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●漫画・・ 「白暮のクロニクル」

 SF大長編大作「鉄腕バーディー」に続く、ゆうきまさみ先生の、週刊ビッグコミック・スピリッツ連載の渾身の力作、「白暮のクロニクル」は、ビッグ・スピリッツ2013年第39号から連載が始まり、2016年5月現在、好評連載中の長編作品です。「鉄腕バーディー」~「鉄腕バーディーEvolution」の連載終了が2012年第34号ですから、ビッグ・スピリッツ連載では調度、一年ぶりくらいで長編作品の連載を始めたことになりますね。その間に、同じ小学館の月刊スピリッツに、不定期連載の作品を描いてはいますが。ゆうきまさみ先生の作品は、だいたい小学館のコミック雑誌で発表されてますね。

 「鉄腕バーディー」終了の後、本屋へ行って、月刊スピリッツ、ぱらぱら立ち読みしたら、「でぃす×こみ」という作品が載っていて、「ああ~、ゆうきまさみ、バーディーの後、こういうの描いてるんだ~」と思ったものです。この「でぃす×こみ」って作品、僕はちゃんと読んでないんですけど、何でも、漫画家を目指す若者が主人公のお話のようですね。ゆうきまさみ氏にしては、SF 調でなくて、等身大の若者生活漫画みたいですね。生活漫画というと語弊がありそうですが、まあ、広い意味での今風若者青春漫画かな。ジャンル、仕事漫画ではないだろうな。

 漫画家を目指す女の子が、突然、新人少女漫画作品の大賞を取る。少年漫画部門に応募したのにおかしいな、と疑問に思いながらも授賞式に行くと、授賞作品が自分の描いた漫画ではない。動揺の内に、訳解らずに大賞授賞のまま帰って来て、家で兄貴に話すと実は、その授賞作品は兄が描いて妹の名前で応募したものだった。その、授賞した漫画作品のタイトルが「でぃす×こみ」で、この作品の内容はBL漫画だった…。というのが、月刊スピリッツ不定期連載の漫画、「でぃす×こみ」のお話の導入部ですね。若者が主人公ですが恋愛ものではなく、コメディタッチで描く、やっぱり青春コメディものかな。

 「でぃす×こみ」のコミックスは、2015年1月に第1巻が出てますね。月刊誌の不定期連載だから、なかなかお話が進まないのかな。

 漫画作家・ゆうきまさみ先生の作品といいますと、代表作の「機動警察パトレイバー」に見られるように、「SF」が多いのですが、独特のコメディ漫画もありますね。ギャグと決め付けられない、ストーリーギャグというか、コメディタッチの漫画。SF要素の入った若者コメディ漫画。もっとも、ゆうきまさみ氏の作品は、SFなどストーリー漫画でも、ところどころに、独特のギャグ要素やコメディ要素が入ってますけど。シリアス部分と、それを茶化すようなギャグが入ってみたり。

 僕は読んだことないのですが、90年代後半の週刊少年サンデーに長期連載された作品、「じゃじゃ馬グルーミンUP」は、その前の連載作品「機動警察パトレイバー」とはがらりと趣向を変えた、競馬テーマの作品だそうですね。特にお得意の「SF」要素は入っていない、等身大の競走馬育成が主題の、まあ、青春ドラマかな。この作品は、サンデー誌上で何と6年間も続いているんですねえ。「SF」テーマではなくとも、漫画人気は高かったのでしょうね。

 さて、大長編SF大作「鉄腕バーディー」「鉄腕バーディーEvolution」の後を継いで、小学館の人気青年誌で連載が続く(正確にはスピリッツ連載は一年間開けてからですが)、今のゆうきまさみ先生の長編力作「白暮のクロニクル」は、この作品のジャンルは何と、「伝奇」です。「SF」ではなくて「伝奇」。伝奇サスペンス漫画ですね。パラレルワールドものと言えなくもない。舞台設定がもう一つの世界。ゾンビものとかによくある、もしもこの世界にゾンビがウヨウヨ溢れてたら、僕たちの生活はどうなるか?みたいな。もしも設定漫画と言っても良いかな。

 お話は、太平洋戦争中から現代までの舞台の中で、もしも不死の吸血鬼族と普通の人間が共存してたら…、という世界観の舞台ですね。設定は現実の現代社会と変わらないのだが、ただそこに一部、ヴァンパイアが共存している。そしてヴァンパイアは、普通の人間に管理されながら生きている。という世界観。そういう世界で物語が進む。テーマは勿論、人間社会に生きる少数のヴァンパイア民たちのことですね。特徴的なヴァンパイア民の中の、何人かの登場人物たちの躍動に、普通の人間の主人公たちが絡んで行く。そういうストーリー運び、かな。物語も主人公は、人間サイドに一人、ヴァンパイアサイドに一人ですね。

 小学館ビッグコミックス·スピリッツ「白暮のクロニクル」の、第3巻の最初の方から出て来る、岐阜の田舎の山村の、夜中の通りに“散歩”と称して出没する、ミドルティーンくらいの可憐な美少女や、山の上の方にある、村で“上屋敷”と呼ばれる、古い大きな屋敷に越して来た家族のエピソードなどは、小野不由美さんの和製ヴァンパイア·ホラー、「屍鬼」を思い出させます。というか、新潮文庫全五巻の、最初の方のエピソードそのものですよね。全体的な物語や設定は、「屍鬼」と「白暮のクロニクル」は違うのですが、ここんところはよく似たエピソードです。多分、ゆうきまさみさんがヴァンパイアものを創作するにあたって、「屍鬼」は参考にしてるんでしょうね。田舎の村とか町に、ヴァンパイアが増えて行くストーリーは、細部は違いますけど、スティーブン·キングの「呪われた町」にも似てますね。「屍鬼」が「呪われた町」へのオマージュとして書かれたんだから、「屍鬼」に似てたら「呪われた町」に似てて、当たり前なんですけど。でも、ゆうきまさみさんの「白暮のクロニクル」は、全体の設定とかストーリー展開は独自のもので、設定や細部やストーリー展開は、「屍鬼」や「呪われた町」とは全然違いますけどね。

