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「猫目小僧」-妖怪·水まねき-

 奈良の山奥で義一という若い男性は、多由という若く美しい女性を見つけ村に連れ帰り、自分の嫁にした。素性·身元が解らず、尋ねても笑っているだけの不思議な美女、多由は義一との間にミツグという男の子を産んだ。

 ある深夜、奈良の大峰連山の方から不気味なうなり声やうめき声が聞こえて来た。義一がそのことを話しても、多由は聞こえないとかただの山鳴りの音だと応えてはぐらかす。その内、義一は眠ってしまった。

 義一が眠り込んでいることを確かめると、真夜中に多由は家を出て行った。目を覚ました義一は子供を残して暗闇の外に出た多由を追う。多由は深夜の闇の中、山へと進んで行く。密かに跡を着ける義一。

 多由は大峰の山の中へと入って行った。山奥からのうなり声·うめき声は続いており、義一が山奥へと進むに連れて声が大きくなり近くなる。

 密林のような険しい山奥を進むとひときわ、うなり·うめきが大きくなり、その不気味な大声は洞窟から聞こえて来ている。義一が洞窟の近くで立ち止まっていると、やがて化け物どもが集まって来た。

 見るも恐ろしい奇怪な姿をした妖怪たちが洞窟の前に集い、まだかまだかと待っている。なおもうめき声は洞窟の中より響く。義一は化け物たちに見つからぬよう、大樹の陰から様子を見守っていた。

 まだかまだかと奇怪な声を上げる恐ろしい妖怪たち。この夜は猫又という妖怪の出産のときだった。古代より三百年に一度の猫又の出産のときには、数多妖怪たちが集まるのだそうだ。

 やがて猫又が出産を終えると、妖怪たちが生まれたばかりの赤子を見て驚く。あまりにも人間に似過ぎていた。こんな人間に似て妖怪として醜い子供は殺してしまえ、と妖怪たちの決断が降りた。

 恐怖に戦慄し驚いた義一は大樹の陰で音を立ててしまい、妖怪たちに気付かれる。妖怪たちが一斉に義一の方を向く。全力で逃げる義一。妖怪たちが束になって追って来る。気が狂わんばかりに全力で走り、山道を下る義一。

 数多の妖怪が襲い来て、途中、ろくろ首の長い首に足を引っ掛け転びつつも、義一は死にもの狂いで逃走し、何とか山の麓へと逃げ帰って来た。

 自分の家へと戻って来ると、嫁の多由と子供のミツグはふとんに寝ていた。多由はいつの間にか山から家に帰って来てたらしい。

 多由を起こした義一。多由は「あなたが知らなければ済んだことなのに」と言って立ち上がる。類い稀なる美貌の妻は見る見る妖怪に変身した。というか恐ろしい化け物の姿が本当の姿で、小さな子供のミツグも同じ化け物になった。叫び声を上げて逃げ出す義一。

 その後、義一は発狂して村をさまよい歩く。

 猫又は、人間の義一に数多妖怪の集まりを目撃され、妖怪たちが逃走する義一を追い掛ける騒動のどさくさに紛れて、妖怪たちに殺されそうになった我が子をそっと隠した。

 大峰の山間部の南側の麓、海沿いの村の古いお堂に参拝に訪れていた美しい娘、美美(ミミ)は、お堂に祭られた仁王像に、子供を授かるように熱心に願懸けしていた。ある夜、美美の家の前に妖怪·猫又が現れ、我が子を美美の家に置いて行く。

 美美は妖怪の子を我が子のように育てる。その子はすくすくと育つが、子供は人間の姿をしているが不気味な顔つきをしていて素早く四つ足で走り、腹が減っては畑や民家のものを盗んで食べた。子供は妖怪の子として村人たちに忌み嫌われ、村人たちからひどい目に合わされたが直ぐに元気になる強さを持っていた。母親代わりの美美が村人たちから糾弾され、子供の面倒を見ることができなくなり、仁王像のお堂に子供を隠した。美美がお堂に食べ物を差し入れてたが、子供は村人たちに見つかり迫害を受け続ける。

 子供は村人たちの暴行に合い続けても強靭な体力で直ぐに回復し、すばしっこい俊敏さは運動神経抜群で、村人たちから迫害を受け続けても決して折れない精神的なタフさを持っている。

 村人たちから信頼を受ける村の長老的存在の占い師の老婆が、村の行く末を占うと壁一面に大きな“凶”の字が現れ、老婆はこの先の村の大きな不吉さを予言する。村人たちは妖怪の子供=猫目小僧がその“大凶”の原因になるに違いないと、村中で捜索し、罠を掛ける。まんまと猫目小僧は罠に落ち、重傷を負うが何とか逃げ切る。

 村におとずれる“大凶”とは実は猫目小僧の存在などではなく、もっと恐ろしい災厄が村を飲み込もうとしていた。

 美美は海岸べりの砂浜で奇妙な石を拾う。

 この石を家に持って帰ると手のひらから石が離れなくなる。その内、美美は怪しい石に意識を乗っ取られ、石に操られて行動する。村のお堂の仁王像のところに行く美美。

 仁王像は村に昔訪れた災厄を封じ込めていた。不気味な石は妖怪の尖兵だった。仁王像の前で怯む美美は、仁王像の睨みを乗り越え、仁王像を破壊することに成功する。これにより、村に巨大な災厄をもたらす妖怪が躊躇なくやって来ることができるようになった。

 不気味な石は妖怪“水まねき”の仮の姿で、通常はただの石だが正体を現すと、一つ目で大きな口に牙を剥く毛むくじゃらの怪物であり、何体も集まって海べりで沖に向かって「おーい、おーい」と呼び声を上げ続ける。

 石は幾つも砂浜や海岸に転がっており、村の子供に村の高い場所に石を運ばせる。石は妖怪の姿に変わると、村の高いところ、さらに高いところで沖に向かって呼び声を上げ続ける。

 やがて妖怪たちは無数に増え、村の高い場所から重ねて沖に呼び声を上げ続ける。

 村人たちは村に訪れる災厄の頑強は猫目小僧だと信じて疑わず、猫目小僧を探し回り、猫目小僧を攻撃し捕らえようと躍起になる。だが猫目小僧は村に災厄をもたらすのはあの不気味な石だと気が付いていた。

