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●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」狼病編..(25)

25.

 昔ながらの田畑が敷き詰められた盆地から、都市部へ向かう県道は、深い峠に登って行く。その峠は幾つもの連山を掻い潜って続いている。山々はいずれもそこまで高さがある訳ではないが、とにかく山と谷が幾つも連なっている。谷々にはメインの県道の他にも小さな道が幾つか走っていた。

 連山の中の一つの山から下るけもの道も、谷を走るどれかの舗装された道路に降りる。そろそろ深夜に差し掛かろうかという、山地の闇の中の舗装路の端に、一台の乗用車が止まっていた。ステーションワゴンだ。

 「もうそろそろだよ、浩司お兄さん」

 ステーションワゴンの後部座席から和也が言った。

 「そうかい。早くしないと、もう夜も遅いからなぁ」

 運転席の岡石浩司が応える。浩司は腕時計を見た。

 「何しろ、もう10時が近いよ」

 岡石青年は少し不機嫌そうだ。

 「ごめんなさい。浩司お兄さん、もう直ぐだから」

 「済みません」

 後部座席で和也の隣に座る愛子が、和也の言葉に被せるように、少々声を張って申し訳なさそうに、運転席の岡石青年に詫びた。

 岡石浩司は黙ったまま、フロントガラス越しに、ヘッドライトに照らされた山の中の舗装路を見ている。

 岡石浩司青年は、吉川愛子·和也姉弟の住む地域の郊外に立つ、総合大学の理系学部の大学院生である。かつて和也が所属していた地域の小学生までの子供の草野球チームのコーチを、ボランティアで行っている。自分の乗用車でチームの子供たちの送迎などもやっているので、和也や愛子とも親しい間柄だ。

 停めたままエンジンを掛けて内部をエアコンで冷やしている、乗用車の側面の窓から、山の方をじっと見ていた和也が一言、言った。

 「来た」

 「えっ?」と言って愛子が和也の方に乗り出し、窓から外を見た。闇の中で何も見えない。運転席の岡石青年も和也の見ている方向を見る。勿論、闇で何も見えない。

 ドアを開けて和也が車から降りた。愛子が身体をずらせて窓に寄る。岡石が自動車の窓を降ろして開けた。

 ガサガサと草を分ける音がして、闇の中に二つの小さな光が見える。

 「ハチさん!」

 和也が小さく叫ぶ。二つの光は目が光って見えたのだ。

 愛子が車の中からハンドライトで照らすと、小柄な犬がいた。茶色い体毛の中型犬よりもやや小さな犬。ハチだ。

 「あのお姉ちゃんは?」

 和也が犬に向かって喋ると、ハチは首を曲げて山の方を振り返った。

 やがてガサガサとさっきより大きな、草々を掻き分ける音がして、真っ暗い中に人の影が現れた。愛子がハンドライトで照らす。

 人の影は女性の姿をしている。小柄な女性で、そして何と、裸のようだ。ハンドライトで照らしていた愛子は驚いて車から降りた。岡石も窓から首を出して驚いて見ている。

 和也も愛子も普段着で、和也はボタンの半袖シャツに長ズボン、愛子は黄色い半袖ブラウスにブルージーンズの格好だ。

 裸の小柄な女性は、草むらの山の斜面から降り着いて、道路のアスファルト面を踏むと、力尽きたようにへなへなと倒れてアスファルトに両手を突いた。

 愛子がハンドライトで照らしながら、四つん這いの女性に寄り添った。

 「大丈夫ですか!?」

 愛子の叫びに、四つん這いの女性は息が荒い。女性は素っ裸だ。ライトで照らし出された裸の身体はあちこち汚れて、草の葉で切ったのか血が滲んでいる。

 「大佐渡さんですよね?」

 愛子がしゃがみこんで裸の背中に手を置いて、強い言葉で訊いた。女性はこくりと頷いて見せた。和也も横に立って心配そうに女性の顔を覗き込んでる。

 いつの間にか岡石浩司が車から降りていた。

 「とにかく、彼女を車の中へ」

 岡石が指図する。和也が愛子のハンドライトを受け取り、愛子が力を貸して大佐渡の身体を起こして立たせた。

 愛子が大佐渡を後部座席に乗せた。和也は助手席に乗る。岡石が運転席に戻ると、いつの間にか小型犬が和也の膝に乗って座っていた。

 岡石浩司が首を回し、驚いた顔で後部座席の二人を代わる代わる見る。

 「大丈夫なの?」

 大佐渡真理は両腕を組んで胸を隠し、うつむいている。小さな声で「大丈夫です」と応えた。愛子は真理の身体を抱きかかえるように両腕を回し、真理の顔を覗き込んでいる。

 和也も後ろを振り返り、黙って真理を見ている。

 「浩司お兄さん、何かないですか?着るものとか、身体にまとうようなものとか」

 愛子が訊ねると、浩司は、後ろの荷台に毛布がある、と応えて一度車を降りてステーションワゴンの後ろへ向かった。和也がハンドル横のエアコン操作板をいじってエアコンの冷風を止めた。

 岡石浩司は、まだ初秋の季節で、半袖の白っぽいポロシャツを着て紺色チノパンの長ズボンを穿いていた。

 浩司が後部座席のドアを開けて、愛子に毛布を手渡した。浩司自身も裸の女性が相手なので戸惑っていて、直接何もできないでいる。愛子は毛布を拡げて真理をくるむように身体に掛けた。真理はうつむいたままだ。

 「ありがとう」

 消え入るような声で真理が礼を言った。

 助手席の和也が岡石青年に話し掛ける。

 「浩司お兄さん、車を出して。とにかくこの山から降りて街に戻って」

 「ああ。しかし彼女は病院に連れてった方がいいんじゃないか。裸だし、あちこち傷着いてるみたいだし。この時間なら救急になりそうだけど」

 「病院はやめてください。身体は大丈夫ですから」

 岡石の提案に、真理が頭を上げて強い調子で応えた。真理の言葉があまりにはっきりしていたので、浩司はちょっと驚いた。

 岡石青年は、全裸の真理の状況を山林の中でレイプ犯罪に合ったのではないか、と推測したようだ。

 真理がもう一度懇願するように浩司に向かって言った。

 「本当に大丈夫ですから。だから私の家まで送ってください。お願いします」

 しっかりした一言だ。重ねて和也も言う。

 「浩司お兄さん、お姉さんの言うとおりにしてあげて。とにかくもう降りようよ」

 「ああ、解った」と応えて浩司は自動車を進めた。道幅のふくらみのあるところまで行くと車を切り返して、山に登って来た舗装道路を戻って降りて行った。

 山間の少し離れた山の頂きで火の手が見える。遠くで消防車のサイレンが鳴っている。

 「警察には行かなくていいのかい?」

 「大丈夫です」

 浩司の問い掛けに真理は小さな声で応える。

 浩司はフロントガラス越しに、少し遠くの山火事の火の手を見上げながら、この全裸で山から降りて来た若い女性と、あの山火事は関係があるんだろうか?と考えた。だが、後部座席の娘があまり事情を話したがらない様子なので、問い掛けるのは控えた。

 しばらく誰も喋らなかった。車の中は静かになった。ふだん、車を運転するとき、岡石浩二はラジオを点けるか何か音楽を掛けてるのだが、このときは忘れていた。

 浩司は、今から一時間ちょっと前のことを思い返していた。

 陽が落ちてだいぶ経って夜も更けて来ようかというときに、吉川姉弟が訪ねて来た。浩司は調度、風呂に入ろうかとしていたときだった。大学院生の浩司は二階建てアパートの2DKの部屋で独り暮らしをしている。

 学校の友人とファミレスで夕食がてらダベリをして、友達と別れ、先ほど帰って来たところだ。吉川姉弟は、姉の愛子も弟の和也も何か緊張した様子で、いつもの、小学生草野球チームのコーチのお兄さん、浩司と接するときと態度が違う。そして、思い切ったように、今から山間部の峠まで車で連れて行ってくれと、突飛なことを言い出した。

 子供の願いごとだとは思えぬ、ただならぬ様子に浩司は、一度は脱いで掛けた上着を被りなおして、とにかく外に出た。アパートの下には小柄な犬がいた。中型犬としては少し小さな茶色い犬だ。多分、洋犬の雑種だろう。

 二人の子供の切羽詰まった様子に圧倒されて、浩司は自分のステーションワゴンを駐車場から出して、二人の子供と一匹の犬を乗せて県道へと出た。

 車中で浩司は、二人にどうしてそんなに慌てているのか訊ねた。二人は、これから行く峠にとても危険な目に合っている人がいるので、その人を助けるために一刻の猶予もない、というようなことを言う。

 浩司は驚き、警察に届けた方が良いのではないか、というと、それは駄目だと、弟の和也の方が強く否定した。

 最近の和也はまだ小学三年生のくせに、何だか随分しっかりしていて、まるで大人のようにはっきりと自分の主張を表現できる。このときも、とても子供だと思えない力強さがあって圧倒されてしまった。

 浩司は姉弟、特に弟の和也に言われるままに、もう深夜になろうという遅い時間に車を峠へと向かわせた。そこから小一時間、愛車を走らせ、山間部の峠を登り、今に至る。途中、脇目に、山火事らしい、連山の一つの山の山頂付近の炎を見て驚いた。

 峠道を下りながら、少し遠くに、消防車やパトカーらしきサイレンの音や山火事の警鐘の鐘の音が聞こえる。峠を下る道路では行き交う車は一台もなかった。この連山を越えて都市部へと行く峠の幹線道路は別にある。

 大佐渡真理は疲労困憊していて、力を抜けばふっと眠ってしまいそうだった。しかし、眠るまいと必死で目を開けて耐えていた。後部座席で素っ裸に毛布でくるまって、膝の上の両拳を強く握っていた。腕に入れた力を抜くと、意識を失うように眠ってしまいそうだったからだ。

 大佐渡真理は心配していた。もし病院などにこのまま連れて行かれたら、病院スタッフが事件性を心配して警察に通報するかも知れない。もし警察が関われば、折しも山火事が発生している場所から降りて来た、丸裸の傷付いた人間だ。警察の取り調べは深く追求されるだろう。

 自分を拉致して山の中まで連れて来て拘束した連中が、あの大きな山火事の中、どうなったのか解らない。蟹原智宏は焼け死んだかも知れない。人が死んでるかも知れないような事件性がある。とすれば自分は徹底的に取り調べを受ける。

 その後で、自分のおかしな能力が発覚したら大変なことになる。世間から普通の人間として扱われなくなるどころか、自分は実験材料にされるだろう。

 何しろ、人間の身体の筈なのに、肉体が信じられないような高熱を発して、これが一番の問題だ、女性器の陰部から火の玉を放つのだ。まるで人間火炎放射器みたいに、下半身の秘部から火球を飛ばしてしまう。

 普通の人間としてはとても考えられない。まるで人間兵器だ。日本国内だけの研究材料にされるだけでは済まないだろう。アメリカ·中国·ロシア他、各国のなにがしかの機関があたしを探りに来るだろう。誘拐されるかも知れない。そして何処か他所の国で実験材料だ。

 真理はそう考えると、毛布を深く被って裸の両肩を抱いて、下を向いたまま小刻みに震えた。

 隣の愛子が真理の様子に心配して声掛ける。

 「大丈夫ですか?」

 真理は声を出さずにこくりと首を垂れて返事をした。愛子が尚も心配そうに真理の顔を覗き込んだので、真理が小声で「大丈夫よ」と応えた。

 運転している岡石浩司は、本当は救急病院へ連れて行くべきなのではないだろうか、警察へ届けなくていいのだろうか、と迷いながらも黙って、真理の住まいのある地域へと幹線道路を車を飛ばしていた。深夜の幹線道路は空いていて、スピードが出せた。

 浩司はチラリと助手席の和也を見た。和也は膝の上の茶色い犬を抱いたまま、黙っている。

 浩司は思う。中学二年生の吉川愛子はしっかり者のお姉ちゃんだが、小学三年生の弟、和也の方はおとなしくてどちらかと言えば気弱な方で、甘えん坊な感じの子供だったが、この6月に小学生草野球チームをやめて、この二、三ヶ月はあまり見なかったが、まるで別人のように変わった。

 何と言うか、今の和也はとてもわずか小学三年生の子供とは思えないように落ち着いていて、何かこう威圧感を持っている。浩司は、和也をこれまでのように“可愛い子供”というふうに見れない、一目置いて大人として見てしまうような雰囲気を感じていた。

 浩司は前を向いて黙ったまま運転を続け、隣席の和也も黙ったままだ。浩司はカーステレオの音楽やラジオを点けるのも忘れていた。後部座席の二人も黙っていて、車内は静かなままで、ステーションワゴンは幹線道路から真理の住まいのある地区へと県道に入った。

 やがて住宅街に入ると、浩司の運転するステーションワゴンは一軒の二階建てアパートの前に止まった。モルタル造りの普通のアパートだ。貸し家式アパートで真理の部屋は二階だと言う。素っ裸の真理だが、合鍵をドアの端に二つ積んだブロックの下に隠してあるから大丈夫だと言った。

 自分の住むアパートの前に停まると真理は元気を取り戻し、浩司に毛布はこの次に洗濯して返すと告げ、何度も頭を下げながらお礼を言って、勢い良く車を降りた。部屋まで送るという愛子を大丈夫だからと遮って、真理はアパートの外階段を上った。

 毛布をマントのように肩に掛けた真理がドアの中に消えると、安心したように浩司のステーションワゴンはアパート前から離れた。

 「本当に大丈夫なのかな?」

 浩司が独り言のように誰にでもなく問い掛けると、隣の和也が応えた。

 「大丈夫だよ、浩司お兄さん。車から降りるときあんなに元気だったじゃない」

 大人のようにしっかりした返事をする小三の和也に、焦りのような妙な気分を覚えながら浩司は「うん」と一言応えた。後部座席から運転席の両端を掴んで身を乗り出して、愛子がはきはきした声で浩司にお礼を言う。

 「浩司お兄さん、ありがとうございます。こんな夜更けに無理を言って済みません。真理お姉さんも本当に助かったと思います。あたしも和也も助かりました。真理お姉さんが無事で良かった」

 「浩司お兄さん、どうもありがとう」

 愛子の礼の言葉に続けて、隣席の和也がお礼を言うと、和也の膝の上の犬がワンッとひと吠えした。

 岡石浩司は照れたようにはにかんで、吉川姉弟を自宅まで送って行った。

          *                

 一方、その間の宇羽階晃英たちは…。

 深夜の闇の中を先に進む事務長、吉高春美のハンドライトの灯りに、宇羽階晃秀は草藪を掻き分けながら、事務長の後を追って獣道を下る。二人とも急ぎ足で山道を降りている。前を行く事務長-吉高の息も荒くなって来ている。

 宇羽階晃英は上はシャツを着ているが、下半身は裸だ。草藪を両腕と腰で掻き分けて降りるので、草で切った小さな傷が両足にいっぱいできている。闇の中だが、チクチクと両足のあちこちが痛いのでよく解る。

 藪の葉で股間のサオの付け根近くも切った。チクッとしたので解る。股間や大腿を触ると多分、掌にベタベタと血液が着くに違いない。晃秀は、先を行く事務長は長袖シャツと長ズボンを穿いていて良いな、と羨ましく思った。

 前を行く事務長が止まった。下向きのハンドライトの光が獣道の、土が剥き出しになった地面を照らす。山道が片面が土手で片面は切り崩しの草むらだ。ハアハアと息を吐きながら、事務長-吉高春美が振り返った。遠くに山火事の炎が見える。消防車などのサイレンや鐘の音も遠くなっている。山火事の火の手はこちらには向かって来なかった。

 「ここまで降りて来れば大丈夫ね」

 荒い息を吐きながら春美が宇羽階に声掛けた。

 「はい」と宇羽階が返事した。思ったよりも運動靴が濡れている。獣道を歩いて草藪や草むらを踏んで来たからだ。靴の中で足がぬるぬるする。晃秀は裸足でなくてスニーカーを履いていて良かった、と思った。裸足だったら足を何ヵ所も切って歩けなくなっていただろう。

 吉高春美が腰を降ろして土手の土面に背中を預けた。上着が汚れても構わないほど疲れたのだろう。宇羽階も腰を降ろすが、せめてパンツでも穿いていればと思った。

 何分か沈黙して二人とも休んだが、宇羽階がおもむろに言葉を掛けた。宇羽階としては、少し思い切った質問だった。

 「事務長。事務長は僕たちがあの山の頂きに行ったことを知ってたんですか?というか、今晩の副施設長以下、僕らの行動は解ってたんですか?」

 事務長はしばし黙ってたが、何と答えようか考えてるふうだった。そして、意外にもはっきりと答えた。

 「そうよ。解ってたわ」

 「ということは、僕らは尾行されてた訳ですか?」

 「まぁ、そんなところね」

 事務長はあっさり答えて身体をラクにするように体勢を崩した。後頭部を後ろの土手の土に預ける。

 「宇羽階くん。この際だからはっきり言うけどね。副施設長は別として管理部は職員の動きは全てお見通しなのよ。管理部というか、あたしと施設長だけだけどね」

 宇羽階は驚いた様子で言葉が出ない。事務長が話を続ける。

 「あたしはね、施設長の、まぁ、何ていうか、影の実働部隊なのよ。部隊って1人だけどね」

 「実働部隊…、ですか?」

 「そうよ。施設長はとても用心深い性格でね。あなたたち職員のことは信用してないのよ。それは副施設長のこともそう」 

 「と、いうことは、僕らは常に見張られている、ということですか?」

 「見張っている、というかあなたたちも監視されてるのよ。施設内には到るところに超小型の監視カメラが仕掛けてあるわ。小型の録音機もね。それは施設長室の地下のモニター室に繋がってるの。地下の15面モニターに、あなたたちが施設内の何処で何をしているか全部、見ることができるのよ」

 宇羽階は驚きで言葉が出て来ない。その驚きは恐怖心を伴う驚きだった。宇羽階のこめかみに、山道を下って来た疲れの汗ではなく、冷や汗がたらりと垂れていた。

 事務長が吹き出すように小さく笑って、話を続ける。

 「だからね。あなたたち男子職員が男性のシンボルの大きさの競い合いをしてたことも初めの頃から知ってたわ。みんなで男子トイレで比べっこしてたでしょ。その内、リネン庫だとか裏の用具倉庫の中だとか。男子職員どおしで自分で大きくして比べっこして。あたしと施設長と二人で大笑いしながら地下モニターで見てたのよ」

