goo

●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」狼病編..(21)

21.

 ワカト健康機器開発株式会社·営業係長、吉川和臣は市の総合病院に入院していた。吉川智美が愛子と和也の二人の子供を連れて隣町の実家に戻ったあと、夫·吉川和臣が一人で二階家に住んでいたが、その内、行方不明となってしまっていた。そして今から十日ほど前、都市部繁華街外れの古ビルの風俗店の中から失神した状態で発見された。一緒に見つけられた数多くの男女はいずれも狼病に感染していたが、特効薬で回復して目を覚まし、退院して行っていた。だが吉川和臣だけは、心臓は動き呼吸はしているが眠ったままだった。

 愛子と和也の姉弟がタクシーで病院に訪れたときにはもう陽が暮れかかり、あたりは薄暗くなっていた。

 初め、病院の表玄関に行ったが鍵が掛かっていてドアが開かないので、建物脇の救急搬入口に回ると、出入口横に守衛室があり、そこのカウンターに面会者記入簿があった。守衛さんは事務所の中に見えたが、愛子と和也は声掛けせずに愛子が勝手に帳簿に記入して病院内へ入って行った。

 病院内には人が居なくて閑散としていた。エレベーター前では、降りて来たばかりの親子連れが出て来て、子供が母親にじゃれついて騒いでいた。愛子と和也はそのエレベーターに乗った。愛子たちは、父親の入院している四階で降りた。二人は母親の智美ともども何度か父·和臣の見舞いに来ていたが、父親はまだ一度も目を覚まさないままだ。

 四階エレベーターホールからナースステーション脇を抜けて病室の方へ行くと、目指す父親の病室の前あたりに人影がある。病室廊下には他に人は窺えない。向こうの二つの人影はじっとこちらを見ている。

 だんだん近付いて愛子は「あっ」と小さく驚きの声を上げた。愛子はちょっと急ぎ足になって近付く。一人は、愛子たち吉川家の自宅にも来訪した大佐渡真理だった。愛子は真理に霊能力があり、和臣の寝室の異変を見破ったことを思い出していた。

 一つの病室前の廊下に、恋人の在吉丈哉と並んで立つ、大佐渡真理はナースステーション方向を見て、こちらへやって来る二人を認め驚いた。前に居る少女は中学生の吉川愛子だ。そしてその直ぐ後ろの子供を見て愛子は戦慄した。愛子の弟の吉川和也が居るではないか。

 サイキックである大佐渡真理は、どういう訳か同じサイキックの吉川和也の近くにある程度の時間一緒に居ると、和也と離れた後少しして、身体に変調をきたすのだ。その変調は性欲が高まるという形で現れる。しかもその性欲は時間が経つに連れて高まり続け、ピークに来ると尋常ではない性欲の波が押し寄せ、気が狂いそうになるのだ。そしてそのとき、真理のサイキックとしての超能力、パイロキネシス的な力が発現する。

 真理はそのお陰で一度、心底困り果てたのだ。もうあの苦しみは御免だ。真理は在吉丈哉の背後に回って、隠れるような態度を取った。

 丈哉がおかしな態度を取る真理を振り返って声を掛ける。

 「どうしたんだよ?真理ちゃん」

 吉川愛子·和也の姉弟は二人の直ぐ目の前まで来た。愛子が挨拶する。

 「お久し振りです、大佐渡のお姉さん。こんばんは」

 愛子は丈哉にもペコリと頭を下げた。丈哉も自分の後ろに隠れる仕草を見せる真理に戸惑いながら、愛子と和也を見て会釈する。

 大佐渡真理は在吉丈哉の後ろから肩越しにそーっと顔を覗かせ、吉川姉弟を見る。吉川和也と目が合ってしまった。ハッと真理はまた丈哉の背中に隠れた。和也は子供らしくポカンとしている。

 真理の気持ちは尋常ではない。あのサイキックの子供と合ってしまった。これでしばらくしてから自分ではコントロールできない性欲の波に襲われて、居ても立ってもいられない、どうしようもない気分に支配される。真理は丈哉の背後で恐怖に震えた。