 謎の石から変身した妖怪“水まねき”たちは、村の高いところへ高いところへと移動し、彼ら妖怪が全員で呼び寄せるものは“津波”であった。

 妖怪たちのたくらみを阻止しようとする猫目小僧は、硬い妖怪に素手では太刀打ちできずツルハシで一撃すると、妖怪は石に戻って割れた。

 愚かな村人たちは“村の災厄”は猫目小僧と思い込んで、猫目小僧を捕らえ柱に逆さ縛りして石を投げ着ける。その間にも妖怪“水まねき”たちは津波を呼び続ける。猫目小僧が「もう直ぐ巨大な津波がやって来る。村に巨大な“災厄”が見舞うから全員逃げろ!」と絶叫を続けるが村人たちは聞かない。

 何とか柱の拘束から逃げた猫目小僧だったが、妖怪·水まねきのシワザで村を大津波が襲う。

 「津波が来る。みんな逃げろ!」と村の中を叫ぶ猫目小僧だが、村人たちはただ猫目小僧を捕らえることのみ執着して、津波の危険など考えが及ばない。やがて村に巨大津波が襲い来る。逃げ惑う村人たちだがもう遅い。村人の大半は津波に飲み込まれる。最初は味方だった美女·美美も津波に飲まれながら、猫目小僧を裏切った罰だと後悔する。

 村の高台で大津波を呼び寄せた元凶である、妖怪·水まねきの石を必死で低い方へと投げ捨てる猫目小僧。逃げる村人たちにも手伝えと叫ぶが、村人は言うことを聞かずただ自分だけ逃げて行く。

 やがて津波が村を呑み込み大半の村人が死に絶えた。高台から壊滅した村を眺める猫目小僧は、津波に呑まれた美美を思いながら涙を流した。

 と、以上が、日本漫画史上、怪奇漫画の第一人者的存在、楳図かずお先生の市販雑誌執筆の初期の代表作の一つでもある「猫目小僧」の、週刊児童漫画誌連載第1作エピソード「妖怪·水まねき」のタイトルのお話内容です。あらすじというかけっこう詳しく述べて来ましたが。

 楳図かずお先生の傑作妖怪-怪奇漫画「猫目小僧」が初めて登場したのは、昭和の月刊児童雑誌「少年画報」の終末時期になる、1967年の終わり、12月号でした。月刊誌としての「少年画報」は1969年8月号で終わる。「猫目小僧」一番最初のお話「不死身の男」は68年1月号まで2回、次のお話「みにくい悪魔」は68年2月号から5月号まで3回連載。月刊誌「少年画報」での「猫目小僧」連載はなぜかここで終了する。

 その後直ぐに「猫目小僧」が登場するのは、同じ少年画報社が発行する週刊漫画雑誌「週刊少年キング」で、第17号から。時期的に連載が月刊誌から週刊誌へ直ぐにスライドした形ですね。この少年キング連載が始まったときのお話が「妖怪水まねき」のお話です。

 「妖怪水まねき」のお話は、猫目小僧の出生の秘密から語る、猫目小僧サーガの最初のエピソードになりますね。大妖怪である猫又が三百年に一度という出産を行い、あまりにも人間に似過ぎて、妖怪としては醜い、赤ちゃんの猫目小僧が生まれる。

 猫又出産に立ち会った数多くの妖怪たちは、あまりに醜い赤ん坊を「殺してしまえ」と大合唱の如く叫び続ける。妖怪たちの人里離れた山奥での秘事を目撃する人間がいることに気付いた妖怪たちは、逃げ惑う人間を追って大騒動になる。その隙に猫又は我が子を隠して殺害されることから守る。

 やがて、猫又の子は、海辺の村で仁王像が祀られたお堂で、一心に子宝に恵まれることを祈願する美しい女性に託される。この女は赤ん坊を自宅に持ち帰り、我が子のように育てるが、妖怪としても醜い猫又の子は人間としても醜かった。

 女は醜い子供を村人たちから強く非難され続け、家で育てることができなくなり、お堂に隠して食事をお堂に差し入れし続ける。猫目小僧は全ての村人たちから迫害されながらも成長する。

 猫目小僧はもともと種族として所属する妖怪たちから疎外され、妖怪の一員として認められず、かといって人間たちからは忌み嫌われて排除される。猫目小僧は何処にも行き場のない正真正銘の天涯孤独なんですね。人間たちから迫害を受け続けながらも、先ず絶対に弱音を吐かず心が折れることがない。精神的にメチャメチャ、タフです。孤独に悩むなんてことは一切ありません。ムチャクチャ心が強い。村人たちの迫害で瀕死の重症を負っても弱音を吐かない。孤独そのものなのにとにかく心が強い。

 そして猫目小僧は本来自分が種として属する方の妖怪とか異形からも敵視される。というか、猫目小僧自身が妖怪連中や異形たちの仲間には決して加わらない。物語としては、猫目小僧自身を迫害する人間たちに災いをもたらす妖怪や異形と反目し、結局、人間たちを助けるように妖怪や異形と戦う。

 猫目小僧はひたすら孤独ですが、別にこの“孤独”には悲壮感とか辛さとか苦悩みたいなネガティブなものは欠片もなく、猫目小僧は孤独でもあっけらかんとしています。ここがドライで非常に強くて良いですよね。

 逆に身体的に、妖怪として猫目小僧が強いかというと、そんなたいして妖怪の超能力がある訳でなし、敵の強大な妖怪たちにはやられっぱなしだし、それどころか弱い人間たちに捕らえられて拘束されることも多い。人間たちの罠に容易く掛かって大怪我をしたりする。

 猫目小僧の能力というと猫的なジャンプ力やすばしっこさや身軽さが人間の何倍もあるくらいかな。攻撃能力も両手の伸びた硬い爪で引っ掻いたりするくらいだし。あとは、ときどき人間に催眠術みたいので幻影を見せたりすることもある。

 猫目小僧はね、どのお話でも最初は好奇心旺盛な傍観者なんですよね。いつも人間たちに気味悪がられ怖がられてる。人間たちに妖怪や異形のもたらす怪異や災いが降り掛かり、猫目小僧は最初それを第三者としてじっと見ている。だから猫目小僧は物語の前半、お話のストーリーテラーか物語をリードする役目なんですね。

 物語途中から人間に災いをもたらす妖怪や異形に、邪魔をするなと警告を受けたり、仲間に入れと勧誘されたりする。それらを断るから妖怪や異形から敵視され、否応なく、怪異騒動に巻き込まれ、強力な妖怪や異形と対決する立場になる。

  

 先に語ったように猫目小僧は妖怪としてはそんなに強くないから、妖怪や異形との戦いは苦戦するもたいていは運も味方して何とか勝てたりするし、妖怪や異形のもたらす災いで大勢の人間たちに犠牲が出て、“災厄”が納まる。これは人間たちの不心得というか道徳的な行いが悪く、妖怪や異形が罰を与えている感もあるんだけどね。ひどい心得や行いの悪い人間に対する妖怪や異形の復讐という側面もある。