 「屍鬼」や「呪われた町」は、高台の古い屋敷に、引っ越して来た者が出て、これが物語の始まりですね。ここから、村や町の田舎の集落に、行方不明者が出始め、死人が出始め、死体が消えて、その村や町の様子が変わって行き始める。町や村の住民たちが、じょじょにじょじょに、ヴァンパイアと入れ替わって行く。というか、住民が一人、また一人と、一度死んで、ヴァンパイアとなって蘇生して行き、その集落が壊れて行くんだけど。壊れて行く、というか住民がヴァンパイアと入れ替わり、ヴァンパイアの集落になってしまって行く。それに比べると、ゆうきまさみ氏の「白暮のクロニクル」は、もう最初からヴァンパイアの存在は解っている。国内でヴァンパイアの存在が広く知られ、普通の一般的な人間から管理されている。ヴァンパイア族は少数であり、大多数は通常の普通の人間だし、為政者の中心や大多数は普通の人間で、管理体制の方には、もうごくほんの少数しか居ない。ヴァンパイア族は、普通の人間から完全に管理されている。

 だから、物語中に似たエピソードがあっても、物語自体の設定は初めから全然違う。何しろ、「白暮のクロニクル」の中では、太平洋戦争中に、ヴァンパイア人だけで構成された軍事部隊が編成されていたくらいだから。物語の一方の主人公、雪村魁という、見掛け少年か青年は、この太平洋戦争中に子供で、瀕死の重傷時にヴァンパイア族の一人の兵隊が、命を救うために、ヴァンパイアの血を飲ませて、そこからヴァンパイア人になってしまったということですから。戦後70年経った現代で、見掛けは少年か青年かというくらい若い。

 「白暮のクロニクル」のメインテーマである、吸血鬼の一族というのか、ヴァンパイア人たちですが、この特殊な人たちは物語中では、“オキナガ”と呼ばれています。別の呼び方はまんま「長命者」。国内に10万人居ると言われて、都内には3000人くらい居るそう。生命力が強くて病気に掛からず、自然死もあんまりないそーな。生の血液が好物だけど、生き血を飲まないと生存できないという程ではないらしく、普通に肉食主体の食事で大丈夫みたいですね。特に生肉大好きのようですが。紫外線に弱く、昼間太陽にあたると皮膚が火傷するとかいうのは、モロ吸血鬼的ですね。だからオキナガは夜行性。

 何処かで、オキナガ用に開発した、ウィダーインゼリーみたいな、アルミパック?何かハンディなパック入りの、血液代替飲料みたいのが出て来てましたね。そうそう生き血が飲めないから、血液を模した人造栄養飲料みたいの。ジュース状かゼリー状か解らないけど、血液代替パック入り栄養飲料。

 僕の読んだ限りでは、日本在住のオキナガしか出て来ないけど、物語中、説明を見てないが、この世界観では、オキナガは世界中に分布して居るんでしょうね。すると、太平洋戦争中のオキナガだけで構成された部隊は、実は世界中で“オキナガ”部隊が編成されてあったのか?何しろ、オキナガ人は日中は皮膚が焼けて活動できないから、夜行性部隊になりますからね。

 ああ、それからこの物語中のヴァンパイア様(よう)のオキナガは、パートナー見つけて、その人の生き血を吸うこともやるんですが、生き血を吸われる側が普通の人間でも、その人間がオキナガに牙を立てられ血を吸われても、血を吸われた人間がヴァンパイア様のオキナガに成ることはない。だから、感染的にオキナガがどんどん増えて行くことはない。でも、雪村魁のケースのように、弱っているところに大量のオキナガの血を飲ませると、場合に寄ってはオキナガになってしまうようですね。何かそんな世界観です。まあ、見方に寄っては、大きな国の中に居る少数民族かな。厳しく管理された少数民族。

 コミックス第3巻に出て来る、岐阜の山村に移住しているオキナガの一人、叶一生という髭面中年のオッサンは、職業現代画家なんだけど、自ずから話すんだけど、「古くは狩野派に師事し、その後、琳派に学び…」というくらい昔から生きていて、昔は加納猪助という名前で、国のオキナガ登録もこの名前になっている。現代画家·叶一生は、狩野派を学んだ訳で、狩野派は室町時代中期から興り、江戸時代を通して繁栄した画壇だから、この叶一生というオジサンは少なくとも、400年くらいは生き続けて来ている、ということですね。まあ、漫画の物語の中ですが。

 「白暮のクロニクル」の一方の主人公、オキナガサイドの主人公は、文字通り“万年青年”の雪村魁ですが、今一方の主人公、普通の人間サイドの主人公は、大学を卒業したばかりの新人公務員でガタイの大きな女の娘、伏木あかりです。厚労省の夜間衛生管理課という、実質、国内の“オキナガ”を管理する部署に所属して、とにかくオキナガ人に関する事柄なら何でも出っ張って、オキナガ案件は“事件”も含めて、調査などイロイロと絡んで行く。この二人の主人公には、歳を取らない長命者と普通の人間ということで、時代的な世代を越えた不思議な縁(関係)がある。

 

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コメント
 
 
 
Unknown (ken-mortima)
2024-03-05 21:56:09
WOWOWで連続ドラマ版-実写「白暮のクロニクル」が2024年3月から配信になるんだな。全12回。
 
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