 吉川姉弟は真理のおかしな態度にポカンとして立っている。

 突然、真理は丈哉の片腕を掴んで引っ張り、駆け足でナースステーションとは反対方向に病室廊下を走り始めた。いきなり強い力で引っ張られた丈哉は驚いて声を上げる。

 「おいおい、どうしたんだよ?真理ちゃん!」

 丈哉はつんのめって何歩かたたらを踏みながらも、真理に着いて行く。真理は吉川姉弟の方を振り返ることもなく、丈哉の腕を引きながら廊下の奥へと走る。

 廊下の奥の行き止まりに非常口と書いた鉄製の扉があり、真理が急いでドア取っ手の下のサムターンを捻るとドアが開いたので、真理は丈哉の手を引っ張りながら建物脇に付設された外階段へと出た。

 病室前で放心状態で、廊下の奥へ走り去る二人の背中を見ていた吉川姉弟だったが、二人の出て行った開けた非常口扉が閉まると、和也は興味なさそうに病室の中へとドアを開けた。愛子が慌てて和也に続く。

 「ねえ、あのお姉さん急にどうしたのかしらね?」

 愛子が先に病室に入った和也の背中に問い掛けたが、和也は「さあ…」と一言返しただけで手前のベッドへと歩く。和也は立ち去った二人には関心がないようだ。

 四人部屋の片側だけ二つベッドが並んでいて、反対側はがらんとしている。二つのベッドとも浅黄色のカーテンが掛かっていて、人1人入れる分だけ開いている。和也がベッドの横に立った。続いて愛子が隣に並ぶ。

 タオルケットを掛けて吉川和臣が眠っている。縦縞パジャマの衿が見える。和臣は仰向けで寝息を立てて動かない。

 「お父さん、肩を揺すって呼び掛けたら目を覚ましそうなのにね」

 愛子が言った。吉川和臣がこの病院に運び込まれてから、吉川姉弟は母·智美と共に何度も見舞いに来ていた。これまで何回も身体を揺すったり大きな声で呼び掛けたりしたが、とうとう目を覚ますことはなかった。しかしいつも規則正しい寝息を立てている。心臓もちゃんと動いていて間違いなく生きているのだ。

 和也は小学三年生とは思えないくらい落ち着いていて、ポケットから折ったハンカチを取り出した。それを静かに開く。隣の愛子が覗き込んだ。開いたハンカチの上では、何匹かの寄生虫のように白っぽく、小さな細いものがうごめく。見るからに気持ち悪い。愛子は思わず顔をしかめて横を向いた。

 和也はじじごろうの呼ぶ“子ちんぽ”を眺めながら、もう一方の手で摘まもうと指を伸ばす。子ちんぽというだけあって、もやしみたいに細い寄生虫状のものは先が膨らんでいてほんのり赤く、ちんちんの亀頭に見えなくもない。

 和也が指で摘まんだ三匹の子ちんぽを、父親の口元へ持って行き、そっと下唇に置いた。細かにうごめく三つの子ちんぽは、少し開いている唇の隙間から、何かの小さな幼虫のように自ずから、ジワジワと這って口の中に入って行った。

 愛子は隣から、何かおぞましいものでも見るように顔をしかめながら、父親の顔を覗き込んでいる。

 和也は三つの子ちんぽが父親の口の中に入ってしまったのを見て取ると、片手の掌に開いたハンカチを乗せたまま、愛子の後ろを通ってカーテンを抜け出た。愛子が、どうしたんだろう?と和也の行動をいぶかしんでいると、和也は隣のベッドへ入ったらしい。

 愛子も和也を追って隣へと行く。愛子が隣のベッドのカーテンを入ると、そこには一人の若い女性が眠っていた。

 目を瞑り寝息を立てる顔を見て愛子は驚き、思わず声を上げた。

 「ああっ、この人知ってる!人を殺して指名手配なってた女の人だ」

 興奮した愛子が隣の和也の顔を見詰めたが、和也は落ち着いたままだった。

 「お姉ちゃん、でもこの人は狼病の病気で悪いことしたんだよ。ここにじっと寝てるってことはお父さんと同じで、狼病治療薬を打って病気は治ってるんだよ」

 愛子は和也にそう諭されて黙ったが、自分の弟ながら小学校三年生で落ち着き払ってこれだけの冷静な理屈が言えるとは、いったいこの子は天才にでもなったのかと改めて思った。和也はスーパードッグのハチやジャックと関わってから変わってしまった。