 猫目小僧の活躍というより、心得や行いの悪い人間に妖怪や異形のもたらす災いという罰や復讐がある程度完了して、事が納まり、物語が終了するという形かな。そういう面では猫目小僧は人間のために妖魔と戦うけど、結局第三者であり、傍観者が事に足を踏み入れたが、災厄は行われてしまって人間の犠牲が出て事が済んだ、という感じ。猫目小僧はあくまで第三者だったという物語の締め具合。

 猫目小僧の傍観者スタイルがもっと徹底した形の作品が、1969年の春から週刊少年サンデーに連載された「おろち」でしたね。あの漫画の主人公·おろちは徹底した傍観者であり、狂言回しというんですかストーリーを引っ張って行く役どころで、人間と人間の心理の醜いやり取りの最終局面にやっと関わり、超能力を発揮する。

 楳図かずお先生の作品は、怖い怪奇漫画のスタイルを借りながら実は、さまざまな人間の心理を描いている。表の顔と心の中、綺麗さ美しさの裏側に横たわる醜い思いや考え。二重三重の人間の心。人間と人間の深い深い心理戦。そういう意味では楳図かずお漫画は実は文学だなぁ。

 このブログに以前から何度も書いてるけど、僕は子供時代に週刊少年キングはあんまり読んで来なかった。だから「猫目小僧」は連載リアルタイムでは通しては読んでないですね。「猫目小僧」連載時の月刊·少年画報も読んでないし。「猫目小僧」は後々、コミックスで全編読んでます。さまざまなコミックスで三回くらい読み返してるなぁ。

    

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 だいぶ前だけどネットに上がってた2006年公開の劇場実写版「猫目小僧」の映画の初めの方をネット動画で見たのですが、この映画のお話は漫画オリジナルの「妖怪肉玉の巻」がベースでした。ただしストーリーは映画オリジナルで原作漫画とはお話の設定や流れは全然違うもののようでした。あいまいな書き方するのは、映画全編見てないからです。初めから全体の4分ノ1くらいのトコまでかな。

 「妖怪肉玉の巻」は週刊少年キング連載版の第四話目で、もう最初からネタバレではっきり言うと、妖怪肉玉の正体は“癌”です。癌の化身。癌の擬人化した怪物。原作漫画の冒頭で奈良県のとある地方は茶粥が有名と、熱い食べ物を流し込む常食で喉頭ガンが多いことを暗示してます。

 「猫目小僧」の物語の舞台は和歌山県や奈良県の山地や海辺の田舎の村が多いですね。作者の楳図かずお先生が和歌山県生まれの奈良県育ちだからでしょう。ちなみに実写映画版の方の舞台は福島県になってます。

(GOO BLOG 文字数制限になってしまった。)

 

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●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」狼病編..(23)

23.※(今回も全力シモネタ小説)

 薄目が開いて、大佐渡真理は明るい、と感じた。目蓋が開ききる前に眩しい、と感じた。

 まだぼんやりしている。意識がはっきりしない。とにかく、眩しさに顔の前に手を持ってこよう、と思ったが腕が動かない。両手が後ろに縛られている!

 眩しいのは投光器で照らされているらしい。身体が動かない。真理はギョッとした。両腕を後ろに回され、樹木の幹に縄で括り着けられている。縄は、何と自分の乳房の上と下を通って縛ってある。

 意識がはっきりした真理は、現在の自分のある状況に戦慄した。両足も動かない。自分は素っ裸で荒縄で木の幹に縛り着けられ、両足は大股開きで陰部をあらわにされて、両方の足首を地面に打ち込まれた杭に括り着けられ、動けないよう拘束されているのだ。

 大変だ!と身体のあちこちを動かし揺すってみるが、頑丈に縛り着けられていて、たいした動きはできない。とてもこの拘束からは逃げ出せない、危機的状況だ。

 しかも、助けを呼ぼうにも、肝心要の口に何かを咥えさせられ、声を上げることができないようにされてある。口に小さな硬いプラスチックのボールのようなものを咥えさせられ、後頭部で固定されてるようだ。

 投光器の光は眩しいが、自分の顔を狙って当てているというよりも、地面に尻餅を着いた格好で大股開きにされた女性の陰部を照らし上げている。

 丸裸の身体に弛い風が少し寒い。屋外だ。虫の鳴き声が騒がしい。ここは戸外で、しかも山の中のようだ。投光器で当てられた光以外の周囲は暗い。

 投光器の光の向こうに人影が見える。四つの人影が集まって何やらヒソヒソと話をしている。真理は思った。こいつらがあたしを裸にして、荒縄で木の幹に縛り着けたのだろう。

 四つの影が少し間を空けて離れた。大中小とある影は四つとも男性のようだ。みんな、体形に見覚えがある。

 真理はハッと思い出した。そうだ、あたしは残業で遅くなって、退社に一人、施設の職員駐車場の真っ暗い隅に停めた自分の車まで行って、そこで後ろから強い力で誰かに羽交い締めされた。

 羽交い締めされた腕の他にもう一つ手が伸びて来て、ハンカチか何か口に当てられたかと思うと、また別の手で腹部に強烈なパンチを叩き込まれた。あたしは気を失った。

 そして意識を取り戻したら、丸裸にされて、身動きできないように頑丈に縛り着けられていたのだ。しかも山中の樹木に、そしていわゆるサルグツワのように口枷を嵌められて声を上げれないようにされている。

 真理は顔を左右に激しく振り、口枷の嵌まった喉で精一杯、呻き声を上げた。身体中を激しく揺すってみるが、荒縄縛りは到底弛くはならない。真理は泣き声を上げるが、口枷からウーウーという呻きが漏れるだけだ。

 投光器の光の中、四つの男性の影がこちらに近付いて来る。男たちの姿に投光器の光が遮られる。見覚えのある四つの影は、大も中も小も顔に覆面をしていた。よく見る、ニットか毛糸かのすっぽり被る目出し帽だ。

 覆面を被ってTシャツにカジュアルなズボンという姿でもよく解る。毎日見慣れた姿格好だ。一番大きいのが蟹原友宏だ。一番小さいのが山崎征吾。そしてまあま身長があって体格が良いのが副施設長。体格は良いが中年らしく肉がたるんでいる。そしてこのメンバーに意外だったのが、割りと長身の方で体格も良いが蟹原友宏ほどの体格はない、主任の宇羽階晃英だ。眼鏡の上から目出し帽を被っている。間違いない。

