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男どアホウ甲子園 ..(2)

 

 日本漫画史上の野球漫画ジャンルで、新旧問わず第一人者と言っていい存在の漫画作家、水島新司氏の中期の代表作の一つ、野球漫画の傑作「男どアホウ甲子園」は週刊少年サンデーの1970年第8号から75年第9号まで、満五年間にも渡って長期連載されました。

 「剛球一直線」が自分の信念のモットーである、物語の主人公·藤村甲子園の、甲子園優勝を目指す高校球児時代から、東大に進学し東京六大学リーグで活躍し、阪神甲子園球場を本拠地とするプロ野球·球団、阪神タイガースに入団して王者·巨人軍を相手に奮闘する姿までを描く、いわば野球大河漫画であり熱血青春漫画ですね。「剛球一直線」は藤村甲子園の矜持ですけど、物語の先、後々では変化球も覚えます。

 「男どアホウ甲子園」はアニメ化されてテレビ放送もされており、僕は当時、「男どアホウ甲子園」が放送されていたのは知ってはいましたが、番組はあんまり見てはいないですね。毎日10分間の放送を月曜から土曜まで毎週続ける、という変形な放送形態で70年9月から71年3月までの半年間放送されました。アニメの方は、高校時代のエピソードだけで内容も原作漫画とは少々違ってます。

 この日本テレビ系列の放送形態、毎日夕方6時35分から45分までの10分間、毎週月曜から土曜まで放送される帯び放送ワクで、僕が初めて見たアニメ番組は、当時の月刊誌·冒険王で大人気だった「夕やけ番長」で、アニメ「夕やけ番長」は68年の9月から69年の3月まで放送された。僕は中学一年生ですね。アニメ「夕やけ番長」は最初は熱心に見てたかも知れないけど、原作漫画本編との違和感を感じて途中からあんまり見てないかな。中一だと僕はまだ学校の剣道部に在籍してたから、夕方6時台や7時台前半頃は家に帰ってないからテレビ見たくとも見れてないな。「夕やけ番長」が終わった後アニメ版「男一匹ガキ大将」が放送されてたけど、これも最初は見てたかも知れないけどだいたい全編あんまり見てない。この時間帯でアニメ放送をやってたのは「夕やけ番長」が最初と思ってたけど、「夕やけ番長」の前に「冒険少年シャダー」をやってたんですね。この放送は全く見たことありません。原作漫画は知ってました。「冒険少年シャダー」は月刊誌·冒険王に中城けんたろう氏の作画で連載されていた。

 「男どアホウ甲子園」の原作を担当したのは佐々木守さんで、佐々木守さんというと漫画原作者というより、60年代後半から70年代、テレビドラマの脚本で活躍された方で、脚本家としての方が有名ですね。この時代の漫画原作の作品もいっぱいあって名作も多数あるんですが、何よりもテレビドラマの作品本数が多く、その内容はバラエティー性に富んでいて子供向けの特撮ドラマから青春もの、コメディーから刑事もの、はたまた後には時代劇の脚本まで手掛けています。年配の人たちみんなが記憶しているようなこの時代の人気ドラマも多数あります。

 佐々木守さん脚本ドラマで、僕が特に印象深く覚えているのは、中山千夏さんが主演した「お荷物小荷物」シリーズと特撮の「アイアンキング」。勿論、少年時代、僕はテレビで佐々木守さん脚本のドラマはいっぱい見てるし、実写ドラマ版の「柔道一直線」なんかも記憶に残り続けてるけど、印象深いという点ではやはり「お荷物小荷物」と「アイアンキング」かなぁ。

 「お荷物小荷物」は70年10月からの放映で、これが正編とするなら多少設定を変えた続編が「お荷物小荷物-カムイ編」で、こちらの放映は71年12月から。どちらも当時の夜10時からの1時間番組で、全18回から20回のだいたい毎週放送の連続ドラマだった。

 正編も「カムイ編」もどちらも主演は中山千夏さんで、異色なのは主人公の設定が正編は当時のアメリカ統治下の沖縄出身で、カムイ編の方は北海道·アイヌ集落出身のアイヌ民族の娘となっていた。ドラマはコメディーなんだけど当時の時代性から“社会派”的色合いを含んでいた。「お荷物小荷物」が放送された70年秋、僕は中二かな。「お荷物小荷物-カムイ編」が放送された72年冬は僕は高一ですね。

 「お荷物小荷物」が放送されていた僕の中学生時代、クラスではコメディーの楽しい娯楽ドラマとして評判になっていた。勿論、脚本家の佐々木守が娯楽ドラマの影に隠して秘かに訴えてる、日本の起こした戦争で日本が敗けて沖縄がその犠牲となり、この当時未だ米国の占領下にあり、沖縄の街のそこかしこをアメリカ兵が大きな顔をして闊歩して回り、沖縄の人たちは本来自分たちの土地で、被占領民として毎日小さくなって暮らして行かなければならない、などという現実については全く話題には上らないし、みんなそんなことを知らないし知ろうともしなかった。

 当時、沖縄はアメリカ占領下にある、いわば外国であり、本土の人間が往き来するにはパスポートが必要だったし、どうだろう?当時は沖縄の情報は細かにはあんまり入って来てなかったんじゃないかな。中学校生活の中で社会科の授業などで先生たちから、沖縄の話を聞いた記憶というものがないな。無論、僕は学業不振の劣等生でたいてい学校の授業は聞いてなかったから、先生が沖縄について語ったこともあったが馬鹿中学生の僕が聞き逃していたのかも知れない。けど、中学生とはいえ友達どおしの会話にも沖縄の話題など一度もなかったという気がするし、やっぱり当時は本土の子供たち、高校生くらいまでも含めて、沖縄に関して一般的には情報も意識も疎かったのかなぁ。勿論、沖縄のことを重大な問題として意識していた本土の一般人も多数居たと思うし、現に気鋭の脚本家·佐々木守さんが自分が制作に携わるドラマに、ベースにそれとなく“沖縄問題”を忍ばせていた訳だし。ただ当時の地方の、あんまり勉強熱心でなく政治的関心なぞないくらい意識の低い、賢くない方の範疇の少年たちの脳みそには響かなくて、佐々木守さんの意図が功を奏さなかった訳ですね。

