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●小説(ミステリー)・・ 「高校殺人事件」-松本清張作品-

  主人公の高校三年生の少年は、クラスメート内の仲良しグループの一員だった。そのグループ内の友達の一人、変わり者でポーやランボーに心酔する、少年詩人が自分の創作詩の構想を練るために近隣の山々に散策に入り、夜間の山中の沼近くで妙な笛の音を聞く。

 翌日、その話を主人公の少年にして、ちょっとした言い合いになり、笛の音の確認のために少年詩人は再び、次の夜も山の中に入り沼にまで行く。少年詩人はそのまま帰って来なくて行方不明となった。

 クラス担任の教師や仲良しグループが中心となり、警察も出動して大々的に山々の捜索を行う。友達の少年詩人は見つからず、仲良しグループや担任教師は独自に捜索を続けた。捜索の途中、沼付近の森の中で、怪しい素振りを見せる若い僧に出くわす。

 やがて警察は沼の中の捜索を行い、沼の水中から二つの死体を引き揚げ、その内一体が行方不明になっていた友達の少年詩人だった。

 担任教師の提案で仲良しグループは、寺に保管される非常に珍しい草花の写生を口実に、例の怪しい若い僧が勤める、沼近くの寺に訪問し中の様子を探る。だが何も解らなかった。

 その内、独自に事件の謎を追っていたらしい担任教師が失踪し、乗っていた自転車だけが少し離れた川で見つかる。担任教師は行方不明のままとなる。

 主人公少年は寺近くの山で浮浪者然とした中年の男と出会う。身体の悪そうなこの男は海外の戦地帰りで、寺の住職と旧知のようだ。男は少年に寺付近の山々の案内を請う。友達の死体が揚がった沼や防空壕跡の山麓の穴などを案内させる。

 寺は若い僧も不気味だが住職も態度が怪しい。少年はクラスの仲良しグループと事件について話し合いを繰り返す。その内、寺の直ぐ隣に郷土記念館ができた。住職と旧知の身体の悪そうな男は、この郷土記念館の管理役となる。管理役にはもう一人サブの男も居た。

 やがて戦地帰りの身体の悪そうな男は、郷土記念館の中で死亡する。警察は建物内部での首吊り自殺と見るが、記念館の内部を念入りに観察した少年は、自殺死因に不自然さを覚える。

 そうこうする内に夏休み中に九州の同年代の従姉妹が遊びにやって来る。この従姉妹は活発な性格で行動力もあり、探偵小説マニアだった。彼女は従兄弟や従兄弟のクラスメートたちの抱える謎の事件に興味を抱く。

 主人公少年と推理マニアの従姉妹の少女の殺人事件の捜査が始まった。沼から上がったクラスメート親友の絞殺死体、突然建立されたあまり意味のなさそうな郷土記念館、その記念館の管理役に納まっていたのに自殺してしまった戦地帰りの身体の悪そうな男、失踪したまま行方の解らない担任教師、不気味な寺の若い僧、不審な動向の寺の住職や記念館のサブ管理人…。

 少年探偵団的な様相の仲良しグループに主人公少年の従姉妹少女が加わり、怪事件の謎は一気に解決へと向かって行く…。

 というのが、日本ミステリ小説界のレジェンド、松本清張の1960年の作品、「高校殺人事件」のおおまかなストーリーです。単行本上梓は61年ですね。

    

 この間、松本清張のミステリー小説「高校殺人事件」を読んだ。この小説は僕が松本清張の作品で一番初めに読んだ小説で、高二の春に読んだ。だから実に四十年以上の間を開けた再読になる。

 「高校殺人事件」は松本清張唯一のジュヴナイルと言われる小説で、1960年当時の学研の「高校コース」に連載された長編推理小説です。

 高二の初めに転校して来た不良の文学青年、まだ高二くらいだから文学少年かも知れない、MT 君が僕に文庫本の小説を二冊貸してくれて、その内一冊は五木寛之の短編集、もう一冊が松本清張の短編集だった。

 高二の春、16歳の僕はそれまで活字の本は児童向けの本しか読んだことなかった。高一のときに学校の図書館から、新しく出てた江戸川乱歩全集の分厚いの三冊くらい借りたことがある。中のカラー挿し絵を横尾忠則が描いてたヤツ。頭のデキのあんまし良くない僕は当時三冊とも挫折して、ろくに読まずに返却してる。

 せっかくMT 君の貸してくれた大人が読むような文庫本を、頭のあんまし良くない僕がちゃんと読めるのか自信がなくて、学校の帰りに子供の頃からよく通ってた書店に行って、松本清張の小説で一番読みやすそうなのを捜した。

 光文社の新書版カッパノベルスに、少年少女用に書かれた推理小説「高校殺人事件」があった。僕はこの本を買って、MT 君が貸してくれた松本清張の短編集を読むにあたってのウォーミングアップに「高校殺人事件」を読むことにした。

 もう、このときMT 君が貸してくれた五木寛之の短編集と松本清張の短編集に、どんな短編作品が収録されてたのか覚えてはいない。松本清張の短編集は「黒い画集」だったか「黒地の絵」だったか、それとも他の短編集だったかはっきりしない。

 もともと頭のデキがあんまり良くなくて活字本の読書慣れができてない僕は、ジュヴナイルである「高校殺人事件」でさえ読むのに手間が掛かってた。だから借りた二冊を読み上げるのにかなり時間が掛かって、MT 君に本を返すよう言われて、まだ読み終わらないのかと呆れられながら文句を言われたのを覚えている。

 その後、もう一回くらいMT 君から文庫本を借りていると思う。やはり五木寛之と松本清張の短編集だと思う。長編の大人の読むような小説本を読み上げる自信がなかったのだ。MT 君から小説の文庫本を借りて読んだのはせいぜい二、三回で、後は自分で本屋で買って読むようになった。文庫本は買っても割りと安価だと気付いたのだ。