 丸裸に剥かれて樹木に縛られ、両股を大きく開かれて拘束された自分と、今日夕方の副施設長も含めて日頃から自分といやらしいことをしたがっていた三人。こいつらの魂胆は解りきっている。今から自分をレイプするつもりだ。

 大佐渡真理はそう考えると、恐怖心も強かったが悔しくて腹が立った。そしてこの卑劣な犯罪行為に、職場現場の直属の主任である宇羽階晃英が加担していることがショックだった。現場の上司として信頼もしていたのに。

 大佐渡真理は涙を流して、口箝具を嵌められた状態で嗚咽しながらも、悔しくて悔しくてギリギリと歯噛みしていた。正確には、力いっぱい噛んでいるのは丸いプラスチック状の口箝具なのだが。

                

 大佐渡真理が意識を取り戻す少し前…。

 宇羽階晃英は苦悩していた。取り敢えず、副施設長の悪だくみには参加してしまった。夕方からずっと苦悩したまま迷っていた。しかしこれまでイエスマンのサラリーマンとしてやって来た宇和階には、はっきりと副施設長に参加を断ることができず、ついついずるずると副施設長の計画に乗って行動している。

 副施設長はただの上司ではない。この社会福祉施設のオーナーサイドの一員で社会福祉法人の理事の1人でもある。同族経営のこの施設の理事長や施設長、理事の一部などは親族で固めていて、権限が一族に集中している。そして運営方針は理事長·施設長·副施設長のワンマン経営体制で、この三名の強権体制を敷いている。つまり独裁だ。

 特に副施設長の役目は職場のミカジメ役で、いわば現場監督で、現場の職員たちを管理という名のもと、強権でシメている。自分たち経営者一族の管理体制に逆らうことは絶対に許さない。職員が少しでも逆らう態度を見せたなら、現代の社会福祉施設の職場がら暴力を振るうことなぞないが、ウムを言わさずクビを切っていた。

 一説によるとこの職場から見なくなった、これまでの大勢の職員の内、大半は退職しているが、中には行方不明になったまま未だに発見されていない職員もいるというウワサがある。そのウワサに関してはそれから以上は誰も詮索しないし何も言わない。この職場に限っての話だが、都市伝説のようなウワサになっている。

 宇羽階は今晩、ここまでのことを思い出していた。

 退勤して駐車場に向かった大佐渡真理を、駐車場の隅の植え込みの影に隠れて、目出し帽ですっぽり顔を隠した、宇羽階と蟹原と山崎は待っていた。暗い駐車場の中でも大佐渡の乗用車は、街灯の光が届いてない一際暗い端の方に停めてあった。

 自分の車の横に立ってキーを取り出した大佐渡を、宇羽階が背後から羽交い締めにし、振り返ろうとする大佐渡に、山崎が横から腕を伸ばし、ハンカチを宛てて声を上げれないよう口を押さえ、そこへ蟹原が飛び出して来て、腹部のみぞおちにアッパーでパンチを入れた。蟹原の当て身が決まって、大佐渡真理はがっくりと崩おれた。

 山崎はハンカチにたっぷりと何か液体の薬品を染み込ませていた。そこに副施設長の運転する大型のワゴン車を横付けした。宇羽階·蟹原が、意識を失った大佐渡の身体を抱え、山崎は大佐渡の口をハンカチで押さえたまま、ワゴン車の後部座席に乗せた。三人の男は急いでワゴン車に乗り込む。

 大佐渡を積んで三人が乗り込んだことを確認するやいなや、副施設長がワゴン車を駐車場から走らせた。ワゴン車は峠の方へ向かい、滅多に人の入らない山間部へと車を入れた。

 残業して大佐渡が退勤になった時間は遅く、施設の大部分の日中勤務の職員は既に退社していた。駐車場には人がいなかったし、暗い駐車場で大佐渡を拉致した現場は誰にも見られてないだろう。施設長は今日は一日、都市部での会議に出張して不在だった。

 車の中の大佐渡は失神したまま眠っていた。山崎のハンカチの何やら薬品というよりは、武道経験の豊富な蟹原の当て身が効いたのだろう。副施設長の運転するワゴン車は真っ暗な山道を登って行く。

 やがて山道の舗装もなくなり、道が細くなってとても自動車が入って行けなくなって車を停め、気絶したままの大佐渡真理を蟹原が肩に抱え、四人の男はさらに山道を登った。

 獣道のような細い林の中の道を登り、草むらになった丘に出た。副施設長の命令に従い、蟹原と山崎が大佐渡を丸裸に剥いた。平らな丘の上の端に立つ大木に、宇羽階·蟹原·山崎の三人で、副施設長の指示されるまま全裸の大佐渡を縛り着けた。

 立木の両側に杭を打ち込み、大股開きにした両足を杭に括り着けながらも、宇羽階は苦悩し続けた。これは拉致拘束や誘拐といった犯罪だ。如何に上司の命令とはいえ、俺たちはここまででも間違いなく犯罪を犯してしまった。もう逃げられない。

 駐車場の端の暗闇に潜んだところから今までを思い起こしながら、宇羽階の気持ちは重く苦しかった。うつむいたまま悔恨の念に捉えられ、だがもう逃げられないと諦め、泥のように重たい気分で宇羽階は茫然としていた。

 「おいっ、宇羽階!何ボサッと突っ立ってるんだ!?」

 副施設長が怒ったように宇羽階に声掛けた。同じように草むらに立つ、蟹原と山崎が宇羽階を見る。

 「しっかりせんか、宇羽階!主任のおまえがそんなことでどうする!?若い者たちの手本にならにゃあ駄目だろうが」

 なおも副施設長は、三人の部下の中で一番年上の宇羽階を叱り着けた。

 「はい」と返事した宇羽階は思わず気を付けの姿勢になった。他の二人も自然と姿勢を正して立つ。

 暗闇の草むらの中で、用意した投光器の光が丸裸の大佐渡真理を照らし出している。特に投光器の直射光は古毛布の上、大股開きにされた女性の秘所に当てられている。

 一方、副施設長と三人の男性職員の間には、ランタンが置いてある。宵闇の山の上の台地には何も明かりがない。副施設長が用意して持って上がって来ていた。

 副施設長は数歩歩いて、並んで立つ三人の部下の前に来た。両手を腰に当てて構える。三人は神妙な態度で気を付けの姿勢に近い。まるで軍隊で上官の指揮を受ける歩兵である。

 「これからこの極秘プロジェクトの最終段階、目的の決行に移る。みんなよく頑張ってくれた。獲物はあのとおりだ」

 副施設長が振り返って、顎で全裸で幹に縛られた大佐渡真理を示す。

 「これからの段取りを伝える。もう直ぐ、大佐渡は目を覚ますだろう。先ず先鋒として宇羽階が女を犯し、主任としての手本を見せる。次が山崎、おまえだ」

 名前を上げられた山崎征吾は、まるで光栄を得たように明るい笑顔を上げて副施設長を見る。副施設長がこくりと頷いた。この頷きには頑張れよという、激励の意味が籠められている。