 変形ホームドラマのコメディー劇「お荷物小荷物」の大筋ストーリーは、沖縄出身の主人公の娘が、不幸な目に合わされた姉の敵討ちのために、男尊女卑の封建的な家庭内に家政婦として潜り込み、偵察を続けながら隙を伺い、一気呵成に姉の敵の家を崩壊してしまおうと企む、何やら起伏の大きい騒動仕掛けのコメディータッチ·ホームドラマ。中心テーマは、確固とした揺るぎない堅牢な体制に対して、虐げられて来た小さき者が勇気と知恵を振り絞り、策を練って立ち向かうという、実は“反体制”をベースにした物語。笑いを誘うコメディータッチの変形ホームドラマにして、実はベースに“反体制”がテーマとしてあるという凝った仕掛けの痛快ドラマでした。

 まぁ、当時中学生の僕らはそんなとこまでは気が付かず、笑いながら毎回楽しくドラマを見て、翌日の学校の教室で、昨日の回も面白かったねと話し合っていた。そんな、“反体制”のテーマとか意識しないよね。コメディーでありながらも痛快劇として見ていたろうけど。

 「お荷物小荷物」のストーリーを調べたら、中山千夏扮する主人公の娘は、姉の敵討ちのために舞台となる、東京の男だらけの大家族の運送店に、家政婦として潜入するのですが、実際のストーリーの詳細は、主人公の姉も四年前にこの運送店にお手伝いさんとして入り、家族の息子の一人と恋愛関係に陥り子を宿すが、頑固で封建的な父親が結婚を認めず姉は一方的に放り出され、沖縄に帰って子供を産んだ後、失意の内に死んでしまった。主人公はその姉の復讐と共に、姉の子を運送店に認知させるべくやって来た…。というお話ですね。

 「お荷物小荷物」続編の「カムイ編」のとき、僕は高一で、この時代の生活環境から「カムイ編」は見れませんでした。この時代は家族全員が早寝で遅くとも夜10時前にはみんな床に就いていたし、狭い家屋の中で僕の部屋などなかったし、夜10時放送のドラマは見れなかった。まぁ放送されてたのは知ってたし当時は見たかったんでしょうけどね。仕方なかったですね。

 「お荷物小荷物」の続編になる「カムイ編」も舞台は東京の下町にある運送店で、ここは70·71年のドラマ本編と全く同じところです。運送店家族の面々もほぼ同じメンツ。本編の主役の中山千夏はまだ占領下の沖縄から来た娘でしたが、うり二つの「カムイ編」の主役の中山千夏は北海道アイヌ集落出身で、本編とは別人。で、物語はまぁだいたい同じようなストーリーですね。「カムイ編」もやはり、コメディー·タッチの変形ホームドラマの中に、本土民とアイヌ民族という、メジャー対少数民族という“反体制”思想がベースに隠れている。

 アイヌ民族の領地というか居住地というか、北海道の蝦夷地域は本土の松前藩に植民地化されていたようなものだったでしょうし(本土のというより和人の松前藩)。僕は生涯不勉強な人間で日本の地域の歴史にまるで詳しくなく、中世から明治~昭和初期頃までの北海道の激動の時代の歴史をほとんど知りません。だから偉そうに語ることは全くできないのですが、二十年くらい前に船戸与一氏の大作「蝦夷地別件」を読んで、本土の松前藩と不平等貿易的な交易で搾取され、事実上支配下に置かれて圧政に苦しんでいた江戸時代期のアイヌ民族の姿を克明に描いていたので、佐々木守氏が沖縄と同じく“反体制”をドラマのベースに隠したテーマにアイヌ民族を選んだのも解るな、と思いました。

 江戸期の北海道を舞台にした歴史大作「蝦夷地別件」はぶ厚い文庫本で全3巻という大長編ですが、ムチャクチャ面白くて読みごたえのある小説作品ですね。船戸与一の真骨頂、血沸き肉踊る冒険小説的な味わいも強いし。江戸幕藩体制下の本土というか、当時の青森から南北海道を領地とする松前藩(松前藩領地は青森は関係なく北海道南部·渡島半島部分みたいですね)と蝦夷地域のアイヌ民族との対立構造の側面も窺えるし(和人とアイヌとの対立構図とその歴史)。

 

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大甲子園 (1) (少年チャンピオン・コミックス) コミックス 水島 新司 (著)

 

 当時大人気だった青春スター·石橋正次と、往年の日活青春映画のスター·浜田光夫の二人が主演した、TBS と宣弘社制作の特撮ドラマ「アイアンキング」も佐々木守さんの脚本作品です。「アイアンキング」がテレビで毎週放送されていたのは1972年10月から73年4月までの半年間で、この時代は僕はもう高校二年生ですね。

 僕は高二にもなってたから、いくら同世代よりもかなり幼稚く頭のできてる僕でもさすがにこの頃、子供向けに制作されたテレビ特撮を熱心に見る、ってことはありませんでした。特段、特撮オタクでもなかったし。そういえばウルトラシリーズ第四弾の「帰ってきたウルトラマン」もこの頃か。

 「帰ってきたウルトラマン」は1971年4月から72年3月までの放送か。こっちの方の脚本には佐々木守さんは参加してないな。「ウルトラセブン」には二本だけ佐々木守さんが脚本書いた作品があるけど。

 高校生にもなると、いくらSF 雰囲気の好きな僕でも、特撮オタクでもないし熱心にテレビ特撮ヒーローものを見ていた訳でもなかったが、今から思えばけっこうテレビの特撮ヒーローものを見てる。それこそ特撮の連続ドラマものを毎週くらいに。これは、当時調度夕飯どきが夜7時台で、夕飯どきから夜9時過ぎから10時近くまでずっとテレビを点けてたから、熱心にではなく何気なくテレビ画面見て過ごしてたんだろうと思う。だから何か毎日、毎週毎週の7時台·7時半台の子供向けテレビ特撮の30分番組を、ぼんやり感に近いような感じで見てたんでしょうね。ただ暇潰しにボーッとテレビ見て過ごしてた。後々から考えると若い貴重な時間を随分勿体ない使い方してると思うけど。

 高校生時代の僕は部活にも入ってなかったし、まぁいわゆる帰宅部でだいたい毎日午後4時くらいにはもう帰って来ていて、深夜遅くまで起きてたので夜中の睡眠不足で午後4時から6時過ぎくらいまでは寝てましたね。で、夜7時くらいから夕飯食べながらぼんやりテレビ見て過ごしてる、と。中三いっぱいまでは自分の部屋があって独り遊びできてたけど、高校入ってから生活環境がガラリと変わっちゃったしね。僕自身も内面に閉じ籠っちゃったし、何かこの時代の僕は半分絶望的みたいな気分だったし。

