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●漫画・・ 「ミタライ -探偵御手洗潔の事件記録-」第1巻

 漫画「ミタライ-探偵御手洗潔の事件記録-」は、講談社の青年コミック誌「モーニング」に2012年19号から掲載されている劇画作品です。僕らからすると、タッチ・描画・描写的に“漫画”と呼ぶよりも“劇画”的ですね。今は漫画に於いて、あんまり“劇画”という呼び方はしないのかも知れませんが。「劇画」という呼称は“昭和”のもの、なのかも知れませんね。現代漫画でこういうタッチ・描写はよく見る絵柄ですが、僕らからすると“漫画”というより、よりリアル描写で描かれていて、やっぱり「劇画」カテゴリーの漫画作品だなあ、と思っちゃいますね。今は、デフォルメ・簡略化された漫画も、リアル描写漫画も統一して、ただ“コミック”と呼ぶのかも知れないけど。言い換えれば、つまりは手塚治虫の「記号論」になるけど、絵柄が“記号的”か、リアル描写を心掛けて写実的に絵を描いていっているか、というのもありますね。まあ、とにかく現代漫画作品「ミタライ」は、週刊雑誌「モーニング」に不定期連載されて、“サスペンス推理コミック”として、人気を得て続いていっている訳です。作画担当は原点火さんという漫画家さんです。そしてこの「ミタライ」のストーリー原作は、80年代以降現在まで、我が国の本格ミステリを牽引して来た代表的作家の一人であり、我が国探偵小説史上に“新本格”の旗手として名を残す、小説家・島田荘司さんです。

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 探偵推理コミック、「ミタライ-探偵御手洗潔の事件記録-」は、作家・島田荘司さんが創り上げた代表的探偵キャラクター、想像上の天才探偵、御手洗潔の活躍するシリーズの中の短編・中編作品のコミカライズです。本格推理小説の主人公キャラクター、御手洗潔は、かのシャーロック・ホームズと肩を並べるような天才探偵キャラクターです。昔の英国の作家、コナン・ドイルが、今から120年以上も前に創造した天才探偵キャラクター、シャーロック・ホームズもけっこう変人だったみたいですが、我らが御手洗潔もかなりの変人です。僕は島田荘司先生の小説が大好きで来ましたが、中でも御手洗潔というキャラクターにはもう、その魅力に寄って大ファンにさせられました。御手洗潔というキャラクターは僕の、最高の“憧れ”ですね。今から30年近く前に初めて読んだ島田荘司作品の、「占星術殺人事件」で天才変人探偵・御手洗潔を知ってから直ぐに、御手洗潔の大ファンとなり、直ぐさまという感じで次の作品「斜め屋敷の犯罪」を読んで、もう、僕は当時、御手洗潔という探偵キャラの“虜”のようになってしまいました。あの頃はもう、毎日のように「早く次の作品が出ないか」と、御手洗潔シリーズの新作を心待ちにしてた程です。第2作「斜め屋敷の犯罪」では、主人公の御手洗潔探偵は、物語もかなり進んだ途中からの登場なんですが、その登場シーンが圧巻で、リアルタイム読んでて欣喜雀躍的に、嬉しさで飛び跳ねたいくらいの気分になったものです。今でもそのときの、弾けるように喜んだ気分は、あれから25年は経ってますけど、まだよく覚えてます。

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 僕が「占星術殺人事件」を読んだのは、僕が東京-関東圏から帰って来て、いわゆるUターンですが、次の仕事に就くまでのぶらぶらしてた、今でいうニート期間に、田舎の駅前というか、駅正面から歩道なりゆるいカーブを歩いて直ぐの、信号十字路角にあった、もう今はなくなって久しい小さな書店、小さなといってもけっこう奥行きもあり2階が文房具売り場だった本屋さん、S書店で講談社ノベルズ版で買って来て、田舎で読んだ小説本、と思い込んでいたのですが、調べてみると、「占星術殺人事件」は最初に単行本で1981年初版刊行で、僕の読んだノベルス版は85年刊行ですから、多分、僕はまだ東京に居たとき、関東圏で仕事してた企業の最後の勤務場所、神田営業所に在籍していた頃、多分、神田界隈の本屋さんで買って来て読んでるんですね。田舎のS書店で買って来て読んだのは、ノベルス版の「斜め屋敷の犯罪」の方で、多分、86年末か87年ですね。僕が神田営業所務めだった当時、営業で回ってた千代田区内の本屋さんの二、三軒で、島田荘司さんの書籍、「サテンのマーメイド」や「夏、十九歳の肖像」を立ち読みした記憶がある。買って完読したんじゃなくて、あくまでパラパラ立ち読みしたんだけど。これも勘違いして記憶してて、僕自身は島田荘司のエッセイ集本の「ポルシェ911の誘惑」や異色サスペンス小説「都市のトパーズ」だと思い込んでいたんだけど、調べてみるとこの二冊の初版発刊は89年と90年だ。僕は86年の9月か10月に東京を引き上げている。島田荘司の作品四冊、「サテンのマーメイド」「夏、十九歳の肖像」「ポルシェ911の誘惑」「都市のトパーズ」は、多分、傑作著作物なのだろうけど、僕は結局未だ読んでいない。