 和也が片手の掌のハンカチに乗る子ちんぽを見ていると、おそるおそるという程で愛子が訊いた。

 「ねえ、じじごろうさんは全部で6個の子ちんぽをくれたんでしょ?3個をお父さんに飲ませて、この人に半分上げちゃったらお父さんの効き目はあるのかしら?」

 「うん。でもこの人も眠ったままだったら可哀想だと思って」

 吉川和臣の隣のベッドで眠る、社会福祉施設事務員·城山まるみは、狼病ウイルスに感染してゾンビ怪物化し、恋人だった藤村敏数の現恋人になる有馬悦子を殺害して、潜伏先の狼病感染者の巣窟ビルで黄色ヒトオオカミに失神させられ、その後、正常だったときの勤務先の社会福祉施設に現れ、潜在意識下で蓄積していた日頃の恨み感情が、本能的にまるみを突き動かしてパワハラ副施設長を襲撃した。

 その後、施設近くの通りで銀色ヒトオオカミである白人医師、ロバート·シルバーウルフに失神させられ、狼病治療薬を注射されて後、意識不明のまま警官隊に保護された。

 そしてその後、現在はこの病院に入院してさまざまな治療を施されるが、眠ったまま意識を回復しないでいた。

 城山まるみは、今はこの病室で吉川和臣の隣のベッドで和臣と同じ症状のまま眠っている。

 「お父さんに3つ、このお姉さんに3つ食べさせてあとは様子を見るよ」

 和也はそう応えて、眠っている城山まるみの口元に摘まんだ子ちんぽを持って行く。

 愛子はこんな綺麗な寝顔をした若い女性の口の中に、見るからに気持ちの悪い寄生虫のような変な生き物を入れるのは、何かおぞましい気持ちがして、気分が悪くなり吐き気をもよおすような気がして来た。

 まるみの下唇に置いた3匹の子ちんぽは細かく震えるように蠕動して、まるみの口の中に入って行く。愛子はしかめていた顔を思わず横に向けた。

 和也は子ちんぽがまるみの口の中に入ってしまったのを認めてから、姿勢を真っ直ぐにし、愛子の方を向いた。

 「さあ、お姉ちゃん帰ろう。そして明日また様子を見に来よう。もしもこれで目覚めなかったら、もう一度じじごろうさんのところに行ってみるよ」

 愛子は「うん」と返事して城山まるみのベッドのカーテンから出た。二人はもう一度、父親の寝顔を見てから病室を出た。

               *

 大佐渡真理は大変なことになっていた。真理と在吉丈哉は一緒にラブホテルの中に居た。

 二人は丈哉の自動車で病院をあとにしていたのだが、途中で真理が、運転する丈哉にしがみついて来て、危うく事故を起こすところであった。真理の様子が明らかに違っていた。丈哉が乗用車を路肩に停めたあとも、真理は丈哉の身体にしがみついた手を放さない。丈哉は、真理が何かの病気の急な発作を起こしたのかと慌てた。

 真理はあえぐようにふり搾った声で「お願い…」と言って、丈哉の首に抱き着いて来た。丈哉が「病院へ戻ろうか?」と訊くと真理は片手で丈哉の股間をまさぐり始めた。

 真理は、サイキック·吉川和也に会ったことで身体に異変が生じたのだ。一ヶ月以上前に吉川和也と出会ってその後しばらくして、異常に性欲が高まるという体調の異変が生じたが、二度目に会ったこの日、やはり身体がおかしくなってしまった。前回は和也と別れてしばらくしてから異変が出たが、今回は体調の異変が出るのが早かった。

