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「北の少年」-山本まさはる・貸本-

 「北の少年」の主人公ゆずるちゃんは7歳の男の子で、事情があって肉親がいなく、叔母の家で面倒見て貰っている。叔母は自分の実の子と差別をして扱い、この晩もゆずるくんを叱って晩ごはん抜きの罰にした。

 叔母はゆずるくんに「この家は誰の家か解ってるのかい?網走にいるお父さんのところへ出てお行き!」とひどいことを言い放つ。家から出るゆずるに「何処へ行くんだい?」と問うと、ゆずるは隣のお兄ちゃんのところだと力なく答える。

 隣の住まいの漫画家をしているお兄ちゃんは、貧しそうだが優しい良い人だった。ゆずるくんはお兄さんに自分のお父さんのことをイロイロと訊ねる。お兄ちゃんと言っても勿論他人のお兄さんは、ある程度事情を知ってるらしく迷いながらもイロイロ答える。

 ゆずるの問いに窮した漫画家のお兄さんは「網走にいるゆずるくんのお父さんは会社の社長さんをしている」と嘘を言ってしまう。

 その夜、叔母の家の叔母とその息子が眠りきってしまっているのを見て、ゆずるくんはタンスの引き出しからお金を盗み、この家を家出する。叔母さんの家も、夜やすむときに一部屋に蒲団を並べて三人で寝てるところを見ると、男親がいなくて叔母と幼い息子だけの貧しい世帯なんでしょうね。

 この漫画が描かれたのは多分、昭和39年だと思うから、東京オリンピック開催の年だとはいえ、まだまだ庶民は総体的には貧しい暮らしをしていた時代でしょう。まだまだ何とか毎日食べることだけはできてたという国民も多かった時代でしょうね。

 ゆずる少年は、少年といってもまだ7歳という幼児期だけど、深夜の列車の集まって停車してある、国鉄ターミナルみたいな場所に行く。貨物列車の発着ターミナルで、列車の積み込み貨物の最終チェックを職員たちが行っていた。

 国鉄職員の目を盗んでまんまと貨物列車に乗り込んだゆずるは、大阪に着き、大阪の何と言うのか、当時の貨物荷降ろしして分けて引き取りに来たりまた陸送したりする場所で、そこの何処かの荷捌き事務所の従業員に捕まり連れて来られる。

 警察へ通報して連れて行かれるところを、この荷捌き場で幅を利かせてる威勢の良いオジサンに、ゆずるは救われる。威勢の良いオジサンがゆずるの身柄を預かる。事情を聞いた人情深いオジサンは、自分の輸送トラックに乗せて東京まで連れて行ってやることにする。

 親切なオジサンはゆずるに北海道までの切符を買ってやり、上野駅で別れる。1人になった7歳児·ゆずるは怪しい若い男に騙されて誘拐されそうになるが、何とか逃げ切り、無事上野発の東北方面行きの列車に乗る。

 青函連絡船の船上でも怪しそうな男に声掛けられあれこれ聞かれるが、ゆずるは上野の二の舞を危惧して男から離れる。

 福岡の叔母は家出して行方不明になった幼い甥のことを、隣の売れない漫画家の兄ちゃんと共に警察に届け、警察へ捜索を依頼していた。叔母は自分の甥に対して辛くあたった態度を反省して心配していた。隣のお兄さんも、網走で社長をやっているという自分のウソを信じて、ゆずるは北海道に向かったのに違いない、と心配している。ゆずるの実の父親は本当は、会社の社長どころか網走の刑務所に服役していた。

 北海道の何処かの鉄道の駅でだったか、助けてくれた親切な人の家でだったか、捜索が出てる子供の条件とよく似ているので保護しようと捕まりそうになるのを逃げて、ゆずるは一路、網走へと向かう。

 網走まであとわずかというところで発熱し倒れて意識を失い、親切な地元住民に助けられ、病院へ入院する。食べていない栄養失調と激しい体力の消耗で意識不明になっていたが、病院で体力を取り戻す。

 子供が捜索に出てる条件とよく似てるということで警察を呼ぶが、隙を見て、まだ充分回復してない身体でゆずるは病院を抜け出す。

 そして、まだ回復してない身体で幼い少年は独り、山道を越え、あと湖の向こうに見える建物が網走刑務所というところで力尽きる。倒れた少年の顔はもう直ぐに父親に会えるんだという希望で、明るいような穏やかな顔をして息絶えていた…。