 「山崎の次が蟹原が犯す」

 蟹原友宏が顔を上げ、副施設長の方を向く。

 「副施設長先生。偉大な副施設長先生を差し置いて自分が先に女を味わうことはできんであります」

 口には出さないが、蟹原は人並み外れた大きさの一物を女にぶち込んで、秘穴をゆるゆるにしてしまうことを心配していた。

 「蟹原よ、おまえの気持ちはよく解る。おまえのモノは規格外のデカさだ。後の者の味わい具合を心配してくれているんだろうが、昼間に話したとおりワシの一物も現在は情けないことになっておる。おまえが特大の弾頭で拡げてくれた後の方が都合が良いんじゃよ」

 「ははっ」と気を付けの姿勢のまま、蟹原が返事をする。

 宇羽階主任が下を向いたままで、何やら浮かない様子を見せている。副施設長が「ん?」と、それに気付き宇羽階の方を向いた。

 「どうした宇羽階、何だか冴えない調子だな?」

 副施設長に声掛けられた宇羽階は黙って下を向いたままだ。

 「よーし、三人とも。ズボンとパンツを降ろせ。下は裸になるんだ」

 三人は副施設長に言われるまま、ズボンとパンツを脱いで草むらに置いた。

 「じきに俺も脱ぐ」そう言いながら副施設長は三人の股間をじろじろと見回した。

 「おう、山崎。もういきりたっとるな。感心感心」

 山崎征吾の一物は勃起している。全裸で樹木に縛り付けられた女の姿に早くも興奮しているのだ。上司に褒められて山崎はテレたように頭を掻いた。蟹原友宏は大きな一物を普通にぶら下げていた。

 「おう、カニトモは相変わらず太いな。いいぞいいぞ、良いち×ぽだ」

 「はあ」蟹原も副施設長の言葉にテレて微笑し、頭を掻いた。

 そして副施設長は宇羽階主任に顔を向けた。宇羽階は下を向いて突っ立っている。副施設長の視線が宇羽階の股間に止まったままになる。

 「どうしたんだ、宇羽階?おまえのち×ぽは元気がないぞ」

 副施設長のそう指摘する、宇羽階の股間の一物は、まるで寒くてたまらないときや恐怖心に支配されたときのように縮こまっている。宇羽階は黙って下を向いたままだ。

 「こんなときこそ、蟹原や山崎のような部下に、主任という役職の威厳を見せねばならんときに、何だそのザマは!?それがワシたち首脳部が管理·経営する、この施設の主任職か!恥を知れ、宇羽階」

 副施設長は強い言葉で主任職·宇羽階を叱り着けた。

 「ふんっ、だらしないち×ぽをしおって。ワシはおまえをそんなだらしない職員に育てた覚えはないぞ」

 なおも副施設長の怒りの檄が飛ぶ。宇羽階は下を向いたままで、変わらずちんちんは縮こまったままだ。

 「まったくしょうがない奴だ。そこへ行くとまだ新人クラスの山崎はどうだ。もうち×ぽをビンビンにおっ勃てておる。若いのにたいしたヤツだ。宇羽階、チャンスをやる。ここが男の見せどころだ。ち×ぽを勃ていっ!自分の手で刺激を与えてでもち×ぽを勃ていっ、宇羽階!」

 副施設長は若手の超スケベイ変態職員、山崎征吾を引き合いに出してでも、何とか宇羽階主任のち×ぽを奮い勃たそうと、激しい口調で檄を飛ばし続ける。

 しかし宇羽階晃英の態度は違ってた。職場ではオーナーサイドへの一途なイエスマンである宇羽階が副施設長に同調しなかった。

 「お言葉を返すようですが、副施設長…」

 下を向いたままだった宇羽階が少し顔を上げて、おそるおそるという調子で話し始めた。副施設長は黙って宇羽階の様子を見ている。

 「今回ばかりは私は副施設長先生のお言葉に殉ずる訳には行きません。副施設長先生、考え直してください。今からでも遅くはありません。これは犯罪です」

 宇羽階は若干震え声になりながらも、オーナー側上司に反する自分の意見を一気に喋った。宇羽階としてはとてつもない勇気が要った。

 副施設長の握り締めた拳がプルプルと震える。副施設長が怒鳴り声を上げた。

 「そんなことは解っとるわい!犯罪は百も承知だからこそ極秘プロジェクトなんじゃっ!それをやってのけるのがリーダーの私とおまえたち、選ばれた職員なんじゃないか。もっと誇りを持たんか。見ろっ、山崎のち×ぽを。こんなときでもそそり勃っとるぞ」

 副施設長が腕を伸ばし、山崎征吾の股間を指差した。山崎の一物はお腹にくっつきそうなくらい高らかに勃起している。

 「蟹原、ちょっと山崎のち×ぽを弾いてみいっ」

 「ははっ」

 副施設長の指図に、蟹原友宏が隣の山崎のそそり勃つ一物を指で下に押した。山崎のち×ぽは弾力良くビョンビョンと跳ねて臍下あたりの腹部を二、三度叩いた。

 「見てみろ宇羽階、この山崎の立派なち×ぽのありさまを。蟹友もいつまでも大きな物をぶらんと提げてないで、元気良くおっ勃てなきゃいかんぞ」

 「はっ」

 蟹原が軽く頭を下げてキリッと返事をし、自分のだいこんほどもある一物を片手で持ってぶるんぶるんと振った。

 蟹原の大きな一物を見ていた副施設長が、ふと気が付いたように蟹原に言った。

 「そうだ蟹友、おまえのち×ぽでワシを扇いでくれ。ここは蒸し暑い」

 「と、言いますと?」

 「おまえのその人間離れした一物で思い付いたんじゃ。剣道三昧で鍛えた腰ならできるじゃろう、人間扇風機、いやちんちん扇風機をやれ」

 副施設長の話にピンと来た蟹原は、腰を回すように振って、自分の大きな一物を扇風機の羽に見立てて、ぐんぐんと回した。

 蟹原友宏が腰を回して振り続けると、大きな一物が遠心力でブーンブーンと回転する。回転するごとに少しずつ蟹原の巨大ちんぽが大きくなって行く。移動して蟹原の前に立った副施設長は、気持ち良さそうに風を浴びた。