 宇羽階は驚きと恥ずかしさでいっぱいだった。と、いうことは施設長と事務長は施設所属の全男子職員のチンコのことを知っているということになる。宇羽階は羞恥心から下を向き思わずあらわな股間を両手で隠した。

 「何もしょげることはないじゃないの。宇羽階くんのは立派なモノなんだし。あたしは、ただやたら大きいだけの蟹原くんのモノよりも宇羽階くんのモノの方が凄いと思うわ。あなたたち二人が全男子職員のファイナリストなんでしょ。あたしは宇羽階くんの持ち物の方が好きよ」

 事務長はそういうと、急に恥じらうように宇羽階から顔を反らして他を向いた。まだサイレンも鐘の音も鳴っている。山火事の火の手も見えている。顔を巡らせた事務長は話を変えた。

 「幸い、火の手は向こう側に流れてるみたいね。こちらには来てないわ。助かったわ、誰もこっちの方角には人は来ない」

 宇羽階が顔を上げて再び事務長の方を見て訊いた。

 「今回の副施設長の件はどうなるんですか?その、副施設長と蟹原くん山崎くんと。それから大佐渡くんと」

 「四人で自滅したことにするしかないわね。あたしも施設長も今回のことは全て解っているわ。とんでもないことよ。1人の女子職員を4人の男で襲ったんだからね。最後は未遂でも拉致や拘束は犯罪よ」

 「はい」思わず宇羽階は頷いて返事した。

 「だから、1人の女子を輪姦しようとして内輪揉めして殺し合いに発展した、とするしかないわね。どうして火事になったか知らないけど、山火事は幸いしたわ。あんな凄い火事なんだから蟹原も大佐渡も生きちゃいないでしょ。あなたは最初からあそこにいなかったことにして、施設長他全職員は明日の朝、警察の連絡を受けて知るのよ」

 宇羽階は納得した。二人とも腰を降ろしてもう充分休んでいた。宇羽階が、そろそろまた山を下るのかな、と思って事務長の方を見た。事務長の考えを探るような意味だった。

 すると事務長もこちらを見返して来た。深夜の月明かりしかない山の中で、他に明かりといえば事務長の足元の懐中電灯と遠くの山火事の炎の明かりだけだ。事務長は動かないし黙っている。顔付きが解らないので宇羽階もどうしていいのか判断に困る。宇羽階が黙ったまま顔を向けていると、事務長がおもむろに喋り出した。

 「宇羽階くん。さっきも言ったけど、あたしはね、あなたの“物”に興味があるの。勿論、あなたの性格も好きよ。でも、その、あたしもあなたの“物”をね、何度もモニターで見て非常に関心をそそられたわ」

 「は?」宇羽階は事務長が何を言いたいのか解らず、きょとんとした。

 事務長が草の上に突いた両手を使って、座ったまま腰を動かし、宇羽階に寄って来た。お互いの手が届く距離に寄り、肩を並べるような間隔になった。事務長が宇羽階に顔を寄せる。

 「宇羽階くん。解るでしょ」

 事務長の掛ける言葉が変になまめかしい。ちょっと甘えたような声音だ。宇羽階の頬の直ぐ近くまで事務長の顔が来た。はっ、という事務長の吐息が宇羽階の鼻のあたりに掛かる。何ともいろっぽい吐息で、さすがに宇羽階も状況を理解した。しかし宇羽階はこころもち顔を退いた。

 事務長が『どうしたの?』と言うようにコクリと横に首を傾げた。中年の年齢なのに妙に可愛らしかった。

 宇羽階はドギマギしながらも「い、いけません、事務長」と拒否の仕草で両手の平を前に出した。焦って言葉がどもる。

 「宇羽階くん。これはね、何でもないの。ただあたしは純粋にあなたの特別なあそこに興味があるだけなの。施設内の録音機であなたの自慢する話も聞いたわ。あなたは興奮時に水のたっぷり入ったやかんをぶら下げて持ち上げるんですってね。それだけ長くて硬いって。これはあたしの好奇心と探究心なの。お願いだからあなたのモノをあたしに試させて」

 事務長は懇願しながら宇羽階ににじり寄り、左手でギュッと宇羽階の一物を掴んだ。下半身裸のまま、山火事から急ぎ足でかなりの距離下って来た宇羽階は疲れていて、いつもは自慢の自分の息子も縮こまってしまっている。

 「あら、ちいちゃくなってるわね」

 事務長が少し落胆するように言った。しかしまた明るさを取り戻すように笑顔になって、今度は力強く言う。

 「でも大丈夫よ、宇羽階くん。あたしが元気にしてあげる」

 事務長は黒っぽい色のスラックスの腰回りにポシェットを提げていた。先ほどはこれからハンドライトを出した。身体をねじるようにしてポシェットを探ると、小さなプラスチック容器を出した。

 事務長は顔を仰向けて口を開け、片手に持った小さな容器の突端を押した。シュッシュッとノズルから音がする。携帯用の口内洗浄液だろうか。その後、首を降ろして宇羽階の下腹を覗き込むような姿勢で、宇羽階の股間に小型容器の突端を三度ほど押した。ノズルから噴霧されて宇羽階は股間が冷たかった。

 「あっ」いきなりひんやりとして宇羽階は声を出した。

 事務長は笑っている。

 「緊急時の消毒よ」

 ポシェットにふだんから消毒液まで準備しているとは、事務長は用意周到な人だな、と感心した。だが宇羽階はそこでハッと気付いた。『副施設長を撃ち殺した拳銃もあのポシェットに準備していたに違いない』。そう思うと宇羽階は急に怖くなった。ちょっとぶるぶると震えが来た。深夜の山中で真っ暗だから解らないが、このとき宇羽階の顔は蒼ざめていた。

 「あたしが大きくしてあげる」

 事務長の甘い声。

 事務長がニヤニヤしながら、頭を宇羽階の股間に近付けて来た。宇羽階はドキドキして腰が退ける。宇羽階のこめかみあたりから脂汗がしたたる。

 「あんた、何お尻を引いてるのよ。こうなったら覚悟しなさい。その内気持ち良くなるんだから」

 事務長は今度は少し怒ったような調子で言った。

 宇羽階は草の上に尻餅を着いて両腿を開いた格好で固まってしまっていた。何せ事務長は先ほど、上司になる副施設長を無表情で射殺した人だ。例えこんなハレンチなことでも断ったらどういう扱いを受けるか解らない、と怖くて震えた。

 日頃、宇羽階は同じ職場の管理部門の事務長を、中年女性だが昔の若い頃はさぞ綺麗な人だったんだろうな、と思い、いわば“美魔女”認定して見ていた。だから今のこのシチュエーションはこれまでの気持ちならば、願ってもない本当に嬉しい事態なのだろうが、目の前で副施設長を冷徹に殺したことを思い返すと、ただただ怖かった。

 「宇羽階くん、大丈夫よ。緊張しなくていいんだから」

 今度はまた甘い声音になって言い、事務長は宇羽階の股間に顔を近付ける。

 恐怖心も相まって極度の緊張から、宇羽階のそれは縮こまってしまっていて陰毛の中に隠れ、まるで下腹の腹の中にめり込んでいるかのように見えなくなっていた。

 口を持って行った事務長もどうしようもなく、片手で陰毛の中を探って、宇羽階のチンチンを見つけ、小さな小さなキノコのようなそれを引っ張り上げた。

 「いてててて…」

 思わず宇羽階が声を上げた。まるでキノコを引き抜くように事務長が引っ張ったのだ。

 「あらまぁ~、しょうがないわねぇ。どうしたのよ宇羽階くん。いつもモニターで見ていた、あの立派な一物はどうしたの!」

 事務長が責めるような調子で強く言った。事務長は頭を上げて宇羽階の股間から顔を離した。が、片手は指で宇羽階のチンチンを摘まんだままだ。

 「はい。済みません…」

 宇羽階が申し訳なさそうに小声で応えた。事務長の顔から笑みが消えている。

 「もーう、時間がないのに。いろいろあって疲れているのは解るけど、どうにかならないのかしら」

 そう言いながら事務長は親指と人差し指で摘まんだ宇羽階のそれを前後に何度も擦っている。まるでキノコのシメジの株の中の小さな一本を、指に挟んで素早く上下に擦っているようだ。

 「あなた、あんなに立派なものなのに、よくこんなに小さく縮こまるものねぇ」

 事務長が力を入れて擦り続けるものだから、宇羽階の小さなキノコは摩擦熱で真っ赤になった。心持ち大きくなったようだが、宇羽階のふだんの大きさには程遠い。

 宇羽階も事務長がこれだけ一生懸命擦り続けているのだから、自分も協力して大きくしなければと思うのだが、やはり、平然と副施設長を殺した事務長に対しての恐怖心と緊張が強くて、とてもこれから女の人とエッチなことをするのだ、という気持ちが起きて来ない。

 あまりに激しく凄い速度で擦り過ぎて宇羽階のチンチンから煙が立って来た。

 「じ、事務長、痛いです!」

 宇羽階が叫ぶ。

 「あつっ、あつっ、あちちっ」

 と声を上げて事務長が宇羽階のチンチンから手を離した。事務長が指を振るう。宇羽階は「熱い熱い、痛い」と声を上げながら、自分の股間を両手で押さえている。宇羽階は歯を喰い縛り、涙が出ていた。

 「も~う、今日は駄目みたいね。また今度、落ち着いたときにしましょ」

 宇羽階は両手で股間を押さえたまま顔をしかめている。相当な熱さと痛みを堪えている。宇羽階は氷や冷水があれば、自分の一物を冷やしたかった。

 「ちょっと激しく擦り過ぎたみたいね」

 と言いながら事務長は腰のポシェットを探って小さなチューブを取り出した。

 「はい、これを塗っときなさい」 

 事務長が宇羽階にチューブを手渡した。宇羽階がチューブを目の前まで持って来たが暗闇の中でラベルの文字が見えない。

 「オロナインよ」

 事務長が言った。宇羽階は、何でも入っているポシェットに、事務長は本当に用意周到な人だな、とまた感心した。

 宇羽階は事務長に礼を言って自分の一物の根元から先端までオロナインをたっぷりと塗り込んだ。

 携帯電話のバイブの音が鳴った。事務長が慌ててポシェットを探る。スマホを取り出すとサッと立ち上がり、宇羽階から離れた。何だか神妙な様子でペコペコと頭を下げている。

 スマホを耳元から離すと宇羽階に向かって言った。

 「宇羽階くん、行くわよ」

 事務長の言い方が何だか厳しい調子になった。宇羽階がぽかんと見上げてると、事務長はさっさと歩き始めた。山道を降る。

 宇羽階が慌てて立ち上がってよろめきながら踏み出した。焦って事務長の後を追う。

 事務長が振り向いて強く言葉を投げ掛けた。

 「グズグズしないで、急ぐわよ」

 宇羽階は急ぎ足で進む事務長に追い付こうと数歩駆け足になった。宇羽階は、事務長の態度から電話の相手は施設長だろうか、と考えて事務長の背中越しに訊いた。

 「今の電話は施設長なんですか?」

 「そうよ。施設長が下で車で待ってるのよ」

 宇羽階は驚いた。施設長自ら、山の下の道路まで来てたのだ。事務長と施設長は車で一緒に来て、事務長だけが山の頂きまで登って来たのだろう。

 宇羽階は急ぎ足で降る事務長に着いて行き、事務長の背中の直ぐ後ろを進む。宇羽階は疑問を思い切って訊いて見た。

 「あの、事務長の今回の仕事は、施設長の命令なのですか?」

 宇羽階はドギマギしながら訊ねたのだが、意外にも事務長はあっさりと答えた。

 「当たり前じゃない。あたしが副施設長を始末して何のメリットがあるのよ。あたしの影の仕事は施設長が表立ってできない汚れ仕事の遂行よ。会計や経理、事務管理は表の仕事。さっきのが裏の本職ね」

 それを聞いて宇羽階は何も言えなかった。今日は一日、驚くことばっかりだ。宇羽階が黙ったまま事務長の背中を追っていると、続けて事務長が話し始めた。

 「そりゃあ、副施設長はあの性格でしょ。腹の立つことも多いわよ。あたしが副施設長を始末するなんて日常の中でも簡単なことよ。完全犯罪にする自信だってあるわ。でもね、あたしはそんなヤワな精神はしてないの。人を殺めるなんて仕事でしかやらないわ」

 事務長は前を向いたままで、後ろの宇羽階に話し掛ける。聞いている宇羽階は戦慄した。今の言葉は、事務長が『自分は殺し屋だ』とカミングアウトしたのだ。宇羽階は後ろに着いて歩きながらも、心は凍り付くような気分だった。

 宇羽階はさらに考えた。ここの施設は同族経営で、施設長と副施設長は親族関係にある。施設長は親族である副施設長を始末するように、事務長に命じたのだ。施設長も冷酷な人だ。“殺し屋”の事務長に着いて恐ろしい施設長のところまで行っていいものだろうか、と宇羽階は恐怖心でいっぱいになった。

 「あんたも山の上で副施設長に聞いたでしょ。副施設長はあの狭い施設内での自分の権力を勘違いして、いつの間にか妄想的なことを考え始めたのよ。施設の地下にまた別の娯楽施設を建造するってね。しかも一番トップの施設長を無視してね。賢明な施設長からしたら、もう副施設長の存在は要らないもの、邪魔なものになったって訳。だからあたしに副施設長の始末を命じたの」

 事務長が自分の行為の理由を話して聞かせた。

 宇羽階は今から全力で走って逃げて行きたい気分だったが、そんなことしたら即座に事務長に殺されそうで怖くて、ただただ事務長の後を着いて山を降って行くしかなかった。

 「あ、あの、事務長。事務長はこれまで施設長の命令で、その、何人を始末して来たのですか?」

 宇羽階が恐怖心の中から、つっかえながらも、後ろから事務長に訊く。

 「あんたの想像に任せるわ。それより…」

 宇羽階はもう頭の中が真っ白になっていた。自分は社会福祉施設の一現場職員として就職し、仕事を続けて来たのに、今日1日のこれは何だ?ここまでの時の流れは現実だろうか?夢でも見てるんじゃないのか?今日の夕方まで一緒に仕事をしていた職場の同僚が何人も死んだ。宇羽階はぶるぶるぶるっと頭を振った。宇羽階は訳が解らなくなっていた。

 黙って後ろを着いて来る宇羽階に、事務長が振り向いて声掛けた。

 「あんた、しっかりしなきゃ駄目よ。施設長はあんたを連れて来い、って言ってるんだから。何か良い話かも知れないわよ」

 そう言われても、自分を連れて降りる事務長は先ほど人を射殺したし、施設長はそれを命令した人だ。どちらも中年女性だが、恐ろしい人たちだ。今から、自分は車の中という閉鎖空間でその恐ろしい女性二人と一緒になるのだ。宇羽階の頭の中は真っ白だったが、恐怖心だけは宇羽階の心を支配していた。怖くてガチガチと歯がなりそうになる。

 「施設長、副施設長、今回のこと、あたし、とウチの施設の裏側のことごとをこれだけ知ったんだから、あんたもこれからの自分の身の上のことは解るでしょ。今から施設長に会うんだから、これまでの施設オーナーと一介の現場職員との関係とは行かなくなるわよ。そのへんは覚悟しなさいよ」

 事務長のこの言葉が宇羽階にトドメを差した。宇羽階はヨロヨロと足がもつれてその場にへたり込みそうになった。宇羽階はかろうじて失神せずにいた。

 その場に座り込みそうになる宇羽階の片腕を持ち、事務長が宇羽階を引っ張り起こして、強い調子で叱咤した。

 「ほらほら、しっかりしなきゃ駄目じゃないの!下の道路までもう直ぐよ。施設長が待ってるわ。急がないと施設長のカミナリが落ちるわよ!」

 甲高い声だが、事務長が怒鳴る。宇羽階はふらつきながらも立ってまた歩き始めた。

 もう、山火事の火もだいぶ遠い。消防車のサイレンや警鐘の鐘の音も小さくなった。気のせいではなく、火事の火の手の大きさも小さくなったように見える。

 宇羽階にももうそろそろ下の道路に出そうだと解った。事務長-吉高春美の背中を追って、宇羽階晃英は施設長の待つ自動車へと山道を降った。

 

「じじごろう伝Ⅰ」狼病編(25)はこれで終わります。この物語はまだ続きます。次回、狼病編(26)へ続く。

 

※この物語はフィクションであり、実在する団体·組織や個人とは全く関係がありません。また物語の登場人物に実在するモデルはいません。

 

※「じじごろう伝Ⅰ」登場人物一覧(2024-2/2)

(2013年版)「じじごろう伝Ⅰ」長いプロローグ編・狼病編-登場人物一覧 2013-5/28

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編22(2021-4/29)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編23(2022-1/14)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編24(2023-5/24)

 

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●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」..登場人物一覧(長いプロローグ・狼病編)

(登場人物一覧)

吉川和也: 小学三年生で地域の小学生草野球チームに所属していたが、隣町に引っ越し電車通学になった際にチームを脱退した。内気で独り遊びが好きな性格で家の中に籠りがち。吉川家の長男。スーパードッグ·ハチと仲良くなって、半テレパシーで会話付き合いをする内に、子供ながら、しっかりして存在感のある人格に変わって来た。家の近くにある広い森林公園にいる謎の老人、じじごろうとも仲の良い付き合いがある。その内にサイキックとなったが、どのような能力を出せるのかは未知数。

ヒトオオカミ: ふだんは柔和なこぶとりのアジア人。見た目は善良なサラリーマン風の中年手前くらいのおじさん。しかして実体はモンスターの1人。俗にいう狼男で、満月の夜に完全な狼男の姿になる。その能力は猛獣など及びもしない怪力や跳躍力を持つ。昼間の人間時は能力は発揮できず、くたびれたサラリーマンほどの力しかない。妖魔として二百年以上生きている。

ロバート·シルバーウルフ: 長身で体格が良く紳士然とした白人医師。東ヨーロッパの風土病である狼病の研究者で、狼病治療薬を開発し狼病感染者を救っている。実は狼男であり、アジア狼であるヒトオオカミよりも一回り大きな銀色狼化身のモンスター。妖魔としても圧倒的強さを誇る。