 しかも文庫本の中に五木寛之の作品も松本清張の作品もいっぱい出ていた。頭が悪くて遅読だからせいぜい一週間に一冊ペースだ。これなら安価な文庫本は買って読める。また、不良の文学少年 MT 君と学校で毎日話す内に、いろんな作家の話も聞いた。太宰治の話などもしていたが、当時の流行作家のエピソードが多かった。だから、そこから五木寛之·松本清張以外の作家の文庫本を買って来て読み始めたのもある。

 高校生時代、僕の家は大貧乏だったから、当然のように小遣いなどなく、途中から母親手作りの弁当持って行くのをやめて、昼食代として月曜から金曜まで毎日百円を貰うようになった。高校生時代は昼飯を抜いて百円を貯めて文庫本を買ってた。当時は文庫本なんて二百円台くらいであったから週に一冊読み上げるとして充分だった。通ってた高校は家から近かったから、別に昼食べなくても帰宅部で4時頃家に帰れば、朝の残りの味噌汁と生卵がある。家帰って直ぐ、毎日のようにどんぶり飯に味噌汁と卵掛けて掻き込んでた。

 後々から思えば、この時代、市の図書館を利用すれば良かったのにな、と思った。歩き通学だったし学校と家からだと反対方向に遠回りになるが、距離的にはいつもの通学路の二倍半くらいの歩きになるだけだし。

 高校の図書館で借りた本は高一のときの江戸川乱歩全集の中の二、三冊と忍者の解説本と漫画の「のらくろ二等兵」くらいだけだったな。多分、高二·高三時は学校図書館で借りてない。乱歩全集の二、三冊はろくに読んでないし。ただ忍者の解説本は、エンターテイメントの忍者ではなくて、戦国時代の実際の忍者について実在した上忍の名前と共に、階級社会や道具や鍛錬などあれこれ解説していて面白い本だった。

 僕が高校生時代読んだ本、特に文庫本は当時の流行作家のものばかりだったから、多分当時通ってた高校の図書館にはあの時代先端の流行作家のものは置いてなかったんじゃないかなぁ。文庫本くらい昼飯抜けば買えたし、途中からもう昼飯抜いて帰宅して4時頃味噌汁ぶっかけ飯を食うのに身体が慣れたんだろうな。

 松本清張が「高校殺人事件」を執筆したのは59年末頃から61年の初春くらいまでで、初単行本化は光文社の新書判、カッパノベルスで61年の12月。

 当時の高校生の少年が主人公で、1960年当時の高校生や大人の生活が背景に描かれてるけど、2019年から考えて今から60年近く前に書かれた小説といっても、読んでてそこまで違和感はない。まぁ、昭和の風景感はあるけど。僕は四歳五歳の時代だけど、僕は昭和を知ってるもんな。パソコンもネットも携帯電話もスマホもSNS もない時代の現代を描いてると、今の若者が読めば、やはり大昔感があるのかもな。僕が高校生だったのは70年代前半だから、物語中の高校生たちと特に変わりは感じないもんな。ただ物語中には、まだ戦後感が残っていて、太平洋戦争中に海外の戦地に行っていて敗戦後日本に帰って来た大人たちのエピソードとか出て来るけど。

 カッパノベルス版の1961年初版本の定価は230円で売り出されてるけど、ネット画像で見た73年版カッパノベルスの定価は430円だった。僕がこのカッパノベルス版で購入したのが71年だから値段は410円くらいだったのかな?あの時代の僕がよくこんなお金持ってたな。60年代~70年代の雑誌や書籍って毎年だいたい10円づつくらい値上がりして行ってたもんな。

 この僕の拙ブログ、「Ken の漫画読み日記。」は、僕の読んだことある漫画作品のコトゴト、仮に読んだことなくても知っている漫画作品のコトをイロイロ書いて行ってるブログなんですが、松本清張の小説作品のコトを書き込むにあたって、基本「漫画読み日記」だから、もし松本清張作品にコミカライズされた作品があれば、建前にそれを挙げて、主要内容は小説「高校殺人事件」の話を書いて行こうとしたんですが、調べても、松本清張の小説で漫画化された作品はありませんでした。だから、まぁ、カテゴリを小説(ミステリ)にして記事アップすることにしましたが。

 僕は高二の春にクラスメートの MT 君から、五木寛之と松本清張の短編集の文庫本二冊を二回くらい借りて読んで、後は商店街の本屋で買って、五木寛之も松本清張も主に文庫本で次々と読んで行きました。松本清張作品は高校生時代にけっこう多数読んだのですが、当時面白かった作品を順位付けでいうと、1位「影の地帯」2位「蒼い描点」3位「ゼロの焦点」4位「黒い樹海」といったところですかね。

 「高校殺人事件」はTVドラマ化されてるそうで、1977年にNHKで、ドラマタイトル「赤い月」で、夕方6時台の20分ワクで全20回で放送されたようです。無論、僕はドラマ版を見たこともないし知りませんでした。小説で読むとそこまで長く感じなかったけど、20分を20回というのは随分長い時間掛けてドラマを描いたんですね。当時の「少年ドラマシリーズ」という番組ワクの中での放送で、このシリーズは当時、夕方に毎週3、4回(日)放送していたようですね。

 

高校殺人事件 (光文社文庫) 文庫 松本 清張  (著)

影の地帯 (新潮文庫) 文庫 松本 清張  (著)

蒼い描点 (新潮文庫) 文庫 松本 清張  (著)

黒い樹海 (講談社文庫) 文庫 松本 清張  (著)

高校殺人事件 (光文社文庫)Kindle版 松本 清張  (著)