 高二·高三の流行小説中毒の時代は、家族の就寝時間になると炬燵を炊事場の板の間に持って来てたので、居間との間の障子戸閉めて炊事場に置いた炬燵に潜って、五木寛之や松本清張·遠藤周作などの小説の文庫本を、夜中から未明まで読み耽って過ごしていた。

 この時代は僕も青春期の年代だったんで、テレビ番組は、子供向けの特撮ヒーローものよりも、年頃から、森田健作主演の「おれは男だ」とか「おこれ男だ」みたいな学園青春ものが好きだったかな。何かやっぱりあの当時、森田健作演じる主人公とかに憧れてましたね。あとはあの当時よく見てた番組は、歌謡番組ですね。当時は週に何本も歌番組やってたし。

 中三頃に見てたテレビの熱血青春剣道ドラマがあって、主演が剣道の達人の女教師役が范文雀でいわくありげな熱血剣道少年役が石橋正次の、このドラマの脚本が確か佐々木守だったな、と思って調べてみたらタイトルは「打ち込め青春」で1971年1月から4月まで毎週1時間ドラマで全13回放送されてた。この学園剣道ドラマは、僕は中三の三学期で学校でよく、当時同じクラスで一緒にツルんで遊んでたKT 君と、休み時間とかによく話をしていた。范文雀の女先生が石橋正次の生徒に教える、剣道の秘剣の話をKT 君が身ぶりを交えて話していたのを印象深く覚えている。ドラマ「打ち込め青春」を調べてみたら、佐々木守さんが脚本を書いたのは全13回の最初の1回と2回だけだった。ドラマ全体的なストーリー設定も佐々木守さんが考えたのかな?よく解んないけど。佐々木守さんが考えそうな複雑な愛憎の人間関係の設定の青春ドラマだったし。

 「アイアンキング」は特撮ヒーローもの連続ドラマで、アイアンキングという巨人ヒーローが、日本を滅ぼそうとする敵組織の操る巨人ロボットや怪獣ロボットと戦う、まぁ、いわば巨人ヒーロー·怪獣バトルものですが、主人公は生身の人間の、石橋正次演じる静弦太郎です。

 静弦太郎は国家警備機構という、国の防衛組織というか警察組織みたいな、国家体制を守る組織の一員です。アイアンキングも、同じく国家警備機構の一員の霧島五郎が変身して、日本を守るために戦う巨人サイボーグ戦士です。「アイアンキング」はこの二人のコンビが活躍する特撮活劇ドラマですが、まぁ、お話中の現在の国家の体制を守るために戦う、体制側のエージェントとか戦士ですね。

 静弦太郎と霧島五郎の国家警備機構が偵察し戦うのは、かつて2千年も昔に天皇の祖先·大和朝廷に滅ぼされた、古代日本の先住民族、多分“熊襲-クマソ-”だと思われる一族の末裔が、遠い遥か昔の敵討ちと、日本の現国家体制を倒して日本を征服しようとする目的で破壊工作を重ねる、超絶科学装備したテロ組織、不知火一族。第一部の敵は不知火一族で、第二部の敵は、同じようなルーツを持ち、同じく日本の現国家体制の転覆と日本征服を狙うテロ組織、独立幻野党。両、大規模なテロ組織とも、巨大ロボットを何体も製造し操り、日本の都市などに破壊テロを仕掛ける。不知火一族が巨人ロボットで独立幻野党が怪獣ロボット。

 このヒーロードラマは、メイン主人公の石橋正次が変身するんじゃなくて、サブ主人公の浜田光夫が変身して巨人ヒーローになって敵の巨大ロボットと戦う、というところがちょっと他の変身ヒーローものと違ってた。勿論、等身大生身の人間ヒーロー、静弦太郎も特性ムチを使って敵を倒して行き、巨大ロボともムチで果敢に戦い、時にはアイアンキングを助けるときもある。

 

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◆アイアンキングコンプリートDVD-BOX(DVD全6枚+アイアンキングフォトニクル)石橋正次 (出演), 田村正蔵 (監督), 浜田光夫 (出演) 形式: DVD

◆アイアンキングBlu-ray Vol.1石橋正次 (出演), 浜田光夫 (出演) 形式: Blu-ray

◆アイアンキング 宣弘社75周年記念パッケージ(Blu-ray全巻セット)(6巻組) [DVD]浜田光夫 (出演) 形式: DVD

 「アイアンキング」の主人公ら国家警備機構のエージェントが国家体制を守るために戦う相手の素性が、その昔、天皇の祖先·大和朝廷に滅ぼされた一族の末裔である、というようなストーリー設定に表れているように、もともと根っからと言っていいような左側思想の持ち主、佐々木守さんはこの時代、反天皇制の思想を持っていて、ドラマ·ストーリーのこういう部分にその思想性が出ているんですね。ただ、ドラマの表側で反天皇制なんか謳ったら視聴者が着いて来ないし放送局としてもイロイロと問題になる。ましてや「アイアンキング」は子供向け特撮ドラマだし。だからあくまで主役は国家体制側の国家警備機構のエージェントで、こっちが正義で、ドラマの中の悪者は現体制を倒して国を支配しようとする、かつては天皇の祖先·大和朝廷の敵だった民族の末裔が集う組織。でも作者の佐々木守さんは気持ちは悪者側に肩入れしてたんでしょうね。ドラマは、勧善懲悪で倒されるのは、かつて天皇の祖先に滅ぼされた民族の子孫で、子供向け物語ハッピーエンドだけど。

 「男どアホウ甲子園」タイトルで、「男どアホウ甲子園」の画像をいっぱい貼ってあるのに、内容は、脚本家としての佐々木守さんのことばかりになってしまった感じもありますが、Goo Blog の文字制限が近付いて来たので、今回の記事はこれで閉めます。本当はもっと佐々木守さんのことを書き込みたかったんだけど。またいつか佐々木守氏原作の漫画作品を取り上げた折りにでも。・・・

 

※2018-06/30 ●漫画・・ 「男どアホウ甲子園」 ..(1)

 

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●小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」狼病編..(16)

16.