 という何とも救いのない終わり方で、暗く悲しいお話ですね。とにかく救いがない。冷たく厳しい叔母のところでやっかい者として、そこの実の子供と差別して育てられ、北海道にいるという父親は実は網走刑務所に収監された犯罪者で、会社の社長をしていると信じ込んで、そこに明るい希望を見いだして会いに行くことを決意し家出する。

 たった一つの救いは、大阪で出会った人情深い、親切な運送トラック運転手のオジサンかな。もう一つ、福岡の叔母の家の隣に住む、売れない漫画家のお兄さんも優しい人だから、まぁ、救いっちゃ救いかな。北海道で疲労困憊で発熱して倒れたゆずるくんを病院に入院させた人も、親切な人だな。

 あとは、終わり方も、会社社長と信じて会いに行った最後の最後に、その父親のいる刑務所の近くで、父親の顔も見れずに行き倒れて死んでしまうという、救いのなさ。実の母親の話は一つも出てなかったな。実の母親は息子を置いて逃げたのか?母親は既に亡くなっているのか?母親の説明は確か何もなかった。幼い子供の救いのない物語だけに辛く悲しいお話でしたね。

 山本まさはる先生の貸本漫画での代表作の「ガン太郎日記」や中学生少年の「おーい中村くん」シリーズは、ユーモアたっぷりのほのぼの明るいお話が多いんだけど。「ガン太郎日記」は明るくワイワイ楽しい子供たちの世界を描きながらも、大人たちのシリアスな問題も絡めた、割りと深刻なエピソードを扱ったお話もあるけど。

 「おーい中村くん」も中学生たちの青春生活をユーモアたっぷりに扱いながらも、けっこうシリアスな問題を扱ってみたりしてるお話もあるかな。

 山本まさはる先生はデビューは当時の貸本漫画で、この時代の大阪の貸本出版社·日の丸文庫(光伸書房)で長らく作品を描きました。デビュー作は1958年の日の丸文庫刊行の貸本·時代劇短編集「魔像」だそうで、時代劇短編集誌掲載だから、時代劇の短編漫画なんでしょう。ここから1964年頃までは日の丸文庫の刊行誌で作品を発表してました。

 僕は山本まさはる先生の時代劇漫画を読んだ記憶がありませんが、デビュー当時は時代劇短編誌「魔像」に幾つもの短編を掲載してますから、初めの頃は時代劇漫画もいっぱい描いてたんですね。

 日の丸文庫刊行の、ミステリやサスペンスや割りとシリアスなドラマ主体の編集方針の、ぶ厚い貸本短編集誌「影」にもたくさんの短編を発表してますね。こちらは多分、現代劇漫画でしょう。

 日の丸文庫発行の短編集誌には、中学生くらいの少年を主人公に持って来た、学園もの、青春もの、少年~若者生活ドラマの編集方針の「オッス」という貸本誌が出ていて、このオムニバス誌にもたくさんの短編漫画を発表しています。山本まさはる先生の貸本漫画時代の一番の代表作は、何と言っても「ガン太郎日記」のシリーズだと思いますが、この「オッス」にも「ガン太郎日記」の短編を掲載しています。

 山あいの山のふもとの村の小学校高学年くらいの子供のガン太郎が主人公で、昭和30年代頃の田舎の小学校の子供たちの生活をユーモアたっぷりに描きながら、大人たちのシリアスな問題も絡めて、ガン太郎を中心とした子供たちの悩みや喜怒哀楽を描いている「ガン太郎日記」は、貸本時代の山本まさはるさんの代表作のシリーズで、日の丸文庫が出版したB5判·市販流通雑誌の「まんがサンキュー」にも短編が掲載されました。

 僕が近所の貸本屋に通い始めたのは1962年の晩秋か暮れの頃で、それからほとんど毎日、貸本屋に通って当時のA5判貸本漫画誌2冊か、当時の月刊児童漫画雑誌を別冊付録とも借りて来て読んでいた。最初の頃は貸本漫画誌一冊、一泊二日で10円だった。だから毎日漫画読書に20円は使ってた。後に一冊15円、20円と値上がった。

 貸本漫画を読むのは僕の子供時代の至福だった。雑誌漫画も愛読してたから、少年漫画全体を読むのが至福だったな。まぁ、勿論、周囲に比べて比較的裕福な家庭環境あっての子供時間の一番の楽しみだった訳だけど。学校は大嫌いだったからなぁ。