 あえぐように真理がホテルに入ろうと懇願するので、丈哉は真理を自分から引き剥がして、再び自動車を走らせた。そして一番近くにあるラブホテルに飛び込んだのだ。

 ホテルの部屋に入るや否や真理は急いで自分の衣服を脱ぎ始めた。丈哉が「真理ちゃん、先ずシャワーを浴びよう」と促したが、真理はそんなまだるっこしいことしてられないとばかりに、自分でブラジャーもパンティも取ってしまった。そして丈哉に抱き着いて来た。

 「もう、タケ君、早く服脱いでよ!」

 真理が丈哉に怒ったように先を促す。丈哉は明らかに異常な態度の真理に戸惑いながらも、ズボンのベルトを外してズボンを降ろした。

 真理はもう待ちきれないというように、急いで丈哉のパンツを降ろすと現れた丈哉の一物をいきなり咥えた。丈哉のムスコも、丈哉が戸惑いながらも真理の裸を見て興奮し、屹立していた。

 かつて高校球児だった筋肉質の丈哉の一物は、そんなに大きくはないが硬くていきり立っている。それを真理は咥えたあと、サオを舌を使って舐め回したりきんたまを口に含んだりしている。

 丈哉は気持ち良くなって恍惚とした表情になっている。

 「もうっ、ボケッとしてないで早く上も脱ぎなさいよ!」

 丈哉の一物から口を離して、真理が怒ったように丈哉に命じる。怒られた丈哉は慌てて上の服も脱いで全身裸になった。

 素っ裸になった丈哉を全裸の真理が勢いよくベッドに押し倒し、真理は丈哉の身体中を舐め回した。

 丈哉もこれまで幾度も恋人の真理と床を共にして来たが、こんなに積極的なのは初めてで、今までの真理とまるで人格が入れ換わりでもしたかのように、態度が全然違っている。

 丈哉は真理の様子に疑念を抱きながらも、真理の積極的な性戯に興奮し、恍惚となって来ている。

 真理自身も頭の中では自分がおかしくなってるとは解っているのだが、肉体のコントロールができなくなっていた。全身に嵐の中の津波のように性欲の大波が押し寄せ、ケダモノという表現では足りない、男の身体をむさぼり喰らう性の怪物のようになってしまっていた。

 頭の片隅にはこの状況を何とかしなければという思いもあるのだが、全身、特に局部に押し寄せる異常な欲望はどうにもならなかった。

 「あんたも私を舐めなさいよ!」

 真理が怒鳴って、丈哉はただ「はい」と素直に返事して真理の上になった。丈哉は真理の異様な状態に恐れも抱いていたが、何よりも真理の放つ何とも言えない激しい色気に興奮して、丈哉自身も性欲の虜になってしまっていた。この真理の今の状態はおかしいという疑問もはなから抱いていたが、激しい性的興奮の前にそんな思いはふっとんでしまっていた。

 丈哉は、真理を抱き締めている内に真理の体温が上がって来てるな、と感じていた。身体中を舐め回してても、真理の体温はかなり高くなってる。これは40度以上あるんじゃないか?何か熱病なのでは?と不審に思いながらあちこち舐め回して、真理の両腿の間の局部に舌を這わせると、真理の秘部から溢れ出ている体液がいやに熱い。まるで塩からいお湯を舐めてるようだ。

 丈哉はこれまで何度も真理と寝ているが、この体温も体液の熱さも異常だと思った。しかも何だかだんだん温度が高くなって行ってる気がする。

 丈哉が顔を上げると当の真理は興奮してあえぎ声を出している。丈哉も興奮したままだったが少しばかり冷静さを取り戻して真理に訊ねた。

 「真理ちゃん、おかしいよ。やけに体温が高い。異常だよ。病院行った方が良いんじゃないか?」

 それまで恍惚とした表情であえぎ声を上げていた真理が頭を起こして丈哉をにらみ、怒ったように言った。

 「うるさいわねぇ!あんた、さっさと入れなさいよ!」

 真理に怒られて丈哉は「はい」と素直に返事して、真理の両腿を開いた。真理の秘部からは体液がしたたり出て湯気が立っている。相当熱そうである。丈哉は秘部の深い穴が融けた溶岩が噴き出す火山口に思えて、こんなところに自分のモノを入れて大丈夫だろうか?と心配になった。