 都市部から県境の山間の工業団地まで延びる、産業用に整備された片側二車線の地域幹線道路を、一台の平積み四トントラックが走っていた。快晴の夏空の下、トラック平ボディーの荷台にはビル解体後に出た古材の鉄筋であろう、長く錆びた鉄材が山積みにされて何本かのワイヤーで縛られていた。

 高速道路並みに幅広の整備された道路は、スピードを出したトラックやバンなどが、混雑なぞ微塵もなく滑らかに流れていた。古鉄材を積んで走るトラックも一般道の制限速度を越えているであろうスピードで軽やかに走っている。よく見ると平ボディーの荷台には、積荷の鉄材の上に二つの小さな何かが乗っている。スピードを出して走っているので強風に抵抗して積荷にへばりつくように乗っている。

 トラックの荷台に乗っている小さなものは、二匹の犬だった。一匹は茶色い中型犬、一匹は白色の大型犬のようだ。強風に晒される荷台の上で白い方の犬がすくっと立った。前足はしっかりと鉄材を括るワイヤーを掴んでいる。

 「おい、この辺じゃねえか?」

 「ああ、そうだな」

 白い方に応えるように茶色い中型犬が立った。やはり前足でワイヤーを掴んでいる。茶色い犬は鉄材を括る二番目のワイヤーに、白い大型犬は荷台後部のワイヤーに足を掛けて風に吹き飛ばされないように立っている。

 「この辺で降りるか」

 白い犬が茶色い犬の方を見た。応えるように茶色い犬がトラックの荷台から飛んだ。一瞬遅れて大型犬の方も飛んだ。二匹は広い道路の脇に着地した。白い犬が茶色い犬の方に歩み寄る。

 二匹が道路脇に並んだ。道路は山間部を切り開いて作られていて、四車線道路の両側は山々であり深い緑に覆われている。

 「この辺からだな。登ろう」

 白い犬が頷いた。

 二匹の犬は姿形は紛れもない犬そのものである。頭部の口腔部や喉元に人間のような複雑な発声器官は持たない。他の犬たち動揺、吠えることしかできない。だが、この二匹はお互いに交信して会話をしている。二匹はいわゆるテレパシーのような力で、お互いの脳に語り掛けて会話しているのだ。

 高速道路片側の山間部斜面の低面に張ってある、補強コンクリートブロック面は木々の生える山肌まで数メートルの高さはあるが、二匹の犬は軽くひと跳びでコンクリートブロック面の一番上に着地した。二匹はそこから山肌の森の中へ入って行った。

 二匹は山肌の草木を掻き分けて登って行く。

 「ジャック、たくさんの犬の気配だ」

 「ああ」

 茶色い中型犬が白い大型犬に話し掛け、大型犬が相槌を打つ。勿論、これは音声に寄る言葉ではない。互いの脳に直接話し掛ける、いわゆるテレパシーだ。

 二匹の犬は草木を掻き分け掻き分け、深い森の中を登って行く。

 「随分たくさんの犬が集まってるな」

 白い大型犬、ジャックが言った。しかし二匹の周囲には犬の群れなぞ見えない。気配を感じているのだろう。

 「おそらく、あちこちから犬を呼び寄せて土を掘らせてるんだろう」 

 「ハチ、俺たちが来ることもなかったんじゃないか?」

 「いや、普通の犬を何匹集めようがせいぜい埋められた穴を掘り起こすのが関の山だ。ジャック、最後まで助けてやろうぜ」

 二匹は森の中を進む。やがて犬の群れの息遣いや唸り声、吠える声が聞こえて来た。

 木々に囲まれた中、十数匹の犬がせわしなく動いて穴を掘っている。木々の間に大きな穴が開いている。大きな穴を取り囲んで犬たちは各々前足を懸命に動かして穴を掘っていた。十数匹で掘る穴は直径が二メートルくらいあり、深さも中心部は一メートル以上は掘られているようだ。

 一心不乱状態で穴を掘り、土をそれぞれの後方へ跳ね上げていた、十数匹の犬たちが一斉に動作を止めた。犬たちが振り返り、後方を見た。それまで息遣いも荒く、唸り声を上げていた犬たちはピタリと静かになり、全員で一方向を見つめる。

 穴の直ぐ近くまでジャックとハチが来ていた。白い大型犬と茶色い中型犬の二匹を認めた、十数匹の犬たちは黙って穴から上がり、まるでジャックとハチの前で整列するように、穴の奥側の淵に並んだ。犬たちは小さな鳴き声一つ立てず、じっとしたままだ。

 十数匹は大型犬や中型犬、小型犬も含め、白っぽい色や黒色、茶色、グレイと、いろんな犬が居る。首輪をしていて飼い犬然としたもの、毛並みが荒く汚れて首輪のない、明らかに野良犬と解るもの、中には首輪からリードを垂らしたままの犬も居る。

 ジャックとハチが進み来て、二匹一緒にピョンと穴の底に降りた。今まで一心不乱に穴を掘り続けていた十数匹の犬たちは、穴の淵から静かにして穴の底を見下ろしている。ジャックとハチがおもむろに前足で穴を掘り始めた。

 と見るや否や、猛スピードで穴の土を掻き始めた。二匹の犬の土を掻く前足の回転速度はとても普通の犬のそれではなかった。おそらく通常の犬の倍以上、いやもっと凄い回転速度で土を掘り起こしている。二匹の犬はこまめに動き、穴の底を均等に平たく掘り進んで行く。掘り上げた土がどんどん上へ舞い上がる。淵に整列然と並んでいた犬たちも、舞い上がって来る大量の土を避けて後退していた。

 二匹の犬はものの数分で、穴の底を平たく五十センチばかり深く掘り上げていた。二匹の犬の動きがピタリと止まった。ハチが前足の片方でトントンと穴の底の中心部を叩いた。そしてハチが底の端の方へ移動すると、ジャックがジャンプして、ビュンっと自分の身体を舞い上がらせた。ジャックの身体が穴の上方二メートル近くまで上がると、そこから体勢を変え、両前足を突き出して、頭から穴の底へと落下して行った。

 バリンッ!と木箱の割れる音がした。割れた木箱の上の土をジャックとハチが前足を使って払う。木箱は天板以外は周囲の土に埋もれたままだ。木箱の割れた天板は、ジャックとハチが口で咬んで引き上げ、剥がして行った。

 中から裸の人間が現れた。箱の中で体育座り状態で眠っている。猫背の肩に首は前に折れ、両腕は脇でだらんと下がっている。全身に力がない。意識はないようだ。この木箱は昔の立て棺そのもので、見た限りは、遺体を裸で棺に納めて土中に埋めている状態だ。

 上の天板をきれいに剥がしたジャックとハチは木箱の両端から、二匹で裸の死体然となっている人間の肩を各々で咬んで、同時に引き上げた。二匹の犬の力は相当強く、簡単に裸の人間はずるずると引っ張られ、掘った穴の壁面に寝かされた。

 人間は全身素っ裸で、胸のあたりにどす黒い小さな穴が開き、その周りが膿んだように赤黒く盛り上がっていた。死んでいるのか意識はなく、顔色も悪い。仮に死体だとしたら腐敗はしていない。埋められてまだ新しいのか?