 でも小学校時代、学校行けばいっぱい友達はいたからね。学校で友達と遊ぶのは毎日楽しかったと思う。授業が大嫌いだったんだな。僕は先生という先生には可愛がられたことがないし。

 山本まさはる先生は貸本漫画時代、人気漫画家の一人で、僕は山本まさはる先生の漫画が好きだった。貸本屋の漫画本棚に山本まさはるさんの新作が並ぶのは楽しみにしていた。

 僕が山本まさはるさんの漫画作品を愛読していたのは、6歳から11歳までの間なので、当時貸本漫画で読んだ山本まさはる作品は、貸本漫画の長編作品ばかりの「山本まさはるジュニアシリーズ」と「山本まさはるシリーズ」しか記憶してないけど、ネットで貸本漫画時代の山本まさはるさんのことを調べると、貸本漫画の短編集誌に短編もいっぱい発表している。

 ちなみに「山本まさはるジュニアシリーズ」は日の丸文庫発行で、「山本まさはるシリーズ」はひばり書房の発行でした。1964年頃に上京して専属出版社をひばり書房にしたのだろうか?

 僕が貸本屋に毎日通っていた子供時代、山本まさはるさんの短編漫画もいっぱい読んでいる筈だ。しかし五十数年も昔のことだから「山本まさはるシリーズ」の長編作品しか記憶していない。

 子供時代、山本まさはる作品のストーリーや作風も好きだったが絵柄も好きだったなぁ。ほのぼのしたシンプルな絵柄だけどデッサンもちゃんとしてて貸本漫画にあっては絵がうまかった。

 昔ながらの丸っこい線だけど、かといって少年雑誌の児童漫画の絵柄ではなく、もっと大人っぽいが素朴な線で、貸本で隆盛して来た劇画とは真反対のシンプルな絵柄だった。

 60年代に入ってから貸本漫画ではアクション劇画が台頭して来た。貸本漫画の世界ではアクション劇画が大人気でしたね。

 当時の貸本漫画で流行していたアクション劇画での人気作家は多く、さいとうたかを、ありかわ栄一、佐藤まさあき、南波健二、沢田竜治、旭丘光志、都島京弥…。みんな漫画作家独自の探偵ヒーローを作ってシリーズを描いていた。

 ホラー漫画主体の古賀新一も自分のヒーロー探偵のシリーズを持っていたし、いばら美喜もアクション劇画を描いていた。多分、浜慎二もアクション劇画を描いてると思う。影丸譲也も貸本でアクション劇画描いてたな。川崎のぼるも貸本漫画描いてたから、アクション劇画もあると思うけど川崎のぼるは青春ものドラマの方が記憶にあるな。

 山本まさはるさんにも探偵漫画があって、山本まさはるシリーズの中にもけっこうな本数、作品が入っている「探偵屋ナンバーワン·シリーズ」。一階でお父さんが喫茶店をやっているビルの二階で探偵事務所を開いている、青年の私立探偵のお話のシリーズで、格闘場面とかアクションシーンもあるけど、さいとうたかを·ありかわ栄一·南波健二·沢田竜治などのアクション劇画とは趣向が違ってた。

 さいとうたかを氏や南波健二氏などの、この時代に貸本漫画で隆盛したアクション劇画は、拳銃やマシンガンぶっぱなし、カーチェイスで自動車が爆破され、派手な格闘シーン満載の、ドライな雰囲気で太い線のタッチで荒くて激しいストーリー展開の漫画だったけど、絵柄が全然違う山本まさはる氏の探偵漫画は、ある意味リアルなストーリーで、登場人物たちの心の動きを繊細に描き、丸っこいシンプルな線のタッチで、素朴さもあり叙情的とも言える雰囲気が覆っていた。

 山本まさはる先生の作品は、人々の心情を繊細に描いてましたね。冷酷で非情な人間や金の亡者のようなドライ極まりない人間や根っからの悪人など、ひどい登場人物が出て来ることもありますが、心優しい人たちも大勢出て来てて暖かな人情を描いたり、非情でドライな人間が改心するシーンもあったりした。

 僕は貸本漫画で「ガン太郎日記」シリーズは大好きでしたね。おっちょこちょいであわてん坊だけど根は優しくて良いヤツの中学生、「おーい中村くん」のシリーズも好きだったな。「探偵屋ナンバーワン」のシリーズも面白く読んでた。

北の少年 (山本まさはるシリーズ) オンデマンド (ペーパーバック) – 山本まさはる (著)