ゼロの焦点(2枚組) [DVD] 広末涼子 (出演), 中谷美紀 (出演), 犬童一心 (監督)  形式: DVD

砂の器 デジタルリマスター版 [DVD] 丹波哲郎 (出演), 加藤剛 (出演), 野村芳太郎 (監督)  形式: DVD

黄色い風土 (講談社文庫) Kindle版 松本清張  (著)


 「高校殺人事件」が初出連載されたのが、1959年から61年までの学研発行の「高校コース」。昔は学習·学年誌という教育系児童雑誌は、小学館の「小学一年生」から「小学六年生」まであり、学研発行の「一年の学習」「一年の科学」から「六年の学習」「六年の科学」まであった。また中学生以上向けの教育系雑誌になると、学研からは「中一コース」から「中三コース」が出ていて、旺文社からは「中一時代」から「中三時代」が出ていた。

 高校生向けには旺文社から「高一時代」から「蛍雪時代」、学研からは「高一コース」から「大学受験·高三コース」が刊行されていた。

 子供の頃の僕は、小学館の学年誌はタマに買うことはあっても、中学生からの「時代」や「コース」は、中学·高校とも一冊も買ったことはない。僕が小学生や中学一年生頃、親戚の家に泊まり掛けで遊びに行ったとき、親戚の家の僕より三つ四つ歳上の従兄弟の「時代」だったか「コース」だったかがあって、パラパラ捲って見たのは記憶している。

 僕の小学生時代は、学研の「学習」「科学」は小学校の中で予約販売していて、僕は「学習」の方はタマに購読することはあった。購読ってあの頃の馬鹿ガキの僕は活字はほとんど読まず、一本だけの何ページかの漫画と綺麗な図版(写真)を見てただけだったな。

 小学校時代の「学習」「科学」の購読って、発売日に小学校に雑誌が来てたけど、支払いってどうしてたんだろうな?どういう支払い方法してたのか全く記憶してないな。

 松本清張作品は、高校生時代にけっこう読んで行ったし、特に短編集はいっぱい読んでると思う。長編も読んで行ったけど、「波の塔」と「けものみち」が当時、読み上げるのは最後まで読んだけど、小説があんまり面白いと思わず、その辺から松本清張は読まなくなったのかな。松本清張をいっぱい読んでたのは高二までで、高三になってそんなに読んでないと思う。高三は野坂昭如·遠藤周作·柴田翔·庄司薫·北杜夫·柴田錬三郎とかかなぁ。五木寛之は高二までは短編集をいっぱい読んでて、高三は五木寛之の長編小説を読んでたな。

 あ、高三時は吉行淳之介の長編小説も何作か読んだな。エッチな内容で驚いたが文章表現がとても綺麗だった。こういう“文学”もあるんだなぁ、って思ったな。松本清張は高校卒業して大人になってからは、読んだのは「Dの複合」と「湖底の光芒」の二冊だけだな。

 「Dの複合」は浦島太郎伝説になぞらえた現代の謎解きの面白さが光る長編推理小説で、当時楽しく読み上げたと思うが、「湖底の光芒」の方は下請け中小企業の経営の苦悩を描いていて、謎解き部分があんまりなくて、当時は僕は小説がそんなに面白いと思わなかったと覚えている。まぁ「Dの複合」も「湖底の光芒」もあらすじも内容はほとんど忘れてしまってますけど。

 

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天久鷹央の推理カルテ

 

 拙ブログ「Ken の漫画読み日記。」 は、新旧漫画作品を扱ったワタクシめの個人ブログですが、新旧って大部分が「旧」の作品で、その内ほとんどは昭和漫画が占めてますが、まぁ、僕が漫画作品を題材にして感想とか、その漫画にまつわる自分の知ってるコト書き込んだりしてる訳で、本来は漫画評論書きたかったのですが、漫画の感想くらいのトコで終わってることが多く、“評論”なんて呼ぶにはとてもおこがましいレベルですかね。

 だいたい僕の子供時代に読んだ漫画を取り上げて、あーだこーだ書き込んでる訳だけど、その当時の僕の思い出もふんだんに書き込んでいて、そっちの部分の方がむしろ多いんじゃないかってくらいです。僕の子供時代·少年時代·青年時代の個人的な記憶を思い返してだらだら書き込み、書いてる僕自身が懐かしさに浸っている部分は大きい。

 そんな訳で、このブログは大半は漫画作品を取り上げているのだけど、今回は漫画でなくて小説です。今回のタイトル、お題になってるのは“医療ミステリー”ジャンルの小説作品です。今嵌まってるミステリ小説「天久鷹央の推理カルテ」というシリーズ。この本の表紙だけ見ると、アニメの萌え系みたいな可愛いイラストで主人公が載っているので、今風絵柄のコミックかと勘違いしそうですが、これはエンターテイメント小説作品です。

 でも先ずは“医療ミステリー”つながりで、今TV のTBS 系列で大人気放送中の連続ドラマ、「インハンド」のことを取り上げて書きます。TV ドラマ「インハンド」は原作が漫画作品なので、「Ken の漫画読み日記。」に相応しい題材にもなるし。ただ僕はドラマは毎週見てるけど、原作の漫画は今のところ読んでないのですけど。

 TBS系 テレビ金曜夜10時ワクで、4月12日から放送が始まった、ジャニ系アイドル·山下智久34歳が主演する、医療系のサスペンス·ミステリ連続ドラマ「インハンド」は、原作がコミックであり、講談社の青年コミック誌·月刊アフタヌーン~イブニングに、2013年から2019年4月現在まで連載が継続している、朱戸アオ氏作画の医療系サスペンス·ミステリ漫画「インハンド」がもともとの原作物語です。