 だが丈哉も興奮したままだし真理も入れろと言って来るので、丈哉は自分のモノを挿入した。熱い。熱いけど気持ち良い。気持ち良さに任せて丈哉は高速で出し入れを繰り返す。真理は身体を反らせてあえぎ続ける。

 丈哉が熱いけど気持ち良いと感じて恍惚となっていたのが、また熱さが高まり、異常な高熱になって来た。だんだん我慢できない熱さになって、気持ち良さよりも耐え難い高熱に苦痛を覚えて来た。

 「あつっ、あつっ、あちちち!」

 たまらず丈哉は叫んだ。丈哉は思わず自分の一物を引き抜こうとする。しかし真理の局部が強烈な力で締め上げて抜くことができない。真理の身体そのものもかなりの高温になっている。早く自分のモノを引っこ抜いて身体を引き剥がしたい。丈哉は悲鳴を上げた。

 「熱い~っ!ギャア~!」

 丈哉は真理の身体を押して自分のモノを引き抜こうと懸命になった。調度、腕立て伏せの格好で全力で腰を引き上げている。とにかく自分の一物が熱い。これは火傷くらいじゃ済まないかも知れない。自分のチンチンが黒焦げになって根元からもげてしまうかも知れない。丈哉に突っ張った両腕で両肩を押し着けられている、下の真理も苦しそうな顔をしている。

 丈哉は両膝を立て両腕を突っ張り、渾身の力で腰を引く。そうやって全力を出している内に、スポンッ!とワイン瓶のコルク栓が抜けるような音がして、丈哉のモノが真理のオマ××から抜け、勢いで丈哉はベッドから落ちて床に転がった。

 丈哉はベッドから落ちたとき、勢いがついていたので窓側の壁で頭を打ってくらくらし、直ぐには起き上がれなかった。

 ベッド上の真理は全身に汗をかき、息づかいが荒く苦しそうな顔をしている。両股は拡げたままだ。股間からは湯気がもうもうと立っていた。

 真理が悶えるように顔を左右に振り、苦しそうな声を上げた瞬間、開いた股間の真ん中から突如、火を吹いた。ゴオッと両太腿の間の女の秘部から一瞬、炎が吹き出たのだ。

 仰向けに寝て両股を拡げた下の部分のシーツはびっしょり濡れていて、そこには火は着かなかったが、一瞬だが勢いよく出た炎はその先の両膝の間くらいのシーツの濡れてないところに火を着けた。

 一回だけ一瞬吹き出た炎は、ベッドのシーツに火を着け、シーツが燃え始めた。

 炎が上がり始めた頃、床に転がっていた丈哉が頭を押さえて、ふらふらしながら起き上がった。床に座り込んだ形で横を向くと、ベッドが燃えている。炎が上がり煙が立っている。驚いた丈哉は大声を上げた。

 「真理ちゃん、大変だ、火事だァーッ!」

 ベッド上の真理は強烈なセックスの後の余韻に浸っているのか動かない。

 丈哉がよろよろしながら立ち上がって真理の両肩を揺すった。とするやいなや火災報知器の激しいベル音がけたたましく鳴って、天井から激しい雨が降って来た。

 天井の熱探知機か煙探知機が反応して天井設置のスプリンクラーが作動したのだ。部屋の広い範囲にかなり激しいシャワーが降り続ける。ベッドの上の丈哉と真理はびしょ濡れになった。

 廊下で「火事だ、火事だ」という大声で叫ぶ複数の声が聞こえ、廊下を慌ただしく走る音がする。丈哉と真理の居る部屋のドアがいきなり開いた。

 「大丈夫ですか!?」

 大丈夫か?という心配する言葉だが怒鳴るような声を上げて、男性が入って来た。このラブホテルの従業員らしい四十がらみの半袖ワイシャツ姿の男だ。ホテル側で緊急に部屋のロックを解錠したのだろう。勢いよく吹き付けたスプリンクラーの大量のシャワーで、シーツの火は消えていた。