 髪は乱れてはいるが普段は整髪されているであろう状態で、体形は少々小太りぎみなアジア人の男性であり、柔和な顔は、血の気が薄く青味掛かって色は悪いが、死体というよりは眠っているようにも見える。

 「生きてるようだな」

 「ああ」

 「どうする?このまま持って帰るか」

 「じじごろうさんなら、元に戻せるかも」

 「じじごろうにはそんな力があるのか?」

 「解らないけど、あの人の力は未知だからね。何しろ、こいつは死んだ訳じゃないんだし」

 二匹の犬は裸の男の両脇で会話を交わす。無論、この会話はお互いの脳の交信であって、音声では発していない。

  「あの胸の穴は撃たれたんだろうな。まだ弾が残っているんだろう」

 「こいつが意識を失うほどだ。普通の弾じゃあるまい。おそらくは銀の弾丸」

 「俺たちで取り出せるか?」

 「俺たちは犬だ。犬の足先や口ではいかんともしがたい」

 「人間の手を借りなきゃ駄目か」

 「とりあえず、引っ張り上げて犬たちにでも運ばせて、下の道路まで持って行くか」

 「トラックの荷台に乗せて公園に持って帰るか」

 「いや、何処かの病院の玄関前にでも捨て置けば、人間の医者がこいつの弾を取り出すだろう。今のこいつは普通の人間の身体してるんだし」

 「それもありだな。この男は銀の弾丸さえ抜き出せば回復するのかも知れん」

 ジャックが何かに反応したようにピクリと顔を上げ、穴の上の向こうを見た。

 「誰か来るぞ」

 「ああ」

 ハチも顔を上げ、ジャックと同じ方向を見ている。

 「人間だな。猟師か?山の管理人か?」

 ハチは応えずに穴の上の向こうを見たままだ。

 穴の上の端に群れている犬たちが吠え始めた。

 ジャックとハチが同時にピョンと輕やかに穴の上に上がった。吠える犬たち、ジャックとハチの視線の先は、うっそうと繁る木々ばかりで何も見えない。ハチがポツリと言った。

 「人間という訳でもなさそうだな」

 吠えていた犬たちの鳴き声が唸り声に変わった。林の向こうの見えない者に敵対心を感じているようだ。

 「人間じゃないんなら、ここは俺に任せとけ」

 ジャックが戦闘体勢に入るように幾分背を沈めた。

 「待て、ジャック。人間ではないが、殺気や敵意みたいなものを感じられない」

 ハチがジャックを制するように前に出る。犬たちが唸るのをやめている。勿論、一匹も吠えていない。ハチ、ジャック、犬たちがじっと前方の林を見ている。すると草むらを踏んで歩く足音が聞こえて来た。明らかに人間の歩く足音だ。

 木々の間から大きな男が現れた。白いワイシャツ姿で小型のアタッシュケースのような鞄を提げ、片方の手でタオルで顔の汗を拭いている。犬たちは吠えも唸りもしない。サングラスを掛けて、短めに刈って六四に分けた髪と、高い鼻の下に蓄えた髭は銀色だ。大きな男は白人だった。

 大柄な白人が二匹の犬、ジャックとハチに近付いて来た。

 「これはこれはジャックさんとハチさん。お初にお目に掛かれて光栄です。お噂は昔から聞いております」

 白人は頭を下げながら、二匹の犬に向かって丁重に挨拶をした。喋ったのは流暢な日本語だ。

 「誰だ、おまえは?何の用だ?」

 ジャックがぞんざいに問い掛ける。勿論、人間の声帯を持たないジャックは、白人の頭の中に直接話し掛けている。白人が口を開こうとする前に、ハチがジャックに語った。

 「俺はこの男を知っている。こいつもヒトオオカミだ。穴の淵で眠っている奴と違い、こいつはヨーロッパ系のヒトオオカミだ」

 ジャックが思わずハチの方を見た。ハチが続ける。

 「犬たちが吠えるのをやめたのは、あんたが犬たちをコントロールしたのか?」

 ハチの投げ掛ける言葉は、ジャックとヨーロッパ系のヒトオオカミと呼ばれた白人の頭の中に届いている。

 「はい。犬も我々の仲間ですからな」

 「ヨーロッパのヒトオオカミが何しに来た?」

 ジャックが問い掛けた。それにはハチが応える。

 「多分、狼病が理由だろう」

 「するとおまえも、あの蛇姫とか何とかいう、大蛇の化け物退治に来たのか?」

 ジャックは白人に問うている。犬たちは大きな穴の向こう側の淵におとなしく並んだままだ。

 サングラスの白人は静かに答えた。

 「私は医師でして。あの蛇の化け物女がばら蒔いてる狼病とは、昔から東ヨーロッパに伝わる風土病で、原因は狼病ウイルスです。私は医師として長年、狼病の研究を続けて来た」

 「するとあんたはその狼病の治療方を開発したと言う訳か?」

 ハチが訊いた。

 「そう。私の目的は狼病の根絶だ。まぁ、狼病ウイルスをばら蒔き続ける蛇女も許しませんが」

 サングラスに、整髪した銀色の髪と口髭のダンディーな白人は、話し続ける。

 「だいたい、東ヨーロッパの風土病に“狼病”などと言った病名を着けられていることが迷惑しているのだ。狼病なんて呼ばれているが、我々狼族とは何の関係もない。だからこそ、そんな我々とは何の縁もないウイルス病はなくしてしまいたいし、またその病気をあちこちに蔓延させようとする、蛇女は退治したい」