吉川和臣: ワカト健康機器産業営業部係長。仕事熱心な会社員で腕利きの営業マンでマイホームパパという模範的な市民だったが、蛇姫に狼病感染させられた挙げ句、妖魔の一種、使い魔のモンスター·蜘蛛男に変身させられ、蛇姫一派のアジト-ビッチハウスに籠っていた。ビッチハウス内でヒトオオカミに倒される。その後、狼病治療薬を施されたが意識が戻らないまま病院に収容されて眠っている。

大佐渡真理: 社会福祉施設の現場職員。サイキック。人体発熱·発火能力を持つが、自分でコントロールできず苦悩している。子供の頃から霊感が強く特殊な体質であるが、それを隠して生きて来た。子供時分から自分の特殊な体質に、独り悩み続けている。在吉丈哉は交際する恋人。丈哉は真理が霊感が強いところまでは知っているが、それ以上の能力に関しては知らない。

岡石浩司: 吉川和也が所属していた、地域の小学生草野球チームのコーチをボランティアでやっている、地域郊外に立つ総合大学の理系工学部の大学院生。マイカーの大型乗用車で野球チームの子供たちの送迎までやっている。

中村達男: ワカト健康機器産業社員。歓楽街遊興が大好きで、いつも会社近くの飲み屋や風俗に通っている。結婚して後、金銭の問題が大きく遊びの時間が取れず不満が多い。キャバクラのホステスにご執心。今は、先輩や同僚の懐を宛にして歓楽街に行くことを生き甲斐のようにしている。自己中な性格もあって仕事はサボりぎみだが憎めないキャラクターで、ときどき幸運に恵まれて営業成果を上げることがあり会社としても無下には扱えない。

在吉丈哉: ワカト健康機器産業社員。営業部所属の若手平社員。中村達男·藤村敏数の後輩。大佐渡真理の恋人として交際していて、悩みの多い真理を何かと気遣っている。高校生時代は甲子園を目指した球児で、仕事は真面目にこなす。割りとカタブツなところがある好青年。

藤村敏数: ワカト健康機器産業社員。中途採用で入社したので中村達男よりも1歳年上だが営業部の後輩になる。元は大佐渡真理と同じ福祉施設に勤務していて、大佐渡真理と有吉丈哉を引き合わせた。ハンサムでけっこう女にモテる。保育士の有馬悦子とは結婚を考える恋人関係だが、福祉施設勤務時代の恋人-城山まるみとは切れずにいてトラブルがある。藤村、中村、在吉の3名は吉川和臣係長の部下になる。

城山まるみ: 藤村敏数と男女の交際をしていたが、敏数が転職したのを機に疎遠になり、敏数を忘れられずにいる。狼病に感染したおタカ婆さんに噛まれて狼病感染し、病院を抜け出た後ゾンビ化する。自分の意識を失ってモンスターと化し、敏数の現恋人-有馬悦子を襲撃した後逃亡し、蛇姫一派の巣窟-ビッチハウスに潜伏していた。後日、深夜に、勤務する職場に現れ、日頃パワハラを受けていて内心恨みを抱いていた副施設長を襲撃する。超能力を発現した大佐渡真理に追い払われた後、ロバート·シルバーウルフの攻撃で失神させられ治療薬を注射されるが、意識が戻らないまま病院に収容される。

有馬悦子: 藤村敏数の結婚まで考える恋人。敏数のアパート訪問時に、ゾンビ化した敏数の元恋人-城山まるみに襲撃され殺害される。

かえで: 中村達男行き付けのキャバクラ-ギャラクシーのキャバ嬢。いつの間にか狼病に感染し、妖魔-蛇姫一派のアジト·ビッチハウスに籠っていた。中村達男をキャバクラのハッスルタイムのベロチュー(ディープキス)で狼病に感染させた。その後、狼病治療薬で回復した。

吉川愛子: 吉川和臣·智美の長女。中学二年生。二人姉弟の和也の姉。勝ち気ではっきりした性格だが心優しい面も持つ。ムチャをせず堅実なしっかり者で、内気で独り遊びが好きな弟·和也が愚鈍に見えて馬鹿にしてたが、途中から存在感の変わった弟に驚異を感じている。スーパードッグ-ジャックに助けられることが多い。スーパードッグ-ハチと仲の良い弟を羨ましく思っている。

吉川智美: 吉川和臣の妻。愛子・和也の母親。37歳。パートタイムで事務仕事をしている。細身でショートヘアにした活発な美人。見た目ボーイッシュで、おっちょこちょいな面もあるが有能でしっかり者。だんだんと人が変わり行き、人格崩壊して行っている夫・和臣を気持ち悪く思い、危険を感じて、二人の子供を連れて家を出て、実家に居住する。父母は実家で健在。

中村亜希子: 中村達男の妻。一年前に結婚し、自己中性格の達男も頭が上がらない賢妻。福祉専門学校の講師として働いている。達男がキャバクラのホステスとのディープキスによって狼病を感染させられていたことを知って、自宅の花瓶で頭を叩き大ケガをさせた。

杉山孝子: 中村達男が通い続けている歓楽街の主(ヌシ)のような、長年、水商売や売春で生きて来た老婆。通称、おタカ婆さん。高齢になってもときどき客を取る、その道の強者。歓楽街で狼病に感染し、病院に収容され、ゾンビ化して、今度は自分が院内で数人を襲い感染させた。城山まるみの感染元。

宇羽階晃英: 社会福祉施設の現場主任。典型的サラリーマン気質で会社のイエスマンだったが、施設オーナーサイドの上司-副施設長の社会人常識として異常な犯罪的命令に納得行かず、上司の副施設長に逆らい、最終的に副施設長から殺されかけるが事務長=吉高春美に救われる。

蟹原友宏: 社会福祉施設現場職員。剣道三段で高校~大学時代の大会上位入賞の常連。体格の良いスポーツマン体形で、自宅では我流で格闘技の練習を積んでいる。類い稀な巨根の持ち主で、24歳になっても成長を続け大きくなっていて興奮時はだいこんほどの大きさになる。からっとした男くさい性格ではっきりしていて女にモテる。一時期、大佐渡真理とも付き合っていたが、大学時代の恋人との二股がバレて破局した。その後、沢多田文香とも交際した。モンスター化した城山まるみが深夜の施設事務所に侵入し副施設長を襲撃した際、まるみと戦ったが負けてしまった。このとき副施設長も蟹原友宏も一度狼病に感染したが、現れたロバート·シルバーウルフの治療薬の注射で回復した。

山崎征吾: 社会福祉施設一年生のまだ新人にあたる若手現場職員。大学在学中に社会福祉系の難関資格を一発合格した秀才。見た目は真面目でおとなしそうな若者で好青年に見えるが、実は無類の好色青年で度を外れた女好き。身体は小さいが常に精液を作り出す肉体は精力絶倫。セフレの女の子、シングルマザーのおばさん、デリヘル嬢や立ちんぼと、毎日のように性交を繰り返す日々を送っていて金欠ぎみ。案外、臆病な性格で気は小さい。

坂戸善文: 社会福祉施設の若手職員の1人。職場の慰労飲み会の席で酔った副施設長に詰められ、もともとパワハラ気質の副施設長から本人の人格否定された上に両親の悪口まで言われて貶められ、その席で号泣してしまった。そのことを深く恨みに思い、後日、ファミレスで平の職場仲間ばかりで集まったとき、みんなに本物の殺し屋に依頼して副施設長を亡き者にしてしまうことを提案する。みんなが真に受けず笑って済ませたことから、独り悶々と副施設長への復讐心を募らせている。

沢多田文香: 社会福祉施設現場女子職員。学生時代バレーボールをやっていたスポーツ女子で長身でスタイルの良い美人。男にモテるため恋愛関係が派手。蟹原友宏とも一時期付き合っていた。

吉高春美: 社会福祉施設管理部に勤める事務長。事務長は表の顔で、その実体は施設長直属の凄腕の殺し屋。施設長が事業を行っていくにあたり、障害となるような事柄の撤去のための汚れ仕事を引き受けて来た。拳銃、ナイフ、ロープ使い、毒殺などさまざまな殺人術に長ける。裏の顔を知っているのは施設長だけである。

副施設長: 社会福祉施設の副施設長。施設の管理部の長として主に現場職員の管理業務にあたる中年男性。プライドが高く劣等感が強くヒステリックな性格で、職場のパワハラの鬼であり、多くの職員に嫌われている。施設オーナーサイドに逆らう職員を許さない。自分に逆らった大佐渡真理を3名の部下を使って拉致し山に連れて行き拘束する。4名の男性での凌辱を謀るが真理の超能力の反撃に合い失敗する。最後は管理部の事務長-吉高春美に射殺された。

施設長: 大佐渡真理が勤める社会福祉施設のトップの施設長。やり手実業家の面を持つ中年女性。副施設長を自分と施設の用心棒役として使い、職員の管理を任せていたが、施設長の存在を無視して施設地下に賭博場など遊技場や成人娯楽施設など違法施設の建造を行っていたので、子飼いの殺し屋-吉高春美に副施設長を始末させた。コントロールの利かなくなった駒は排除する冷徹な面も持つ。

トカゲ男: 300年近く生きた南洋地域のオオトカゲの化身。妖魔。人間の姿で居るが、容貌は爬虫類のような顔をしており、手指は爪が鋭くトカゲに似た形なので、いつもサングラスやマスク、手袋などで露出を抑えている。牙や爪に毒を持ち、平然と人間を殺す性格で人間の子供などを食べる。蛇姫を「奥方様」と呼んで慕い、その子分。ロバート·シルバーウルフを恐れて逃げ出した蛇姫に落胆し、軽蔑して蛇姫の元を離れた。ヒトオオカミと決着を着けるべく対峙したが、現れたジャックにいとも簡単に倒された。

蛇姫(奥方様): 古代エジプトでクレオパトラを咬み殺した毒蛇の化身という伝説を持つが、実は数百年前に、アラビア半島で200年以上生きて妖魔となった有毒大蛇の化身。普段は中年女性の容姿で居る。邪悪な精神の持ち主で、いつの時代も世界の各地で東ヨーロッパの風土病である「狼病」を蔓延させて、人間社会を混乱させようとしている。人間の数倍、猛獣以上の力を有し、幾つかの超能力を使う、残忍で冷酷な性格の妖魔。銀色狼男=シルバーウルフが治療薬を使って狼病感染者を回復させて行くさまに、日本で狼病パンデミックを起こすことを断念し、シルバーウルフを恐れて大陸へ逃亡した。

ハチ: スーパードッグ。(2013年版 登場人物一覧 参照)

ジャック: スーパードッグ。(2013年版 登場人物一覧 参照)

じじごろう: 謎の超人的な老人。(2013年版 登場人物一覧 参照)

 

(2013年版)「じじごろう伝Ⅰ」長いプロローグ編・狼病編-登場人物一覧 2013-5/28

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編1(2012-8/18)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編2(2012-9/7)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編3(2012-9/18)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編9α(2013-4/9)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編9β(2013-4/9)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編12(2016-2/20)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編15(2018-2/28)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編18(2019-5/31)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編22(2021-4/29)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編23(2022-1/14)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編24(2023-5/24)

◆じじごろう伝Ⅰ 長いプロローグ編1(2012-1/1)

◆じじごろう伝Ⅰ 長いプロローグ編12(2012-8/4)

※この物語はフィクションであり、実在する団体·組織や個人とは全く関係がありません。また物語の登場人物に実在するモデルはいません。

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●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」狼病編..(24)

24.

 山々連なる山地の中、ひとつの山の頂上付近の台地の草むらの端、鬱蒼と茂った樹木の1本の幹に、荒縄で身体を縛り着けられ、両足を左右の地面に打ち込まれた杭に括られて、身動きできない大佐渡真理は、全裸に剥かれており、大股開きにされた両腿の付け根の秘部も、古毛布を敷いた上で剥き出しにされている。

 勤務する施設駐車場から退社時の大佐渡真理を、失神させて拉致し自動車で運び、人里離れた山の中へと身柄を抱えて連れて登り、山林で拘束した犯罪者どもは、同じ職場の、管理職の副施設長と職場現場の施設職員、宇羽階晃英主任、蟹原友宏職員、山崎征吾職員の四人だった。

 失神から意識を取り戻した大佐渡真理は、ありったけの力を出して拘束から逃れようと全身を動かしてみたが、頑丈に縛り着けられており、びくともしないような状態だった。助けを呼ぼうにも、口には何やら固いプラスチック製の口箝具が猿ぐつわとして嵌められており、声を上げることができない。せいぜいウーウーと呻くだけが精一杯である。

 大佐渡真理は、どうにもならない万事休す状態に涙を流し嗚咽したが、猿ぐつわに泣き声さえまともに出ない。

 気が付けば、前方にその犯罪者どもの1人がこちらへと迫って来ている。体格の良い大柄な男、かつて真理が男女の交際をしたことのある、同僚の蟹原友宏だ。

 離れたところからこちらを照らす投光器の光を、蟹原の姿が遮って影となり見えにくいが、蟹原は全身裸であり、右肩の小刻みな動きから身体の真ん中におっ勃てた一物を上下にしごいているようだ。

 蟹原の一物が人並み外れて大きいことは、蟹原との交際時に解っていたが、今の影の中でもうっすら形の見えるその一物は、当時よりもまた一段と大きくなっているようだ。

 全身裸で自分の巨大な一物をしごきながら、全裸で縛り着けられ身動きできない自分に迫って来ているということは、蟹原友宏は、これから自分を強姦するつもりなのだと、真理は理解した。

 真理は恐怖におののいた。だがそれも一瞬に近いようなごく短い間だった。

 自分に迫って来る蟹原友宏の姿がはっきりして来た。大ぶりの大根ほどもあろうかという自分の一物を右手で掴んで上下にしごいている。左手の方はこれも大きな袋で垂れ下がった自分のき×たまを揉みしだいている。

 真理は、かつては恋人関係を持ったこともある同僚の友宏にいろいろと訴えようと思ったが、猿轡の箝口具が嵌められた口では、ウーウーという呻き声しか出すことはできない。

 蟹原友宏の顔つきがはっきりと見えるところまで距離が縮んだ。友宏の目が逝っている。目付きが普通の人のそれと違う。何かに取り憑かれて我を忘れているような、異常な目付きだ。

 その男が今、真理に近付いて来た。股間に馬のそれのような大きなものを屹立させ、手で上下にしごき、もう片方の手は大きな一物の下の玉袋を揉みしだいている。目付きは完全に精神異常者のそれだ。

 一瞬間、恐怖におののいた真理だったが、直ぐにこの危険な状況を何とかしなければと冷静な気持ちを取り戻し、その後直ぐに怒りの気持ちが沸いて来た。

 こいつらは私を失神させて山奥に連れて行き真っ裸にして樹木に縛り着けた。そしてこれから男四人で私を性的な玩具として凌辱するつもりだ。そう考えると、怒りの感情がふつふつと沸き、怒りが沸点に登り、許せないという憎悪が頂点に達した。

 真理は自分の全身がたぎるように熱くなったのを感じた。そしてそれを越え、燃えるような熱さを全身に感じる。だが自身は肉体が熱いとか痛いとかやけどをしている感じとかは全くない。ただ自分の身体が高熱を発しているのは自身で解る。

 真理に近付いていた蟹原友宏が、真理の異変に気付いて足を止めた。もう、大きな幹にくくりつけられて座らされている、裸の真理まで5メートルくらいの距離しかない。

 友宏の見つめる真理の全身が赤くなっている。真理の周囲の空気がおかしい。真理の周囲にかげろうが立っている。何だか真理の肉体が高熱を帯びているようだ。

 真理の異変に対して、どういうことなんだろう?と疑問を感じて、友宏は立ち止まったまま、真っ赤になった裸の真理をじっと見ていた。その間も片手は大きな一物をしごき続け、もう一方の手はき×たまの袋を揉み続けている。

 友宏は不審に思ってじっと立ったままで、2ヶ月前の施設の浴室の脱衣場で、真理と立ったままセッ×スをしたとき、真理の身体が異様に熱くなったのを思い出した。あのときは友宏は、あまりの熱さに火傷しそうで真理の身体を突き放したものだ。慌てて、風呂場の水道から水を出して、自分の一物を冷やしたことをよく覚えている。

 一方、友宏の背後、離れたところで、下半身裸になった副施設長は、手頃な岩に腰掛け、両股を開いている。その副施設長の股に向かって顔を突き出した山崎征吾は、膝を突き四つん這いの格好をしている。副施設長も山崎征吾も被っていた目出し帽は取っていた。

 「どうした山崎、早くしゃぶらんか」

 副施設長が威圧して言った。山崎は低くしゃくりあげながら泣いている。泣きながらも拳銃を持っている副施設長が怖くて仕方なく、副施設長の股間に垂れ下がった一物に口を持って行った。

 副施設長のそれは、素っ裸に剥かれて太い樹の幹に縛り着けられた二十歳ちょっとの女子が、今から何人もの男たちに凌辱されるというシチュエーションに興奮して、本来は今EDぎみなのだが少しだけ勃起の兆候を見せ、やや硬みを帯びて心もち大きくなり、起き上がった格好になっている。

 しかも、生け贄の女の子は、自分の命令で動かした、部下のたくましい青年たちが拉致誘拐し山林で樹木に縛り着け、今から輪姦するのだ、という自分の王権のような支配力に大いに満足して、気持ちは喜悦でいっぱいなのだった。それに部下の1人の青年には、今まさに自分の一物をしゃぶらせようとしている。

 副施設長は自分の支配力に酔っていた。山崎青年は泣きながらも副施設長の一物を口に咥えた。山崎征吾にはとても口に咥えたそれを噛み切るような度胸はない。

 静かに副施設長が言う。

 「どうした?山崎。口に咥えたら舌の上で転がすように舐めるんだ。優しくていねいにな」

 副施設長は嬉しそうに微笑している。自分の支配欲をぞんぶんに満足させ、最高に気分が良いのだ。

 山崎青年は小さくしゃくりあげながらも、涙顔でべろべろと舌を使って副施設長の一物を舐めた。姿勢は四つん這いのままだ。

 副施設長はニヤニヤと微笑しながら目を瞑り、顔を上げている。恍惚とした表情のようにも見える。

 山崎征吾は学生時代、成績優秀で通して来た秀才であり、大学生時に難関の社会福祉系の国家資格を一発で取得した、前途有望な青年だった。彼は大学を卒業して夢と希望と社会貢献の精神を抱いて、この社会福祉法人の施設に就職した。