◆北の少年 (山本まさはるシリーズ 1) コミック – 山本 まさはる (著)

北の少年 (山本まさはるシリーズ) Kindle版山本まさはる (著)  形式: Kindle版

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ガン太郎日記「目撃者・ガン太…の巻」 (山本まさはるシリーズ) オンデマンド (ペーパーバック) – 山本まさはる (著)

中村君 「とんでもない奴」 (山本まさはるシリーズ) オンデマンド (ペーパーバック) – 山本まさはる (著)

ガン太郎日記「温泉騒動…の巻」 (山本まさはるシリーズ) オンデマンド (ペーパーバック) – 山本まさはる (著)

ガン太郎日記「権兵衛死すとも…の巻」 (山本まさはるシリーズ) オンデマンド (ペーパーバック) – 山本まさはる (著)

ガン太郎日記「なっ!二郎・うん!兄ちゃん…の巻」 (山本まさはるシリーズ) オンデマンド (ペーパーバック) – 山本まさはる (著)

ガン太郎日記「いま一度母に…の巻」 (山本まさはるシリーズ) オンデマンド (ペーパーバック) – 山本まさはる (著)

ゴールデン・ボーイ 「チャレンジャー」 (山本まさはるシリーズ) オンデマンド (ペーパーバック) – 山本まさはる (著)

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ガン太郎日記 「つり橋作戦…の巻」 (山本まさはるシリーズ) Kindle版山本まさはる (著)  形式: Kindle版

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黒のテーマ (日の丸文庫 日の丸コミックス) コミック – 山本 まさはる (著)

野口大助君の一番長い日 (山本まさはるシリーズ) オンデマンド (ペーパーバック) – 山本まさはる (著)

 貸本漫画時代は愛読した山本まさはる先生でしたが、貸本消滅後、市販雑誌に移ってからの山本まさはる漫画を、僕はほとんど読んだことないんですよね。

 山本まさはる先生は雑誌漫画に移ってからも、週刊少年雑誌や青年コミック誌に作品を発表してるんですが、長編連載はあまりなく短編や中編が多いかな。70年代に入ってからが多いですね。

 貸本の山本まさはるシリーズの中で発表してた長編作品「ゴールデンボーイ」という青春ボクシング漫画は、貸本では1965年頃の発表ですが、どういう訳か、同じ日の丸文庫の貸本漫画出身の本宮ひろし氏と共作で1971年の月刊·別冊少年マガジンにリメイクで、短期集中連載しています。確か月刊マガジンに一回100ページ掲載で3ヶ月連載したと記憶しています。作画が山本まさはる氏と本宮ひろし氏の絵柄のミックスでしたね。どうしてあんなことしたんだろうな。多分、二人の漫画家の共作は別冊マガジンの「ゴールデンボーイ」だけだと思うけど。

 僕は18歳頃からはそれからずーっと少年漫画誌は読まなくなったし、少年漫画自体、タマに気に入ったものをコミックス単行本で購読する以外読まなくなった。だから、雑誌に入ってからの週刊少年キングや週刊少年チャンピオンで描いてた短編や長編連載を読んだことがありません。

 また70年代以降、山本まさはるさんは青年コミック誌にも短編作品を発表しているのですが、僕が19歳頃から20代いっぱいまで愛読していた青年コミック誌、ビッグコミック·オリジナル、ビッグコミック·スピリッツ、週刊漫画アクション、別冊アクション、一時期は毎号読んでたプレイコミック、タマに読んでたヤングコミックでは、山本まさはる先生の作品は見掛けませんでした。

 僕は1972~73年の4月から翌年3月まで高校二年生時一年間、週刊少年マガジンと週刊少年サンデーを毎号読みましたが、72年晩秋のサンデーに山本まさはる氏の「リサと用心棒」という明朗青春漫画を新連載しています。この青春コメディ漫画は73年サンデー第2号まで連載されてますね。短期集中連載かな。

 この漫画だけは、貸本消滅後の山本まさはる氏作品として僕は記憶していました。勿論、漫画の内容とかは忘れてしまってますが。あとの雑誌掲載作品は僕は知らないですね。読んだことも見掛けたこともないけど、1973~74年の週刊少年チャンピオンに「ムツゴロウの方舟」という作品を8ヶ月間の長期連載しているようですね。山本まさはる先生の青年コミック誌向け漫画は読んだことも見掛けたこともないなぁ。

 

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