 自らを医師と名のる白人は熱弁を奮う。

 この図は、誰か第三者が見れば異常な光景だろう。前方に二匹の犬が並び、大きな穴を挟んで後方には、十数匹の犬たちが行儀良く整列するように並んでいる。その多数の犬たちに向かって、一人の大柄な白人が、ワイシャツ姿で熱弁を奮っているのだ。ジャックとハチが白人と会話していると言っても、ジャックとハチはいわゆるテレパシーのような能力で、脳に直接語り掛けていて音声としては出ていない。つまり、この光景は第三者から見れば、多数の犬に向かって人間が、独り言で熱く語っているように見える。

 白人医師の話が一区切り着いたところでハチが訊いた。

 「で、あんたが医者なら、こっちの狼男は治せるのか」

 ジャックも同様な問いであり、白人医師を見た。

 「我々ヒトオオカミの唯一と言っていい弱点は銀の弾丸です。幸いにも、そこのヒトオオカミは死んではいない。心臓をほんの少しだけ外れている」

 「狼男も、銀の弾丸の当たりどころに依っては死んでしまうのか?」

 ジャックが訊いた。

 「はい。銀の弾丸が急所に命中すれば我々だって死ぬ。まぁ、直ぐに抜き出して血止めすればあるいは助かることもあるでしょうが…」

 話しながら前に出て来た白人医師は、穴の淵で腰を落として膝を着き、手にしている鞄を地面に起いて穴の中を覗いた。穴の向こう側の淵に整列する犬たちがザワザワする。だが吠え出したりはしない。

 白人医師は、穴の淵下のすり鉢状の斜面に横たわる、裸のアジア人の身体を淵上まで引き上げた。素っ裸の意識のない男を前に、白人は小ぶりのアタッシュケースを開いた。中からガーゼを取り出すと、小瓶の液を振り掛けた。消毒液のようだ。

 白人医師は裸の男の胸の傷をぞんざいに拭く。眠っている男の反応はない。

 「ヒトオオカミの生命力や免疫力は並たいていのものではない。傷口だからって別に消毒しなくともいいんだが。まぁ、私は医師だし、一応ね」

 誰に語り掛けるでもなく白人医師が喋る。鞄から食事用のナイフのようなメスを取り出した。

 「さてと…。肋骨が邪魔だから肋骨を切らないと駄目だな」

 白人医師は裸のアジア人の片胸の皮膚を切ってベロンと剥がすと、鞄から別のメスを取り出した。今度のはメスの刃がノコギリのようにギザギザになっている。

 「おい。こいつは生きてるんだろ?」

 ジャックが白人医師に訊いた。勿論、テレパシーのような力だ。白人医師が顔をひねってジャックの方を見て応える。

 「生きてます。生きてはいますが、銀の弾丸の力で生命反応が弱くなってる。弾さえ取り除けば、かなり元気が戻って来るんでしょうが」

 「身体を切られてこいつは痛くないのか?」

 「痛みを感じるほどの意識もない。銀の弾丸を入れたまま半月以上放っておくと、あるいは全身腐って行くのかも知れませんな」

 ハチがふと気が付いたように訊いた。

 「満月のパワーはどうなんだ?狼男は、満月の夜には何倍もパワーが増幅するだろう」

 「勿論、我々ヒトオオカミに取って満月の力は絶大です。しかしこの男は棺桶に入れられて土中に埋められてましたからね。満月の力もどの程度届くことやら。銀の弾丸の力を覆すことなぞ無理な話でしょう」

 喋っている間にも白人医師は手を休めず、テキパキと胸部の外科手術を進めて行った。無駄な動きや逡巡する隙がなく、とにかく速い。外科医としては相当優秀な腕を持っているのだろう。

 その内、白人医師は傷の穴から、ピンセットで何か血まみれの塊を摘まみ上げた。

 「この男の血でどす黒いが、これが銀の弾です。これさえ取り除けば、こいつは元々不死身だ。その内元気を取り戻すでしょう」

 白人医師が、ピンセットの銀の弾丸をガーゼで包んで鞄に入れた。消毒液の入った小瓶を取ると蓋を開け、そのまま胸の傷穴に液体を流し込んだ。

 意識の全くなかった裸の男が顔をしかめた。だが声を出すまではなかった。

 「生き返ったのか?」

 ジャックが訊く。

 「はい。元々生きてはいますが、銀の弾丸を取り除いたことで、銀の弾の効果から開放され、少し元気が出て来たのでしょう。会話をするにはもう少し回復が必要ですな」

 白人医師は傷口を縫って、剥がした皮膚を張り付けて消毒し、ガーゼを宛ててテープで固定した。

 「まぁ、この男の生命力なら、傷口の縫合や消毒なぞ要らないのでしょうが、私は医者なので一応」

 白人医師が立ち上がった。仕事を終えたので帰るような雰囲気だ。

 「あんたは、このアジア系のヒトオオカミが傷着いてるのを察知して、この山奥まで来たのか?」

 ハチが訊いた。

 「まぁ、同じヒトオオカミの一族ではありますからな。出身地は違いますが」

 膝を着いた折りに泥の着いたズボンの膝を払い、鞄を持ち上げた。

 「私は、高名なジャックさんとハチさんにお会いすることができて、とても光栄に思っております。できれば噂だけは耳にしたことのある、じじごろうさんというご老体にもお会いしたい。でも今日はこれから街まで行きます。狼病に掛かった人間が何人も居るようですからね。ではジャックさんハチさん、また改めて」

 白人医師は二匹の犬に向かってペコリと頭を下げ、山を降りるために元来た道を戻ろうと踵を返した。

 「おい。こいつは裸のままここに放っておいていいのか?」

 「ヒトオオカミは不死身です。大丈夫」

 「裸で置いたままで、猪とか鹿とか、他の獣や虫とか鳥に、喰い、つつかれたりしねえか?手足とかチンチンとかよう」

 「大丈夫。眠っていてももう、基本的なヒトオオカミの力はある。そういうものは寄せ着けないでしょう」

 今度はハチが訊く。

 「ヨーロッパの銀色狼さん。あんたの名前は?」

 「私は、人間の姿で居るときは何世紀もずっと、ロバート·シルバーウルフという名の医者です」

 白人医師·ロバート·シルバーウルフは踵を返し終えて、ジャックとハチに背中を向けたまま後ろを振り返る顔を、コクリと下げながら「では」と一言行って、山を降りるため、林へと草むらの道を歩いて行った。

