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●漫画・・ 「ワンサイド特急」 ..(1)

Photo  僕が、秋田書店の月刊漫画誌「冒険王」を購読するのは、僕がもう中学生になってからで、その頃の「冒険王」のお目当ての漫画作品は、梶原一騎原作の2大スポコン漫画、というか、もう2大格闘巨編漫画の、「夕やけ番長」と「虹を呼ぶ拳」の熱烈なファンで、毎号の続きが読みたくてたまらなかったからです。今回取り上げたお題の、さいとうたかを氏のスパイアクション劇画「ワンサイド特急」はそのだいぶ前の、まだ僕の家の近所に貸本屋さんがあった頃の、「冒険王」の連載漫画作品です。

 僕の家の近くの貸本屋さんがなくなったのが、多分、65年かせいぜい66年頃までだと思います。「ワンサイド特急」が月刊誌「冒険王」に連載されたのが、65年から66年で、記録では、「冒険王」65年11月号から66年4月号まで、となっています。調度半年間ですね。僕は、この頃の「冒険王」は貸本屋で借りて読んでいる、と思うのですが、僕の記憶では、さいとうたかをの「ワンサイド特急」がこの時代の冒険王に連載されてて、カッコイイ漫画だった、という印象はあるのですが、詳しいことはもう憶えてはいませんでした。多分、「ワンサイド特急」連載が始まった頃の分は、貸本屋さんで借りて読んで、連載後半部分は読んでいない、つまり、その貸本屋さんが閉店してしまったんじゃないか?と思うんですね。だから物語初めの方では断片的に憶えているシーンもある。まあ、どっちでもいいよーな話ですが。

 50年代半ば頃から貸本世界でデビューした、さいとうたかをさんは、貸本劇画家たちの中でも特に絵がうまくて、貸本漫画の売れっ子でした。50年代末から60年代初頭頃からぽつぽつと、漫画メジャーである少年月刊誌にも主に読みきりで、雑誌の別冊付録などに作品を発表することもありましたが、この時代のさいとうたかを氏の主戦場はやはり貸本でした。この時代の洋・邦の数多の娯楽映画の影響を強く受け、銃弾飛び交い乱闘・格闘シーン続出の、ギャングものなどの活劇アクションヒーロー映画を、漫画の世界で再現して、劇画というものを第一級のエンタティンメントにまでしてやろう、という壮大な希望を胸に抱えて漫画を描いていた、さいとうたかを氏は、線のシャープさや絵のうまさだけでなく、漫画制作そのものを俯瞰的に捉えて考える才能も持ち合わせていました。漫画制作をシステムとして考えたのです。僕は、漫画制作をプロダクションシステムで、工場的に作り上げて行くことを実施して確立した、最初の人がさいとうたかをさんなのではないか、と思っています。勿論、さいとうたかを以前でも、例えば、超多忙な手塚治虫先生の原稿を手伝う、駆け出し若手漫画家や編集者が居たりしたのですが、漫画制作を、総合監督が居て、流れ作業の原稿作り上げシステムを、工場的に作り上げ確立した人は、やはり、さいとうたかを氏が初めての人でしょう。多分、さいとうたかをさんは、一人の監督の元、多人数のいろいろなスタッフで作り上げて行く映画制作の世界のやり方を、自らが監督的総合プロデューサーになって、漫画制作の世界で実現して見せたのでしょう。 

 その昔、あの「ガロ」の黄金時代、「ガロ」のチーフ編集者として、つげ義春氏と親交を深くした権藤晋氏が、「貸本考古学」という漫画評論を書いている、その中の一節に、1950年代末、辰巳ヨシヒロ氏を中心とした劇画工房が存在した短い間、劇画工房全プロデュースの貸本短編誌、「少年山河」の内容について語っているのだが、その中で、「少年山河」という漫画本全体については文化的に高評価しているのだが、中身のいくつかの短編作品の内、さいとうたかを氏の作品のみ酷評している。

 貸本誌「少年山河」の内容ジャンルは、いわば青春もの劇画で、さいとうたかを氏の作品を除く、他の辰巳氏やK・元美津氏、石川フミヤス氏の作品は、社会問題に対する訴求性や、「理由なき反抗」的な青春期のジレンマ、等等のメッセージ性を持った、リアルで濃い内容を持っているが、さいとうたかを氏の短編作品のみ、小学生相手のような単純なストーリーで、内容が幼児的である、というような評価を、権藤晋氏は書いているのである。

 ここで僕が思うのは、もう既に、さいとうたかを氏は自分の漫画作家人生の初期、貸本時代の前期に於いて、自分が作家として進むべき方向が明確に表れているのだ、と感じられる。漫画作家、さいとうたかを氏は、社会問題を提起したりするメッセージ性を、己の描く漫画作品で表現しようなんて、そんな鬱々としたことは、さらさら考えていないのだ。さいとうたかをの描く漫画作品は、読んで気分がスカッとするような、快活さの娯楽なのだ。意識しようとしていまいと、多分、最初から、そのつもりで漫画修行を行い、いくつもの漫画作品を発表して来たのだ。さいとうたかをの作る漫画作品=劇画は、エンターティンメントそのものなのだ。何よりも先ず、読者が楽しみ喜ぶ娯楽であり、最高に面白い上質な娯楽を作る、ということを追及して行った作家さんなのだ。

