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日銀クロちゃんの通信簿、その3 「円安はマイナスです!」

2014年09月14日 | 2014年の資産運用
 円安が昂進し続けています。クロちゃんの「今の円安は日本経済にはマイナスではない」という発言が市場をサポートしているように見えます。この発言、本当にそうなのでしょうか。クロちゃんの通信簿を付けながらちょっと考えてみましょう。

 円安により物価が先行して上昇しそれに収入が追い付かず、実質賃金が減る一方の庶民にとっては不幸の連鎖以外のなにものでもありません。年金収入に頼る私も円安は自分の円建て資産が大きく減少し、海外旅行もしづらくなり、とても高額商品を買う気にはなれません。ますます財布のひもを固くする一方です。


 円安のメリットとは、輸出が増え輸出企業の業績が向上し、設備投資が増え、賃金上昇につながり、成長につながることが一番なのですが、実際には輸出数量は増えていません。最大の理由は日本の製造業が競争力を失っているからだと私は説明してきましたが、それをあるエコノミストが生産の側面から数字で示してくれましたので、紹介します。それは製品別の国内生産量の変化です。

日本の輸出の花形であった電気製品の生産量を2010年を100として14年7月と比較しています。

テレビ      3.7 (37ではありません、3点7です)
ビデオ      4.5
カメラ      20.8
携帯電話   20.6


 たった4年です。あまりの減少に私は声を失いました。テレビやビデオなどは日本での販売量が落ちているのではありません。日本ブランドであってもほとんどが輸入なのです。これらの製品は生産すら回復の望みがなくなりつつあるので、ましてや円安による輸出増などは今後ありえません。

 シャープが00年代後半に「世界の亀山モデル」の液晶テレビでわが世の春を謳歌し、その勢いで堺に巨大工場の建設をしていたのは07年から08年くらいです。ところがきちんと建ちあがらないうちにシャープ製品は競争力を失い会社の屋台骨が傾き、ほとんどまともな生産をしないうちに工場の売却をしました。それもさんざん買い叩かれ、思惑通りにはいかなかったのを思い出します。
  
 もちろん日本の製造業の中にはまだ十分に競争力を持っている自動車のような製品もあります。ところがそうした製品も現地生産が進んでいるため、メーカーはこの2年近い円安局面でも輸出数量を増やすことはありませんでした。

 アベノミクスを支えている応援団・経済学者等はこうした現実を突きつけられてもいまだ強気の姿勢を崩さず、政策を見直すことはしていません。その最たる例がクロちゃんです。就任時の言葉は、

「政策は小出しにはしない。できることはすべてやる」でした。

 しかしすでに先週の会見では今後の追加緩和に関して言及し当初の宣言は実質的に取り下げています。しかも記者の「もうやれることはないのでは?」という質問に対して返答は、「日本には買える金融資産はいくらでもある」でした。

 アメリカには巨大な不動産証券化商品や事業会社の社債市場があります。日本にはそうしたものはほとんどありません。この先まともに買えるのはREITを含め株式のETFくらいです。

 我らの大事な年金を運用するGPIFを政策実現の手段に使うことすら言語道断なのに、自分の主義主張を実現するために日銀が株式を買うなど、正気の沙汰ではない!

 政府から独立した存在であるべき中央銀行がこうしたことをするのは先進国では当たり前のようになっていますが、これは間違いなく「中銀バブル」です。今後はどこかで破裂がはじまり、後になって「なんであんなバカなことをしたのか」という反省が始まるにちがいありません。


  抜けるが勝ち!

