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「黄金バット」「万能屋・錠」ー篠原とおるー

 

 戦前の昭和初期に路上の紙芝居で、初めて登場した正義のヒーロー、黄金バットは、戦後の月刊児童雑誌で絵物語として再登場し、紙芝居でも絵物語でも大人気でヒットし、1950年と66年と二度、実写映画化された。その後67年~68年にTV アニメとして毎週放送されて大ヒットする。

 アニメ化と同時にコミカライズで、漫画作品が月刊誌「少年画報」と週刊誌「少年キング」に連載された。月刊誌版の作画は井上智氏、週刊誌版の作画は一峰大二氏で、だいたいTV アニメの放送期間と同時期に連載されて、漫画雑誌の看板漫画の一つとして当時の子供人気を得た。

 漫画の「黄金バット」というとだいたいこの、67年~68年雑誌連載の井上智·一峰大二版の「黄金バット」を指すんだけど、アニメ放送で「黄金バット」が一般的に国民に知られる以前、その二、三年前に、当時はまだ貸本漫画家の篠原とおる氏が、漫画で「黄金バット」を描いていた。

 大坂·日の丸文庫またの名を光伸書房という貸本漫画専門の出版社が、小売り販売書店向けでも卸してたB5判雑誌、「まんがサンキュー」を月刊漫画雑誌として1963年から発行してた。この「まんがサンキュー」で64年~65年に連載されたのが、篠原とおる版の「黄金バット」です。

   

 紙芝居版や戦後の月刊誌の絵物語版の「黄金バット」のメインの宿敵は“怪人ナゾー”で、このナゾーの正体は戦後のお話では、旧ドイツ·ナチスの残党幹部の科学者とかいうふうに設定されている。戦後はGHQ の教育が日本国民に行き届いて、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線の首謀者、ドイツ·ナチスは絶対悪として日本人の脳裏にも刷り込まれて行ったのでしょう。だいたい戦後·昭和の活劇漫画の悪役には、このドイツ·ナチスの残党という設定が多い。まぁ実際、ユダヤ民族迫害やヨーロッパ支配など相当ひどいコトやってますからね。

 まぁ旧ドイツ·ナチスに限らず、大航海時代から第二次世界大戦前後までの、ヨーロッパ列強の白人は世界中の他民族を侵略して(殺戮も含め)奴隷化して回って来た訳ですから、ナチスだけに限らず、ヨーロッパの白人は歴史的に世界中でひどいコトして回ってますけど。そう言い出すと、そもそも人間は、はるか昔から絶えず戦争と集団どおしの殺し合いを続けて来てる訳だけど…。

 戦後は黄金バットの宿敵ナゾーはナチスの残党だったけど、昭和四十年代に入ってからはナゾーは第二次世界大戦·主戦犯のナチス党とは関係なく、実写映画では地球を支配しに来た“宇宙怪人”だったかな、アニメの方では古代アトランティス大陸時代からの宿敵という設定ですよね。

 日の丸文庫発行の月刊漫画誌「まんがサンキュー」に64年~65年連載された、篠原とおる版「黄金バット」には僕の記憶では“ナゾー”は出て来てない気がする。まぁ僕も子供時代に「まんがサンキュー」掲載分を読んだだけで、後々読み返したことはないですから、記憶もあやふやなんですけどね。大掛かりな犯罪組織が巨人ロボットを使って日本の都市を破壊していて、黄金バットが空を飛びつつ武器のバトンでロボットの鋼鉄の身体に突き刺したり、ロボットの腕を斬り落としたりして、ロボットをやっつけてたような(篠原とおる版はサーベルか)。

 第二部にも敵側に怪ロボットが居て、その怪ロボットは巨人ロボットではないけど、超スピードで走るロボットだったような。人間の目に止まらないくらい速く走る、等身大くらいの怪ロボット。敵の基地が、大きな池の真ん中の、何か水面からの出っ張り建造物が入り口になった、池の中の水中基地で、そこに超高速ロボットが逃げ込んでた。

 まぁ第一部も第二部もあんまりよく覚えてないんだけど。何しろ、子供時代に一回読んだだけの記憶だし。

 アニメ版の黄金バットは、小学校高学年くらいの女の子が胸のブローチか何かに「コウモリさんコウモリさん…」って呼び掛けたら、金色の蝙蝠が現れて飛んでって、正義の味方の超人·黄金バットが登場してた。まぁ黄金バットはだいたいそういう感じで、主人公たちの危機に際して突如現れてたんだけど、篠原とおる作画版の「黄金バット」は変身ものだった。