 山崎征吾には秀才として通して来たプライドがあった。その前途有望な筈の秀才が中年の男の汗と小便の据えた臭いのする股間を、舌を使って舐めさせられているのだ。山崎青年にはこんな屈辱はなかった。

 山崎青年は夢も希望もプライドも崩壊し、涙が止まらなかった。嗚咽を上げながら副施設長の股間をしゃぶった。

 高校卒であり、学生時代ずっと学業不振な劣等生として来た副施設長には、有名大学を出た秀才へのコンプレックスが強かった。今、社会福祉の世界ではエリート候補生たるスペックを備えた若者に、自らの性器を口に咥えさせることで、副施設長は圧倒的な優越感に浸り、精神的にこの上ない満足を味わっていた。意識せずとも「ぐふふ…」と口から笑いが溢れてしまう。

 山崎征吾が、四つん這いになり、ひくひくと嗚咽を上げながら、自分の勤める職場のオーナー側上司のチンチンをしゃぶる一方で、樹木に荒縄で縛り着けられた丸裸の女子職員、大佐渡真理は全身が怒りの感情でいっぱいだった。

 全身が憤怒の気持ちで充満した大佐渡真理は、頭の中で「こいつらみんな殺してやる!」と思い、実際、真理の身体は全身が真っ赤になっていた。怒りの熱が肉体を赤く染め上げて、見るからに身体が高熱を上げているようだった。

 真理の異変に気付き、戸惑う蟹原友宏は前方の真理を見詰めながら、じっと立ち止まったままだった。まだ、自慢の巨チンは大きな大根のようなまま、自分の腹の前におっ立てていた。

 如何にも高温そうに全身を真っ赤に染め上げた、真理の周辺の空気が揺らいでいる。かげろうだ。友宏は真理の身体が現実に高熱を発しているのだと気付いた。真理が縛り着けられた樹木の幹から、わずかに煙が立っているような気がする。真理の開かれた股間が自分の方を向いている。

 真理のところどころがボッと燃えた。真理を縛り上げてる荒縄が燃えたのだ。

 友宏は戦慄した。と、同時に強い危険を感じた。これから何が起こるのかは解らないが、とにかく一刻も早く逃げなければ危険だ、と本能的な内なる声が教えた。

 “逃げよう!”と決めた瞬間、それは遅くて、友宏の方を向いた真理の股間がまぶしく光った。

 友宏は目の前に巨大な火の玉が飛んで来るのが見えた、と感じたら次の瞬間、自分の一物がボーッと燃え上がった。

 友宏の自慢のチンチンは少し前に丹念にオイルを塗り込んでいただけによく燃えた。大根のような友宏の一物はまるでタイマツのように闇夜に燃え上がった。

 ギャアーッと叫び声を上げながら、友宏は地面を転がり回る。

 樹木の根本に股間を拡げた格好で座り込んでる真理は、自分を縛り着けていた縄を全て焼き尽くし、手足が自由になっていた。尻の下に敷かれていたボロ毛布は既に焼け、背後の幹は煙を上げている。周辺に樹木の焼けるにおいがただよう。

 身体が自由になった真理だが、そのまま座り込んだ姿勢で、幾分自分の腰を上げて、地面を転がり回る友宏のさらに向こうに自分の股間を向けた。

 ギャーギャーとうるさく声を上げながら地面を転がる、友宏の周辺の草にも火が燃え移っている。

 友宏の叫び声に林の方へ顔を向けた副施設長。征吾は嗚咽しながらも副施設長の一物を口の中に含み、器用に舌を動かしている。

 副施設長が友宏が地面を転げ、友宏の周辺の草が燃えているのに気が付いた次の瞬間、自分の方に向かって大きな火の玉が飛んで来た。

 副施設長は岩に腰掛けたままで、逃げようと決める間もなく、ただ巨大な火の玉が自分の方に飛んで来るのに驚いた。

 飛んで来た大きな火の玉は、副施設長の胸のあたりに着弾した。下半身裸の副施設長のワイシャツが燃え始めた。山崎征吾は急に副施設長が立ち上がったので、副施設長の一物から口を離して、勢いで後ろに尻餅を着いた。

 山崎征吾はびっくりして副施設長を見上げた。「うわー、うわーっ!」と声を上げながら副施設長が飛び跳ねている。副施設長のシャツに火が着いて燃えているのだ。副施設長は両手でバタバタと自分の胸や肩を叩いて必死で炎を払っている。

 山崎は何が起きているのか解らずぽかんとしたが、尻餅を着いたままの格好で首を回し、林の方を見た。奥の林の手前は草むらが燃えている。蟹原友宏の姿がない。

 奥の林は煙が立っていてよく見えない。キョロキョロ視線を動かすと燃える草むらの端っこに大きな人間の姿が転がっている。あの倒れているのが蟹原友宏だ。蟹原はあのままでは焼け死んでしまう。

 山崎が友宏の近くまで行って見ようと身体を起こしたとき、煙が立って見えない林の方から、突如、大きな火の玉が飛んで来た。火の玉は両手を拡げて抱えるほどの大きさがあり、自分の腰を降ろす直ぐ隣に落ちて、その場の草むらを燃やし始めた。山崎は驚いて飛び起きた。

 胸の炎を払い、なおも地面を転がり、何とか自分にまつわった炎を消した副施設長は立ち上がり、煙が立っている林の方を見やって、拳銃を振り上げて叫んだ。

 「何だ!何が起こってる?」

 副施設長は、自分の立つ回りの草むらも燃えていて、林の樹木に縛り着けた大佐渡真理や、そちらに向かっていた蟹原友宏が煙で見えなく、友宏が立っていたあたりは炎が強くなっている、という状況に動揺し慌てふためいた。

 「蟹原ーっ!おーい友宏ーっ!」

 副施設長が蟹原友宏を大声で呼ぶが、無論、返事はない。

 奥の林の方は盛大な煙が立って見えず、炎が強くなっている。草むらの両脇の木々にも火が着いたらしい。もう“山火事”の様相になって来た。

 副施設長が首を回して見ると、台地から山を下る道の方へ逃げて行く山崎征吾の背中が見えた。

 副施設長の頭に怒りが沸き起こった。副施設長は会社のオーナーサイドとそこで働く、使用人である被雇用者たちを、江戸時代以前の武家社会の主従関係で考えている。オーナーサイドの施設長や自分は主君であり、雇われてる者たちは皆“家来”だ、という意識でいる。山火事然とした危険な状況の中に、主人を放って家来が自分だけ逃げようとするとは何事ぞ、と激怒感情が爆発した。

 「うわぁ~」と声を上げ、両手を万歳の格好で上げて逃走する、山崎征吾の背中に向けて、副施設長は手にした拳銃を撃った。

 5連発のリボルバーはサイレンサーなど着けていない。2発の大きな銃声がこだました。

 山崎征吾はバンザイした格好のまま、山から下りの獣道を前のめりに倒れた。台地の端で、目出し帽を脱いで、突っ立ったまま呆然としていた宇羽階晃英は、目の前で現場の部下になる山崎征吾が背中に銃弾を浴びて倒れたので、さすがに驚嘆して倒れた山崎に駆け寄った。

 台地の草むらもあちこち燃えていて煙がもうもうと立ち始めた。宇羽階はまだ火の手の来てない獣道の傾斜で、山崎の身体を起こして抱え、大声で「山崎っ!」と呼んで身体を揺すった。

 副施設長の撃った銃弾は背中から山崎の心臓に命中したようで、口から血を流す山崎征吾に意識はなかった。

 職場の自分の若い部下を拳銃で撃ち殺すという、信じられないような暴挙を犯した副施設長を、宇羽階は意識のない山崎を抱いたまま首を回して睨み付けた。

 しかし、当の副施設長は、続いて飛んで来た大きな火の玉が足元に着弾し、黒焦げて穴の空いたシャツと下半身は裸の姿で、草むらを跳び跳ねていた。台地はもうかなり炎が回っている。急いで逃げないと炎に包まれてしまう状況だ。

 下半身裸で穴の空いた黒焦げシャツ姿の副施設長が、逃げようと山の下り道の方へ跳んで来た。副施設長は目の前の視界に宇羽階晃英の姿が入ると、山崎を抱えて中腰の宇羽階の顔に回転式拳銃の銃口を向けた。

 副施設長は、山火事の様相を帯びて燃える奥の林と、自分の立つ草原に、もうパニック状態になっていた。宇羽階が見るに副施設長の目がおかしい。狂気をはらんだ目をしている。

 宇羽階晃英は「ああ、これで俺は死ぬのか」と覚悟した。

 黙って自分を睨んでいる宇羽階に向かって、副施設長が言い放った。

 「奥で倒れた蟹原は焼け死ぬ。勿論、大佐渡もだ。山崎も死んだ。だからおまえも死ね、宇羽階。俺は1人で山を降りる」

 宇羽階は諦めて目を瞑った。

                 

 大佐渡真理は立ち上がっていた。真理の回りは煙で充満していた。地面の草むらも周囲の木々も焼けて炎に包まれている。丸裸の真理は自分の身体が真っ赤な色になっているのを解っていた。自分を縛っていた縄が焼けて手足が自由になったときに手も足も腹も見えるところは全部見た。自分の見えるところの肌が全て赤い。

 真理は自分の身体が高温を発しているのは解る。しかし不思議と自分自身は熱いという苦しさを感じない。周辺の木々が燃えて炎が熱いのは解るのだが、高熱に包まれた熱さの苦しさは全くないのだ。そしてここまで煙が充満しているのに苦しくない。

 先ほど、自分の性器から火を吹いた。真理は驚いていた。怒りの感情が頂点に達して爆発したとき、自分の股間から火の玉が出たのだ。“火球”と呼んでよかった。ゴオッと音を立てて火球が飛び出て二十メートルくらい遠くまで飛んで行った。

 ちょっと恥ずかしい気持ちになった。火球は五つくらい出て飛んで行ったろう。発射と言ってもいい。何しろその火球が飛び出たところが問題だ。こんなことってあるだろうか。

 恥ずかしくてたまらない気持ちもするが、そのお蔭で助かっているのかも知れない。自分をこんな山奥に連れて来て縛り着けた男どもはどうしたんだろう?

 そういえば自分に向かって歩いて来ていた蟹原友宏はどうなったんだろう?

 真理は丸裸のまま裸足で歩いた。自分の回りの焼ける木々の炎に手や腕が触れようが身体ごと炎に入ろうが熱くも何ともない。髪を触ってみた。髪も普通にある。燃えてなくなってることはない。

 とにかく山を下りなければ、と思って真理は炎と煙の中を宛どなく歩いた。

 その内、サイレンの音が聞こえて来た。山火事が山の麓の里の人たちに解るまでひどくなっているのだ。山の方に消防車が向かって来ている。ひどい山火事になれば何台も何台も消防車はやって来るだろう。

 真理は、とにかく山を下って降りなければと、炎と煙から逃れるように歩いた。不思議と裸足で地面を歩いても熱くも痛くもない。ただ、草や木の根や地面の感触は解る。

 真理は思った。「とにかく人に見つかってはいけない」と。真っ裸で異様に真っ赤な身体で歩くところを、誰か人に見つかってはとんでもないことになる。この山火事の中で警察に保護でもされたら取り調べが大変なことになる。

 私の性器から火球が飛び出したのを見たのは蟹原友宏だけだ。多分、友宏は焼け死んでしまっただろう。私の身体から出た火球が山火事を起こした、などと世間に知れたら私はこの先、生きて行けなくなる、などと真理は考えながら山を下る獣道を探して歩いた。

 蟹原友宏の焼死に対する罪悪感はあまり感じなかった。怒りで身体が熱くなって来てから、何だか怒り以外の細かな感情が鈍感になり、頭の中がボーッとしてる気がする。

 麓の方から聞こえて来る消防車であろうサイレンに、真理は、早くこの山から降りなければと草や笹や木の枝をかき分け、藪の中の獣道を探して、下って行った。

 しかし真理にはどの方角へ下って行けば良いのか、さっぱり解らない。闇雲に獣道を降りて行っても迷うだけかも知れない。自分が連れて来られたこの山は標高はたいしてないが連山になっていて森林が深い。ヘタをすると森林の中で迷ってしまい山林から出れなくなるかも知れない。それに警察に保護されていろいろ訊かれるのも嫌だ。

 獣道を下って歩きながら、この方角へ降りて行って大丈夫だろうか、と真理は困惑していた。真理はふと自分の腕を見て、身体の赤みが抜けて来ているのに気が付いた。自分の肉体の熱が冷めて来ているのが解る。怒りの感情も、もうすっかりなくなっている。あるのは真っ暗な山の中で、たった1人で歩く不安だけだ。

 振り返ると、山の頂き付近は燃え続けている。山火事の炎はこちらには這っては来なかった。背後が山火事で燃えている明るさはあっても、やはり山中の獣道は暗い。まだ寒さは感じないが、何しろ素っ裸だ、初秋の夜の山の中ではその内、寒くなって来るだろう。

 真理が「どうしようか…」と不安を強く感じたとき、突然、頭の中に子供の顔が浮かんだ。まだ十歳くらいの小さな男の子の顔だ。勿論、よく知ってる顔で、あの吉川和也君だ。

 真理は驚いた。こんなときにどうして、あの吉川和也君の顔がまざまざと思い浮かぶのだろう?まだ小さな子供の吉川和也君は私と同じサイキックだ。だが彼がどんな特殊な超能力を持っているのかは解らない。

 吉川和也の顔が頭の中にはっきりと思い浮かぶと、どうした訳か不安な気持ちが薄れて行った。それどころか何となく気分に余裕が出て来た。何だか知らないが大丈夫な気がして来た。

 真理がポジティブな安心感と気持ちを心に得たとき、下りになった獣道の先に小柄な生き物がいるのに気が付いた。

 如何に背後の山の頂上付近が山火事で燃えて炎の明るさがあるとはいえ、当然街灯などの明かり一つない闇の中の山中だ。月明かり星明かり以外の明るさは皆無だ。林の中の小動物など見えよう筈がない。

 だが自分の前、2メートルくらい先にいる動物は解る。犬だ。小柄な犬だ。別にこの犬の身体が光を発している訳ではない。だが、不思議とよく見える。しかもこの犬に全く敵意も怖さも感じない。むしろ安心できる存在に思える。

 犬はこちらを向いて「着いて来い」と言っているように思える。犬が獣道を下り始めた。真理は犬のあとを着いて降りる。

 犬は茶色い色をしていて中型犬よりもやや小さい大きさで、柴犬などの日本犬ではない。垂れた耳など、洋犬の雑種だろうか?

 犬はときどき止まって真理の方を振り返り確認している。ちゃんと着いて降りて来ているのが解るとまた進む。

 真理は何だかこの犬に対して安心感と、それ以上の頼りになる信頼感を感じた。今の真理には不安な気持ちが全くなく、この犬に着いて降りて行けば、きっと戻れる、というポジティブな気持ちが溢れていた。

 藪の中を先を行く犬が幾分、降りる速度を速めた。真理もそれに連れて少しスピードを上げて獣道を下って行く。

                  

 副施設長に拳銃で撃たれて口から血を吐き意識のない山崎征吾を抱き抱えて、山の頂上の台地から下る細道に膝を突いて中腰の宇羽階晃英は、両目を瞑って「ああ、俺はここで死ぬのか」と諦めた。

 宇羽階には小学五年生の可愛い娘がいる。二つ年下の愛妻もいる。二人の姿を思い出しながら「俺はこんな山の上で、こんな奴に命を奪われるのか」と無念に心を砕きながら、強く瞑った両目から涙が溢れ出た。

 大きな銃声が鳴った。宇羽階は「撃たれた!」と思った。「これで死ぬのだ」と思って完全に諦めた。

 が、何処も痛くない。何ともない。直ぐ前でドサリと倒れる音がした。宇羽階がそーっと目を開けた。

 宇羽階は驚いた。目の前に副施設長が倒れている。どうしたことだ!?と思ってまじまじと倒れている副施設長を見た。副施設長の身体は横に倒れたままピクピクと痙攣している。まだ生きているようだ。

 「宇羽階くん、邪魔。ちょっと避けなさい」

 聞き覚えのある声が背後からした。宇羽階が振り返ると吉高事務長が立っていた。拳銃を構えている。やはりリボルバーだ。それを片手に持って突き出している。

 吉高事務長は宇羽階の脇を、草道を2歩ほど昇ると倒れて痙攣をしている副施設長の身体の前に立った。

 銃声は副施設長のリボルバーからではなく、吉高事務長が副施設長を撃ったものだった。

 吉高春美は宇羽階らが勤める社会福祉施設の女性の事務長だ。年齢は40を少し出たくらいだろうか。

 宇羽階の驚きはこれ以上ないものだった。吉高春美は、普段は施設の管理棟の事務室でデスクワークをしている、普通の中年くらいの年齢のOLだ。その女性がリボルバーの拳銃を持ち、自分の上司になる副施設長を撃った。しかも落ち着き払った態度でいる。

 海老のように丸くなって痙攣を続ける副施設長を見下ろす格好で立って、吉高事務長は副施設長の腹部に向けて拳銃を持つ腕を伸ばした。そして引き金を引く。リボルバーの銃声がこだました。吉高事務長はトドメを射したのだ。

 平然として立つ吉高事務長に山火事の煙が寄せて来る。吉高春美はゴホゴホと咳をした。折しも火の手がこちらへ向かって来ている。宇羽階も煙を浴びて咳き込んだ。

 吉高事務長が宇羽階の抱いている、意識のない山崎征吾の片手に自分の拳銃を握らせようとしている。

 「何をしてるの、宇羽階くん!早く山崎くんを降ろしなさい。山崎はもう死んでるわ。助からない。さあ、早くここを立ち去るわよ!」

 吉高事務長が宇羽階に怒鳴った。吉高春美は両手に黒い布製の手袋を嵌めて、上は長袖の薄手の黒いブラウス、下も黒いスラックスを穿いて全身黒ずくめだ。靴も黒色のスニーカーを履いている。