※(済みません。上記直ぐの何行か解りづらいですよね。要するに86年頃、神田界隈の本屋を巡って立ち読みした島田荘司の著作があるが、『ポルシェ911の誘惑』『夏十九歳の肖像』『都市のトパーズ』『サテンのマーメイド』のどれかと思ってたが、どれでもなさそうだ、とそういうつまらん、ドーデモイイ個人的な小さな記憶の話です。しかも憶えてないし。)

 僕は、島田荘司先生の作品、「占星術殺人事件」「斜め屋敷の犯罪」と御手洗潔もの長編小説を読んだ後、ハードカバーで新刊の御手洗潔ものが出る度、短編集、新作長編、即、買い求めて読み耽ってた。第一短編集「御手洗潔の挨拶」、「異邦の騎士」、第二短編集「御手洗潔のダンス」、「暗闇坂の人喰いの木」「水晶のピラミッド」「眩暈」「アトポス」までのは全巻、ハードカバー単行本が出るやいなやで即買って来て読んだ。続けて読んで行ったのはここまでだなあ。次の講談社ノベルスで出た「龍臥亭事件」上下巻もだいたい出て直ぐくらいに買って読んだんだと思うんだけど、90年代も半ば頃になって来ると僕の読書趣味は、島田荘司の「名探偵・御手洗潔シリーズ」から船戸与一の冒険小説の方に移っていたからなあ(『龍臥亭事件』は講談社ノベルスでなく、96年、光文社の新書判・カッパノベルスで出たんでした)。「御手洗潔シリーズ」の長編小説は重厚で分厚くて長く、「水晶のピラミッド」「眩暈」「アトポス」あたりは内容をよく覚えていない。読んで直ぐはだいたい解っていたんだろうが、今となっては細部は完全に忘れてる。「眩暈」なんて当時読んで直ぐもよく覚えてなかったんじゃないか、と思うくらい。「眩暈」は今はほとんど内容を把握していない。ただ、「暗闇坂の人喰いの木」はメチャクチャ面白い小説で、一回しか読んでないが、割と細部までよく覚えている。全体を覆う怪奇ムードがゾクゾクして、まるでホラー小説を読んでいる感じで物語を追っていけるのだ。「暗闇坂の人喰いの木」は面白かったなあ。僕は滅多に再度の読み返しをやらないんだが、この間、2002年初出刊行の「魔神の遊戯」を十年ぶりくらいで読み返した。「魔神の遊戯」も雰囲気が「暗闇坂の人喰いの木」によく似てて、怪奇ムード満点でゾクゾク面白い。あくまで物語に漂う雰囲気が似てるんで、お話の内容は全然違うんだけど。「水晶のピラミッド」「眩暈」「アトポス」を読み返してみたい、って思いはあるんだけど、どれも分厚くて長いからなあ。
※(『龍臥亭事件』には御手洗潔はほとんど出て来ません。主役はいつもはワトソン役の“石岡和己”が務めてます。)

 「異邦の騎士」は、大学教授で文芸評論家、TV・ラジオのワイドショー番組などのコメンテーターを勤めていたこともある、福田和也さんの著作で2000年に刊行された、文学評論集というか、現代文学評価点数測定本、「作家の値打ち」の日本文学のエンタティンメント部門の、島田荘司作品の評価ページで、作家・島田荘司の最高得点81点を着けている作品。次が「龍臥亭事件」で79点。3番目の高得点作品が「占星術殺人事件」の73点となっている。ちなみに「作家の値打ち」が発刊された2000年当時、僕の愛読書だった船戸与一の冒険小説群に福田和也氏が着けた点数は、どれも20点以下で愚作過ぎて点数測定不能との酷評を着けている。勿論、僕自身には船戸与一の冒険小説群はどれも抜群に面白い、血沸き肉踊る傑作エンタティンメント文学だったんだけど。「作家の値打ち」での福田和也氏の文学測定点数の基準は、最高得点の90点以上は世界文学第一級水準。80点以上が近代日本文学の歴史に銘記されるべき作品。70点以上が現在の文学として優秀な作品。60点以上が再読に値する作品で、50点以上が読む価値のある作品。「アトポス」は47点で、この点数、40点台は何とか小説になっている作品。ですね。我らが船戸与一さんの作品群が着けられている点数、20点台(29点以下)というのは、人前で読むと恥ずかしい作品で、もし読んでいるのなら秘密にするべき、というかなり厳しい酷評点数ですね。勿論、「作家の値打ち」の現代文学の評価付けに対して、この本が出た後、異議を唱え内容を否定する作家や評論家がいっぱい居たことも事実です。何しろ福田和也氏のこの本では、実際、世間では有名で人気もありメディアでの一定の評価も定着させ、現代文壇で大家や重鎮としての扱いを受けているような、今の高名な作家たちを、作家に寄っては、厳しく評価しているというか、まあ、はっきり言ってみれば、ボロクソにけなしている、とでも言えるような、酷評で点数を着けているんですからね。


