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「限界集落(ギリギリ)温泉」1~3巻

 「限界集落-ギリギリ-温泉」は、KADOKAWA-エンターブレインが発行する月刊雑誌「コミックビーム」に2009年7月号から2012年3月号まで連載された鈴木みそ氏作画のストーリー漫画。コメディタッチで描きながらも地方の限界集落とその復興という、現実にある難しい問題をテーマの柱にして、ネット時代のサブカルチャーをふんだんにあらわしてストーリー漫画世界を形成している秀作コミック。

 「限界集落(ギリギリ)温泉」の作者、鈴木みそ氏の名前はペンネームで、漫画「限界集落温泉」の舞台は伊豆半島の山村の過疎地ですが、鈴木みそさん自身も伊豆半島の下田市出身です。だから作品の内容にだいぶ思い入れがあるようです。

 鈴木みそ氏は高校生の頃から雑誌投稿し、大学浪人時代は雑誌の編集のアルバイトをしていたようです。またその時代にプロの漫画家のアシスタントも経験している。20歳で東京芸大に入学してるから凄いですね。

 東京芸大に通いながらもゲーム雑誌の編集の仕事をしていて、ゲーム誌関係の仕事があまりに忙しく大学の出席日数が足りなくて除籍処分になったとか。東京芸大の学歴勿体ないですが。入っただけでも凄いけど。多才な方ですね。

 漫画を描いて雑誌に発表し始めたのが20代半ば頃からで、そこからゲーム雑誌や麻雀雑誌、一般青年コミック誌などに続けて漫画を描いて行ったようですね。本当に多才ですね。

 ここからはネタバレになります。この間、コミックス3巻まで電子書籍で読んで、けっこう内容記憶してるんで、割りと細かくお話の流れを書き込んでます。これから漫画「限界集落-ギリギリ-温泉」を読もうと思っていらっしゃる方はこの先は読まない方が、漫画を楽しめるかも。先に割りと詳しいお話の流れを知っていても漫画を楽しめる方はどうぞお読みください。

 都会の仕事生活が嫌になり逃亡したゲームクリエイター·溝田とおるは、伊豆半島のとある山村のかつては賑わった温泉地でホームレスとなり、山の中の洞窟でサバイバルみたいに暮らしていた。

 温泉地は限界集落化していて廃れ、幾つか残った温泉旅館も客が全く来なくて寂れた温泉地となっている。その一つの温泉旅館は廃墟化していて幽霊屋敷の噂が立っている。

 電気も止められた真っ暗な温泉旅館に暮らす小学生·山里龍之介は、いたずら好きでホラを吹いて友達をからかったり、自分から自分の住む廃墟旅館を幽霊屋敷だと噂を流したりして、友達を驚かせたりしている。しかし小学生ながら利発で賢い子である。

 龍之介の父親で廃墟化した温泉旅館·山里館の主、山里康成は基本ネクラ·ネガティブで心配性の後ろ向き思考、経営の才がなく大借金を作り、山里館はその抵当に入り取り壊しが予定されている有り様。女房に死に別れ、一人息子·龍之介は父子家庭育ち。文学青年然として中年に差し掛かり、小説を書いているが勿論、全く芽が出てない。

 ひょんなことから洞窟で暮らす溝田とおると、小学生の山里龍之介が知り合い、溝田とおるは電気の点かない山里館にやって来て、まだ充分使える温泉に入って楽しむ。溝田は山里父子と打ち解け、山里館の事情を知る。

 都会での仕事に追われる生活に疲れきって逃亡して来た溝田だったが、限界集落温泉·山里館の再生に興味が湧いて来て、失ってた“やる気”が出て来る。

 一方、そこに同じく逃亡して来た地下アイドルが現れる。コスプレイヤーのネットアイドル·アユはメンヘラ気質で建て前、死に場所を求めて伊豆の田舎の過疎地の山村へと流れ着いた。

 精神的に病んで都会のアイドル仕事から逃亡して来たものの、自分のブログなどに自殺をほのめかす書き込みをして、また、ファンたちに知れるように逃亡先などの大量のヒントをネット上に残す。

 絶望的気分のアユだが、いざ自殺となると、自分のファンたちに心配して貰って遠路止めに来て欲しい気持ちが潜む。メンヘラ気質のアユは山村の廃墟化している温泉地をさまよう。

 アユが小学生·龍之介と知り合い、廃墟旅館·山里館にやって来て温泉に浸かる。アユと山里康成、溝田とおるが知り合い、アユは山里館に逗留することとなる。

 逃亡したアユがネット上に残したたくさんのヒントを推理し辿って、ネットアイドル·アユのファンたちが大挙して限界集落の山村に押し寄せる。ドルオタは見る限り全部男性かな。