 ドラマは主人公の謎の生物学者·紐倉哲が、ちょっと、手塚漫画のブラックジャックを彷彿させるような雰囲気も持った、ニヒルな感じで、良い意味でのサイコパス感があり、超頭の良い人描くときの徹底した合理主義的思考で、冷たい感じを放ちながらも行動面に人間的優しさが見え隠れするという、天才科学者をジャニーズ系タレント·山下智久が好演しています。

 脇を固めるサブキャラの、紐倉博士の助手·高家の、正義感とヒューマニズム溢れるがお人好しの小市民感があり、貧乏くじを引いたりドジを踏んだりして困った立場に追い込まれて、視聴者の笑いを誘うコメディーキャラを、濱田岳が好演して、ドラマに良い味出している。

 同じくサブキャラで、このドラマのヒロインとなる、東大卒のエリート官僚ながら、冷や飯を喰わされる部署に転属され、不満を持ちながらも上昇思考が強く、近い内に官僚エリートコースに絶対返り咲くと前向きに行動する、強い正義感も併せ持つ行動派キャリアウーマン·牧野巴を、高身長ナイススタイル・足長Sキャラ美女·菜々緒が演じてます。

 牧野巴が所属する、内閣情報調査室·健康危機管理部門の室長·網野肇という、無難・無事に官僚サラリーマン生活を過ごして、昇進をただ待つだけという、やる気のない上司役を光石研が好演していますね。

 連続ドラマ「インハンド」は2019年4月いっぱいで3話まで放送されました。6月内までに全10話くらい放送になるのかな。

 原作漫画「インハンド」の主人公は天才生物学者·紐倉哲ですが、初登場の作品、2013年の月刊アフタヌーンに連載された「ネメシスの杖」では、主人公は別に居て、紐倉博士は重要な脇役でした。その後、2016年の月刊アフタヌーン連載の「インハンド-紐倉博士と真面目な右腕」にて物語の主人公となりました。そして2018年の青年コミック誌·イブニング22号から、タイトル「インハンド」として新連載、2019年4月現在も連載中です。

 「インハンド」主人公の天才生物学者·紐倉哲は、中南米のジャングルの植物から発見した成分から薬剤の特許を取り、大金持ちになって東京ドーム何個分とかの広域な土地に爬虫類や熱帯植物を飼育する施設を作って、そこに住んで研究に勤しんでいる。紐倉博士は寄生虫専門の科学者でもあり、寄生虫媒体の感染症やパンデミック、その他の原因不明の感染症などに関わって行く…。「インハンド」は、謎の流行性の感染する病気などを題材にした、傑作·医療サスペンス·ミステリーのコミックです。

 人気TV ドラマにて傑作コミックの「インハンド」が医療サスペンス·ミステリーということで、漫画や小説、映画やTV ドラマなど、近年は、エンターテイメントの物語のジャンルには、この“医療サスペンス”の作品が多いですね。特に有名なものに、医学博士号を持つ外科医·病理医である、海堂尊さんの書かれた、ベストセラー·傑作医療ミステリー小説の「チームバチスタの栄光」や「ジェネラルルージュの凱旋」がありますが、この分野の小説作品もいろいろと多い。最近は、現役の医師や医学部を出て作家になられたり、医師と作家を兼業されている才能豊かな人も居る。

 “医療ミステリー”のジャンルの小説は、ベストセラーになれば映画化やTV ドラマ化、ときにはコミック化もされるし。「インハンド」は元からが、朱戸アオさんという方が原作付きでなく単独で作画する、“医療ミステリー”の漫画作品ですが。だいたいこういう専門分野を舞台にしたコミック作品には、原作付きが多いのですが、見るからにペンネーム(仮名)の朱戸アオさんは、漫画の作画能力がありながら、専門的と言えるけっこうコアな病理知識や医療知識を持っていて、才能豊かで凄いですね。朱戸アオさんは、ネットで調べても、はっきりしたプロフィルのよく解らない謎の漫画家さんです。SNS をやられてるようですが。コアな医療知識は現役医師か医学部出身なのか?よく解りません。

 医療系漫画というと、元祖が手塚治虫の「ブラックジャック」、そして佐藤秀峰さんの「ブラックジャックによろしく」がありますね。あと、TV ドラマ化された「医龍」とか、後続の医療系漫画はけっこういっぱい出てますね。そうそう、TBS 系列でTV ドラマ化されて記録的な高視聴率を取った、「JIN」も村上もとかさんの医療系漫画が原作ですね。「JIN」は舞台の大部分が時代劇だけど。

 

 そして、僕が最近嵌まってるシリーズ小説が、非常に読みやすくて、どっちかというとライトノベルのカテゴリに入るんじゃないかという感じで、でも一応ライトノベル扱いではない、普通一般の文芸小説とライトノベルの中間くらいに位置する若者(少年少女)向け小説か、ってくらいのエンターテイメント小説で、文庫本刊行ワクも“新潮文庫nex”と一般の新潮文庫と別ワクの刊行シリーズになってるし、若者が一般的な小説読書生活の入り口に、とても良いような平易な文章使いと現代の若者が普段会話するようなセリフ使いで、内容はきちんと“医療ミステリー”になっている、ユーモアたっぷりのおもしろ小説シリーズ「天久鷹央の推理カルテ」です。

 この天久鷹央シリーズの文庫本は、カバー表紙が全部、アニメ·萌え系イラストになってます。シリーズ主人公の天久鷹央を漫画絵で描いた、可愛い萌え系イラスト表紙ですね。

 天医会総合病院の理事長の次女にして、副院長と統括診断部·部長職を兼ねる、見た目女子高生の、小さくて可愛い、童顔の天才女医·天久鷹央が本シリーズの主人公で、物語のおおかたの語り手·進行役が、統括診断部唯一のスタッフ、若き新米医師·小鳥遊優(たかなしゆう)。