 「まんがサンキュー」の黄金バットは、主人公が普段、新聞記者か私立探偵か何かで、犯罪集団がロボットとか使って攻勢に立ったとき、人間の主人公が変身して黄金バットになって戦っていた。黄金バットといえば紙芝居の昔からドクロ仮面の顔だけど、篠原とおる版では第一部の終盤、敵にガイコツ仮面を割られて、中から忍者マスクの顔が現れる。

 紙芝居~絵物語の黄金バットは、魔法使いみたいな先の尖った黒い帽子にドクロ仮面、首回りに、昔々のキリスト教の宣教師が巻いていたようなジャバラ襟、黒マントで全身黒装束かな。篠原とおる版黄金バットはドクロ仮面割られた後は、首に同じジャバラ襟でツバ広の黒いソフト帽で忍者マスク、マントに黒装束だった。(襞襟-ヒダエリ-=16世紀半ばから17世紀前半にヨーロッパで貴族や富裕層の間で流行したブラウスやシャツの襟元のスタイル。)

 小学生時代、マガジン·サンデー·キングの週刊誌も、「少年」や「ぼくら」などの月刊誌も大好きだったけど、まんがサンキューも好きだったな。「まんがサンキュー」は65年いっぱいまで続いて、その後ちょっとだけ豪華になって誌名を「まんがジャイアンツ」に変える。「まんがジャイアンツ」も68年には休刊(事実上の廃刊)になりましたね。

 「ゼロ課の女」「ワニ分署」「(女囚)さそり」「ズベ公探偵ラン」「刑事アンコウ」「夜光虫」「やどかり」「陶子」…。篠原とおる先生というと60年代末から70年代80年代90年代と青年誌·成人誌の劇画で大活躍された、往年の超売れっ子漫画家で、特に美貌の女性ヒーロー(ヒロイン)を主人公にしたアクション·サスペンス劇画の第一人者でした。僕は篠原とおるさんの劇画作品を少年誌で見たことがありません。僕が知らないだけで、ひょっとしたら少年誌で作品を描いたこともあったのかも知れませんが。

 篠原とおる先生というと青年コミック誌の売れっ子劇画作家というイメージで、60年代末から90年代~2000年代の青年コミック誌各誌に、ナイスバディの美貌のヒロインが活躍する劇画が連載されていたという印象が強いのですが、僕は篠原とおる先生が青年コミック誌で人気連載を持つ以前の、貸本漫画家時代から篠原とおる漫画作品を愛読していて、よく知っていました。

 僕が貸本屋に通い始めたのは62年の多分、晩秋頃からで、篠原とおる作品を読み始めたのは63年からですね。篠原とおる先生の漫画家デビューは58年からで、貸本漫画では特に62年から大阪·日の丸文庫(光伸書房)の貸本誌で作品を発表し始めました。日の丸文庫の短編オムニバス誌「影」や「オッス」などにいつも短編作品が掲載されてましたね。僕も63年から66年までの間、「影」や「オッス」の中でよく篠原とおるさんの漫画を愛読しました。

 篠原とおる先生は貸本漫画時代、短編漫画ばかりでなく、貸本の一冊本一作品で長編も描かれてましたから、貸本単行本だいたい130ページくらいの長編漫画もよく愛読しました。僕が毎日、貸本屋に通っていた子供時代、篠原とおる先生の作品もお気に入り漫画の一つでしたから、「オッス」収録の短編も単行本の長編も楽しみにしてました。

 僕が当時の貸本漫画で好んで借りていたのは、やはり絵のうまい漫画家の作品で、篠原とおるさんの漫画は当時から絵がきれいでうまかった。僕は子供ながら当時から篠原とおるさんの絵柄が好きでした。

   

 篠原とおるさんは大阪·日の丸文庫で貸本漫画を描いていたんですが、貸本漫画の単行本シリーズで“篠原とおる·ダイヤモンド劇場”という個人シリーズを、東京トップ社から刊行し続けます。貸本一冊だいたい130ページで一話完結の、篠原とおる先生得意のミステリ·サスペンス~アクション系の漫画作品が多かったと思います。シリーズの中には、タマに青春ものもありましたね。刑事ものなどのミステリ・サスペンス作品が多かったんですが、このシリーズで僕が特に好きだったのが「万能屋·錠」のシリーズです。