 既にスプリンクラーは止まり、ベッド上の二人は放心したようにポカンとしていた。真理はベッドに座り込みベッド脇に立つ丈哉が真理の両肩を抱いていて、二人とも素っ裸でびしょ濡れになっている。二人ともしばし何が何だか解らないといった状態で固まったままだ。

 「いったいどうしたんですか!?」

 従業員の男が咎める調子で怒鳴る。

 「ああ…あぁ…」丈哉が返事するが言葉が出て来ない。丈哉自身も何が何だか訳が解らないのだ。真理はポカンと放心状態のままだ。

 従業員の男は焼け焦げたあとびしょ濡れのベッドのシーツと天井の作動の止まったスプリンクラーを目で確認して、ベッド上の二人に言った。

 「火は消えてボヤということで済んだけど、火災報知器と連動で消防署が来る。警察も一緒に来るから、とにかく服着て待っててください。事情聴取があるだろうから」

 従業員の中年男が厳しい調子で言って、部屋から出て行った。

 また部屋に二人だけになって、真理は、今回のことは警察にも誰にも話さないでくれ、でないと私は生きて行けなくなる、と丈哉に懇願した。真理のことを愛している丈哉は、このボヤ火災は丈哉の寝タバコが原因と話そう、と真理に約束した。

 実際、どうしてベッド上でシーツが燃えたのか丈哉には解らなかった。確かに真理の身体が異常に高温になったのは事実だが、シーツが燃えるほどの高熱とも思えないし、熱源かも知れないと疑っても真理自身は何ともなっていないのだ。スプリンクラーの水を浴びた後の真理の身体の体温は人間の平熱になっている。

 真理自身もおそらく自分の身体が異常な高温になったことがシーツが燃えた原因だろうと思っていたが、まさかそれでベッドのシーツが燃えたとは信じ難く思われた。

 異様に激しい性行為の直後で、興奮と快楽の波が納まらぬ中で半分以上意識が飛んでいるような状態で、真理はまさか一瞬自分のま×この穴から火を吹いた、などとは己れの身体のことながら全然感知していなかった。

 真理のま×こから一瞬吹いた炎は無意識の中で起きた現象だったのだ。

 丈哉が立って歩き、自分と真理のシャツとズボンを拾ってきた。全部ビショビショだ。真理がおもむろにブラジャーを着け、絞ってからパンツを穿く。二人は絞ってシャツを着て、下は二人ともジーパンだったのでそのまま足を通した。

 暦的には秋口とはいえまだまだ残暑のある日々で、このラブホテルに入るときにはもう辺りは宵闇が降りていたが、肌寒いと感じることはなかった。二人は濡れたままの衣服を着てもそれほど苦にはならなかった。というか、今起こったこととこれからの警察の聴取などで頭がいっぱいで、濡れた衣服のことなどどうでもいい気分だった。

 二人が身仕度を終えた頃、外から消防車とパトカーのサイレンの音が聞こえて来た。サイレン音がどんどん近付いて来て大きくなったと思ったら、突然サイレン音が止んだ。

 消防車とパトカーがラブホテルの敷地に入って止まったのだ。

 

※この「じじごろう伝Ⅰ」狼病編(21)はこれで終わります。以降「じじごろう伝Ⅰ」狼病編(22)へ続く。

 

◆「じじごろう伝Ⅰ」..狼病編(10)2014-5/18
◆「じじごろう伝Ⅰ」..狼病編(11)2015-5/21
◆「じじごろう伝Ⅰ」..狼病編(12)2016-2/20
◆「じじごろう伝Ⅰ」..狼病編(15)2018-2/28
◆「じじごろう伝Ⅰ」..狼病編(18)2019-5/31
◆「じじごろう伝Ⅰ」..狼病編(19)2020-1/30
◆「じじごろう伝Ⅰ」・・狼病編(20)2020-10/12

 

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ●小説・・「じ... 「世紀末の牝... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。