 だから、劇画工房メンバーや、この時代の漫画作家の中で、特に漫画作品としての内容が、さいとうたかをの漫画に対する意識が、他の漫画作家らに劣るという訳では決してないのだ。後に、さいとうプロダクション実質経営の出版社、リイド社で、さいとうたかを200円ロードショーと名付けた長編読み切りの雑誌形単行本を出し、またそれからしばらくして、さいとうたかを1コインロードショーや、劇画座招待席として、それまでの数々の長編作品をまとめて単行本(コンビニコミック本の始まり期)にして、一律500円定価などと読者が求めやすい価格で出版したりしていたが、漫画修行の初期、娯楽映画に圧倒的影響を受けたさいとうたかを氏は、自らの劇画で娯楽の王道を目指したのだ。

 辰巳ヨシヒロ氏の自伝漫画にして重要漫画史文献ともなる好著、「劇画漂流」下巻の中のエピソードに、辰巳氏の実兄、桜井昌一氏が愛読するミッキー・スピレインの本を、辰巳氏がさいとうたかをさんに勧めるくだりがある。太平洋戦争終了後のアメリカで大人気となった、名探偵マイク・ハマーが活躍する、アクション・ハードボイルドの名作の数々で有名なミッキースピレインは、60年代に台頭して来る日本の探偵小説作家たちに多大な影響を与えた。漫画「劇画漂流」のワンシーンで、若き漫画修行者、さいとうたかをがミッキー・スピレインのアクション・ハードボイルドを一心に読み耽っている姿が描かれている。この、ミッキー・スピレインら、この時代のアメリカンハードボイルドが、その後のさいとうたかを氏の作風に大きな影響を与えたことは間違いない。

Photo  50年代半ばに漫画デビューした、さいとうたかを氏は、50年代末から60年代の貸本界でトップクラスの売れっ子として大活躍する。やはり作風は、ヒーロー活劇が主体で、時代的に映画で絶頂を極めていた、小林旭等を代表的俳優とする、日活無国籍アクション映画の影響下で、日本の暗黒街という舞台を作り、拳銃無法都市でのヒーロー探偵対ギャングたちという常套ベースの上で、数々の痛快な拳銃・格闘アクション漫画を紡ぎ出して行った。また、さいとうたかを氏の描く時代劇も人気があり、正義のカッコイイ剣豪ヒーローが、悪の残忍なサムライたちや、幽鬼の如き悪の剣の使い手と、ちゃんばらアクションを繰り広げる活劇漫画で、読者の気持ちを惹きつけた。50年代後半から60年代は、ちゃんばら時代劇が、まだまだ人気を誇っていた時代だった。この時代、貸本劇画の世界では、「イカス」という言葉が流行語でしたね。「イカス」とは、この時代の、カッコイイ男性に対する賞賛ですね。若くて強くてタフでカッコイイ、という感じの言葉かな。「イカス」は美青年でも、少々ワイルドぽい男性的なハンサムですね。

 60年代前半、貸本シーンで大活躍のさいとうたかを氏は、メジャーの雑誌で連載を持ちます。さいとうたかを氏等を代表とする貸本劇画の売れっ子たちの作風は、読者対象年齢が、50年代後半から60年代前半の時代の月刊誌を主とする少年雑誌の中身では、レベルが低過ぎる。貸本劇画の作家たちが相手にして描いていた読者対象は、せめて中学生以上だったんですね。しかし、当時の少年雑誌の内容は小学生対象の漫画だ。1963年、さいとうたかを氏は、小学館の、読者対象を中学生以上、高校生や大学生あたりまでもに持って来ていた、漫画よりも読物や記事、ライフスタイル情報などを主体にした少年雑誌、「ボーイズライフ」に、アメリカで大ヒットした洋画のコミカライズを描きます。映画「007シリーズ」の漫画化作品です。

 イギリスの作家、イアン・フレミング原作の、アメリカ映画「007シリーズ」は日本でも大当たりし、小学館「ボーイズライフ」誌の、さいとうたかを氏描く、コミカライズ劇画も人気を博し、連載も続いて、シリーズは『死ぬのは奴らだ』、『サンダーボール作戦』、『女王陛下の007』、『黄金銃を持つ男』の、映画どおりのお話(調べたら、でもない)の全4作が、ボーイズライフ誌で発表されたらしいんだけど、僕が今、憶えているのは「サンダーボール作戦」と「女王陛下の007」だけだなあ。当時、小学生の僕は「ボーイズライフ」なんて読まなかったしなあ。歳の離れた兄貴が読んでたのを、チラリと読んだりはしていたのかも。もっとも、多分、後に中学上級くらいになって、小学館ゴールデンコミックスでちゃんと読んでる筈だけどね。

 ああ~、またまた長くなっちゃったなあ。さいとうたかをさんのスパイ・アクション劇画、「ワンサイド特急」を、ちょこちょこっと紹介するつもりが、またエライ長くなって、とうとう、最後まで「ワンサイド特急」の内容の話まで至らなかった。・・・と、いう訳で、これは続きます。「ワンサイド特急」..(2)へと続く。では。

◆(2009-02/15)漫画・・ 「ワンサイド特急」 ..(1)
◆(2009-03/03)漫画・・ 「ワンサイド特急」 ..(2)

 

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