 吉高事務長は直ぐに宇羽階の脇を抜けて何歩か下った。ぽかんとする宇羽階に再び怒鳴る。

 「急いで山を降りるのよ!山崎の身体は拳銃を握らせてそこに置きなさい。早く!」

 吉高事務長は大声でそう言うと、急いでまた数歩下った。宇羽階を煙が包んで来る。宇羽階は咳き込みながらも山崎征吾の身体を地面に横たえ、立ち上がった。振り返り、山崎の片手に拳銃が握られているか確認する。ぼやぼやしてたら煙どころか火の手も来て焼け死んでしまう。吉高事務長は既に7、8メートルは下に下っている。

 煙に包まれる中、宇羽階晃英も急いで山道を下る。飛び跳ねるように駆け足で下って行く。宇羽階はハッと気が付いた。彼は上はシャツを着ているが、副施設長にズボンとパンツを脱げと命令されて、下半身は何も穿いてなくてフリチンなのだ。

 宇羽階が振り返って頂上付近を見上げると、もうもうと煙が立ち、炎も見える。とても頂上の台地には戻れないし、ズボンもパンツも焼けて形もないだろう。横たわる副施設長と山崎征吾の付近も煙に包まれている。二人の身体が焼けてしまうのも時間の問題だろう。

 先を行く吉高事務長の姿が見えなくなった。上方は山火事の炎で明るいが、事務長が行ってしまった下方は真っ暗だ。とにかく降りようと宇羽階が何歩か下ると、下に小さな明かりが見えた。多分、事務長が懐中電灯を持っていてそれを点灯したのだ。

 宇羽階は小さな明かりに向かって山道を急いで下った。

 事務長が待ってくれていた。

 「何をやってるの、宇羽階くん!早く急ぐのよ」

 宇羽階はまた怒鳴られた。

 宇羽階は懐中電灯を照らして先を行く事務長を追って、藪の山道を急いで下る。

 真っ暗いが先で山道が二手に別れているのが解る。事務長は自分たちが登って来た道と違う方に降りる。

 「事務長、そっちじゃありません。車はこっちの道です」

 宇羽階が事務長の後ろ姿に叫んだ。

 事務長が振り向いて怒鳴った。

 「あんた馬鹿じゃないの!?そっちの本道の方に行けば消防や警察が登って来るでしょ。私たちは四人の死体を放って下ってるのよ!」

 そういえばさっきから麓の方から消防車のサイレンが鳴っている。何台も来ているようだ。多分、パトカーもやって来るだろう。

 事務長は黙ってまた本道とは違う脇道を下る。宇羽階はそれを追い掛けた。

 宇羽階には事務長の考えが解った。「山崎に拳銃を持たせたのは、拳銃を握る副施設長と相討ちで双方とも死んだように工作したのだ。要するに副施設長、蟹原友宏、山崎征吾、大佐渡真理の四人で施設のワゴン車で山に来て、山の上で四人が何らかのいさかいになり、殺し合いにまで発展し、山火事に捲き込まれて全員死亡したというストーリーにしたのだ」宇羽階はそう推理しながらも事務長の後を追った。

 「俺も事務長も決して消防や警察に見つからずに山を降り、この山火事や四人のことには全く無関係で知らなかったことにするのだろう」宇羽階は事務長の考えをそう読んで、山の麓に降りて落ち着いたら、事務長にそう含まれるのだろう、と思った。

 宇羽階晃英は事務長の背中を追って、山中の林や藪の山道を下って行った。

 

★「じじごろう伝Ⅰ」狼病編(24)はこれで終わります。この物語はまだ続きます。次回、狼病編(25)へ続く。

 

※この物語はフィクションであり、実在する団体·組織や個人とは全く関係がありません。また物語の登場人物に実在するモデルはいません。

 

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編23(2022-1/14)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編22(2021-4/29)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編21(2020-10/15)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編20(2020-10/12)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編18(2019-5/31)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編15(2018-2/28)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編12(2016-2/20)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編6(2012-12/1)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編1(2012-8/18)
◆じじごろう伝Ⅰ[ 長いプロローグ編・狼病編] 登場人物一覧(2013-5-28)

◆じじごろう伝Ⅰ 長いプロローグ編1(2012-1/1)

 

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●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」狼病編..(23)

23.※(今回も全力シモネタ小説)

 薄目が開いて、大佐渡真理は明るい、と感じた。目蓋が開ききる前に眩しい、と感じた。

 まだぼんやりしている。意識がはっきりしない。とにかく、眩しさに顔の前に手を持ってこよう、と思ったが腕が動かない。両手が後ろに縛られている!

 眩しいのは投光器で照らされているらしい。身体が動かない。真理はギョッとした。両腕を後ろに回され、樹木の幹に縄で括り着けられている。縄は、何と自分の乳房の上と下を通って縛ってある。

 意識がはっきりした真理は、現在の自分のある状況に戦慄した。両足も動かない。自分は素っ裸で荒縄で木の幹に縛り着けられ、両足は大股開きで陰部をあらわにされて、両方の足首を地面に打ち込まれた杭に括り着けられ、動けないよう拘束されているのだ。

 大変だ!と身体のあちこちを動かし揺すってみるが、頑丈に縛り着けられていて、たいした動きはできない。とてもこの拘束からは逃げ出せない、危機的状況だ。

 しかも、助けを呼ぼうにも、肝心要の口に何かを咥えさせられ、声を上げることができないようにされてある。口に小さな硬いプラスチックのボールのようなものを咥えさせられ、後頭部で固定されてるようだ。

 投光器の光は眩しいが、自分の顔を狙って当てているというよりも、地面に尻餅を着いた格好で大股開きにされた女性の陰部を照らし上げている。

 丸裸の身体に弛い風が少し寒い。屋外だ。虫の鳴き声が騒がしい。ここは戸外で、しかも山の中のようだ。投光器で当てられた光以外の周囲は暗い。

 投光器の光の向こうに人影が見える。四つの人影が集まって何やらヒソヒソと話をしている。真理は思った。こいつらがあたしを裸にして、荒縄で木の幹に縛り着けたのだろう。

 四つの影が少し間を空けて離れた。大中小とある影は四つとも男性のようだ。みんな、体形に見覚えがある。

 真理はハッと思い出した。そうだ、あたしは残業で遅くなって、退社に一人、施設の職員駐車場の真っ暗い隅に停めた自分の車まで行って、そこで後ろから強い力で誰かに羽交い締めされた。

 羽交い締めされた腕の他にもう一つ手が伸びて来て、ハンカチか何か口に当てられたかと思うと、また別の手で腹部に強烈なパンチを叩き込まれた。あたしは気を失った。

 そして意識を取り戻したら、丸裸にされて、身動きできないように頑丈に縛り着けられていたのだ。しかも山中の樹木に、そしていわゆるサルグツワのように口枷を嵌められて声を上げれないようにされている。

 真理は顔を左右に激しく振り、口枷の嵌まった喉で精一杯、呻き声を上げた。身体中を激しく揺すってみるが、荒縄縛りは到底弛くはならない。真理は泣き声を上げるが、口枷からウーウーという呻きが漏れるだけだ。

 投光器の光の中、四つの男性の影がこちらに近付いて来る。男たちの姿に投光器の光が遮られる。見覚えのある四つの影は、大も中も小も顔に覆面をしていた。よく見る、ニットか毛糸かのすっぽり被る目出し帽だ。

 覆面を被ってTシャツにカジュアルなズボンという姿でもよく解る。毎日見慣れた姿格好だ。一番大きいのが蟹原友宏だ。一番小さいのが山崎征吾。そしてまあま身長があって体格が良いのが副施設長。体格は良いが中年らしく肉がたるんでいる。そしてこのメンバーに意外だったのが、割りと長身の方で体格も良いが蟹原友宏ほどの体格はない、主任の宇羽階晃英だ。眼鏡の上から目出し帽を被っている。間違いない。

 丸裸に剥かれて樹木に縛られ、両股を大きく開かれて拘束された自分と、今日夕方の副施設長も含めて日頃から自分といやらしいことをしたがっていた三人。こいつらの魂胆は解りきっている。今から自分をレイプするつもりだ。

 大佐渡真理はそう考えると、恐怖心も強かったが悔しくて腹が立った。そしてこの卑劣な犯罪行為に、職場現場の直属の主任である宇羽階晃英が加担していることがショックだった。現場の上司として信頼もしていたのに。

 大佐渡真理は涙を流して、口箝具を嵌められた状態で嗚咽しながらも、悔しくて悔しくてギリギリと歯噛みしていた。正確には、力いっぱい噛んでいるのは丸いプラスチック状の口箝具なのだが。

                

 大佐渡真理が意識を取り戻す少し前…。

 宇羽階晃英は苦悩していた。取り敢えず、副施設長の悪だくみには参加してしまった。夕方からずっと苦悩したまま迷っていた。しかしこれまでイエスマンのサラリーマンとしてやって来た宇和階には、はっきりと副施設長に参加を断ることができず、ついついずるずると副施設長の計画に乗って行動している。

 副施設長はただの上司ではない。この社会福祉施設のオーナーサイドの一員で社会福祉法人の理事の1人でもある。同族経営のこの施設の理事長や施設長、理事の一部などは親族で固めていて、権限が一族に集中している。そして運営方針は理事長·施設長·副施設長のワンマン経営体制で、この三名の強権体制を敷いている。つまり独裁だ。

 特に副施設長の役目は職場のミカジメ役で、いわば現場監督で、現場の職員たちを管理という名のもと、強権でシメている。自分たち経営者一族の管理体制に逆らうことは絶対に許さない。職員が少しでも逆らう態度を見せたなら、現代の社会福祉施設の職場がら暴力を振るうことなぞないが、ウムを言わさずクビを切っていた。

 一説によるとこの職場から見なくなった、これまでの大勢の職員の内、大半は退職しているが、中には行方不明になったまま未だに発見されていない職員もいるというウワサがある。そのウワサに関してはそれから以上は誰も詮索しないし何も言わない。この職場に限っての話だが、都市伝説のようなウワサになっている。

 宇羽階は今晩、ここまでのことを思い出していた。

 退勤して駐車場に向かった大佐渡真理を、駐車場の隅の植え込みの影に隠れて、目出し帽ですっぽり顔を隠した、宇羽階と蟹原と山崎は待っていた。暗い駐車場の中でも大佐渡の乗用車は、街灯の光が届いてない一際暗い端の方に停めてあった。

 自分の車の横に立ってキーを取り出した大佐渡を、宇羽階が背後から羽交い締めにし、振り返ろうとする大佐渡に、山崎が横から腕を伸ばし、ハンカチを宛てて声を上げれないよう口を押さえ、そこへ蟹原が飛び出して来て、腹部のみぞおちにアッパーでパンチを入れた。蟹原の当て身が決まって、大佐渡真理はがっくりと崩おれた。

 山崎はハンカチにたっぷりと何か液体の薬品を染み込ませていた。そこに副施設長の運転する大型のワゴン車を横付けした。宇羽階·蟹原が、意識を失った大佐渡の身体を抱え、山崎は大佐渡の口をハンカチで押さえたまま、ワゴン車の後部座席に乗せた。三人の男は急いでワゴン車に乗り込む。

 大佐渡を積んで三人が乗り込んだことを確認するやいなや、副施設長がワゴン車を駐車場から走らせた。ワゴン車は峠の方へ向かい、滅多に人の入らない山間部へと車を入れた。

 残業して大佐渡が退勤になった時間は遅く、施設の大部分の日中勤務の職員は既に退社していた。駐車場には人がいなかったし、暗い駐車場で大佐渡を拉致した現場は誰にも見られてないだろう。施設長は今日は一日、都市部での会議に出張して不在だった。

 車の中の大佐渡は失神したまま眠っていた。山崎のハンカチの何やら薬品というよりは、武道経験の豊富な蟹原の当て身が効いたのだろう。副施設長の運転するワゴン車は真っ暗な山道を登って行く。

 やがて山道の舗装もなくなり、道が細くなってとても自動車が入って行けなくなって車を停め、気絶したままの大佐渡真理を蟹原が肩に抱え、四人の男はさらに山道を登った。

 獣道のような細い林の中の道を登り、草むらになった丘に出た。副施設長の命令に従い、蟹原と山崎が大佐渡を丸裸に剥いた。平らな丘の上の端に立つ大木に、宇羽階·蟹原·山崎の三人で、副施設長の指示されるまま全裸の大佐渡を縛り着けた。

 立木の両側に杭を打ち込み、大股開きにした両足を杭に括り着けながらも、宇羽階は苦悩し続けた。これは拉致拘束や誘拐といった犯罪だ。如何に上司の命令とはいえ、俺たちはここまででも間違いなく犯罪を犯してしまった。もう逃げられない。

 駐車場の端の暗闇に潜んだところから今までを思い起こしながら、宇羽階の気持ちは重く苦しかった。うつむいたまま悔恨の念に捉えられ、だがもう逃げられないと諦め、泥のように重たい気分で宇羽階は茫然としていた。

 「おいっ、宇羽階!何ボサッと突っ立ってるんだ!?」

 副施設長が怒ったように宇羽階に声掛けた。同じように草むらに立つ、蟹原と山崎が宇羽階を見る。

 「しっかりせんか、宇羽階!主任のおまえがそんなことでどうする!?若い者たちの手本にならにゃあ駄目だろうが」

 なおも副施設長は、三人の部下の中で一番年上の宇羽階を叱り着けた。

 「はい」と返事した宇羽階は思わず気を付けの姿勢になった。他の二人も自然と姿勢を正して立つ。

 暗闇の草むらの中で、用意した投光器の光が丸裸の大佐渡真理を照らし出している。特に投光器の直射光は古毛布の上、大股開きにされた女性の秘所に当てられている。

 一方、副施設長と三人の男性職員の間には、ランタンが置いてある。宵闇の山の上の台地には何も明かりがない。副施設長が用意して持って上がって来ていた。

 副施設長は数歩歩いて、並んで立つ三人の部下の前に来た。両手を腰に当てて構える。三人は神妙な態度で気を付けの姿勢に近い。まるで軍隊で上官の指揮を受ける歩兵である。

 「これからこの極秘プロジェクトの最終段階、目的の決行に移る。みんなよく頑張ってくれた。獲物はあのとおりだ」

 副施設長が振り返って、顎で全裸で幹に縛られた大佐渡真理を示す。

 「これからの段取りを伝える。もう直ぐ、大佐渡は目を覚ますだろう。先ず先鋒として宇羽階が女を犯し、主任としての手本を見せる。次が山崎、おまえだ」

 名前を上げられた山崎征吾は、まるで光栄を得たように明るい笑顔を上げて副施設長を見る。副施設長がこくりと頷いた。この頷きには頑張れよという、激励の意味が籠められている。

 「山崎の次が蟹原が犯す」

 蟹原友宏が顔を上げ、副施設長の方を向く。

 「副施設長先生。偉大な副施設長先生を差し置いて自分が先に女を味わうことはできんであります」

 口には出さないが、蟹原は人並み外れた大きさの一物を女にぶち込んで、秘穴をゆるゆるにしてしまうことを心配していた。

 「蟹原よ、おまえの気持ちはよく解る。おまえのモノは規格外のデカさだ。後の者の味わい具合を心配してくれているんだろうが、昼間に話したとおりワシの一物も現在は情けないことになっておる。おまえが特大の弾頭で拡げてくれた後の方が都合が良いんじゃよ」

 「ははっ」と気を付けの姿勢のまま、蟹原が返事をする。

 宇羽階主任が下を向いたままで、何やら浮かない様子を見せている。副施設長が「ん?」と、それに気付き宇羽階の方を向いた。

 「どうした宇羽階、何だか冴えない調子だな?」

 副施設長に声掛けられた宇羽階は黙って下を向いたままだ。

 「よーし、三人とも。ズボンとパンツを降ろせ。下は裸になるんだ」

 三人は副施設長に言われるまま、ズボンとパンツを脱いで草むらに置いた。

 「じきに俺も脱ぐ」そう言いながら副施設長は三人の股間をじろじろと見回した。

 「おう、山崎。もういきりたっとるな。感心感心」

 山崎征吾の一物は勃起している。全裸で樹木に縛り付けられた女の姿に早くも興奮しているのだ。上司に褒められて山崎はテレたように頭を掻いた。蟹原友宏は大きな一物を普通にぶら下げていた。

 「おう、カニトモは相変わらず太いな。いいぞいいぞ、良いち×ぽだ」

 「はあ」蟹原も副施設長の言葉にテレて微笑し、頭を掻いた。

 そして副施設長は宇羽階主任に顔を向けた。宇羽階は下を向いて突っ立っている。副施設長の視線が宇羽階の股間に止まったままになる。

 「どうしたんだ、宇羽階?おまえのち×ぽは元気がないぞ」

 副施設長のそう指摘する、宇羽階の股間の一物は、まるで寒くてたまらないときや恐怖心に支配されたときのように縮こまっている。宇羽階は黙って下を向いたままだ。

 「こんなときこそ、蟹原や山崎のような部下に、主任という役職の威厳を見せねばならんときに、何だそのザマは!?それがワシたち首脳部が管理·経営する、この施設の主任職か!恥を知れ、宇羽階」

 副施設長は強い言葉で主任職·宇羽階を叱り着けた。

 「ふんっ、だらしないち×ぽをしおって。ワシはおまえをそんなだらしない職員に育てた覚えはないぞ」

 なおも副施設長の怒りの檄が飛ぶ。宇羽階は下を向いたままで、変わらずちんちんは縮こまったままだ。

 「まったくしょうがない奴だ。そこへ行くとまだ新人クラスの山崎はどうだ。もうち×ぽをビンビンにおっ勃てておる。若いのにたいしたヤツだ。宇羽階、チャンスをやる。ここが男の見せどころだ。ち×ぽを勃ていっ!自分の手で刺激を与えてでもち×ぽを勃ていっ、宇羽階!」