 小鳥遊優(たかなしゆう)は、たかなし医師を“小鳥”のあだ名で呼ぶ上司、天久鷹央のお守り役みたいなもので、上司·鷹央は天才脳に無限の医学知識と医学情報を内包する超有能医ではあるのだが、こと世の中の人間関係をやって行く上での人付き合い方に関しては、致命的に非常識で、同じ医療関係者間や職場の同僚間、患者やその家族や病院外部の人たちなどなど、とにかく普通に人間関係を上手くやって行くことができない。また、何をしでかすか解らないような危なっかしい行動力もある。

 ある意味有能な部下である、見習い医師·小鳥遊優がフォローすることで、鷹央は病院·統括診断部の医療業務を行うことができている。たかなし医師の、そのお守り役キャラは完璧に近く、彼の働きがあるからこそ、鷹央の医療能力を充分に発揮できると言える。そのかわり小鳥遊医師は、鷹央の相手やフォローをして回ることで、非常に大きなストレスを抱える破目になっている。

 小鳥遊優は、身長180センチ以上で体格の良い偉丈夫だが、心優しく普段は穏やかでお人好しキャラであり、いつも女医見習いの研修医·鴻ノ池舞にからかわれている。

 読んでいると、天才女医·天久鷹央はいわゆる発達障害の一種を抱えてますね。サヴァン症候群やアスペルガー症候群の特徴や症状が随所に見え隠れしてる。

 

 傑作医療ミステリー小説·天久鷹央シリーズには、「天久鷹央の推理カルテ」タイトルの短編·中編集の本が1巻から5巻まで、現在5冊刊行されており、他に「天久鷹央の事件カルテ」と銘打って、それぞれのサブタイトルが続く、書き下ろし長編小説が4巻刊行されていて、2019年4月現在で“天久鷹央シリーズ”は全9冊出ています。

 “天久鷹央シリーズ”の作者の知念実希人さんは、医学部出身の現役医師であり、職業·内科医として働きながらも小説を書き続けていて、天久鷹央シリーズの他にも長編ミステリ小説を何作も上梓されており、高い評価を得ている長編推理小説作品も複数あります。

 “天久鷹央シリーズ”では、だいたい病院の中が舞台で、不可思議な症状の患者が現れ、それぞれ各専門科の医師たちが原因不明で頭を傾げる病気に、統括診断部の天才女医·天久鷹央が乗り出し、症状の隠れた原因や病気を暴き出して問題を解決に導く。ほとんどのエピソードが、病院内での患者の謎の症状の、天久鷹央による見事な解明というストーリーなのですが、中には犯罪が絡んだお話もある。作者·知念実希人さんの、実際の医者としての専門知識があってこその、物語の構成とストーリーですね。とても面白いシリーズ小説です。

 医療の素人には、いろんな病気のあれこれ(副作用とか落とし穴的な医療の裏の部分も含めて)が知れて嬉しい部分もあります。

天久鷹央の推理カルテ1巻 (新潮文庫nex) 知念実希人                    

天久鷹央の推理カルテII: ファントムの病棟 (新潮文庫nex) 知念実希人

天久鷹央の推理カルテIII: 密室のパラノイア(新潮文庫nex)知念実希人                    

甦る殺人者: 天久鷹央の事件カルテ (新潮文庫nex) 知念実希人                    

インハンド(1) (イブニングKC) 朱戸アオ                    

インハンド プロローグ1 ネメシスの杖 (イブニングKC) 朱戸アオ

インハンド プロローグ2 ガニュメデスの杯、他 (イブニングKC) 朱戸アオ                    

◆インハンド プロローグ(1) ネメシスの杖 (アフタヌーンコミックス) 朱戸アオ

崩れる脳を抱きしめて  単行本(ソフトカバー) 知念実希人

レゾンデートル (実業之日本社文庫) 文庫 知念実希人 

 思えば、平成17年から記事を書いてアップをし始めた、この「Ken の漫画読み日記。」も、ここに平成最後の記事を迎えてアップする訳です。平成31年まで満14年以上も、漫画感想ブログを続けて来て、平成最後の記事タイトルが漫画作品ではないという、この落ち度というか、いい加減さがこのブログの良いところであり、そんなふうに内容が緩いからこそ、14年間も続けてこれたんでしょうね。

 それに、今回お題の「天久鷹央の推理カルテ」シリーズは短編·中編集をまだ3巻までしか読んでないし、漫画作品で上げている「インハンド」はドラマは見てるけど、原作漫画はまだ1冊も読んでないし。

 このブログを初めた平成17年頃は、腰椎ヘルニアや頸椎症を患った後だったものの、今よりまだぐーんと元気も良かったし、ド近眼でも今に比べれば目も健康だった。現在に比べると本も漫画もたくさん読めた。今は、漫画も小説も目が悪過ぎて読書がしんどく、なかなか進まない。背骨の難病の後遺症もあって、漫画を読むのもブログに記事書いて行くのも、けっこう大変で作業がなかなか進まない。「天久鷹央の推理カルテ」は電子書籍で読んでます。電子書籍の方が活字も大きくして行間も広げられるし、僕には、読書には紙媒体よりずっとラクですね。

 ネットを回ってて知りました。「天久鷹央の推理カルテ」は既にコミック化されてるんですね。小説版の表紙イラストを描いている、いとうのいぢさんという方がキャラクターデザインを担当して、漫画版の作画は猪原博綺さんという漫画家さんです。コミックス単行本は2018年に全4巻で刊行されてますね。アニメ化の話も持ち上がったりしてるんだとか。

 「天久鷹央の推理カルテ」が漫画本で刊行されてるんなら、「漫画&小説」カテゴリで普通に「Ken の漫画読み日記。」で取り上げて間違いなかったんですね。なーんだ。でも僕はまだコミック版は読んだことないしな。