 「万能屋·錠」は主人公の錠が金庫破りの達人で、本業は泥棒なんですが根っからの悪党ではなく、例えば泥棒に入ったお屋敷で死体を発見したことから凶悪事件に巻き込まれるような、犯罪者のくせに根は良い人で正義感も強い主人公が、本当の残忍な悪党たちやギャング団とか大掛かりな犯罪組織の事件の中で、警察からも追われつつも、本当の凶悪犯たちに一泡吹かせたり、犯罪組織の一網打尽に一役買ったり、いつの間にか正義側のヒーローとして活躍してしまうという痛快コミックです。

 僕が毎日貸本屋に通っていた子供時代、「万能屋·錠」の漫画も大好きなシリーズで新刊が出るのを楽しみにしてました。東京トップ社からはミステリー·サスペンス系の短編オムニバス誌で「刑事」という貸本·単行本が出てましたが、この短編集誌にも篠原とおるさんは短編作品を描いてましたね。

 篠原とおる先生の東京トップ社刊行の“ダイヤモンド劇場”って63年か64年頃から66年くらいまで続いたんだろうか(?)。67年頃まで描いてたのかなぁ。この時代、篠原とおるさんは日の丸文庫の「影」や「オッス」にも短編を描いてましたね。日の丸文庫って大阪の出版社だしトップ社は東京だし、原稿はどうしてたのかな?60年代、勿論ファックスなんてない時代だし。(当時の貸本出版社は零細企業の方だし開通したばかりの新幹線で編集者が原稿取りに東京·大阪を往復は考えにくい。原稿の郵送や貨物輸送も今よりずっと時間が掛かったろうし。)

 「まんがサンキュー」は大阪・日の丸文庫発行で65年まで「黄金バット」描いてたし、篠原とおる先生は66年くらいから上京して仕事の本拠地を東京周辺に移したのかな?とすると、東京トップ社の“篠原とおるダイヤモンド劇場”は66年から描き始めたのか?いや、僕はそれ以前から“万能屋・錠”の漫画を読んでるしな。済みません、よく解りません。ダイヤモンド劇場は68年くらいまで続いたんだろうか?多分、69年には仕事の主戦場を青年コミック誌に移っていると思うんですよね。篠原とおる先生も貸本描いてたのは67年かせいぜい68年まででしょうね。

   

 篠原とおる先生の貸本漫画時代の作品でお気に入りだったのがもう一つあって、タイトル「アイアン太郎」という短編か中編のシリーズです。多分、日の丸文庫の短編集「オッス」にときどき収録されてたと思います。けど僕の小学生時代毎日通ってた貸本屋で借りて読んでた漫画本の記憶なので、はっきりとは覚えてません。だから短編集「オッス」の収録ではなく別の短編漫画集の中のシリーズ作品だったのかも知れない。貸本漫画であることは間違いないけど。でも多分「オッス」に載っていたと思います。

 「アイアン太郎」のお話は、主人公の太郎少年が事故で左右どちらかの腕を一本失ってしまう。確か実家が町工場で、はっきりしないけど太郎の父親が町工場の社長だけど天才的な技術者で、鋼鉄製の義手を作ってくれる。太郎の嵌めた鋼鉄製の義手は普通に自分の腕みたく精巧に自由に動く。今で言えば未来の超性能ロボットアームみたいな感じかな。太郎少年は多分中学生くらいだったと思うけど、日々の生活をして行く中で事件に巻き込まれる。悪人たちに捕らわれたり危機に陥るけど、太郎少年は鋼鉄の義手を振り回して悪党を叩きのめし、事件解決に一役買う…。といった物語だったと思います。

 まぁ、僕は毎日貸本屋に通った小学生時代、篠原とおるさんの漫画が大好きでしたけど、その幾つもの作品を貸本で借りて一泊二日で読んで、貸本屋がなくなって後々、「万能屋·錠」シリーズも「アイアン太郎」シリーズも読み返したことがなく、ただ数十年前の記憶だけでこれを書いている訳で、当然記憶はあやふやなもので、僕のここでの解説は確かなものとは言えない可能性は大きいです。

 篠原とおる先生も60年代末から2000年代前半くらいまで、各青年コミック誌で連載が途切れることがなかったほどの活躍をされた、日本漫画史の劇画ジャンルを代表する漫画作家の一人ですね。

 

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