 温泉旅館·山里館の再生に燃える溝田とおるは、アユとアユを追ってやって来たたくさんのファンの男性たちを温泉地の復興の手始めに利用しようと考える。

 廃墟と化して取り壊し目前まで来ている山里館は、アユを追って来た大勢のドルオタたちが入って泊まり、一時的に賑わい復活する。まだ温泉施設(大浴場)自体は生きている。

 かなり高額な借金の抵当に入っている山里館全体の権利を、現在持っているのは、この地域のボスで旅館組合理事の老人·川辺。山里館を壊して入浴施設として建て替え、自治体に売る計画を考えていて、今にも山里館を壊したい意向で山里康成に早急な立ち退きを迫っている。

 アユを追って来たドルオタの中にはさまざまな才能のある連中がいる。売れない漫画家、精巧なフィギュアを作れるオタク、機械に強かったりIT 技術を持っていたりゲームやネットに詳しい者。

 才気あふれる溝田とおるは旅館再生に燃えて、さまざまなアイデアを考え、技能·技術を持つ各オタクを使って、利発な少年·龍之介と相談しながらイロイロと行動を起こす。

 先ず手始めに、超高齢化過疎地の老人ばかりのところだから、自宅にさまざまな骨董があるだろうと見て、ネットのライブ配信でテレビの人気番組の「なんでも鑑定団」みたいなイベントを旅館内で開催し、ネット上に流す。

 今のYouTubeのライブ配信みたいなもんかな。インスタライブとかみたいな。この時代だからニコ動みたいなものだろうか。ネットのライブ配信でこの地域限定の「なんでも鑑定団」をやって全国に流し、メインMC はちょこっと変装した溝田でアシスタントをオタク超人気のコスプレアイドル·アユにやらせる。全国のオタクが番組に喰い付く。

 限界集落農家の家々にはたいした代物はなかったけど、口先三寸·溝田のぺてん師的なお喋り力でガラクタでも売れて行き、農家の爺婆と都会から来たオタクとでイベントは盛況となり、百万円近い稼ぎが出る。

 この稼いだ金を建物の権利を持つ川辺爺ィに渡す。ここには何か溝田のからくりがあるんだよな。古い旅館の山里館には値打ちのある骨董もあって、値打ちのありそうな物はあらかた川辺爺ィが持ってったんだけど、何かそういう品も絡めて溝田が策略を行い、川辺に大金を渡す。それが借金返済の一部となり、一部でも返済したら金を返す意思があると見なされ、建物の売却は一時ストップできる。

 このあたりの仕組みは経済に疎い僕にはよく解らないし、漫画の読み込みが足らなくてあやふやな説明でごめんなさいなんだけど、溝田の活躍で一応、一時的に旅館の解体は免れる。けっこうな人数のオタクが宿泊してるんで旅館は営業できてる。

 それでこのイベントでだったかまたもう一つ先のイベントでだったか、コスプレアイドル·アユにムリムリ歌を歌わせる。これがもうメチャクチャひどい。アユはルックスはメッチャ可愛いが超絶オンチだった。この超ヘタクソ歌唱もネットで全国に流れるんだよね。

 まぁ、アイドル·アユは主食はカップ焼きそばだし中身は変てこりんな女の娘なんだよね。アイドルってネット上で人気だけど、やっぱどっちかというと地下アイドルカテゴリだよな。

 アイドル·アユは自分の歌唱がメチャクチャ·ヘタクソというのがみんなに知れ渡ったことに大いに傷付く。嫌だ嫌だと強く拒否したのにムリムリ歌わされたことにも腹を立てていた。

 傷心のメンヘラ·アユは村の川に飛び込もうとする。これは決行するんだっけかなぁ?龍之介くんと、村役場の職員でアユの大ファンで見た目禿げ上がり掛けたオッサンだけど実は若者の康二の二人に助けられる。龍之介に諭され励まされてアユは、傷心のままだけど、まぁ立ち直る。

 役場職員の康二は村のドン·川辺の手先となって山里館明け渡しに動いているが、性格が優柔不断ではっきりせずどっち着かずなので、溝田率いる山里館オタク·チームと権力者·川辺サイドを行ったり来たりして、二重·三重スパイみたいになってしまう。

