発になるまでは、数年かかると見たほうがよいだろう。しっかりデフレを脱却しきって、適度なインフレのもとに力強く経済成長する軌道に乗るまで、消費増税をしてはならない。むしろ、経済成長が順調に進めば、自然に税収が増え、消費増税をする必要はなくなる。安倍首相には、日本経済のかじ取りを誤らぬよう、自信をもって、采配をふるってほしいものである。
 以下は、田村氏の記事。

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●産経新聞 平成25年5月12日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130512/fnc13051208370003-n1.htm
【日曜経済講座】
編集委員・田村秀男 円安=株高持続の条件
2013.5.12 08:35

鍵は米量的緩和と消費増税

 昨年秋までの低迷がまるでうそだったかのような株高が続いている。株式投資に関心がなかった方々も、「やってみようか」と思い始めていることだろう。が、株高はいつまでも続くのか、死角はないのか、とよく聞かれる。それを突き止めるためには、株価が何によって決まるかをよく理解しておく必要がある。
 まずは株と円相場の関係である。衆院解散総選挙の機運が高まった昨年11月中旬から、1ドル=80円前後だった円は下降、8600円台だった日経平均株価は円安とともに上昇を続けて現在に至る。



 グラフは、日経平均株価と円の対ドル・レートの変動を比較している。年初以来、5月8日までの国内市場の営業日ベースで7日前の各相場の増減率の推移を追うと、一目瞭然、株価は円高に振れると下がり、円安で上がっている。前日比でみれば、逆に動く日もないわけではないが、数日以上の期間に広げてみると、株と円相場の振幅は常時同調することが見えてくる。平たく言うと、程度は別にして、円安即ち株高、円高即ち株安という図式が「アベノミクス」相場の特徴なのだ。
円相場水準は日米のお札の刷り具合で決まる。厳密に言えば、日銀による円の発行量(現金発行量と金融機関が日銀当座預金に留め置く資金量の合計=マネタリーベース)と米連邦準備制度理事会(FRB)のドル・マネタリーベースの割合が決め手となる。白川方明(まさあき)前総裁時代、日銀は円の新規発行を小出しでしか増やさないのに、FRBは2008年9月のリーマン・ショック後、猛烈な勢いでドルを刷り続け、昨年12月時点でもFRBが刷る1ドルに対して日銀は50円弱しか発行していなかった。それが超円高の背景にあるとみた黒田東彦(はるひこ)総裁・岩田規久男副総裁の新日銀首脳部はマネタリーベースを来年末までに2倍にする「異次元緩和」政策を4月4日に打ち出した。量的緩和期待が先行していた外国為替市場では円安基調が定着した。
 10日の東京市場で、円の対ドル相場は100円の壁を突破したが、今後、一本調子の円安は考えにくい。その背景にはFRBによる量的緩和(QE3)がある。米国は今年に入って、毎月平均800億ドル余りのドル資金を追加発行しているが、黒田日銀はこれから年末にかけて月平均7兆2500億円の円資金を刷り増す方針を決めている。7兆2500億円を800億ドルで割ると90円余りとなり、日銀のおカネの発行規模からみると、1ドル=100円水準には届かない。
現行水準以上に円安が進まない場合、日本の株価はどうなるか。当面、その鍵を握るのは残念ながら日本ではなく、FRBとウォール街である。そのからくりを述べよう。
 まず、FRBはQE3で米金融機関に上記の資金を流し込む。その余剰資金が株式投資に回るので株価が上がる。ウォール街の機関投資家はグローバルに株式投資しており、日本株の保有比率を決めている。米株価上昇に伴う日本株の比率の低下を避けるために、日本株も買い増す。かれらはすべてドル建てで計算するので、円安の場合、やはり同じく日本株のドル建て額が下がるので、日本株を買い足す。米株高と円安で日本株を買い、米株が売られるか円高の場合は日本株を売る。売り買いはコンピューターによる自動操作によるので、瞬時に実行される。日本株の売買高の5割以上は外国人投資家によるが、その本拠はウォール街にある。
この仕組みからすれば、FRBの量的緩和政策は日本株の行方に大きく関わる。FRBがQE3を打ち切れば、黒田日銀の異次元緩和の威力が増し、ドル資金に比べた円資金量が増えて円安に振れ、日経平均が上昇気流に乗るだろう。ただ、米株式市場はFRBによるドルの輸血が止まると、市場が大きくふらつく恐れもある。FRBが資金供給を増やさないときに米株価は下落してきた。米景気の力強い復調が確かになるまで、FRBのバーナンキ議長がQE解除に慎重なのも無理はない。
 日本としてはまだまだ楽観できない。アベノミクスの実行は始まったばかりで、依然として金融政策に偏重しているし、脱デフレの道筋は描けても、現実に見えたわけではない。
 安倍首相はこの秋には予定通り来年4月に消費増税に踏み切るかどうか、最終決断するが、「15年デフレ」が短期で解消されるはずはない。デフレ下の消費増税は円高・株安ムードを再燃させる危険が大いにある。円安・株高の軌道固めを優先すべきなのだ。
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