 副施設長は若手の超スケベイ変態職員、山崎征吾を引き合いに出してでも、何とか宇羽階主任のち×ぽを奮い勃たそうと、激しい口調で檄を飛ばし続ける。

 しかし宇羽階晃英の態度は違ってた。職場ではオーナーサイドへの一途なイエスマンである宇羽階が副施設長に同調しなかった。

 「お言葉を返すようですが、副施設長…」

 下を向いたままだった宇羽階が少し顔を上げて、おそるおそるという調子で話し始めた。副施設長は黙って宇羽階の様子を見ている。

 「今回ばかりは私は副施設長先生のお言葉に殉ずる訳には行きません。副施設長先生、考え直してください。今からでも遅くはありません。これは犯罪です」

 宇羽階は若干震え声になりながらも、オーナー側上司に反する自分の意見を一気に喋った。宇羽階としてはとてつもない勇気が要った。

 副施設長の握り締めた拳がプルプルと震える。副施設長が怒鳴り声を上げた。

 「そんなことは解っとるわい!犯罪は百も承知だからこそ極秘プロジェクトなんじゃっ!それをやってのけるのがリーダーの私とおまえたち、選ばれた職員なんじゃないか。もっと誇りを持たんか。見ろっ、山崎のち×ぽを。こんなときでもそそり勃っとるぞ」

 副施設長が腕を伸ばし、山崎征吾の股間を指差した。山崎の一物はお腹にくっつきそうなくらい高らかに勃起している。

 「蟹原、ちょっと山崎のち×ぽを弾いてみいっ」

 「ははっ」

 副施設長の指図に、蟹原友宏が隣の山崎のそそり勃つ一物を指で下に押した。山崎のち×ぽは弾力良くビョンビョンと跳ねて臍下あたりの腹部を二、三度叩いた。

 「見てみろ宇羽階、この山崎の立派なち×ぽのありさまを。蟹友もいつまでも大きな物をぶらんと提げてないで、元気良くおっ勃てなきゃいかんぞ」

 「はっ」

 蟹原が軽く頭を下げてキリッと返事をし、自分のだいこんほどもある一物を片手で持ってぶるんぶるんと振った。

 蟹原の大きな一物を見ていた副施設長が、ふと気が付いたように蟹原に言った。

 「そうだ蟹友、おまえのち×ぽでワシを扇いでくれ。ここは蒸し暑い」

 「と、言いますと?」

 「おまえのその人間離れした一物で思い付いたんじゃ。剣道三昧で鍛えた腰ならできるじゃろう、人間扇風機、いやちんちん扇風機をやれ」

 副施設長の話にピンと来た蟹原は、腰を回すように振って、自分の大きな一物を扇風機の羽に見立てて、ぐんぐんと回した。

 蟹原友宏が腰を回して振り続けると、大きな一物が遠心力でブーンブーンと回転する。回転するごとに少しずつ蟹原の巨大ちんぽが大きくなって行く。移動して蟹原の前に立った副施設長は、気持ち良さそうに風を浴びた。

 「おう、風が来るぞ。さすがじゃのう、蟹友。剣道で鍛えた腰と人間離れしたちんちんの賜物じゃのう」

 隣に立つ山崎も宇羽階も驚いて見ていた。大きめの大根ほどもある一物を腰回しの動きでブンブン回転させて、前方に風を送っているのだ。とても人間ワザではない。宇羽階は、これはまるで人間風力発電機のようだと思った。

 副施設長は、心地よい風にあたって気持ち良さげにしていたが、しばらくすると風を送っている蟹原友宏が「ううっ…」などと、呻きを上げて身体をねじり始めた。

 蟹原の異様な様子に、宇羽階も山崎も、何があったのか?と思いながらポカンと見ていた。蟹原自身は自分の大きな一物をかなりの速度で回転させながらも、身体をねじるようにさせながら、全身を左右に揺らせている。つまりクネクネさせて、表情は苦しそうだ。

 前に立って風にあたっている副施設長が声を掛けた。

 「どうした蟹友?気分が悪くなったのか?」

 蟹原はそれに答えることなく、顔をしかめて苦悶の表情だ。蟹原の口から漏れる呻きが強くなる。

 「ああっ」

 蟹原がひときわ大きく呻いた。すると回転している蟹原のちんちんがしぶきを上げた。ドビュッ、ドビュッという液体が勢いよく漏れ出る音がした。

 「うわっ、何か飛んで来たっ!」

 直ぐ隣に立つ山崎の顔に液体の飛沫が掛かった。山崎が顔を拭うとベチャベチャしている。

 「わあっ、臭えっ」

 山崎は青臭いにおいに顔をしかめて、手のひらで顔を拭い、直ぐさま、脱いだズボンの後ろポケットに突っ込んでた手ぬぐいを引っ張り出して、顔を拭いた。ベタベタした手のひらもタオルでよく拭き取る。

 蟹原友宏のちんちんの回転が止まり、本人はガックリと両膝を突いた。ぜいぜいと息が荒い。

 「す、済みませんでした、副施設長先生。発射してしまいました」

 荒い息を吐きながら、絞り出すように一言、何とか謝罪の言葉を口にした。ぐったりして縮こまったちんちんの先が草に隠れる。縮こまったとしても蟹原の一物はデカく、膝立ちで地面に先が着いてしまうのだ。

 要するに蟹原友宏は、激しく回転させる己れのちんちんが風の摩擦抵抗に合い、風の摩擦刺激によって自分の一物の先の一番敏感なところが、風摩擦に負けて反応してしまったのだ。だから今の蟹原の苦しそうな顔の表情は、実は、とても気持ち良い表情だったのだ。蟹原友宏は己れの一物を高速回転させて空気抵抗の摩擦によってマスターベーションを行うという、正に人間ワザでは考えられないことをやってのけたのだ。恐るべし、カニトモチンポ。

 山崎の向こう隣に立つ宇羽階の顔までも、蟹原のプロペラ状のちんちんが放った精液が飛んで来たらしく、宇羽階もタオルで顔を拭っている。

 「ほほう、素晴らしい性能じゃのう、蟹友」

 副施設長が感心して言う。

 「大丈夫か、蟹友?こんなことで発射して。これから本番だぞ」

 「はっ、大丈夫であります。何の一回の射精くらいで」

 蟹原が立ち上がって応えた。

 「おうっ、感心感心。さすがはワシが見込んだだけのことはある。若手では主任一番乗りだな」

 「ははっ、ありがたき幸せにございます」

 「よしよし」

 そう言った副施設長は満足そうな微笑を浮かべたが、顔を回し宇羽階に視線を向けると険しい表情になった。相変わらず宇羽階晃英は下を向いたままで、力なく突っ立っている。

 「ふんっ、しょうがない奴だ。もう、おまえは主任から降格だな。丸裸で縛られた女の姿を前にして、ち×ぽも勃たんような奴はウチの職場には要らんぞ、宇羽階」

 副施設長は憤慨して宇羽階主任に向かって言った。言われた宇羽階はうなだれて下を向いたままだ。剥き出しの下半身も、ちんちんは力なく、小さくなったままぶら下がっている。

 「宇羽階っ、ここまで来たらもう引き退がれんのじゃぞ!」

 副施設長が強い口調で怒鳴った。宇羽階が顔を上げた。

 「しかし副施設長先生、これは犯罪です。大佐渡くんが可哀想です。縄を解いて服を着せて帰してあげましょう」

 「黙れ、宇羽階!」

 反発した宇羽階に怒って、副施設長は大きな声を出した。かなり標高のある山の上の台地だ。副施設長の怒鳴り声はこだました。

 「この女は、施設ナンバーツーの、オーナーサイド管理職のこのワシに逆らった女だぞ。こういう目に合うのは当然の報いだ」

 「でも、大佐渡くんがこの後、警察に駆け込んだらいったいどうするおつもりですか?」

 副施設長と宇羽階が言い争う。蟹原と山崎はポカンとして成り行きを見ていた。いつの間にか山崎の一物の興奮も解け、だらんと股間にぶら下がっている。

 副施設長がニヤニヤ笑い出した。そしてじっと宇羽階を見て言った。

 「何を言っとるんだ?宇羽階。この女が警察に駆け込むだぁ?」

 副施設長が可笑しそうに笑う。

 「はい。大佐渡くんが被害者として通報して刑事事件となれば、施設は大変な事態を迎えます。加害者は私たち雇われ職員だけでなく、同族経営のオーナーサイド管理職の副施設長先生、あなたがいるからです」

 意を決したように宇羽階は副施設長に向かってはっきりと反論する。副施設長は笑うのをやめて、憎々しげに宇羽階を睨んだ。

 「こやつめ、おまえまでもがこのワシに逆らいおって。おまえもこの女と同罪だな。いいか、宇羽階、教えてやろう。この女が警察に通報することなんぞ永久にない」

 宇羽階が驚いて顔色を変えた。といっても灯りは副施設長と三人の職員の間のランタンだけである。あとは、木の幹に縛り着けられた大佐渡真理の股間を照らし出してる投光器の明かりだけだ。宇羽階の顔色までは判別できないが、宇羽階は戦慄した。

 「ま、まさか副施設長先生、大佐渡くんを殺してしまうのでは!?」

 宇羽階の口調が強くなり、声が大きくなる。

 「馬鹿者!こんな若くて可愛い女をそんな勿体ないことするか。こいつはこの先、地下で永久に売春婦として生きるのだ」

 副施設長がなおも怒鳴る。副施設長の言葉に唖然として声が出ない宇羽階。

 「もうこうなったら何もかも話してしまうが、実はあの施設の下には地下に別に施設を作っておるのだ。勿論、正業である社会福祉施設とは関係ない施設だ」

 副施設長の話し出したことに呆然として固まってしまう三人の職員。

 「ほれ、おまえらも知っとるだろう?これまで我が施設を辞めて行った数多くの職員の中で、今でも行方不明のままの人間がおることを」

 副施設長の話は続く。三人は黙って聞いている。

 「ワシらオーナーサイドに逆らった者たちの末路だ。その者たちは今も施設の地下にいる。男は奴隷として地下施設建設の現場で毎日長時間、肉体労働をさせておる。女は性奴隷だ。ワシらに逆らった職員みんなではない。特に目立った者たち何人かだがな」

 副施設長の声が低くなった。三人はゾッとした。ちんちんが縮こまっているのは最早、宇羽階だけではない。三人ともにちんちんは縮み上がり情けない状態になっている。

 「ち、地下施設は何に使うのですか?」

 蟹原がおそるおそるという感じで声を発して訊いた。

 「ズバリ、犯罪施設だ。裏カジノ、売春温泉。農場も作る。大麻とケシの栽培だ。工場も作る。違法薬物の加工工場だ。覚醒剤や大麻他、合成麻薬だ。我々は犯罪の多角経営に乗り出す。日本の経済は日に日に悪くなっておる。何と言ってもこれからは闇経済の時代だ。ワシの夢は日本のマフィアのボスになることだ」

 三人の職員はびっくりして一言も声が出ない。ただ呆然と突っ立っているだけだ。

 「だから宇羽階、心配は要らん。大佐渡はここでマワサレた後、地下に監禁して客を取らせる。それと、ときどきワシやワシの腹心の部下の慰みモノとなる。宇羽階、おまえもワシに逆らえば地下施設行きだ。蟹原も山崎もここまで聞いた以上、もう後戻りはできんぞ」

 宇羽階を初め三人とも驚きと恐怖で声が出ないままだ。

 「宇羽階、目を覚ませ。おまえは生粋のイエスマンだったじゃないか。何も考えずにワシに着いて来い。今までのままのイエスマン·宇羽階であれば、地下施設完成の折りには、地下カジノの支配人か、地下売春温泉の支配人にしてやるぞ。もしまだ逆らうと言うのなら…」

 そう言って副施設長は上着のふところに手を入れた。

 「これじゃ」

 副施設長がふところから取り出したのは小型の回転式拳銃だった。手のひら大の5連発のリボルバーだ。副施設長は銃口を宇羽階に向けた。宇羽階は身体を小刻みに震わせながらも、思わず両手を上げた。明るければ宇羽階の顔はきっと真っ青だろう。

 「ふ、ふ、副施設長先生、や、やめてください」

 宇羽階が震え声で懇願する。

 「こ、殺さないでください」

 宇羽階の声がほとんど泣き声のようになった。

 「ははははは」と副施設長が高笑いした。宇羽階の胸に向けた銃口を降ろす。

 「こいつはワシの護身用さ。ワシくらいの地位の人間になると、いつなんどき狙われるやも知れんからな。一応いつも身に着けておるのさ」

 副施設長は拳銃を自分の顔の前でもてあそびながら、自慢気に話した。

 「まぁ、そういうことだ宇羽階。そして蟹原、山崎。おまえらはこの施設の最重要秘密を知ったんじゃ。もう絶対に後戻りはできん。ワシに着いて来るか死しかない」

 三人の社会福祉施設現場職員は、恐怖心でカチカチに固まってしまって動けない。まるで氷水の冷水を浴びせられたように気分は冷えきっていた。身体は小刻みに震えている。三人とも、とてもこれから女を相手にどうこうしようという気持ちにはなれない。

 「さあ、そろそろ大佐渡が目を覚ます頃だ。みんな覚悟はいいな?一応、用意した目出し帽を被れ」

 副施設長がニットの目出し帽を出して頭に被る。三人の職員もそれに倣って頭から被り、すっぽりと顔を隠す。

 副施設長がズボンを降ろし、パンツを脱ぎ捨てた。

 既に下半身すっぽんぽんの三人の職員だが、三人とも股間の一物は小さく縮こまっている。先ほどまでビンビンに勃起していた山崎のちんちんも、まるで股間にめり込むように小さくなっている。見た目、小さな金魚くらいの大きさしかない。蟹原も自慢の超巨砲がウソのように小さくなっていた。ふだん大きめの大根の大きさを誇るカニトモちんちんも、今は成長途中のナスほどの大きさしかない。

 宇羽階のちんちんも縮こまったままだ。宇羽階はずっと暗く重たい気持ちのままだ。三人とも心身ともに、とてもこれから女を相手に性行為などできる状態ではない。

 三人の股間を見た副施設長が機嫌悪く言った。

 「ふんっ、だらしない奴らだ」

 そういう副施設長の股間も力なくぶらんと下がったままだ。

 身体を木の幹に縛り着けられ、両足を地に打ち込んだ杭に繋がれて大股開きにされ、女性の秘部を煌々とライトで照らし着けられている、大佐渡真理が頭を振り振り身体を揺らし始めた。意識が戻ったらしい。

 「おい、大佐渡が目を覚ましたぞ。早く始めるぞ」

 副施設長が三人に向かって声掛けた。三人が低い声で返事をする。四人とも覆面をしているので声がくぐもっている。なおかつ三人の部下の声が小さいので、副施設長は気に入らず機嫌を悪くして舌打ちをした。

 三人の社会福祉施設現場職員は、ハンデを抱えて生きる人たちの支援をすることを職業としようと、この仕事に就き、施設で働き続けている、元は優しい心根の若者たちである。蟹原友宏も山崎征吾も、ちょっと女好きでスケベイなだけで、ごく普通の若者だ。

 三人は普通に真面目に労働して市民生活を送るただの若者たちだ。それが今、拳銃で脅され、職場の幹部上司から命令されて同僚の若い女の子を輪姦レイプしようとしている。いや、強制的にさせられている。三人とも表情は泣き顔になっていた。

 何よりも拳銃で脅されたことで、恐怖心で心身ともに怯えきって、同時に今聞かされた話で、もうこの先副施設長の支配から逃げられないと考えると、気持ちは真っ暗闇の穴底に落ち込み、身体はカチカチに固まって股間は縮み上がってしまっている。

 「おい、おまえら、ちゃんとち×ぽを勃てんかっ!」

 副施設長が怒鳴った。

 「しょうがない奴らだな。しっかりち×ぽを勃てるように自分で何とかしろ」

 という副施設長の股間もだらんとしたままなのだが。三人はポカンと突っ立っている。

 「ええいっ、何をしておる!自分で刺激して早く勃てて、大佐渡にぶち込むんじゃ!」

 副施設長がイライラして怒鳴り上げる。副施設長は、ここに来て自分の思いどおりにコトが進まないので、たまらない気持ちで機嫌が悪く、顎のあたりや握った両拳が怒りの興奮でプルプル震えている。

 拘束されて身動きできない大佐渡真理が、とにかく身体の動く部分は全部揺らせて、さるぐつわの嵌まった口からは呻き声を洩らし続けている。頭も左右に激しく振っているがどうにもならない。

 副施設長の命令で、三人の職員は下半身すっぽんぽんの股間に己れの手指を当てて刺激を与え始めた。蟹原友宏がポケットから小瓶を取り出して手のひらに振って液体を落とす。

 「何すか、それは?」

 隣の山崎征吾が訊いた。蟹原は液体を両手に広げて、自分の一物に塗り着け始めた。

 「これはオイルだ。俺のはよ、人並み外れて太いだろ。女に使うときに入りやすいように常にオイルを持ってるんだ」

 「なるほど。先輩、僕にも貰えないっすか?」

 「おまえのは普通サイズだろ」

 「いいえ、この状況でもう勃ちそうにないんで、オイルでヌルヌル刺激を与えたら何とかなるんじゃなかろうかと」

 蟹原は両手を開いて差し出す山崎の手のひらに、オイルの小瓶を振った。山崎は礼を言って、両手で己れの一物にオイルを擦り込むようにして揉み始めた。山崎の一物は、オクラが下腹にめり込んだように小さくなっている。

 両手でオイルを塗り込んで刺激を与えている蟹原の一物は、最初ナスの成長途中くらいの大きさだったものが、両手を使って揉み込むようにオイルを塗り込む内に、見る見る膨らんで来て、成熟した大き目のナスくらいの大きさになった。

 一方、山崎の方はどんなにオイルを使って揉み込んでも、一向に大きくはならない。勿論、硬くもならず、小さなふにゃふにゃしたもののままだ。

 宇羽階も自分の一物に刺激を与えているが、何しろ気持ちが、真っ暗闇のどん底気分で絶望的なので、とてもちんちんが勃起するような状態ではなかった。

 腰に両手を当てて傲然と三人の部下を見ている副施設長は、だらんとぶら下げたままで自分で刺激を与えている訳ではない。しかし、口箝具で口を塞がれて呻き声しか出ない大佐渡真理が明らかに泣いているのを見て取ると、生来のサド気質が刺激を受けて、ぶらんとした一物がピクピクと小刻みに反応し始めた。先ほどよりも幾分、膨らんで来ている。