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9 コメント

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Unknown (Owls)
2014-09-14 11:39:55
こんにちは。

この話はモーニングサテライトでも取り上げられてました。改めて数字を見ると愕然とします。電気製品の貿易収支は来年には赤字に転落するとの報道もあります。自動車も国内からの輸出は減少してるとの報道も出ています。そろそろ、貿易・経常収支の悪化は原発停止のせいだという自己欺瞞は捨てた方がよいのでしょう。

ポジショントークなのかもしれませんが、日本のエコノミスト・アナリストという人達は、あまりに日本の経済構造の変化に目を向けなさ過ぎた気がします。貿易・経常収支の悪化が続いても、震災直後は震災の影響と言い張り、それでは説明がつかなくなると、今度は原発が停止してるせいだと言い張る。やっと経済構造の変化を認めるようになってきました。そして、この人達の多くは、安易な政府や日銀の政策を支持し、煽る役割をしています。

そろそろ日本国民は日本は衰退していくという現実を受け止めた方がよいと思います。それを理解した上で何をすべきかを考える必要があると思います。政治家や識者という人達も、何か安易で手っ取り早い解決方法があるのではと、安易な方法に賭けてしまおうという風潮です。どうも日本全体に、都合の悪い事実は認めたくない、簡単な解決方法があるはずという空気が充満してるように思います。その空気が作り出す政策がアベノミクスだと思うのです。

こういう空気が充満してる時は、もう政策に期待しても無駄でしょう。惨めな結末が出るまで夢から覚めることはありません。個人で出来る限りの対策をするしかないでしょう。
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本当に富裕相は消費をするのか? (ただの個人投資家)
2014-09-14 13:24:45
こんにちは
とあるエコノミストは一般人の消費が落ちているが、株価や不動産が上がって富裕層が穴埋めすると言ってますが、皆さんどう思いますか?(^-^)
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日本農業と健康にはプラス (モトカー)
2014-09-14 14:42:00
日本の製造業が空洞化しているのは、以前から痛感しております。わたし自身が、製造業(メーカ)に勤めていますので。
だから、円安の効果がひと昔前ほどには無い事は、以前から感じていましたし、記事の内容には部分的には共感はしますが、悪いことばかりではないとも思います。
日本の農業には追い風です。
海外の食品の品質の悪さは、最近の鶏肉事件だけにとどまらない。
一方、日本のお米や果物などが、海外で高く評価されてきているニュースも、ここ4~5年ほど、散見して参りました。
私は、金(カネ)だけですべてを測れるとは思いません。
食と健康という面では、TPPによる日本農業の破壊なども取り沙汰されている昨今、プラスだと思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2014-09-14 15:13:03
林様の数日前のコメント
>彼の資産構成を調べたらドルだらけで、実はポジション・トークだったりして(笑)

owl様の今回のコメント
>ポジショントークなのかもしれませんが、日本のエコノミスト・アナリストという人達は、あまりに日本の経済構造の変化に目を向けなさ過ぎた気がします

おっちょこちょいななし的にはクロちゃん分だけでも良いのでご自身やご家族名義分の金融資産構成内容を国民に大公開すべき。。

>クロちゃんの「今の円安は日本経済にはマイナスではない」という発言

発言の信憑性は金融資産大公開でハッキリするかも

「僕や家族もドルだらけじゃないよ!ヘッジもかけてないよ!ポジショントークではないよ!」って証拠を「ななし」は見たくて見たくて仕方が無いのです

私だけかな?こんな事を真剣に考えてるの。


モトカーさんの今回のコメントもド田舎に住んでる人間として凄く共感してる部分でおりまして・・
何かこのような日本の農業などから突破口があるのでは?

あと、誰だってウ○チするんだから、イスラム教徒の左手すらわずらわせない(イスラム市場大きいよね)日本が誇るウォシュレットの輸出で巻き返しとか・・
テレビ、ビデオ、カメラ、携帯電話以外で何か・・
日本クオリティー、知的所有権の死守に何か道は見出せないのか??


これすらさえぎられているでしょうか?






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名のり忘れ (おっちょこちょいのななし)
2014-09-14 15:15:13
↑名前書き忘れ・・(内容で誰か判るよね^^)
返信する
円安で復活はあまいです (たか)
2014-09-15 10:37:37
 なぜ、円安が良いという報道があるのか意味不明ですね。
 通貨が安いジンバブエは、輸出が増えて、幸せとでもいうのでしょうか?