 山里館とその周辺に集まってた、アユ目当てでやって来た大勢のオタクたちは、溝田発案の野外のバーベキュー飲み会など楽しんでたが、みんな仕事持ってたり学生も居るしそんなに長逗留もできずぼつぼつ山村から帰り始める。ネットで全国に流れたアユの超絶オンチの歌は意外や意外、話題となる。

 その内、アユも東京に戻るんだよね。再び人気に火が着いて話題になったからだっけか?溝田ともちょっと対立して、本当に死ぬ気があったかどうかの川に飛び込む自殺も失敗したし、機嫌悪くなったアユは山里館を離れて東京に戻る。

 一方、地域のドン·川辺には遊んで暮らしてる次男坊が居て、この伊豆雄という不気味な雰囲気の若い男が性格が悪くて頭がキレる。この物語の悪役ですね。ヒーローが溝田とおるならヴィランが川辺伊豆雄。

 役場職員の康二は気弱でどっち着かずで、イズオの手下となって動いている。優柔不断ではっきりしないから何でもベラベラ喋るし、溝田の言うことも聞いたりしてる。

 アイデアマン·溝田が次々と案を出して龍之介と共に考え、能力を持つオタクたちを使って山里館は再生に向かうが、一番の目玉のアユは東京に戻る。これは確か、悪知恵·イズオの策略でオタクたちが分断·バラバラになって行ったんだよね。

 失意のアユがおっとりして心優しい善人の山里康成とデキてしまうのが理由としてある。アユと康成が良い仲なのが見えてしまってオタクたちが疑い始めて、イズオの策略からオタクたちが山村から離れて行き、人気の復活したアユをヒトノイイ康成がアユ自身のためにと送り出し、アユは失恋気分で怒って都会へ帰って行く。

 

 そして山里館落城の最終兵器として、イズオが美人のお姉さんを山里館へ送り込む。お姉さんって別に川辺の娘じゃなくて川辺親子とは無縁だけど。

 美人のお姉さん·中願寺有希は山里館にボランティアとして入り、率先して掃除や炊事と旅館内で働く。旅館に残った何人かのオタクたちはスタイルの良い黒髪ロング美人の有希の清楚で働き者の性格の良いイメージに参ってしまい、直ぐにも都会に戻るつもりが旅館に残ることにする。

 溝田とおるだけは中願寺有希を全面的に信用せず少々疑いの目で見ている。働き者の有希は山里館に溶け込む。これはもうネタバレしてしまうんだけど、イズオの使者·康二と有希のやり取りを旅館に残ったオタクに立ち聞きされ、有希の正体がバレる。

 有希はイズオの司令に反発し、自分自身の考えで山里館に居るのだと主張する。実は有希の目的は、自分の信仰する宗教の勧誘でこの山村をボランティアで回っているのだった。後で旅館内でオタクらと人生観や哲学で討論が繰り広げられる。有希はゴリゴリの信者だった。

 都会で再び芸能生活に戻ったアユは人気に火が着いていて、芸能事務所サイドがこの際どんどん売り出して稼ごうとしている。アクの強いゴリ押し剛腕デブ女マネージャーにムリムリ仕事させられ、超ヘタクソな歌を歌うことを強要されて悩むアユ。

 何が何でも歌わせようとするマネージャーから逃げるメンヘラ·アユは、またも死にたくなって伊豆へ逃亡、山里館に戻って来る。

 アユの戻って来た山里館には美人の中願寺有希が居た。山里館再生に燃えてる溝田とおるは再びアユを利用することを考える。

 康二のネット書き込みから芸能事務所サイドにアユの居場所が知れて、剛腕マネージャーがアユを連れ戻しに伊豆に入って来た。これを利用しようとイズオが画策する。しかし溝田がマネージャーと交渉し、一時的にアユを温泉地で活動させる提案で納得させる。

 旅館取り潰しを急ぐイズオと山里館再生に懸ける溝田の頭脳戦の攻防。ここまでが「限界集落(ギリギリ)温泉」の1~3巻までのお話の流れですね。漫画「限界集落温泉」は全4巻だからあと4巻のみです。

    

限界集落(ギリギリ)温泉第一巻 Kindle版 鈴木みそ  (著)  形式: Kindle版

限界集落(ギリギリ)温泉第二巻 Kindle版 鈴木みそ  (著)  形式: Kindle版

限界集落(ギリギリ)温泉第三巻 Kindle版 鈴木みそ  (著)  形式: Kindle版

限界集落温泉 1巻 (BEAM COMIX) コミック – 鈴木みそ  (著)

限界集落温泉 2巻 (ビームコミックス) コミック – 鈴木 みそ  (著)

限界集落温泉(3) (ビームコミックス) コミック – 鈴木 みそ  (著)