 オイルをたっぷり手のひらに落として両手で自分の一物をシゴき続ける山崎征吾だったが、恐怖心と精神的な落ち込みが激しく、小さく縮こまったちんちんは一向に大きくも硬くもならない。ふにゃふにゃした小さなオクラ状のままだ。

 何とかしなければいけないと強迫観念に責められる山崎は、それでもひたすらシゴき続けた。そうしている内に、山崎が身体をよじらせて「ああっ」と声を上げた。山崎の身体の中を一瞬、快感が走った。

 山崎の一物は少しも大きくも硬くもならないままで、先端の一番敏感な部分が、ぬるぬるオイル指摩擦による刺激に負けて、主人の意に反し息子が発射してしまったのだ。ドピュッと勢いよく飛んだ。太くも硬くもならずとも、さすが若いだけはある。

 ガックリと崩折れる山崎征吾に怒りの言葉を浴びせる副施設長。

 「何をやってるのだ、おまえ!ええいっ、この役立たずがっ!」

 相変わらず、どうにもならないままの宇羽階。カニトモチンポは膨らんで来て、どうにかなりそうだった。それを見た副施設長が蟹原に声掛ける。

 「よしよし、蟹原のは使えそうだな。さすがは蟹原だ、偉いぞ。おまえの感覚で“行けるな”と思ったら、おまえが最初に大佐渡を突き刺せ」

 蟹原は返事の言葉は口にしなかったが、片手で一物を支え、今一方の手でシゴきながら、前に出て来た。

 「宇羽階はまったくしょうもない奴だ。後ろに退がってろ。後でペナルティーな。このペナルティーは大きいからな」

 副施設長が宇羽階に向かって吐き捨てる。そして山崎の方を向いて命じた。

 「山崎、おまえはもう役に立たないからワシのを勃てろ」

 そう言われた山崎征吾は、両膝·両手を突いて四つん這い姿勢で、ポカンとしていた。何を言われているか理解できなかった。

 「こっちに来い、山崎。ワシのを咥えてできるだけワシのモノを勃てるのだ。おまえら職員は、必ず、ワシらオーナーサイド·幹部の役に立たなければならない。役立たずのおまえは、ワシのを口で咥えて貢献しろ」

 副施設長のこの言葉に、副施設長が自分に何をやらせようとしてるのか、ようやく理解した山崎は蒼白になった。勿論、ランタン一つの灯りの中、顔色は解らない。山崎は四つん這いのまま動けなく、泣き顔になった。涙が両頬を伝う。

 もっとも、ここにいる四人の男は今、目出し帽をすっぽり被っているので、実際は顔の表情は見て取れない。

 樹木の幹に縛り着けられ、両足を大股開きで杭に括り着けられ、身動きできず、猿ぐつわで声も上げられない、万事休すの大佐渡真理は泣き続けている。今、そこに一歩一歩、己れの一物をシゴきながら蟹原友宏が近づいて行く。

 副施設長は自分の一物を、半勃ち状態に近く少しだけ興奮させて、腕組みをして傲然と立ち、成り行きを見守っている。宇羽階晃英も山崎征吾も泣き顔で、実際涙を流しながら、恐怖心と絶望感で固まって動けないでいる。

 真理に向かって歩く友宏は、目出し帽を額までずり上げて顔を現し、歯を喰いしばって、同僚であり、かつての交際相手だった真理を、無理やり襲い凌辱するのだ、という意志を見せて真理に近付いて行く。

 サイキック·大佐渡真理の反撃はあるのだろうか?真理はこの絶体絶命のピンチから抜け出ることができるのか?

 

※これで「狼病編23」は終わります。「狼病編24」へ続く。最早“狼病”とは何の関係もないところでお話が進んでおりますが、この物語は「狼病編」としてなおもエピソードは続きます。皆さん「狼病編24」をお楽しみに。待たれよ次回。(当然のようにこのお話はフィクションです。実在する人物や団体とは全く関係ありません。)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編22(2021-4/29)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編21(2020-10/15)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編20(2020-10/12)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編18(2019-5/31)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編15(2018-2/28)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編12(2016-2/20)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編6(2012-12/1)
◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編1(2012-8/18)
◆じじごろう伝Ⅰ[ 長いプロローグ編・狼病編] 登場人物一覧(2013-5-28)

 

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●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」狼病編..(22)

22.※(今回は全力シモネタ小説)

 大佐渡真理は事務室のドアをノックして開けた。六つの机を組んだ奥のひときわ大きなデスクに副施設長が座っている。真理は奥の副施設長に向けて、ペコリと頭を下げた。向かい合う四つの机に座る事務員は黙って下を向いたままだ。黙って下を向いたまま何か事務作業をしているだけなのに、何故か四人の事務員たちには緊張感が立ち込めている。

 事務室の中の四人の事務員の周りの空気は、恐怖感にも似たような緊張感が支配し、部屋の奥の副施設長は泰然と構えているというか、むしろ傲然とした雰囲気で座っている。

 頭を上げた真理は、奥の副施設長に向かって神妙な態度で言った。

 「副施設長先生、お話があるのですが」

 悠然としている副施設長は気軽に「おうっ」と応えると、椅子から立った。副施設長が大机から離れて動く際も、四人の事務員は下を向いたままシンとして黙ったままだ。物音一つ立てない。

 副施設長は顎で、大佐渡真理に応接間に入れと示した。真理は事務室の中のパーティションのドアを開けて、先に応接間に入った。後ろから入って来た副施設長がソファーに座るのを待って、真理はソファーに腰掛けた。

 副施設長を目の前に緊張する真理は、固くなって小さくなっていた。震えでも起こしそうな雰囲気である。膝の間というか下腹のところで両手で握り締めるように一通の封筒を持っている。

 前に座る副施設長は悠然とした態度で、片腕をソファーの背もたれに掛けてリラックスしている。様子が対照的な二人が向かい合った中で、真理がいつ話を切り出そうかとびくびくしていたら、おもむろに副施設長が上着の半袖ポロシャツの裾をたくし上げた。

 突然、気が付いたように立ち上がった副施設長は、応接間の窓のブラインドを降ろしてしまい、外側から応接間を見えなくした。副施設長の態度を真理はいぶかしんだが、それどころでなく真理は緊張していた。

 ソファーに座りなおして降りてしまっているポロシャツの裾を、副施設長はもう一度上げて、ズボンを引っ張り上げ片手でズボンのファスナーの摘まみを探すと、副施設長は一気にファスナーを降ろした。

 真理は副施設長の一連の動作を、いったい何をしてるんだろうとポカンと見ていたが、その直後、悲鳴を上げそうになるくらい驚いた。副施設長はズボンのチャックを降ろした、いわゆる社会の窓から、片手で自分の一物を摘まみ出したのだ。

 小さな応接テーブルを挟んで、真理の向こう側に見えるズボンの開いた股間には、だらりと男性の一物が現れている。黒ずんだ見るもおぞましい力なくぶら下がった男性器だ。真理は顔を真っ赤にして思わず下を向き、それが視界に入らないようにした。

 「これを見るんだ、大佐渡君!」

 力強い言葉で副施設長が言った。これを見るんだと言われても、真理もそんなもの、まじまじと見る訳にもいかない。下を向いていた真理は首を上げたがパーティションの壁の方へ顔を向けた。

 「どうしたんだ?大佐渡真理君。このワシの物をしっかりと見なさい」

 なおも副施設長は、真理に自分の股間を注視するように強制する。真理の方は、突然の副施設長の変質者的な行為に、この人は頭がおかしいんじゃないかと思った。

 真理はパーティションの壁の方に顔を向けたまま、小さく「いいえ」と答えた。

 「ふんっ。先ずワシのこれを見て貰わないと話が進まないんだがな」

 うら若き女子職員の前でとんでもない行動に出た、イイ年した立場ある男性とは思えぬ、副施設長の態度は落ち着きはらい悠然としている。開いたズボンの両股からだらりと自分の男性器を出したまま、両腕を伸ばしてソファーの背もたれを掴み、部下を前に傲岸不遜な態度で居る。

 真理は呆れと怒りが同時に頭の中を巡っていた。普通、二十歳そこそこの女子職員の真ん前で立場のある社会福祉施設の副施設長ともあろう人間が、性器を剥き出しで出して見せるかあ!?と胸の内では怒りの感情と共に思っていたが、口には出さなかった。

 怖かったが真理は勇気を持って副施設長に向かって行った。

 「副施設長先生、困ります。副施設長先生のそれをしまってください」

 真理が顔を紅潮させながらも怒りを含んだ様子が見てとれたので、副施設長も態度を軟化させた。副施設長は背もたれの両腕を前に持って来て背を丸め、やや前屈みになって顔に少し笑顔を浮かべた。

 「まぁ、そう怒った顔をするな、大佐渡君。ワシも深刻な悩みなんじゃよ」

 幾分柔らかい雰囲気になって副施設長が言う。相変わらずズボンのチャックからは一物をだらりと出したままだ。真理が黙っていると副施設長は話を続けた。

 「大佐渡君、見てのとおりワシの自慢の息子もこのとおりだ。昔は元気が良くて働き者じゃった。そりゃあ女を泣かしたものだ。しかし今はこのとおり、元気がない」

 副施設長は自分の性器を片手で摘まんで上下に振って見せ、真理に指し示した。このとおりと言われても真理はイイ年した男性の性器などまじまじと見る訳にもいかない。もっとも施設で働く真理は男性障害者の介助なども経験があるので、男性性器は別に見慣れてはいる。しかしこの場合は別だ。

 「このワシの息子もな、三年くらい前まではまだ元気だったんじゃ。それが近頃はとんと駄目になってしまった」

 話を続ける副施設長は自分の性器を摘まんだままだ。

 「どうだね真理君、触ってみんかね?」そう言って副施設長はハハハと豪快に笑って見せた。

 真理自身はいったい何と応えていいのか訳が解らなくなっていた。真理君と下の名前で呼ばれるのも不快だった。副施設長の態度と言動に呆れを通り越して、この場から逃げ出したかった。

 「それで真理君、職員たちのウワサ話を聞いたんだが…」

 副施設長はズボンの股間から一物を出したまま話を続ける。態度は悠然としたままだ。真理は顔を上げて前面の副施設長の方を見ると、どうしても副施設長のそれが目に入るのでうつむいたままだ。

 「何でも君のオマ×コの中はエラい熱いらしいねぇ」

 副施設長が露骨に女性性器のスラングな呼び方を恥ずかしげもなくさらりと口にしたので、真理は驚いて顔を上げた。しかも真理が今一番気にしていて苦悩している事柄だ。真理の顔は真っ赤になっている。

 「実はワシは、その君の熱い熱いとウワサのオマ×コを試させて欲しいんじゃよ」

 副施設長までが、真理のとても恥ずかしいウワサを知っている!真理は絶望感にも似た気持ちを抱いた。それは、1ヶ月くらい前の宿直当番の夜のことだ。後になって思えば不覚にも、同僚の蟹原友宏とあの晩行為に及んでしまった。卑劣漢·蟹原友宏はあの夜のことを施設中の職員に話して回ってるのだ。何という卑劣極まりない男だろう。真理は同僚·蟹原友宏を憎悪した。

 「ほれ、町の整形外科医院なんかに行くと温熱療法とかいって、患部を何やら機械使って温めてるだろう?あれじゃよ、真理君。あの療法でワシのちんぽも蘇らせて欲しいんじゃ」

 真理の気持ちも知らずに副施設長は勝手に自分のことを話し続けている。

 「君のマ×コにワシの息子を入れて温めることを続ければ、このワシの可愛い息子もまた元気を取り戻すんじゃないかと、こう思うんじゃよ」

 真理は悲しい絶望感とモヤモヤとする怒りの感情がない交ぜになっていた。うつむいた真理の小さな肩が小刻みに震えている。膝に置いた両の拳を握り締め、片手に持った封筒は真ん中をぐしゃりと握り潰している。

 そんな真理の思いなどまったく気が付かず、副施設長は呑気な態度で自分の話を続けている。真理の様子にもまるで感づかないようだ。相変わらず股間の一物は出したままだ。

 「とにかく今のワシの望みはこのワシのちんぽを生き返らせることだ。そのために是非とも協力してくれ、真理君。勿論、それには特別手当を給料に着けるし、ワシのちんぽの快方具合によっては主任に昇格してやってもいい」

 絶望と怒りの中でも副施設長の話は真理には聞こえていた。要するにこのイカれたオヤジは私に愛人になれ、と言っているのだ。しかも目の前に自分の性器をモロ出ししながら、露骨に性器の名前を口に出しながら。そう理解すると、絶望感よりも怒りの感情の方が強くなった。

 突然、真理は立ち上がり、応接テーブルに封筒を叩き着けた。バンッという激しい音がした。握り締めていた封筒は真ん中でくしゃくしゃになっている。

 「冗談じゃありません!こんな職場、辞めさせて貰います!」

 真理は叫ぶような大声でそう言うと、勢いよくパーティションのドアを開けて出て、ツカツカと事務室の出入口に向かい、また勢いよくドアを開けて出て行き、バタンッと激しい音をさせてドアを閉めた。

 事務室を出た真理は泣いていた。絶望感と怒りの涙だ。特に蟹原友宏と今の副施設長への怒りの感情でいっぱいだった。この職場の全員が敵に回ったような不信感さえあった。真理は泣きながら施設利用者居住棟の廊下を走り抜けて、非常口から外へ出た。誰も居ないところで思いっきり泣きたかった。

 大佐渡真理が事務室を出て行った後の副施設長は怒りに打ち震えていた。握った両の拳がワナワナと震えている。テーブルの上の真ん中がクシャリと握り潰された封筒を拾い上げると、封筒の前面に『退職願い』と読み取れる。副施設長は怒りに任せて封筒をチリヂリに破いてしまった。

 パーティションドアを開けて副施設長が出て来ると、事務員たちは雰囲気で副施設長が激怒していることが解り、場が凍りついたように静まりかえっている。みんな下を向いたまま、シンと黙ってカチカチになっているようである。四人の内、一番若い女の子の手が震えている。

 事務員たちは機嫌が超悪くなっている副施設長が、八つ当たりでいつ自分にカミナリを落とすかと怯えているのだ。いつも機嫌が悪いときの副施設長は生け贄を見つけ、生け贄となった部下の一人に先ず大声でカミナリを落とした後、ネチネチといびり続ける。このいびりが長くて、相手を人格的に否定し続け心理的に大きなダメージを与える。

 この副施設長のいびりを受けた部下たちは、自信をなくし悲しくなり、悔しくもあるが落ち込んでしまう。副施設長の方はいびりを済ませば、後は全て忘れてケロッとしている。副施設長に取って部下を怒りいびるのは自分のストレス発散でもあるのだ。部下をいびり倒した後は、副施設長は上機嫌になっていることが多い。

 日頃から勤続の短いヒラの職員なぞ、虫けらのように思い“替え”はいくらでも居る、と思いながらオーナーサイドとして管理職に就いている副施設長は、雇用してやって三年にも満たぬ小娘が、自分に逆らったことが我慢ならず悔しくて悔しくて怒りに打ち震えている状態で、自分がズボンの社会の窓からチンチンを出したままであることを忘れていた。

 副施設長は頭が怒りでいっぱいになったまま、チンチンをぶら下げて事務室の中をうろうろと行ったり来たりしていた。つまり机に向かう四人の事務員の周りを歩き回っていた。

 普通なら事務員たちも、副施設長などと立場のある上司がチンチンをぶらぶらさせながら歩き回っていたら苦笑や失笑したり呆れるところだが、とてもそんな雰囲気ではなく凍りついたままピクリとも動かず下を向いていた。一番若い女子事務員などは、今にも泣き出しそうなくらい緊張して手が震えていたが、鳴き声でも上げようものなら大声で怒鳴り付けられると必死で泣くのをこらえていた。

 暴君の副施設長はこの職場を恐怖で支配していたのだ。

 ズボンから一物をぶらぶら出したまましばらく室内を歩き回っていた副施設長だったが、何を思ったか突然ドアをガチャリと開けて廊下へ出て行った。副施設長が事務室から出て足音が遠ざかると、室内の空気が一気に緊張が解けて変わった。四人の事務員はそれぞれが大きな溜め息をついて、全身の緊張を緩め、机に突っ伏したり大きく伸びをしたり思いきり背もたれに身体をあずけたりして精一杯弛緩した。

               *

 その少し前、ここは施設利用者男子居住棟廊下を非常口へと向かった、一番奥に設けてあるリネン庫の部屋。その中には、施設現場職員の仕事をあら方終えた三人の男子職員が居た。

 三名は、大学新卒この施設四年目の蟹原友宏、大学新卒一年目の山崎征吾、そして中途採用だが三十代半ばの年齢で主任職の宇羽階晃英である。

 一番若い山崎征吾は、室内業務でのユニフォームとなる白いポロシャツに黒色のジャージズボンの格好で居るが、あとの二人は何と、上は白のポロシャツで同じだが下は何も穿いてなくスッポンポンであった。二十代半ばと三十代半ばのイイ大人の男性二人が下半身丸出しで、向かい合って立っているのだ。

 蟹原友宏は子供の頃から剣道の稽古に通い、大学生時代は地域の大会で優勝するなど、剣道でならした武道の猛者で体格も良い。けっこうタッパもあってガッチリしていて、剥き出しの下半身にぶら下げた一物もかなり長くて太い。

 片や、向かい合って立つ宇羽階晃英は30代半ばでやや長身で体格もしっかりしてるが、蟹原友宏のようにガッチリしている訳ではない。眼鏡を掛け頭髪も短く整髪している。同じく剥き出し下半身で蟹原友宏のように太くはないが長い一物をぶら下げている。

 「ではお二人とも準備はいいですか?」

 向き合う蟹原と宇羽階の前に山崎征吾が立った。蟹原と宇羽階が片手に持ったスマホを覗く。二人のスマホ画面には全裸女性の姿が映っている。蟹原の画面に映っているのはアダルトビデオの裸男女の絡みシーンのようだ。片や宇羽階の画面には無修正の全裸の若い女性の静止画が映っている。

 向かい合う蟹原と宇羽階の下腹部の一物が自然と見る見る内に膨らんで来た。二人はエッチな動画や静止画を見て興奮して来たのだ。

 二人の前に立つ山崎征吾が片手を上げて、少し大きく声を上げた。

 「レディ~!」

 どうやら山崎征吾は、何らかの試合をタイで行う蟹原友宏と宇羽階晃英のジャッジ役のようだ。蟹原の一物が角度を上げて長く太く膨張している。宇羽階の一物も天を突く勢いで上方に伸びている。