 

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七十五羽の烏

 12月23日のTVのニュースで、22日に福島県下のさる町の公立高校周辺で多数のカラスの死骸が見つかり、その死骸を解剖したが、24日現在死亡原因が解らず、鳥インフルエンザ検査も陰性であったとの報道があった。原因不明のカラスの死骸をカウントしたところ、その数は75羽だった。カラスの数が調度75羽だったということで、僕は往年の傑作エンターティンメント小説・量産作家、都筑道夫氏の本格推理小説の名作、「七十五羽の烏」を思い出した。

 

 「七十五羽の烏」を僕が読んだのって、僕が東京の会社に勤めていたサラリーマン時代で、まあ、その後も地方で勤め人だった訳だから、基本、ずっとサラリーマンを続けた訳だけど、東京中心で関東圏で生活した時代の、さる大企業の埼玉・熊谷営業所勤め時代に読んだ本ですね。僕の20代後半時代で、だから、正直、「七十五羽の烏」のストーリーはほとんど記憶していません。僕は基本、読んだ本の再読はしない人ですし、何しろ読んだのって何十年も昔の話ですから。

 

 でも、まあ、その小説がとても面白いミステリ小説だった、というのはよく覚えています。謎解き主体のいわゆる本格推理小説ですね。物語の舞台がど田舎で、地方の、いわゆる田舎の旧家とかそういう、昔ながらの田舎の由緒ある名家みたいな大きな田舎屋敷ですね。親族とか縁戚関係の繋がりが強くて、けっこう莫大な財産を持った大きな家と複雑な親族。一番解りやすい例は、横溝正史の「犬神家の一族」みたいな、おどろおどろな世界観の舞台かな。名探偵・金田一耕助が活躍するシリーズの世界観で、「七十五羽の烏」他、都筑道夫先生のこのシリーズは割りとユーモア味も加味されているから、横溝・本格・金田一シリーズのパロディー要素もあるのかも知れません。

 

 ミステリ小説「七十五羽の烏」は、名探偵・物部太郎が謎解きして行く本格推理小説ですが、この物部太郎シリーズは全部で長編が三作続いていて、僕は当時の角川文庫で三作とも読んでます。読んだのは、多分、1981~3年頃ですね。けっこう好きな物語世界でした。面白かった。正体不明の連続殺人の怖さと、ところどころ味付けされたユーモア感。探偵・物部太郎がエライ怠け者で、とにかく凝っと寝転がってて動かないような大変なモノグサで、別名モノグサ太郎と異名を取る名探偵です。だが、もの凄く頭が良くて、ひとたび興味を持てば頭脳フル回転で謎を解いて行く‥、みたいな探偵キャラですね。このモノグサ太郎を動かすのが、ワトソン役の、名前忘れた、もう一人、シリーズレギュラーの登場人物が居て、この人は都筑道夫の他のミステリ小説にも探偵役で出てるんだけど、名前忘れた。このワトソン役さんが何とか、物部太郎の重い腰を上げさせて、難事件場所へ連れて行く。放っとくと物部太郎はすぐに横になって怠けるので、太郎の尻を叩いて、何とかモノグサ探偵を動かしながらも、事件解決に向かわせる。そういう、探偵コンビ設定の謎解きミステリですね。

 

 都筑道夫先生は、僕の生まれた年に早川書房に入社し、エラリークインズ・ミステリマガジン初代編集長を務めた方で、出版社退社後はプロの作家になられ、その作風はミステリ小説主体ながらバラエティー性に富んでいて、ミステリなら、本格推理からユーモアもの、ハードボイルド、サスペンス、パロディーまで、そして、本人がエッセイの中で書いていた、「僕は日本で一番幽霊小説を書いた小説家と言われるような作家になりたい」というような、そういう一文のように、ホラー小説もいっぱい書いています。そしてまた、SF作品も多い。正に小説職人とでも呼びたくなるような作風です。エンタティンメント小説の分野だったら、何でもござれ、あらゆるジャンルを網羅している、と言っても過言でないような才人です。その他にも、評論やエッセイ集も書いているし。また、戦後昭和のまだモノクロ映像だった時代のTV黎明期の、スパイアクションドラマのストーリー作りの仕事もされています。正に、物語を作り文章を書く分野では、八面六臂の活躍をされた鬼才の方ですね。あ、そうだ、都筑道夫先生はあらゆるジャンルの小説を書いたけど、恋愛ものとかホームドラマみたいな作品はありませんね。パロディー風推理小説の登場人物たちのやり取りが、一見、ホームドラマ風とかならあるのかも知れない。最初の頃は漫画原作の仕事もやってるし、キャラ設定のミステリ小説もけっこう多いですね。物部太郎だって、キャラといえばキャラだし。

 

 件の、現実の、七十五羽の烏のニュースですが、その後、多分、烏の死骸の発見数も、もっと増えたんだろう、と思いますが、この文を書いている現在は「七十五羽の烏」とは言えず、ひょっとして百羽を越えてるのかも知れませんが、ネットなどでは、一部、死骸が見つかった場所の地域が地域なだけに、放射能と関連付けて考える書き込みもあったようです。この文章を書いている現在、まだ烏の死因は特定されておりません。福島のとある町の公立高校の周辺、という限られた地域での烏の大量死骸発見のニュースの、その烏の死因は、今のところ、解っておりません。しかし、放射能渦が原因なら、カラスみたいな大型の鳥に被害が及ぶ前に、もっと、雀のような野生の小鳥に兆候が出るでしょうし。小型の鳥類や、その前に、昆虫などのもっと小さな野生の生き物に。河川の魚類などにも。カラスの死よりも、そういう小型の生き物の方が先だと思います。さらには、海岸べりの海ですね。長期に渡って、あれだけ汚染水が漏れ出して海に溶け込んでいるのですから、陸地の生き物よりもまず先に、海に棲む生き物に兆候が出るでしょうからね。はっきりしたことは言えませんが、放射能渦はないんじゃないかなあ。野生のカラスが、毒になるような物を食べたか食べさせられたか。というのもあるけど、解剖の結果、カラスの消化器とかから毒物の痕跡は出て来なかったのか?イロイロと考えられますね。このカラスの大量死は今後も続くのか?とかね。国内のカラス被害の実態も、あちこち非常に多いですからね。カラス被害に、困り果てたり腹を立てたりした個人が、勝手にカラス駆除をした、なんてことも考えられないか(?)。でも実際、福島の原発事故被害地域とその周辺の、植物や昆虫や小型の鳥類などの検査はどうなってるんだろう?何か放射能被害の兆候が見られるんだろうか?多くの学者たちが調べてはいると思うんだけど、あれから四年と半年以上経つけど、どうだろう、何か少しでも異変が出ているのか?気にはなりますね。