※(船戸与一先生は、直木賞はもとより、吉川英冶文学新人賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞などの文学賞受賞歴を持つ、日本文壇的には高い評価を得ている、プロの知的エンタティンメント文学小説家であることには間違いありません。)

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 現代探偵小説の雄であり“新本格”の旗手、島田荘司の傑作ミステリ、御手洗潔シリーズの中編・短編コミカライズ、雑誌モーニング掲載人気漫画、「ミタライ-探偵御手洗潔の事件記録-」はKC講談社コミックスにて、2014年1月現在既刊2巻までとなっていますが、コミックス第1巻に収録された作品は、二つの短編小説のコミカライズで、巻頭、最初の作品がタイトル「糸ノコとジグザグ」です。これはね、原作の小説版でははっきりと「御手洗潔シリーズ」と銘打たれた作品でないし、実は小説の何処にもはっきりとは人の名前として「御手洗潔」は出て来ません。多分、そうであろう、と思われる人物は描写されていますが、その人が「御手洗潔」だと名告ったり他の登場人物からそう呼ばれたりする訳ではない。だいたい小説版では、「御手洗潔シリーズ」に収録されていない。「占星術殺人事件」のヒットからのブレイク以降、講談社が出版し続けていた「御手洗潔シリーズ」のハードカバー・ノベルス・文庫に入ってなくて、この掌編は光文社文庫の短編集に収録されていた。でも読んで見ると、この人物は明らかに御手洗潔なんですよね。僕も漫画板で読んだとき、最初、「御手洗潔シリーズ」の短編集、「御手洗潔の挨拶」「御手洗潔のダンス」「御手洗潔のメロディー」のどれかに収録されてて、読んだ僕自身が内容を忘れてる短編のコミカライズなんだろう、と思っていました。ところがこれは1988年光文社刊行の短編集、「毒を売る女」の中に収録されてたんですねえ。知らなかった。

 漫画「ミタライ」コミックス第1巻の後半収録の「傘を折る女」、これは僕が小説版を2011年に読んでいたのでよく覚えてました。御手洗潔ものの短編集「UFO大通り」に収録されています。小説の長さからいって、これは中篇ですね。けっこう分厚い講談社文庫に「UFO大通り」と「傘を折る女」二編のみ収録なんですから。ネタバレになるからココで言えないけど、二つの中篇に共通するキーワードは、貴志祐介著作の角川ホラー文庫「雀蜂」に共通するキーワードですね。って、「雀蜂」読んでない人には解らないコトだろうけど。ミステリの紹介っていうのは、もう直ぐにネタバレに抵触してしまう恐れがあるからね。アブナイ、難しい。漫画版「ミタライ」第2巻に収録されているのは「山高帽のイカロス」と「数字錠」の2作。これも僕は原作小説を、24、5年くらい前に、ハードカバーで単行本が出て直ぐに購読してますね。「数字錠」は御手洗潔シリーズの第一短編集「御手洗潔の挨拶」に、「山高帽のイカロス」は第二短編集「御手洗潔のダンス」に収録されています。いづれの短編も傑作で、ミステリファンにはメチャ面白いお話ばかりです。

 第一級のサスペンス謎解き探偵推理小説の傑作群、「御手洗潔シリーズ」は原作でもコミック版でもメチャ面白くて楽しめます。基本は謎解き推理小説ですが、物語の表層をホラー雰囲気で覆っていて、読者をゾクゾクした気分にさせる作品が多い。ホラー風味のサスペンスタッチで実に面白いです。また、作品によっては、現代病理の奇病や難病をテーマやキーワードに扱った作品も多く、またその病理を物語の中で細かく解説していて(物語上、多少、誇張表現されてますけど)、そういった知識を得たりと、知的に楽しめる部分も大きい。まあ、タメにもなる。コミック版も是非。

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