 大きな穴の向こう側の淵に、整列するように並んだ十数匹の犬たちも、解放されたように各々動き始め、いっせいに山を降りる道をぞろぞろ進み始めた。十数匹の犬たち、それぞれの本来の棲みかへと帰って行くのであろう。

 犬たちが林の中へと消えて行った後、ジャックとハチもおもむろに動き始めた。

 「ジャック、僕たちも帰ろう」

 「ああ。しかし、この素っ裸のオッサンは本当にほったらかしたままで大丈夫なのか?」

 「同じ種族のシルバーウルフが大丈夫だと言うんだから心配ないんだろう」

 「そうだな。それにしてもよく寝てやがる」

 「こうしてても、こいつは動かないだけで意識はあるんだろう」

 どちらからともなく、二匹の犬は山を降りる草むらの道を、林の方へと進み始めた。まだ日は高い。

 山林の中の小高い山の頂上付近、森の中にポカッと開いたように小さく広がった草むらに、大きな穴が掘られていて、その穴の脇に素っ裸の男性が一人、まるで遺棄された死体のように転がされている。他に、森林に人影なぞなく、動物の影も見えず、ただ、蝉の鳴き声と時折野鳥の鳴き声が響く。

 

※『狼病編・・16』はこれで終わります。次回『狼病編・・17』へ続く。 

 

◆狼病編..(14)2017-02/24

◆狼病編..(15)2018-02/28

◆狼病編..(9α)2013-04/09

◆狼病編..(1)2012-08/18

◆じじごろう伝Ⅰ 長いプロローグ編..(1)2012-01/01

◆2013-05/28 長いプロローグ編~狼病編・・登場人物一覧

 

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赤頭巾ちゃん気をつけて

 
 
 
 
 

 雑誌にジ·アルフィーの高見沢俊彦さんが「赤頭巾ちゃん気をつけて」と若い頃の読書体験についてエッセイで簡単に書いていて、それを読んで僕も、17歳頃に庄司薫の芥川賞受賞作「赤頭巾ちゃん気をつけて」を読んでいたので、その時代に読んだ庄司薫の“薫くんシリーズ”を思い出して懐かしかった。

 

 高見沢俊彦さんのエッセイでは「赤頭巾ちゃん気をつけて」を中学生時代に読んだとあったが、僕が読んだのは多分、僕が高三になってからだと思う。ひょっとしたら高二だったかも知れないけど。調べてみると庄司薫が「赤頭巾ちゃん気をつけて」を発表したのは1969年で単行本として刊行されたのも同年だ。僕が読んだのは72年か73年だけど、「赤頭巾ちゃん気をつけて」が文庫化されたのが73年6月となってるから、僕は多分「赤頭巾ちゃん気をつけて」を文庫本で読んでると思うから、読んだのは73年で高三当時ですね。高見沢さんは多分、単行本で読んだんでしょうね。

 

 庄司薫が「赤頭巾ちゃん気をつけて」で芥川賞を受賞したのが1969年か。受賞後単行本刊行されて当時のベストセラーとなる。また、同作を含む“薫くんシリーズ”はその後も長く読まれ続けてロングセラーになったんじゃないかな。

 

 僕は「赤頭巾ちゃん気をつけて」の後も庄司薫の“薫くんシリーズ”を読み続け、「白鳥の歌なんか聞こえない」「さよなら怪傑黒頭巾」「狼なんか怖くない」と文庫本で読んだ。「バクの飼主めざして」というエッセイ集は単行本で買って読んだ。ここまでは多分高三までで読んでると思うなぁ。

 

 高見沢さんは中学生時読んだ「赤頭巾ちゃん気をつけて」が、その当時読んでいた他の文学小説に比べると、軽妙な文体で非常に読みやすかった、というようなことを書いていた。僕も高校生時読んだ「赤頭巾ちゃん気をつけて」は、当時僕は、流行小説の大衆小説は読んだが、ほとんど文学小説なぞ読んでなかったけど、一応芥川賞受賞の文芸作品である本作が、文体的に平易に感じられて本当に読みやすかった。と記憶してる。

 

 高見沢さんは意外と文学少年だったみたいで、学校教師だった父親の本棚にはズラリと日本文学の名作が並び、歳の離れたお兄さんの本棚には海外文学の名作が並んでいた、という子供の頃から本に囲まれた環境で育ったらしい。ロックのスター·高見沢俊彦は少年時代から日本や欧米の近代文学を読む文学少年だったのだ。

 

 “薫くんシリーズ”最後の作品「僕の大好きな青髭」を読んだとき僕は社会人で働いていた。単行本で読んだ。「僕の大好きな青髭」の初出刊行は77年の7月。多分僕が読んだのもその頃だろう。「僕の大好きな青髭」の中に深夜に新宿御苑の中に侵入して行く場面があったと思うんだが、「僕の大好きな青髭」の内容をもうほとんど忘れてしまっている僕が、どうしてそこの部分だけ覚えてるかと言うと、当時僕は仕事の休みの日の暇な昼間、よく新宿御苑に行ってベンチとかにごろんと寝てたからだ。本とか読んでたのかな。だから物語に新宿御苑が出て来たことだけ覚えてる。

 
 
 

 庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」は劇場映画化されてて、調べたら1970年制作·公開らしいけど、僕がこの映画を見たのは70年代末くらいだと思う。映画の内容とかもうほとんど覚えてないけど、見た映画館は江古田文化で、これははっきり覚えてる。この当時の江古田文化は名画座系の映画館で、多分このときも三本立てとかだったんだろうけど、「赤頭巾ちゃん気をつけて」の併映とか全く記憶していない。仕事休みのウィークデーに入ってガラガラだったように微かに覚えている。

 
 

 “薫くんシリーズ”第二弾の「白鳥の歌なんか聞こえない」も劇場映画化されたらしいのだが、これは知らなかった。知らなかったから当然映画は見ていない。

 

 

◆赤頭巾ちゃん気をつけて (新潮文庫) 文庫 – 庄司 薫 (著)

 

 
 