 

 もうすっかり忘れていた「七十五羽の烏」の小説の内容ですが、ちょっとネットで調べてみたら、事件の発端は、平将門の娘・瀧夜叉姫の祟りで伯父が殺される、とかいう探偵依頼内容の事件に、サイキック・デティクティブ-心霊探偵を標榜する物部太郎が、名コンビで助手役の片岡直次郎に叱咤され、重い腰を上げさせられて、おどろどろな怪奇ムード全開の連続殺人事件に取り組む、というお話のようですね。このシリーズは全部で三作で、どれも文庫で分厚い長編小説です。「朱漆に血が滴る」も、お話の雰囲気は似た感じかな。「最長不倒距離」は地方の雪山のスキー場が舞台ですね。どれも抜群に面白く、物語世界を堪能できたことだけは、何十年も経った今でも、その感じだけはよく憶えてるつもりです。

 

 

 
 

◆七十五羽の烏 (光文社文庫) [Kindle版] 都筑道夫(著)

 
 

◆七十五羽の烏 ―都筑道夫コレクション<本格推理篇> (光文社文庫) 文庫

 
 

◆最長不倒距離 (光文社文庫) [Kindle版] 都筑道夫(著)

 
 

◆都筑道夫ドラマ・ランド 完全版 上 映画篇 単行本

 
 

◆朱漆(うるし)の壁に血がしたたる 光文社文庫 [Kindle版]

 
 

◆幽霊通信 (都筑道夫少年小説コレクション (1)) 単行本

 
 

 25日朝のニュースでは、23日24日に同じく鏡石町の岩瀬農高周辺で、同じようなカラスの死骸が何羽も発見され、22日までに見つかったカラスの死骸75羽に数が追加され、この時点でのカラスの死骸の合計が85羽になっている。新たに発見された死骸に関しては、インフルエンザ検査は行われていない。初めの75羽分からは、県は国立環境研究所に検体を送り、遺伝子検査している。

 
 

 29日の新聞ニュースに、この時点で見つかったカラス死骸86羽で、何羽かの検査で消化器の内容物から農薬の成分が検出されたって、出ていたようですね。カラス死骸の近くにこの農薬成分と同じものが混入された油揚げが見つかったけど、カラスの胃からは油揚げは出て来てない、とかよく解らんみたいです。いづれにしろ、放射能や病原体ウイルスでなく、人間の仕業が濃厚な感じ。

 
 
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●小説(ミステリ)・・ 「イニシエーション・ラブ」

 乾くるみさんて、てっきり女性の方とばかり思っていたら、男性だったんですねえ。小説作品「イニシエーション・ラブ」は内容を前・後編みたく、「A面」「B面」と調度、本の真ん中あたりで分けて書かれているんですねえ。まあ、平たく言えばそのもの、前編・後編ですね。その「A面」「B面」も、各章に分かれて各タイトルが着いていて、そのタイトルが全部、1980年代の邦楽歌謡のヒット曲名なんですね。僕はA面を読み進めていて、これは間違いなく作者は女の人に違いない、と思っていたものです。あ、Side-Bの第一章のタイトル、「木綿のハンカチーフ」は70年代のヒット曲ですね。



 いやあ~、たまりませんでしたねえ。僕は、物語の恋愛ものが苦手なんです。あくまで物語作品、作ったお話ですが、僕は恋愛アレルギーみたいなトコがありまして、とにかく恋愛もの、ダメなんです。この物語、「イニシエーション・ラブ」のA面を読んでて、面映いやら、気恥ずかしいやら、何かこう、身体の首から胸の辺りから脇ら辺が痒くなるヨーナ感じで、A面読んでて、幾度も読むの中座しました。何度も読むの、途中で止めた。だからA面は読み上げるの、かなり時間が掛かりました。B面はまた少し、感触が違ってたし、お話に慣れて来てたのもあるのか、割合早く読み終わりましたね。物語だけ読むと、これは完璧、恋愛小説ですね。



 でも、ここで僕はこのタイトル「イニシエーション・ラブ」を、カテゴリ「ミステリ小説」で挙げてるんですが、この本を読んで行くと確かにもう、恋愛小説そのものなんですが、宝島社の「このミステリーがすごい」2005年版では第12位にランクインされてますし、2004年度の日本推理作家協会賞の候補作に挙げられたような作品なんですねえ。