 「おう、風が来るぞ。さすがじゃのう、蟹友。剣道で鍛えた腰と人間離れしたちんちんの賜物じゃのう」

 隣に立つ山崎も宇羽階も驚いて見ていた。大きめの大根ほどもある一物を腰回しの動きでブンブン回転させて、前方に風を送っているのだ。とても人間ワザではない。宇羽階は、これはまるで人間風力発電機のようだと思った。

 副施設長は、心地よい風にあたって気持ち良さげにしていたが、しばらくすると風を送っている蟹原友宏が「ううっ…」などと、呻きを上げて身体をねじり始めた。

 蟹原の異様な様子に、宇羽階も山崎も、何があったのか?と思いながらポカンと見ていた。蟹原自身は自分の大きな一物をかなりの速度で回転させながらも、身体をねじるようにさせながら、全身を左右に揺らせている。つまりクネクネさせて、表情は苦しそうだ。

 前に立って風にあたっている副施設長が声を掛けた。

 「どうした蟹友?気分が悪くなったのか?」

 蟹原はそれに答えることなく、顔をしかめて苦悶の表情だ。蟹原の口から漏れる呻きが強くなる。

 「ああっ」

 蟹原がひときわ大きく呻いた。すると回転している蟹原のちんちんがしぶきを上げた。ドビュッ、ドビュッという液体が勢いよく漏れ出る音がした。

 「うわっ、何か飛んで来たっ!」

 直ぐ隣に立つ山崎の顔に液体の飛沫が掛かった。山崎が顔を拭うとベチャベチャしている。

 「わあっ、臭えっ」

 山崎は青臭いにおいに顔をしかめて、手のひらで顔を拭い、直ぐさま、脱いだズボンの後ろポケットに突っ込んでた手ぬぐいを引っ張り出して、顔を拭いた。ベタベタした手のひらもタオルでよく拭き取る。

 蟹原友宏のちんちんの回転が止まり、本人はガックリと両膝を突いた。ぜいぜいと息が荒い。

 「す、済みませんでした、副施設長先生。発射してしまいました」

 荒い息を吐きながら、絞り出すように一言、何とか謝罪の言葉を口にした。ぐったりして縮こまったちんちんの先が草に隠れる。縮こまったとしても蟹原の一物はデカく、膝立ちで地面に先が着いてしまうのだ。

 要するに蟹原友宏は、激しく回転させる己れのちんちんが風の摩擦抵抗に合い、風の摩擦刺激によって自分の一物の先の一番敏感なところが、風摩擦に負けて反応してしまったのだ。だから今の蟹原の苦しそうな顔の表情は、実は、とても気持ち良い表情だったのだ。蟹原友宏は己れの一物を高速回転させて空気抵抗の摩擦によってマスターベーションを行うという、正に人間ワザでは考えられないことをやってのけたのだ。恐るべし、カニトモチンポ。

 山崎の向こう隣に立つ宇羽階の顔までも、蟹原のプロペラ状のちんちんが放った精液が飛んで来たらしく、宇羽階もタオルで顔を拭っている。

 「ほほう、素晴らしい性能じゃのう、蟹友」

 副施設長が感心して言う。

 「大丈夫か、蟹友?こんなことで発射して。これから本番だぞ」

 「はっ、大丈夫であります。何の一回の射精くらいで」

 蟹原が立ち上がって応えた。

 「おうっ、感心感心。さすがはワシが見込んだだけのことはある。若手では主任一番乗りだな」

 「ははっ、ありがたき幸せにございます」

 「よしよし」

 そう言った副施設長は満足そうな微笑を浮かべたが、顔を回し宇羽階に視線を向けると険しい表情になった。相変わらず宇羽階晃英は下を向いたままで、力なく突っ立っている。

 「ふんっ、しょうがない奴だ。もう、おまえは主任から降格だな。丸裸で縛られた女の姿を前にして、ち×ぽも勃たんような奴はウチの職場には要らんぞ、宇羽階」

 副施設長は憤慨して宇羽階主任に向かって言った。言われた宇羽階はうなだれて下を向いたままだ。剥き出しの下半身も、ちんちんは力なく、小さくなったままぶら下がっている。

 「宇羽階っ、ここまで来たらもう引き退がれんのじゃぞ!」

 副施設長が強い口調で怒鳴った。宇羽階が顔を上げた。

 「しかし副施設長先生、これは犯罪です。大佐渡くんが可哀想です。縄を解いて服を着せて帰してあげましょう」

 「黙れ、宇羽階!」

 反発した宇羽階に怒って、副施設長は大きな声を出した。かなり標高のある山の上の台地だ。副施設長の怒鳴り声はこだました。

 「この女は、施設ナンバーツーの、オーナーサイド管理職のこのワシに逆らった女だぞ。こういう目に合うのは当然の報いだ」

 「でも、大佐渡くんがこの後、警察に駆け込んだらいったいどうするおつもりですか?」

 副施設長と宇羽階が言い争う。蟹原と山崎はポカンとして成り行きを見ていた。いつの間にか山崎の一物の興奮も解け、だらんと股間にぶら下がっている。

 副施設長がニヤニヤ笑い出した。そしてじっと宇羽階を見て言った。

 「何を言っとるんだ?宇羽階。この女が警察に駆け込むだぁ?」

 副施設長が可笑しそうに笑う。

 「はい。大佐渡くんが被害者として通報して刑事事件となれば、施設は大変な事態を迎えます。加害者は私たち雇われ職員だけでなく、同族経営のオーナーサイド管理職の副施設長先生、あなたがいるからです」

 意を決したように宇羽階は副施設長に向かってはっきりと反論する。副施設長は笑うのをやめて、憎々しげに宇羽階を睨んだ。

 「こやつめ、おまえまでもがこのワシに逆らいおって。おまえもこの女と同罪だな。いいか、宇羽階、教えてやろう。この女が警察に通報することなんぞ永久にない」

 宇羽階が驚いて顔色を変えた。といっても灯りは副施設長と三人の職員の間のランタンだけである。あとは、木の幹に縛り着けられた大佐渡真理の股間を照らし出してる投光器の明かりだけだ。宇羽階の顔色までは判別できないが、宇羽階は戦慄した。