 山崎が空手チョップの形で上にあげていた片手を振り下ろして叫んだ。

 「ゴオッ!」

 向かい合う二人の男は背中側にいっぱいに腰をひねると、勢いよく腰を戻して互いに怒張した己れのチンチンをぶつけ合った。

 バチーン!とぶつかる音がして、蟹原友宏と宇羽階晃英は苦悶の表情を浮かべた。二人は少し離れると痛そうに顔をしかめている。両者のチンチンも天を突き上げるような勢いがあったのが、角度が下がって来て床面と平行になってしまった。

 この施設の男子職員たちは誰が始めた訳でもなく、男子トイレで一緒に用を足すときに、ついお互いの息子を覗き合って比べたりしていた。そして中には「勝ったね!」とちんぽの大きさでマウントを取る者が現れ始めた。そこから自然発生的に施設男子職員間によるチンチンの大きさ比べの、トーナメントというより総当たりリーグ戦が始まった。

 中には負けず嫌いな職員も居て、平常時の息子の大きさで劣ったものだから、その場で片手の指や掌で摩擦刺激を与えて、興奮させて大きくし再度挑む者も出て来た。

 若い職員の一人、坂戸善文なども男性としては小柄で身体相応の下半身の持ち主なので、平常時比べでは負けることが多い。負けず嫌いな面もある坂戸青年はトイレで指や掌を使って刺激するが思うように興奮しない。そこで坂戸はトイレのタイル壁に剥き出しの自分の一物を押し当てて、腰を上下に連続して細かく動かして刺激を与えた。しかし押し当てる力が強く、激しく腰を振り続けるので、刺激が強過ぎて、直ぐに興奮し発射してしまった。

 余談だが、男子職員間チンポ比べ競争で結果が出せず、失意にあった坂戸善文は、坂戸の体液で汚れたトイレの壁をそのままにしていたので、後で、衛生的に悪いと主任に怒られた。

 この、何日間かに渡って施設内男子トイレで行われた、施設男子職員チンポ比べ総当たりリーグ戦で、文句なくぶっちぎりのデカさで優勝したのは、蟹原友宏だった。彼の平常時でもボンレスハムのような異常な大きさを誇るデカチンに、太さでも長さでも叶う男性なぞ居なかった。

 もう、この施設内での男子職員チンポ比べ競争での蟹原友宏の優勝は決まったも同然だった。しかしここに“待った”を掛けた男が居た。三十代半ばの主任、宇羽階晃英である。宇羽階主任のチンチンは太さこそたいしたことはないが、異様に長かった。そして興奮させて勃起させると長さも伸びて硬いのである。興奮時のその状態は天をも突く勢いである。しかも誰が触っても硬さを実感する。宇羽階本人も『俺の一物は鋼の硬さだ。日本刀の名刀だ』と豪語していた。

 宇羽階晃英は『チンポの優秀さを決めるのは見てくれの大きさでは断じてない。中身の機能だ』ともの申したのである。この主張に対し、施設全男子職員間で急遽、“職員間男性器比べ総当たりリーグ戦協議委員会”が開かれ、宇羽階主任の申し立てを受け入れ、チンポの見た目の大きさでは圧倒的に蟹原職員だが、“中身の機能を重視する”宇羽階と蟹原の王者決定戦をやることになった。

 宇羽階のいう“中身の機能”とは、社会福祉施設内のことでもあり当然異性との性行為などではなく、チンポの硬さや勃起時の角度、またどれくらい長時間興奮状態を保てるか、という内容であった。

 チンポ比べ協議委員会は決定戦の内容を『お互いのチンチンをぶっつけ合うことで先に萎えた方が負け』という勝敗付け方法にするように下した。

 最初は意見として上がった『水のたっぷり入ったやかんをお互いの竿にぶら下げてどれくらい耐えれるか』にしようという方法に決まり掛けたが、両決勝戦進出者が『ぶつけ合う痛みに耐えて男の根性を見せる勝負にしたい』との意向もあり、チンポ·フルコンタクトの試合と決まった。

 社会福祉施設の中でこんなハレンチなことが男子職員間で密かにトイレで行われていることなぞ、施設の幹部や管理部門、全女子職員などは全く知らないことであった。なのでチンポ王者決定戦も秘密裏に、職員の昼間の日常業務があら方終わって暇になった夕方頃、こっそり隠れて、狭い空間ではあるがリネン庫で行うことになった。

 狭いリネン庫の中で小柄な山崎征吾を前に比較的上背のある二人の大人が向かい合い、お互いに片手に持ったスマホのエロ画面を見ながら、自分の自慢の息子をムリムリ興奮させ、怒張して来ると精一杯腰をひねりタメを作って、同時に一気に腰を振る。

 ブンッと振った腰に乗って二人のちんぽが激しくぶつかり合う。バチーン!という鞭で叩いたような音。二人の大の男が顔をしかめて痛みを堪える。

 二回目の衝撃を受けた二つのちんぽは、蟹原のまるで太いゴムでできた棒のような弾力のあるちんぽも竿の真ん中辺りが赤くなっていて、片や宇羽階ちんぽも硬さを誇るとはいえ、もともと浅黒い竿の色が赤みを帯びて赤黒く変色している。

 身体の向きを変え背を屈めて、歯を喰い縛って痛みに耐える二人。それを見て痛さを共感して顔をしかめる、ジャッジ役の山崎。二人の一物を見るとまた角度が下がり幾分小さくなって見える。

 二人の顔を交互に覗き込みながら山崎が訊く。

 「ヘイユー、ギブアップ?ギーブアァップ?」

 歯を喰い縛る二人は「まだまだ」と答えて再び向き合った。

 蟹原と宇羽階は片手に持ったスマホ画面を顔の前まで持って来て、興奮しようと試みるが、ジーンと残り続ける痛みになかなか息子がゆうことを聞いてくれない。二人は残る片手で股間に刺激を加え始めた。

 再び、生気を取り戻したように角度を上げて伸び上がる二つのちんぽ。もう一度、とお互いに背中側に腰をひねってタメを作ったところで、ガラガラとリネン庫のドアが開いた。

 『しまった!鍵を掛け忘れてた』と驚きと共に自分のうっかり過失を嘆き慌てる山崎征吾だったが、開いたドアから覗いた顔にそれ以上に驚いた。山崎は思わず「あっ!」と声を上げてしまった。

 狭いリネン庫の中に副施設長が入って来た。蟹原友宏も宇羽階晃英も驚いて身体が固まってしまい、声も出なかった。

 山崎が副施設長の下半身に気が付いた。スラックスのズボンの社会の窓から一物を出したままなのだ。山崎の視線に気が付いた副施設長は自分のズボンを見て「おおっ」と声を出し、一物を中に押し込んでファスナーを引き上げた。

 突っ立ったままの蟹原と宇羽階は、チンチンの興奮も解けて股間にだらりとぶら下げたままだ。大きな一物を持つ蟹原はまるで股間に大きなヘチマがなっているようである。宇羽階はさしずめ長い真っ直ぐなキュウリか。

 「うむ。頑張っとるな。感心、感心」

 副施設長の言葉に、三人の男子職員は驚いた。そしてホッとした。社会福祉施設の現場職員が夕方とはいえまだ日のある内から、下半身まる裸で男性器を出して向かい合って立っているのだ。カミナリを落とされて怒られると思ったのだ。とはいえ副施設長自体も自分の性器を出したまま入って来たのだが。

 「副施設長先生、お疲れさまです!」

 声を揃えてしっかりと、三人の職員が頭を下げて言った。

 「あの、副施設長先生、申し訳ありません、これには訳が…」

 三名の職員とも緊張して固くなった中で、慌てて主任職の宇羽階が言う。

 「いや、いいんだ、いいんだ。なかなか元気があってよろしい」

 副施設長はゆったり鷹揚に構えて、機嫌は悪くない。微笑さえ浮かべている。

 「実はな、おまえたち三人にワシから相談があってな…」

 副施設長の言葉に、直立不動に近いような姿勢の三人は、またも声を揃えて「はっ!」と返事をした。

 「蟹原」

 「はいっ!」

 「おまえは大佐渡真理と付き合ってたらしいな」

 「はい、昔のことであります」

 「じゃあ大佐渡の熱々オ×ンコのことは知っとるんじゃろ?」

 「はい、別れた後ですが一度だけ、とっても熱いのを試したことあるであります」

 「で、良かったのか?」

 「はいっ、とても良かったであります」

 「熱々なのにか?」

 「熱々なのにとっても気持ち良かったのであります」

 「そうか。蟹原、実はワシも試して見たいんじゃ」

 蟹原は返事をしなかった。何と応えていいのか解らなかった。

 副施設長は宇羽階主任の方を向いた。

 「宇羽階、実はワシは今、大佐渡に試させてくれと直接頼んだんじゃ」

 宇羽階も何と応えていいのか解らず、黙っていた。副施設長は話し続ける。

 「ワシもな、見てくれではおまえたちにはとても叶わんかも知れんが、以前はワシのちんぽもそれはたいしたもんだったんじゃ」

 三人は黙って副施設長の話を聞いている。直立不動で固まっていた姿勢は幾分緊張が解け少々リラックスしている。

 「じゃが、この歳でな、最近は元気がない。大佐渡真理の特殊なオ×ンコを使って温熱療法でワシのを甦らせてみたいんじゃ」

 三人の部下は声を出して返事はしなかったが、同時にこっくりと頷いた。

 「そこでこの副施設長のワシが頭を下げて大佐渡に頼んだ訳だが、あの小娘め、このワシの頼みを拒絶しおった」

 副施設長は憎々しげに話す。

 「いいか。この施設で二番目に偉いこの副施設長のワシの頼みを、あの入って二、三年の小娘が蹴ったのだ」

 副施設長は怒りで堪らないという様子で握った両の拳をプルプルと震わせた。二十歳そこそこの小娘にナメられたと思い、よっぽど悔しかったのだろう。

 「そこでじゃ。この施設内で副施設長に逆らったらどういうことになるか思い知らせてやらねばならない」

 三人は黙って聞いているが、不穏な空気に再び緊張していた。

 「宇羽階っ」「はいっ」「蟹原」「はいっ」「山崎」「はいっ」副施設長が個々に名前を呼ぶと、三名はキリリと返事を返した。

 「ワシは大佐渡真理を強姦することにした」

 副施設長の話を聞いていた三名の部下は、驚いて返事ができなかった。三人とも血の気が退いたように蒼くなっている。

 「おまえたち三人に頼みとはワシを手伝って欲しいのだ。四人の力を使えばあんな小柄な小娘を拉致して山にでも連れて行くのは簡単なことじゃ」

 三人は蒼ざめたまま返事ができないで、黙って突っ立っている。なおも副施設長は話を続ける。

 「そこでワシら四人で交互に熱々のオ×ンコを味わうんじゃ。蟹原おまえは最後だぞ。おまえの規格外の大根みたいのが入ったらブカブカになるからな。うん?待てよ。おまえと付き合っておったということは既にブカブカなのか?」

 「いや、彼女は小柄だから元に戻って大丈夫と思うであります。もう別れてだいぶ月日が経つし、この間の一回も、もうかれこれひとつき前だし」

 蟹原が答えた。副施設長は自分の計画を話し、満足そうな様子で顔に微笑さえ浮かべている。

 山崎征吾も何やら嬉しそうな態度が見て取れる。山崎は若いがとんでもない女好きのスケベだ。仮に副施設長や宇羽階主任の後になったとしても、夢にまで見た熱々オマ×コが味わえるのだ。思わず山崎の顔に笑みがこぼれる。

 「おう、山崎。嬉しそうだのう」

 「あ、はい。ヘヘヘ…」

 蟹原友宏は複雑な心境だった。確かに1ヶ月前の、浴室の脱衣場でのあの一回は熱くて火傷しそうだったが、とても気持ち良く得も言えぬ喜びがあった。できればもう一度味わいたいと願ってた。しかし職場の同僚を無理やり拉致して強姦するとなると、そんなことして果たしていいものだろうかとも思っていた。ましてや大佐渡真理は以前は恋人だった女だ。蟹原は内心悩んだ。

 「どうした、蟹原?浮かない顔しとるな」

 「はっ。いいえ」

 「気にするな、蟹原。四人でやるんだ。ほら、昔からよく言うじゃろう。1本の矢は折れても3本の矢なら折れんと。この場合は強姦じゃから各々のちんぽじゃ。1本のちんぽでは無理なことも4本のちんぽが合わされば何でもできる。どーんと構えておれいっ!」

 「はっ。ありがたいお言葉、誠にありがとうございます、副施設長先生様」

 「よしよし。ボーナス、考えといてやるからな」

 宇羽階晃英は暗い顔になって突っ立っていたのだが、副施設長は宇羽階の様子には気が付かなかったのか何も言わなかった。

 「よし、決まったな。これは我々この施設の選ばれし四人の極秘裏のプロジェクトだ。とにかく他には誰にも漏れんようことを進める。今日の常勤者の業務が終了した後に集合を掛ける。そのときに細かい打ち合わせを行おう」

 副施設長が最後に話をしてリネン庫のドアを開けた。三人の部下が気を付けの姿勢で頭を下げる中、副施設長が悠々とリネン庫を出て行った。

 山崎征吾が嬉しそうにはしゃぎ気味な中、蟹原友宏と宇羽階晃英は茫然と突っ立っていた。裸の下半身に一物をぶら下げたままで。二人ともいつもは自慢のものも元気がなく見える。それでも蟹原のものは大きなものがだらんとぶら下がっているが、宇羽階のそれはふだんよりも縮こまっていた。

 宇羽階は内心かなり悩んでいた。

 「勝負の続きをやりますか?」

 「そんな気分にゃあならねえよ」

 ジャッジ役の山崎の問いに蟹原が応えた。

 「あぁ~、もうやめだやめだ」

 そう言って蟹原がリネン庫の隅のパンツとジャージズボンを取って、そそくさと穿き始めた。

 「山崎、もう直ぐ引き継ぎの終礼だろ。行くぞ」

 「はい」と返事して山崎がリネン庫を出ようとする。山崎が下半身まる出しで突っ立ったままの宇羽階主任を見て怪訝な顔をした。蟹原が宇羽階に声掛けた。

 「主任、行かないんすか?」

 「ああ。君たち先行ってろ。俺も直ぐ行くから」

 二人が出て行った。リネン庫に一人残った宇羽階晃英の顔は蒼ざめていた。チンチンをぶら下げたまま茫然と立っていた。

 今、宇羽階の頭の中に浮かんでいたのは、中途採用の彼がこの職場に来てから辞めて行った何人かの顔だった。男子も女子も宇羽階からすればイイヤツらだった。だが彼らは自己主張が強く、時にオーナーサイドに逆らっていた。

 ここの職場はオーナーサイドへの絶対的服従を強いる。ここの職場ではオーナーサイドへの絶対的イエスマンでしか生き残って行けない。オーナーサイドに逆らった彼らはみんなこの施設を去った。

 オーナーサイドに逆らう者は、先ず勤務部署を変えて閑職や好まない職域に追いやられる。オーナーサイドは直接はっきりと『辞めろ』とは言わないで、なるべく本人から辞表を書くように持って行くのだ。でも、辞めたい意思を示してもなかなか辞めさせてはくれない。あくまで『絶対的服従』を求めて来るのだ。“転向”して絶対的イエスマンとなる者はそのまま職場に残れる。だがほとんどの者は気持ちを変えずに辞めて行った。

 宇羽階晃英には妻子が居て家庭がある。勤め人サラリーマンとして、職場の上層部の言うことはたいていのことは従って来た。その意味ではサラリーマン·宇羽階はイエスマンだ。しかし今回の副施設長の言う“極秘プロジェクト”ばかりは違う。これは間違いなく犯罪だ。

 この施設のオーナーの標すモットーは『私が黒いと言ったら白い物でも部下は黒いと言え』だと言うことだ。だがいくら何でも、オーナーサイドのナンバーツー·副施設長の話す“極秘プロジェクト”だけは二つ返事で従えない。こんなことをして発覚すれば警察に逮捕されてしまう。

 ここの施設の最高位に居る施設長は女性だ。この副施設長の“極秘プロジェクト”のことを話せば、勿論、激怒して副施設長を叱り着けプロジェクトなぞ止めさせるだろう。

 いくらオーナーサイド·副施設長の計画だとはいえ、さすがに『白い物でも黒いと言え』は施設長は適用しないで、副施設長を怒り飛ばすだろう。

 しかし、施設長に告げ口したとなると、副施設長がタダでは済まさないだろう。先ず間違いなく退職に追い込まれる。いくら施設長を味方に付けようとしても、副施設長はネチネチ執念深く嫌がらせを続けて来るに違いない。結局、辞めざるを得ない状況に追い込まれるだろう。

 家庭を持つ宇羽階にはまだローンも残っている。ここで失職することはとても困ったことになる。しかし今の職場で部下として共に働いている女子職員を複数の男性で陵辱するなぞとてもできない。宇羽階晃英は苦悩した。

 引き継ぎ終礼に間に合わなくなると、宇羽階は部屋の出口に向かっておもむろに歩き出して、ドアに手を掛けてハッと、下がフルチンであることに気が付いた。自慢の息子も縮こまってしまい寂しそうにしている。宇羽階はパンツとジャージズボンを拾い上げて、そそくさと穿いて職員室へと向かった。

 副施設長が言い出した“極秘プロジェクト”はいったいどうなるのか?副施設長ら男子職員四人のターゲットとなった、大佐渡真理の運命や如何に!?

※もはや物語進行がタイトルの“狼病”が関係なくなってしまってますが、「じじごろう伝Ⅰ」狼病編22 はここで終わります。この物語はまだ続きます。次回「じじごろう伝Ⅰ」狼病編23 へと続く。待たれよ次回。

 

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編15(2018-2-28)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編18(2019-5-31)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編21(2020-10-15)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編12(2016-2-20)

◆じじごろう伝Ⅰ 長いプロローグ編1(2012-1-1)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編1(2012-8-18)

◆じじごろう伝Ⅰ[ 長いプロローグ編・狼病編] 登場人物一覧(2013-5-28)

 

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