 A面読んでるときの気恥ずかしさとかはまあ、言ってみればある種、気持ち悪さでもあったんですが、B面ではまあ、物語への慣れもあったんでしょう、そうでもなく、けっこうスラスラ読めた。で、何か、少々だけど、A面に比べると違和感も感じてた。何かちょこっと違うぞ、って感じ。まあ、ここがこの本のミソなんですけど。この小説のコトをもっと掘り下げて書いちゃうと、すぐにネタバレに繋がっちゃうんで、解説と言うと何ですけど、感想を書くのは難しいですね。僕はもとから、恋愛物語アレルギーみたいのがあるから何ですが、多分、恋愛小説として「イニシエーション・ラブ」は優れた作品で、このジャンルが好きな人にはメッチャ面白いと思うんですが、最後まで読むと大きな一ひねりがある。というか、カラクリみたいな。Side-A、Side-Bと読み進んでいって、最後の最後になって「あれ?」と思っちゃう。そしてパラパラ、後戻ってページを捲るコトになる。読む前からこの“カラクリ”を知っちゃうとこの作品の醍醐味が無くなって、面白みが半減する。

 この小説の前・後編で、A面・B面と分かれていて、Side-A・Side-Bがまた各章分けて、主に80年代のヒット曲名がタイトル付けされてるんですが、僕自身がこの12曲の中で印象深い歌は、Side-Bの方の「木綿のハンカチーフ」「夏をあきらめて」「ルビーの指輪」「Show Me」かな。「揺れるまなざし」「ラッキーチャンスをもう一度」「Dance」という歌は知らなかった。お話の中に当時の大人気ドラマ、明石家さんまと大竹しのぶの「男女七人‥」のコトとかが出て来るのが懐かしかった。まあ、ここも一つ、カギかな。


◆イニシエーション・ラブ (文春文庫) 文庫 – 乾 くるみ (著)

 「イニシエーション・ラブ」の“イニシエーション”=initiationて、日本語訳で一般的に「通過儀礼」て意味になるんですけど、恋愛の通過儀礼、つまり、十代後半とか二十代前半頃の初恋から初期の恋愛は、本人たちがこの「愛」こそが本物で人生で重大なもので、これが一生続いてく普遍的なものだ、くらいにかなり大きく意識してしまうんだけど、恋してる当人たちはやっぱり若いし、恋愛が続いて行く中で、イロイロと気付くコトや解って来るコトもいっぱいある。喜び楽しさ嬉しさの後に、互いに傷付くことや悲しみ、嘘や裏切り、辛いコトゴトもいっぱい出て来る。まあ、それも含めて人間としての成長だと言えるのかも知れませんが。純粋から、汚れた大人になっていく、という捉え方もあるのかも知れないけど。小説の中で、登場人物の一人が話すんですが、この小説にはそういう意味も籠められてますね。だから未練タラタラのストーカーなんて、本当に馬鹿らしい。無論ですが、ストーカーは愚かな行為だ、と思い知らされる。まあ、別に僕がストーカー経験者だという訳ではありませんが(僕はストーカーなんてしたコト無いですよ)。ストーカーしそうな性格の人には是非、読んで欲しい物語です。物語中の石丸美弥子の言葉が胸に沁みる筈です(胸に沁みなければならない)。





◆(2014-10/16)
 ネットのエンタメニュース記事に、小説「イニシエーション・ラブ」が劇場用映画化されて撮影され、来年公開予定だとありました。ドラマ主役陣は、松田翔太、前田敦子、木村文乃となってますね。このドラマをミステリとして映像で描くことができるのか?? 甚だ疑問ですね。そのまま映像で描いたら、ただの恋愛物語で終わっちゃうし。そのまま映像でスルッと行っちゃうと間違いなく、100%恋愛ドラマですよ。こういう言い方は悪いんだけど、現代ではけっこうありふれたよーな恋愛ドラマ。

 ココから先は、“ネタバレ”に触れて行ってしまうコトになるんだけど、この小説はミステリとしては「叙述トリック」なんですね。叙述トリックは映像にしたらバレバレになるから、原作小説を映像表現するのは、もの凄く難しい。というか無理でしょう。漫画にしても無理だ。漫画でもバレバレになるだろう。そのままスルッと映像で行けば、ただの恋愛ドラマだし。堤幸彦監督は、いったいどう表現するつもりなんだろう?

 叙述トリック小説作品は例えば、筒井康隆の「ロートレック荘事件」や歌野晶午の「葉桜の季節に君を想うということ」みたいに、小説だからこそミステリの醍醐味が味わえるんであって、映像にしたらバレバレになってしまい、ミステリとしての面白さは、かなりの部分が削がれる。いや、面白味は半減以上に、無くなってしまうレベル。この二作品とも、ミステリとしてはとても面白い秀逸な作品ですけどね。特に「葉桜の季節に君を想うということ」は、叙述トリックを除いても、ストーリーの運びだけでも面白いお話だけど。

 主役級の一人、鈴木君は松田翔太が演るんだろうし、もう一人の主役、マユは元AKBの初代絶対センター、前田敦子だろうし、東京サイドのヒロインは木村文乃なんだろうし、難しいですよね。松田翔太の立ち回りに触れると完全ネタバレになっちゃうしなあ。小説のA-side、B-sideをどうやるんだろうなあ? スルッと行っちゃうと単なる恋愛ドラマだし。映画は原作とはかなり変わりそうな気がする。

 まあ、ミステリとしては最後の二行で「あれっ?」ってヤツだし、それがなければモロ恋愛ものだし。だから、恋愛物語の苦手な僕は多分、この映画見ないでしょう。何だか済みません。


◆葉桜の季節に君を想うということ-歌野晶午
 

 あ、そういえば、殊能将之の「ハサミ男」も、“叙述トリック”っていえば、叙述トリックになるんだよな。あれは確か劇場用映画化されてるけど、どういうふうに撮ったんだろう? ストーリーの流れ、映像でそのまんま描いたらバレバレになる。小説は読んでとても面白かったけど、映画は見たことない。多分、原作とはだいぶ変えてるんだろうな。醍醐味のネタバレ部分を、どういうふうに描いたのか興味ある。そのまま描いたら、ただストーリー追うだけだし‥。

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