限界集落温泉4巻 (ビームコミックス) コミック – 鈴木みそ  (著)

限界集落(ギリギリ)温泉第四巻 Kindle版 鈴木みそ  (著)  形式: Kindle版

Xてんまでとどけ アイゾー版 単行本(ソフトカバー) – 鈴木みそ  (著)

ナナのリテラシー1 Kindle版 鈴木みそ  (著)  形式: Kindle版

銭 壱巻 (ビームコミックス) Kindle版 鈴木 みそ  (著)  形式: Kindle版

僕と日本が震えた日 (リュウコミックス) コミック – 鈴木 みそ  (著)

アジアを喰う―8ケ国ゆらゆら喰って寝るッ! 単行本 – 鈴木 みそ  (著)

  

  漫画「限界集落(ギリギリ)温泉」を読んでて思い出したのは、2015年の冬に放送されたNHK のドラマ「限界集落株式会社」でした。2015年の1月末から2月末までの夜9時から放送された全5回のドラマですね。

 ドラマは過疎化と高齢化で限界集落化した、地方のある農村が舞台で、都会の経営コンサルタントの40歳のある男がやって来て、あの手この手とアイデアを出して農村に特化した地方再生を図る。

 この経営コンサルタントがどうして過疎村にやって来たのか?とか細かな内容は、6年前にドラマを一回見たきりだから忘れちゃったけど、ヒロインとなる松岡茉優扮する農家の娘と、若いとき都会に出て行って戻って来た40歳くらいの、反町隆史扮する再び農業に従事して熱意を持つ、ヒロインの男親と、この、谷原章介扮するやり手の経営コンサルタントが強力して、老人ばかりの地域農業を活性化させて収益が出るように持って行く、地方創生ドラマ。

 でも結局、このドラマもアイデア出してそれに沿って活発に動き回っているのは比較的若い人たちでしたね。漫画「限界集落温泉」でも廃れた温泉地再生に奔走するのは、溝田とアユと龍之介くんとオタクたち、ってみんな若い。小学生から20代·30代の人たちばかりですよね。

 老人ばかりの限界集落も、そこを活性化させて再生に持って行くのは、そこに暮らす老人たちではなく、結局、比較的若い世代なんですね。しかも限界集落には若者が居ないから都市とか他からやって来た若者たち。限界集落に戻って来た若者、というケースも稀にあるかも知れないけど。

 やっぱ根本的問題は少子化だなぁ。進む少子化。毎年毎年年追う毎に出生率は下がって行ってるし。やっぱり社会を動かすのは“若い力”でしょう。日本の社会を支える労働力も足らなくなって何だかんだ理由着けて外国人労働者を補給して行ってるし。

 廃れた温泉地の活性化はもろ観光だし、限界集落農村も結局、観光みたいなもんですよね。他の市や県から大勢の人がやって来てお金を落として行かないと町や村は生き返らない。

 コロナ禍下で痛烈に感じたのは、人が動かないと経済は回らないんだなぁ、ということでした。とにかくね、社会を回すって人が動くことなんですね。改めて思い知った感じです。リモートで仕事するったって業種や職種が限られるし、知れてますもんね。大部分の仕事も観光も遊興も買い物も人が動かないと始まらない。

 ドラマ「限界集落株式会社」の東京から来たアイデアマンの経営コンサルタントの出した手法は村の特産品を作る、これは完全無農薬野菜でしたね、それからもう昔から各地方各地にある“道の駅”みたいな特売所、あと都会の人たちを貸し切りバスで呼んでやる一日農業体験、くらいだったかな。もっと何かあったのかなぁ。産直のネット通販はやるだろうし。やっぱり地方の農業の活性化には特産品は必要ですね。

 田舎の農地に、会社としての大規模農業や農産物の工場を作る、というのもあるけど、雇い入れるとしたらそこに住む多くの老人ではなく比較的若い人たちでしょうからね。企業があれば若い人たちが移住して来るとか、農業やりたい若者の移住とかもあるけど。でも各地の“道の駅”とかで働いている高齢者ってけっこう多いですけどね。

 漫画「限界集落(ギリギリ)温泉」の中では今のネット時代を反映して、廃れた温泉地の村興しに、アイドル、ネット動画のライブ放送、一つの秀でた技能·技術を持つ各オタクたちの活用、などと今の日本中の問題である地方の高齢化と過疎化を問題提起して、ちょっとぶっ飛んでる感もあるけど解決案まで考えて見てる。今の時代にとても良い漫画作品ですよね。

 

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