◆赤頭巾ちゃん気をつけて [DVD] 岡田裕介 (出演), 森和代 (出演), & 1 その他 形式: DVD

◆白鳥の歌なんか聞えない 赤頭巾ちゃん気をつけて (中公文庫) Kindle版

 

 
 

 

◆ぼくの大好きな青髭 (新潮文庫) 文庫 – 庄司 薫 (著)

 

 
 

◆さよなら快傑黒頭巾 赤頭巾ちゃん気をつけて (中公文庫) Kindle版 庄司薫 (著)

 
 

◆狼なんかこわくない (中公文庫) Kindle版 庄司薫 (著)

 
 

 

◆ぼくの大好きな青髭 (中公文庫) Kindle版 庄司薫 (著)

 

 
 

◆ぼくが猫語を話せるわけ (中公文庫 し 18-6) 文庫 – 庄司 薫 (著)

 
 

◆赤頭巾ちゃん気をつけて 改版 (中公文庫) Kindle版 庄司薫 (著)

 
 

◆バクの飼主めざして (中公文庫) 文庫 – 庄司 薫 (著)

 
 

◆白鳥の歌なんか聞えない (新潮文庫) 文庫 – 庄司 薫 (著)

 
 
 

 高見沢俊彦さんは高校に進学してからも文学読書熱は冷めず、実存主義文学に傾倒し、サルトル·カミュ·ニーチェなどを読破して行く。特にカミュの「異邦人」に思い入れが深いらしい。ニーチェまで読むなんて凄いですね。

 

 僕も19歳か20歳頃に、サルトルの「嘔吐」や短編集、カミュの「異邦人」や「ペスト」を読んだが、さすがにニーチェにまでは手が出なかった。ニーチェなんて読んでも多分俺は解らないだろうと。サルトルの「存在と無」を古本屋で買って来て最初の方ちょこっとだけ目を通してそのままほとんど読まず本が何処かへ行ってしまった。でもサルトルの短編集はけっこう解りやすかったし、カミュの「ペスト」は面白かった。「ペスト」は文学というよりパニック小説的なハラハラ·ドキドキ感のある面白い物語だった。カフカの「変身」やカミュの「異邦人」やサルトルの「嘔吐」はよく解らなかったなぁ。まぁ読み手の僕が頭が悪過ぎるからなんだが。

 

 高見沢さんは少年時代に本をいっぱい読んだんで、そのまま読書癖が着いて大人になってからもずっと本を読む人になったんだとか。だからツアーでも何処行くでも、高見沢さんのギターケースには本が入ってるらしい。

 
 

 そんな文学少年上がりの読書家、ロック·ミュージシャン·高見沢俊彦さんがよわい六十を過ぎて小説を書いて発表した。2017年から18年に掛けて小説雑誌「オール読物」に連載した小説作品を2018年7月単行本上梓した。高見沢さん現在おん年64歳か。ロック·ミュージックのシンガー·ソングライターでバンド·ギタリストで作家業と大活躍ですね。カッコ良いなぁ。

 
 

◆音叉 単行本 – 高見澤俊彦 (著)

 
 

◆美旋律 ~Best Tune Takamiy~(初回限定盤A) Limited Edition 高見沢俊彦 形式: CD

 

 「赤頭巾ちゃん気をつけて」が発表された後、評論家たちにJD ·サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」との類似性を指摘されたんだっけか影響が強いって言われたんだっけか。芥川賞の選者の一人の三島由紀夫が作品を評価しながらも、肩の力が抜けている、って言ったのかな?何か力が抜けているって言葉を選評で言ってたと思うんだけど。昔の話だしなぁ。

 
 

 あの時代、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」は若者の読むべき青春文学の代表格みたいな感じで、海外文学の中ではベストセラー扱いだったんじゃないかな。あの時代の海外作品の青春文学というと、サガンの「悲しみよこんにちは」とか、フイリップ·ロスの「さようならコロンバス」とか、シリトーの「長距離走者の孤独」とかかな。

 
 

 今の若者の文学好きの人たちって、こういう作品は読んでるのかなぁ。何かあの当時は新鮮な青春文学って感じがあったよな、これらの作品には。

 
 

 僕は19歳~20歳当時、間違いなく「悲しみよこんにちは」「さようならコロンバス」「長距離走者の孤独」は読んでるのだが、この三作品見事に内容を記憶していない。何となくうっすらと物語の感じは微かに覚えているけどストーリーなんて全然解らない。まぁ一回読んだだけだし何十年も前の話だしなぁ。

 

 サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」は確かに本屋で買って来てると思うのだが、多分本のアタマしか読んでなく、その内本が何処か行っちゃってる。だから内容なんて全く解らない。当時は仕事も忙しかったし、漫画本は小説などの活字本の三倍、いや五倍くらい読んでたし、僕も若かったから職場の同僚や友人たちとしょっちゅう飲み屋行って酒飲んでたし遊んでたし、タマにはお寺巡りとか名所旧跡にも行ったりしてた。あちこちの本屋に寄るのは毎日の日課みたいなもんで、小説やエッセイ集の本もよく買って来てた。仕事も遊びも忙しいし毎日漫画もいっぱい読んでるし、部屋に活字本が溜まる溜まる。その内読まないまま本が何処か行ってしまう。比較的難しい本はアタマだけ読むかパラパラするだけで置いたままで、その内何処か行ってしまう。せっかく本の定価のお金出して新品買って来てるのに。ちなみに当時の社会人は未成年でも平気で飲酒してた。働いてたら未成年で飲酒してても周囲も許してた。大学生も当時は一年生から酒飲んでたと思う。高校生で飲酒してたら咎められたが、あの時代は高校卒業の年齢だったら飲酒してても何も言われなかったなぁ。勿論当時も二十歳未満の未成年飲酒は法律違反だったけど。

 
 

 「赤頭巾ちゃん気をつけて」とあんまり関係ない僕の思い出話ばかりが続いて恐縮しますが、「赤頭巾ちゃん気をつけて」とかを読んでた頃って、僕が少年から青年になって行く時代の頃で、何か懐かしくて。年代的に青春期で若かったし。文学の世界では調度、ソビエトの反体制作家·ソルジェニーツインがノーベル文学賞受賞した頃で。ソ連の社会主義体制の裏面を告発する内容の反体制文学で、当時は僕ももの凄く関心が強かったのですが、結局ソルジェニーツインの小説は一編も読んでない。まぁ僕は頭の悪い少年でしたからね。

 
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