 「ま、まさか副施設長先生、大佐渡くんを殺してしまうのでは!?」

 宇羽階の口調が強くなり、声が大きくなる。

 「馬鹿者!こんな若くて可愛い女をそんな勿体ないことするか。こいつはこの先、地下で永久に売春婦として生きるのだ」

 副施設長がなおも怒鳴る。副施設長の言葉に唖然として声が出ない宇羽階。

 「もうこうなったら何もかも話してしまうが、実はあの施設の下には地下に別に施設を作っておるのだ。勿論、正業である社会福祉施設とは関係ない施設だ」

 副施設長の話し出したことに呆然として固まってしまう三人の職員。

 「ほれ、おまえらも知っとるだろう?これまで我が施設を辞めて行った数多くの職員の中で、今でも行方不明のままの人間がおることを」

 副施設長の話は続く。三人は黙って聞いている。

 「ワシらオーナーサイドに逆らった者たちの末路だ。その者たちは今も施設の地下にいる。男は奴隷として地下施設建設の現場で毎日長時間、肉体労働をさせておる。女は性奴隷だ。ワシらに逆らった職員みんなではない。特に目立った者たち何人かだがな」

 副施設長の声が低くなった。三人はゾッとした。ちんちんが縮こまっているのは最早、宇羽階だけではない。三人ともにちんちんは縮み上がり情けない状態になっている。

 「ち、地下施設は何に使うのですか?」

 蟹原がおそるおそるという感じで声を発して訊いた。

 「ズバリ、犯罪施設だ。裏カジノ、売春温泉。農場も作る。大麻とケシの栽培だ。工場も作る。違法薬物の加工工場だ。覚醒剤や大麻他、合成麻薬だ。我々は犯罪の多角経営に乗り出す。日本の経済は日に日に悪くなっておる。何と言ってもこれからは闇経済の時代だ。ワシの夢は日本のマフィアのボスになることだ」

 三人の職員はびっくりして一言も声が出ない。ただ呆然と突っ立っているだけだ。

 「だから宇羽階、心配は要らん。大佐渡はここでマワサレた後、地下に監禁して客を取らせる。それと、ときどきワシやワシの腹心の部下の慰みモノとなる。宇羽階、おまえもワシに逆らえば地下施設行きだ。蟹原も山崎もここまで聞いた以上、もう後戻りはできんぞ」

 宇羽階を初め三人とも驚きと恐怖で声が出ないままだ。

 「宇羽階、目を覚ませ。おまえは生粋のイエスマンだったじゃないか。何も考えずにワシに着いて来い。今までのままのイエスマン·宇羽階であれば、地下施設完成の折りには、地下カジノの支配人か、地下売春温泉の支配人にしてやるぞ。もしまだ逆らうと言うのなら…」

 そう言って副施設長は上着のふところに手を入れた。

 「これじゃ」

 副施設長がふところから取り出したのは小型の回転式拳銃だった。手のひら大の5連発のリボルバーだ。副施設長は銃口を宇羽階に向けた。宇羽階は身体を小刻みに震わせながらも、思わず両手を上げた。明るければ宇羽階の顔はきっと真っ青だろう。

 「ふ、ふ、副施設長先生、や、やめてください」

 宇羽階が震え声で懇願する。

 「こ、殺さないでください」

 宇羽階の声がほとんど泣き声のようになった。

 「ははははは」と副施設長が高笑いした。宇羽階の胸に向けた銃口を降ろす。

 「こいつはワシの護身用さ。ワシくらいの地位の人間になると、いつなんどき狙われるやも知れんからな。一応いつも身に着けておるのさ」

 副施設長は拳銃を自分の顔の前でもてあそびながら、自慢気に話した。

 「まぁ、そういうことだ宇羽階。そして蟹原、山崎。おまえらはこの施設の最重要秘密を知ったんじゃ。もう絶対に後戻りはできん。ワシに着いて来るか死しかない」

 三人の社会福祉施設現場職員は、恐怖心でカチカチに固まってしまって動けない。まるで氷水の冷水を浴びせられたように気分は冷えきっていた。身体は小刻みに震えている。三人とも、とてもこれから女を相手にどうこうしようという気持ちにはなれない。

 「さあ、そろそろ大佐渡が目を覚ます頃だ。みんな覚悟はいいな?一応、用意した目出し帽を被れ」

 副施設長がニットの目出し帽を出して頭に被る。三人の職員もそれに倣って頭から被り、すっぽりと顔を隠す。

 副施設長がズボンを降ろし、パンツを脱ぎ捨てた。

 既に下半身すっぽんぽんの三人の職員だが、三人とも股間の一物は小さく縮こまっている。先ほどまでビンビンに勃起していた山崎のちんちんも、まるで股間にめり込むように小さくなっている。見た目、小さな金魚くらいの大きさしかない。蟹原も自慢の超巨砲がウソのように小さくなっていた。ふだん大きめの大根の大きさを誇るカニトモちんちんも、今は成長途中のナスほどの大きさしかない。

 宇羽階のちんちんも縮こまったままだ。宇羽階はずっと暗く重たい気持ちのままだ。三人とも心身ともに、とてもこれから女を相手に性行為などできる状態ではない。

 三人の股間を見た副施設長が機嫌悪く言った。

 「ふんっ、だらしない奴らだ」

 そういう副施設長の股間も力なくぶらんと下がったままだ。

 身体を木の幹に縛り着けられ、両足を地に打ち込んだ杭に繋がれて大股開きにされ、女性の秘部を煌々とライトで照らし着けられている、大佐渡真理が頭を振り振り身体を揺らし始めた。意識が戻ったらしい。

 「おい、大佐渡が目を覚ましたぞ。早く始めるぞ」

 副施設長が三人に向かって声掛けた。三人が低い声で返事をする。四人とも覆面をしているので声がくぐもっている。なおかつ三人の部下の声が小さいので、副施設長は気に入らず機嫌を悪くして舌打ちをした。

 三人の社会福祉施設現場職員は、ハンデを抱えて生きる人たちの支援をすることを職業としようと、この仕事に就き、施設で働き続けている、元は優しい心根の若者たちである。蟹原友宏も山崎征吾も、ちょっと女好きでスケベイなだけで、ごく普通の若者だ。

 三人は普通に真面目に労働して市民生活を送るただの若者たちだ。それが今、拳銃で脅され、職場の幹部上司から命令されて同僚の若い女の子を輪姦レイプしようとしている。いや、強制的にさせられている。三人とも表情は泣き顔になっていた。

 何よりも拳銃で脅されたことで、恐怖心で心身ともに怯えきって、同時に今聞かされた話で、もうこの先副施設長の支配から逃げられないと考えると、気持ちは真っ暗闇の穴底に落ち込み、身体はカチカチに固まって股間は縮み上がってしまっている。