 そもそも、日本は、通貨が強くなることで、これだけのインフラ、システム、社会福祉を整備できた背景があるのに、いまさら、何を言っているのかということになります。

 政治家も、官僚も、マスコミも、そして実は製造業に勤めている我々も見て見ぬふりしている日本の最大の問題は、以下かな・・と感じています。

 ”日本から出る、新しいイノベーションや製品が乏しくなりつつあるという事実”

 林様が現役ばりばりだったころ、おそらく、円/ドルは、それこそ200~360円だったものが、100円台まで円高に推移したものと推察されます。
 無論、その円高によって、繊維や素材などはダメージを受けたのですが、それ以上に、イノベーションによって、高機能な素材、テクノロジー製品を出す産業が生まれました 
 今はどうか・・・といいますと、2000年以降は、圧倒的に新製品はアメリカから、になっています。 ITもしかり、シェールガス、オイルも、やはりアメリカからです。
(※シェールガスは”単なるラッキー”だった指摘する人もいますが、
採掘には、数キロ掘って、数十センチの所にヒットする技術が必要で、実は、イノベーションの賜物です)

 無論、労働人口の縮小などもありますが、現在のレガシー製造業が、新規製品を開発するよりも、逃げ切ろうというメンタリティーになっている点は無視できないと思います。

 なお、イノベーションが次々起こるアメリカ。 今後10年で、20~30代の消費世帯が増えるアメリカ。シェールガスで財政赤字が縮小しつつあるアメリカ。
 これ以上の良い投資先は、なさそうです。
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Unknown (Owls)
2014-09-15 16:56:08
こんにちは。

アベノミクスがなくとも、どのみち円安だったのでは?

かつては自動車と並ぶ輸出産品だった電気製品。
それが急速に国内生産を減らした。そして実際に
貿易・経常収支は悪化していった。遅かれ早かれ
円高を維持するのは難しかったのではと思います。

経済構造の変化はアベノミクス以前から起きていた。
安倍政権の誕生は、円安のきっかけにはなったと
思いますが、円安の原因とは言いがたい。

貿易・経常収支が悪化を続け、財政事情も非常に
悪い。通貨だけが高値を維持できるとはとうてい
思えないのです。
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モトカーさん、おっちょこちょいのななしさんへ (林 敬一)
2014-09-15 20:43:35
私も日本の農産品は競争力を持っているものが多いと思います。各地に素晴らしく清潔かつおいしい農産品があるし、国際的にも評価されていますね。例えば国際価格の10倍もする米ひとつとっても、その値段を払う中国人はいくらでもいます。昔の農林省と農協と農林族の政治家のクビキから解放された米作り農家は、自主流通を海外でも行って利益を上げています。

地方にドライブした時は、必ず道の駅でおいしい農産物を買って帰ります。安くて新鮮なのがこたえられません。

ななしさんの総裁の資産公開リクエストですが、一応内部規定があり公開されています。役員就任時と退任時から3カ月以内に公開することになっています。ちなみに黒田氏の公開時のロイターの記事を引用しますと、「黒田東彦総裁は就任した3月20日時点で定期性預貯金を「1円以上1000万円以下」保有していたほか、任期中の取引が禁止されている株式などの金融資産を保有していなかった」。

ところがこれでは定期性預金が円建てなのかドル建てなのかは不明で、しかも金額も不明です。それに定期預金でなく普通預金ならまったく申告せずに済みそうなので、ドル普通預金なら申告不要かも。しかし、いずれにしろ就任が取り沙汰されてから時間があるので、それまでに身辺整理はできそうです。

ちなみにFRB議長も公開義務があります。
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モトカーさん、たかさん (林 敬一)
2014-09-15 20:46:20
製造業にいらっしゃる方のお話は実感がこもっていて、説得力がありますね。

たかさんの指摘された、
>日本から出る、新しいイノベーションや製品が乏しくなりつつあるという事実

まさにこれが競争力の喪失を象徴していますね。新しいイノベーションのかなりの部分はハードそのものではなく、ソフトやサービスを組み合わせて新機軸としたものですね。ハードだけではすぐに真似され、コストで負けてしまいます。

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