 「おい、おまえら、ちゃんとち×ぽを勃てんかっ!」

 副施設長が怒鳴った。

 「しょうがない奴らだな。しっかりち×ぽを勃てるように自分で何とかしろ」

 という副施設長の股間もだらんとしたままなのだが。三人はポカンと突っ立っている。

 「ええいっ、何をしておる!自分で刺激して早く勃てて、大佐渡にぶち込むんじゃ!」

 副施設長がイライラして怒鳴り上げる。副施設長は、ここに来て自分の思いどおりにコトが進まないので、たまらない気持ちで機嫌が悪く、顎のあたりや握った両拳が怒りの興奮でプルプル震えている。

 拘束されて身動きできない大佐渡真理が、とにかく身体の動く部分は全部揺らせて、さるぐつわの嵌まった口からは呻き声を洩らし続けている。頭も左右に激しく振っているがどうにもならない。

 副施設長の命令で、三人の職員は下半身すっぽんぽんの股間に己れの手指を当てて刺激を与え始めた。蟹原友宏がポケットから小瓶を取り出して手のひらに振って液体を落とす。

 「何すか、それは?」

 隣の山崎征吾が訊いた。蟹原は液体を両手に広げて、自分の一物に塗り着け始めた。

 「これはオイルだ。俺のはよ、人並み外れて太いだろ。女に使うときに入りやすいように常にオイルを持ってるんだ」

 「なるほど。先輩、僕にも貰えないっすか?」

 「おまえのは普通サイズだろ」

 「いいえ、この状況でもう勃ちそうにないんで、オイルでヌルヌル刺激を与えたら何とかなるんじゃなかろうかと」

 蟹原は両手を開いて差し出す山崎の手のひらに、オイルの小瓶を振った。山崎は礼を言って、両手で己れの一物にオイルを擦り込むようにして揉み始めた。山崎の一物は、オクラが下腹にめり込んだように小さくなっている。

 両手でオイルを塗り込んで刺激を与えている蟹原の一物は、最初ナスの成長途中くらいの大きさだったものが、両手を使って揉み込むようにオイルを塗り込む内に、見る見る膨らんで来て、成熟した大き目のナスくらいの大きさになった。

 一方、山崎の方はどんなにオイルを使って揉み込んでも、一向に大きくはならない。勿論、硬くもならず、小さなふにゃふにゃしたもののままだ。

 宇羽階も自分の一物に刺激を与えているが、何しろ気持ちが、真っ暗闇のどん底気分で絶望的なので、とてもちんちんが勃起するような状態ではなかった。

 腰に両手を当てて傲然と三人の部下を見ている副施設長は、だらんとぶら下げたままで自分で刺激を与えている訳ではない。しかし、口箝具で口を塞がれて呻き声しか出ない大佐渡真理が明らかに泣いているのを見て取ると、生来のサド気質が刺激を受けて、ぶらんとした一物がピクピクと小刻みに反応し始めた。先ほどよりも幾分、膨らんで来ている。

 オイルをたっぷり手のひらに落として両手で自分の一物をシゴき続ける山崎征吾だったが、恐怖心と精神的な落ち込みが激しく、小さく縮こまったちんちんは一向に大きくも硬くもならない。ふにゃふにゃした小さなオクラ状のままだ。

 何とかしなければいけないと強迫観念に責められる山崎は、それでもひたすらシゴき続けた。そうしている内に、山崎が身体をよじらせて「ああっ」と声を上げた。山崎の身体の中を一瞬、快感が走った。

 山崎の一物は少しも大きくも硬くもならないままで、先端の一番敏感な部分が、ぬるぬるオイル指摩擦による刺激に負けて、主人の意に反し息子が発射してしまったのだ。ドピュッと勢いよく飛んだ。太くも硬くもならずとも、さすが若いだけはある。

 ガックリと崩折れる山崎征吾に怒りの言葉を浴びせる副施設長。

 「何をやってるのだ、おまえ!ええいっ、この役立たずがっ!」

 相変わらず、どうにもならないままの宇羽階。カニトモチンポは膨らんで来て、どうにかなりそうだった。それを見た副施設長が蟹原に声掛ける。

 「よしよし、蟹原のは使えそうだな。さすがは蟹原だ、偉いぞ。おまえの感覚で“行けるな”と思ったら、おまえが最初に大佐渡を突き刺せ」

 蟹原は返事の言葉は口にしなかったが、片手で一物を支え、今一方の手でシゴきながら、前に出て来た。

 「宇羽階はまったくしょうもない奴だ。後ろに退がってろ。後でペナルティーな。このペナルティーは大きいからな」

 副施設長が宇羽階に向かって吐き捨てる。そして山崎の方を向いて命じた。

 「山崎、おまえはもう役に立たないからワシのを勃てろ」

 そう言われた山崎征吾は、両膝·両手を突いて四つん這い姿勢で、ポカンとしていた。何を言われているか理解できなかった。

 「こっちに来い、山崎。ワシのを咥えてできるだけワシのモノを勃てるのだ。おまえら職員は、必ず、ワシらオーナーサイド·幹部の役に立たなければならない。役立たずのおまえは、ワシのを口で咥えて貢献しろ」

 副施設長のこの言葉に、副施設長が自分に何をやらせようとしてるのか、ようやく理解した山崎は蒼白になった。勿論、ランタン一つの灯りの中、顔色は解らない。山崎は四つん這いのまま動けなく、泣き顔になった。涙が両頬を伝う。

 もっとも、ここにいる四人の男は今、目出し帽をすっぽり被っているので、実際は顔の表情は見て取れない。

 樹木の幹に縛り着けられ、両足を大股開きで杭に括り着けられ、身動きできず、猿ぐつわで声も上げられない、万事休すの大佐渡真理は泣き続けている。今、そこに一歩一歩、己れの一物をシゴきながら蟹原友宏が近づいて行く。

 副施設長は自分の一物を、半勃ち状態に近く少しだけ興奮させて、腕組みをして傲然と立ち、成り行きを見守っている。宇羽階晃英も山崎征吾も泣き顔で、実際涙を流しながら、恐怖心と絶望感で固まって動けないでいる。

 真理に向かって歩く友宏は、目出し帽を額までずり上げて顔を現し、歯を喰いしばって、同僚であり、かつての交際相手だった真理を、無理やり襲い凌辱するのだ、という意志を見せて真理に近付いて行く。

 サイキック·大佐渡真理の反撃はあるのだろうか?真理はこの絶体絶命のピンチから抜け出ることができるのか?

 

※これで「狼病編23」は終わります。「狼病編24」へ続く。最早“狼病”とは何の関係もないところでお話が進んでおりますが、この物語は「狼病編」としてなおもエピソードは続きます。皆さん「狼病編24」をお楽しみに。待たれよ次回。(当然のようにこのお話はフィクションです。実在する人物や団体とは全く関係ありません。)

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